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【2015年寄稿】実験動物の保護に関する法制度比較と動向

※ある機関誌に寄稿したものですが、事情で掲載されなかったので、こちらに転載をしました。


動物愛護法に関しては、2013年9月に改正法が施行されていますが、結局、動物実験については、施設の届出制すら実現せず、大きな変化はありませんでした。

当時与党であった民主党の改正案には届出制が盛り込まれる予定でしたが、動物実験に関係する諸団体・研究者らが激しく反対ロビーを行い、医系議員の介入によって、最終的な改正案に残ることはありませんでした。

日本の関係者は諸外国に実験動物を保護する目的の法律があることすら、いまだ理解していないのではないかと感じることがあります。しかし国際的には、動物実験に何らかの形で法律的な制限をかけ、国が監督を行うことは当然の流れになってきています。幾つかの国の最近の動向をご紹介したいと思います。

●イギリス~EUの「実験動物保護指令」改正を受けて

 2010年にEUの法律にあたる「実験動物保護指令」が改正されたことを受け、加盟国は国内法の整備を行わなければならなくなりました。その整備が期限に間に合わなかった国が幾つかあり、そのうちイタリア、オランダは既に欧州司法裁判所に訴追され、罰金が求刑されています。(指令レベルでは世論が不満足であるなど、事情は様々であるようです)

 イギリスは、世界で最も早く、19世紀後半に動物実験に対する法規制を導入した国ですが、このEU指令改正を受けて、現行法である「動物(科学的処置)法1986」(略称:ASPA)を改正し、2013年から既に施行しています。この法の運用を定めたガイダンスも2014年3月に出たのですが、付表を含めて130ページにもわたる非常に詳細なもので、日本との差には驚くばかりです。

イギリスの法律は、(1)動物実験を行う場所、(2)動物実験を行う個人、(3)動物実験計画の3つに対し許可制を定めており、もちろんこれらに違反した場合、刑事罰が設けられています。

●アメリカ~動物福祉法で実験施設に規制

 日本の研究者は、「日本はアメリカと同じように動物実験は自主規制だ」と主張していますが、アメリカの「動物福祉法」(略称:AWA)にも、EUほど厳しくはないものの、実験動物の保護を目的とした条項があります。もともと連邦法であるAWAは、盗まれたペットが動物実験に回されていることが社会問題になったためにつくられました。

 同法では、動物実験施設は登録制で、動物実験委員会の設置が義務づけられており、委員の要件についても定めがあります。また、農務省動植物検疫局による少なくとも年1回の査察や、年次報告書の提出義務が定められています。

 この査察の記録と年次報告書はインターネットで情報公開されており、参考まで、武田薬品工業の海外グループ企業のデータを表にまとめてみました(表1)。動物実験施設の所在地は非公開ですが、登録主体である法人の所在地は公開されます。

 査察報告書などから“TAKEDA CAMBRIDGE U S”が、武田薬品工業が2008年に買収したミレニアム社の施設であることがわかります。しかし昨年末、このAWAに基づく査察制度に対しては監査報告書が出され、動物を飼養していない施設に対する査察が続けられている等の問題点が指摘されました。この施設も、もしかしたらそのうちの一つかもしれません。

 但し、アメリカの動物福祉法は実験用のマウス・ラット・鳥類を法の対象から除外していることが問題で、これらの動物種を使っているかどうかが不明です。

 アメリカではもう一つ、国立衛生研究所(NIH)の研究資金を得ている場合に、「健康科学推進法」に基づくPHS方針というガイドラインの遵守も定められており、こちらについてはマウス・ラットも対象です。

表1 登録名称“TAKEDA CAMBRIDGE U S”(ミレニアム社)の年間の動物使用数 ※USDAに提出された年次報告書より。この施設は2013年8月に登録を取消している。

●韓国 日本より先に動物保護法を改正

 アジアでも実験動物の保護を法制化する動きがあります。韓国は、2007年の「動物保護法」の改正で、動物実験委員会の設置などを法制化しました。韓国にはもう一つ、「実験動物に関する法律」も存在し、施設の把握(登録制)は、こちらの法律で担保しています。(表2)

 日本より早く韓国で立法化が実現した理由としては、科学コミュニティ自体が若く、欧米諸国からの吸収に積極的であること、2004年に成立した「生命倫理法」の中に動物の保護が取り入れられなかった経緯があること、黄禹錫・元教授による研究不正スキャンダルが起きたことなどがあるそうです。


表2 韓国の動物実験に関係する法律の比較
名称	動物保護法	実験動物に関する法律
目的	すべての動物の倫理的取り扱いに
関する原則規定	実験動物及び動物実験の適切な管理を通じて動物実験に対する信頼性及び倫理性を高めてライフサイエンス発展と国民保健向上に貢献する
内容	(動物福祉全般を扱う法律ですが、動物実験関係は以下の通り)

・ 動物実験の原則(第23条)
・	遺失・遺棄動物や使役犬を使った動物実験の禁止(第24条)
・	動物実験倫理委員会の設置、構成、指導監督等(第25条~28条)	・	食品医薬品安全庁の責務と運営者の責務(第5条,第6条)
・	動物実験施設の登録、 実験動物運営委員会の設置 (第7条, 第8条)
・	管理・運営状態が優秀な動物実験施設または実験動物供給施設を優秀機関として指定(第10条, 第15条)
・	管理者、実験動物供給者、動物実験を行う者は、食品医薬品安全庁による教育を受けなければいけない(第17条)
区分	動物実験を規制	実験動物の取扱の適正化
所管	農林水産食品府
(日本の農林水産省にあたる)	保健福祉家族部食品医薬品安全庁
(日本の厚生労働省にあたる)

●日本はこのままでよいのか

 日本では、人間で行う臨床試験についても、被験者保護が法律になっていない状況があります。「まして、動物で法律は無理」と言われてきましたが、臨床試験については、製薬企業の研究不正が相次いだことを受け、法律をつくるべきとの見解が国の審議会でやっと出されました。動物実験では、理化学研究所のSTAP細胞論文の不正事件が話題になりましたが、PEACEで情報公開請求を行ったところ、この裏にも動物実験に関する規定違反があったことが判明しています。

研究者の言うことがそのまま信じられる時代でなくなったことは明らかです。動物実験についても、自主規制だけに任せるのではない制度の構築が望まれます。

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