特定胚等研究専門委員会(第92回) 議事録 抜粋

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科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会 特定胚等研究専門委員会(第92回)

1. 日時 平成28年8月3日(水曜日)13時59分~16時05分
2. 場所 経済産業省別館2階 227共用会議室
3. 出席者
(委 員)高坂主査、髙山主査代理、浅井委員、神里委員、斎藤委員、佐々木委員知野委員、永水委員、中村委員、奈良委員、花園委員、三浦委員
(事務局)板倉審議官、原課長、杉江安全対策官、藤井室長補佐、神崎専門職
4. 議事
(1)動物性集合胚の取扱いに関する検討について
(2)ヒトES細胞に関する指針の見直しについて
(3)その他

議事録該当部分抜粋

【高坂主査】 皆さん、こんにちは。ほぼ定刻となりましたので、ただいまから第92回特定胚等研究専門委員会を開催させていただきます。

今日は、本当にお暑いところをお集まりいただきまして、ありがとうございます。

まず、議事に先立ちまして、事務局から、委員の出席状況の確認をお願いいたします。

【神崎専門職】 本日は、阿久津委員、稲葉委員、石原委員より、御欠席の御連絡を頂いております。

【高坂主査】 ありがとうございました。
次に、委員あるいは事務局のメンバーの交代等ございましたので、それについても併せて御報告をお願いいたします。

【神崎専門職】 まず、日本大学生物資源科学部の大西教授が5月に御退任され、今回より自治医科大学先端医療技術開発センター長の花園教授に御就任いただいております。

続きまして、事務局の異動につきましては、生川審議官に代わり板倉審議官、石﨑学術研究調整官に代わり杉江安全対策官、丸山室長補佐に代わり藤井室長補佐が着任しております。審議官の板倉より、一言御挨拶申し上げます。

【板倉審議官】 6月21日付けで研究振興局担当の審議官に着任いたしました、板倉でございます。よろしくお願いいたします。

本日は、本当にお暑い中、またお忙しい中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。この専門委員会で扱う、本日も、動物集合胚、ES細胞の御検討を頂くことになろうかと思いますが、その利用面では、ES細胞あるいはiPS細胞を使って再生医療に取り組んでいくというところは、非常に国民的な関心も高いところがありまして、文部科学省でもその研究に積極的に取り組んでいるところでございますが、こういった研究を進めるに当たりましては、ES細胞でありますと、言わずもがなですが、ヒトの受精胚から作られるということで倫理問題ございますし、動物集合胚につきましても、今の技術的な進歩と社会との調和をどうしていくのかといったところをしっかりコントロールしながら進めていかなければならないというふうに考えてございます。そういった観点から、本委員会の審議は非常に重要な役割を果たすものだというふうに考えてございます。本日の委員会では、指針の見直し、動物集合胚の取扱いの検討という重要な課題を御審議いただく予定にしております。委員の皆様におかれましては、積極的な御議論を頂ければというふうに思いますので、よろしくお願いいたします。

【高坂主査】 板倉審議官、ありがとうございました。御承知の方はいらっしゃるかもしれませんが、板倉先生は、ライフサイエンス課長で、再生医療で一生懸命頑張っていただきましたし……。

【板倉審議官】 3年ほど。

【高坂主査】 そうですね。また、AMEDでも御示唆いただいて。どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。
それでは、事務局の方から、配付資料の確認をお願いいたします。

【神崎専門職】 それでは、配付資料の確認をさせていただきます。まず、動物性集合胚関係で、1枚物が2枚、資料番号の92-1-1、1-2、そして、神里委員の御発表資料、92-2 がございます。続いて、ES関係で、1枚紙で92-3-1、続いて92-3-2、92-4、92-5、全部で7種類ございます。次に、参考資料ですが、参考資料1-1、1-2、1-3、参考資料2まで、4種類ございます。また、机上資料として、ES指針の手続の流れを説明した図を2種類配付しております。これは92-3-2の補足資料となります。また、ドッチファイルの参考資料集を準備しておりますので、御審議のときに参照していただければと思います。

(中略) 事務局からは、以上です。

【高坂主査】 ありがとうございました。資料等の過不足ございますでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは、議事次第に書いておりますように、今日の議事は大きく二つございまして、一つは動物性集合胚の取扱いに関する検討、2番目としてヒトES細胞に関する指針の見直しということになっております。

その最初の議題(1)、動物性集合胚の取扱いについて、検討を開始したいと思います。本日は、この動物性集合胚の取扱いについての今後の具体的な検討内容といったものについて、確認をさせていただきたいと思っています。次に、動物性集合胚をめぐる倫理的・法的あるいは社会的な課題と現状ということについて、神里委員から御説明を頂く予定にしてございます。その後、神里先生の御発表の内容を踏まえて、動物性集合胚の取扱いについての議論を深めていきたいと思っております。

では、今後の検討内容についての資料でございます、92-1-1と1-2について、事務局の方から説明をお願いいたします。

【杉江安全対策官】 それでは、説明をさせていただきます。今回、92-1-1と1-2について御説明させていただきますけれども、前回の会議で御了承いただいた内容といたしまして、参考資料1-1で配らせていただいております、3月29日の資料でございます。この中では、最後の丸のところを見ていただきますと、「今後、特定胚等研究専門委員会において、人文社会系の有識者からヒアリングを行う等、倫理的・社会的観点を含めた調査を行いつつ、総合的な見地に基づいた特定胚指針の見直しに向けた検討を行うこととする」と。これを踏まえまして、今回、今後の検討の内容と主な論点について、御説明をさせていただきたいと思っております。資料92-1-1でございます。

まず、1ポツの作成目的についてでございます。動物性集合胚の作成目的については、特定胚等研究専門委員会動物性集合胚の取扱いに関する作業部会において、臨床用ヒト臓器の作成のほか、多能性幹細胞の分化能検証、非臨床モデル動物の作成について、科学的観点から他の研究方法より優位性・意義があると整理されたところでございます。これら目的について、倫理的・法的及び社会的観点から調査・検討をしたいと思っております。

2ポツでございます。動物性集合胚の動物胎内への移植については、平成25年8月に示された総合科学技術会議、現行では総合科学技術・イノベーション会議ということになりますけれども、そこの生命倫理専門調査会の見解「動物性集合胚を用いた研究の取扱いについて」において、「人と動物との境界が曖昧となる個体を産生することによって人の尊厳を損なうおそれのないよう、科学的合理性、社会的妥当性に係る一定の要件を定め、それを満たす場合に限って、動物胎内への移植を認めることが適当である」とされているところでございます。そこで、「人と動物との境界が曖昧となる個体」とは何か、「人の尊厳を損なう」とはどのような場合かについて、倫理的・法的及び社会的観点から調査・検討をすることといたしたいと思っております。

さらに、上記検討及び作業部会での科学的観点からの調査・検討の結果を踏まえて、「人と動物との境界が曖昧となる個体の産生により人の尊厳を損なうおそれのない」研究内容について、以下の事項を含めて総合的な見地に基づいた検討を行うことといたします。(1)交雑個体に類するおそれがないと考えられる目的外の分化の程度、(2)作成する臓器(特に脳神経細胞・生殖細胞の作成の是非)について、(3)移植先の動物(特に霊長類の取扱い)について、(4)研究実施期間(例えば、原始線条まで、胎仔まで、個体産生まで)。これらの事項を含めて検討を行うといった内容でございます。 3ポツでございますけれども、規制のあり方についてでございますが、科学的合理性、社会的妥当性に係る一定要件の下、動物性集合胚の動物胎内への移植を認め得るとした場合の国の関与の在り方について、検討をしてまいります。

この92-1-1については、基本的には、御了承いただければ、今後、このような流れで進めさせていただきたいと考えています。資料92-1-2でございますが、これも併せて説明をさせていただきます。「動物性集合胚の取扱いに関する倫理的・法的及び社会的観点での検討における主な論点(案)」でございます。検討内容の案について、このような論点を設定することはあり得ると考えておるところでございます。

動物性集合胚の取扱いに関して、研究目的や、人と動物との境界が曖昧となる個体とは何か、人の尊厳を損なうとはどのような場合か等に関して、倫理的・法的及び社会的観点から以下の論点について、専門家ヒアリング等を通じて整理・検討を行いたいと考えております。

主な論点でございますけれども、過去の国内での議論や、海外の議論を踏まえると、どのように考えられるか。海外での規制状況や、海外で既に実施されている研究内容と比較した場合、どのように考えられるか。国民感情、一般国民の方々の意識とか宗教観といったものを踏まえると、どのように考えられるか。また、社会的必要性・不利益を踏まえると、どのように考えられるか。このような観点で検討を進めていくことができると考えております。この結果を踏まえて、動物性集合胚の取扱いについて、科学的観点も含め、総合的に検討を行いたいと考えております。

以上の内容について、御了承いただければと考えております。なお、二つ目の92-1-2 の論点(案)については、必要に応じて今後も論点を追加することはあり得ると思っておりますので、次の神里先生の説明の後に御意見を頂きたいと考えています。
以上でございます。

【高坂主査】 ありがとうございました。

今日初めての委員の方もいらっしゃるようですので、今、簡潔にまとめていただいたわけですが、これまで、動物性集合胚に関して、過去10回ぐらい、こういった会、あるいは作業部会で検討を加えてきましたが、それは主に科学的な観点から、動物性集合胚をやる意義、どういう利点があるか、あるいはどういうデメリットがあるかといったような観点から、あくまでも科学的に議論をしてきたということで、これについては既に答申を出しております。倫理的な問題あるいは社会学的な課題といったことについて、まだ議論が尽くされておりませんので、そういったものをここで十分に検討をして、最終的に総合的に、科学的な判断とこういった倫理的な判断を合わせて、どうしていくかということを決めていきたいと、こういうことでございます。

今のお話にありましたが、資料92-1-1で、こういった内容について今後検討をしていきたいという御説明がございました。そこに書いてありますように、倫理的・法的及び社会的な観点から調査・検討を行っていきたいということですね。特にその中で、目的外の細胞の分化に関してどうだと。あるいは、作成する臓器、移植先の動物、研究実施期間といったものは、これまで科学的なことでやっておりますが、それに加えて、こういったことも倫理的な問題で問題になる可能性もあるということです。

実際にこういった、特に社会的・倫理的・法的な観点から調査するに当たって具体的にどういう論点があるだろうかということで92-1-2が御提示されたわけですが、上から順番に、今、御説明されたとおりでございます。海外の状況ですね。あるいは、海外ではどういう研究内容が承認されているのだろうかと。あるいは、一般的な国民感情は一体どういうことになっているのか。あるいは、社会的必要性・不利益といったものをどう考えるか。これはかなり、前半の科学的な観点からの検討にも関わってくる内容だと思います。
こういったことで進めていきたいと思います。

今、室長の方からも御説明ありましたように、92-1-2で示しておりますような具体的に議論をする対象、こういったものを議論すべきであるということがありましたら、その都度御示唆していただければ、それも併せて検討を行いたいと考えております。

ここまでで、92-1-1、92-1-2の説明で、何か御意見等ございますでしょうか。

大枠の方向性は、これでよろしゅうございますか。何かありましたら、いつでも提案していただければ取り上げますので、どうぞよろしくお願いいたします。

それでは、一応、92-1-1と1-2は、基本的には了承という形をとらせていただきたいと思います。

次に、先ほども申し上げましたが、「動物性集合胚をめぐる倫理的・法的・社会的課題と現状」ということについて、神里先生から御説明を頂きたいと思います。
先生、どうぞよろしくお願いいたします。

【神里委員】 東京大学医科学研究所の神里でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

本日は、このような機会を頂きまして、高坂主査、そして事務局の皆様に感謝申し上げます。本日、私の方から、動物性集合胚をめぐる倫理的・法的・社会的課題ということで、報告をさせていただきたいと思います。30分ぐらいですけれども、お付き合いいただければと思います。

まず、今日の御報告内容でございます。動物性集合胚等に関する海外の規制状況と動向ということについて、まず御説明いたします。そして、日本における規制の状況についての軽い復習と、また、私が考えている今後の検討課題というものについて、報告をさせていただければと思っています。また、その上で、動物性集合胚等をめぐる倫理的・社会的問題についても、お話をさせていただきたいと思います。下の方に脚注として書きましたけれども、本日、「動物性集合胚」とか「ヒト-動物キメラ」という言葉が混在します。なぜかといいますと、動物性集合胚について、今日の御報告はそれがメインになるのですけれども、海外の規制状況を見ますと、「動物性集合胚」ということで区切って規制をしているというわけではないので、どうしてもその周辺部分が入ってきます。したがいまして、「動物性集合胚等」、「等」ということを付けていましたり、「ヒト-動物キメラ」という言葉を使ったりしていますけれども、その場合には動物性集合胚よりも少し大きい概念で捉えているというふうに御理解ください。また、「ヒト-動物キメラ」ということになった場合にはですけれども、これはヒトの細胞を動物に移植するという、ヒトから動物へという矢印の方向で書いているものということで御理解を頂ければと思います。

では、ここから、海外における規制状況について、お話をさせていただきます。まず、規制の概略ですけれども、フレームとしては、ヒトの細胞や遺伝子を動物個体へ移植する研究の歴史は長くて、今も日常的に行われている研究であります。したがいまして、ヒトの細胞や遺伝子を入れるという意味で、それはヒトを対象とする研究の規制の枠組みに入り、また、動物を使うという意味で動物実験の規制、こういう二本立てで規制をしてきた、これが国際的な標準型、デフォルト型というふうに考えていいかと思います。そうであるときに、ヒトES細胞だとか多能性幹細胞を入れるといった場合にも、この二つの規制の枠組みでやっていっていいのだろうか、こういうことが最近浮上したと。近年、アメリカやイギリス等で、この点について検討をしたということになります。

日本の場合は、特定胚指針が2001年の段階で作成されておりますので、世界的に極めて先進的な取組であったと。これについては余り評価をされていないのですけれども、本当ならば国際的にも、日本についても参考にしてもらってもいいぐらいの話であったのではないかというふうに思います。 その上で、アメリカについての規制の状況というのを御紹介したいと思います。まず、ナショナル・アカデミーズ・オブ・サイエンスから出している、2010年に改正されました、Guidelines for Research on Human Embryonic Stem Cellsです。規制の在り方としては、このガイドライン自体はES細胞から出発点にしているということで、ES細胞についてと、あと、次のページになりますけれども、iPS細胞について、そういうような分け方になっています。

まず、ヒトES細胞を導入する研究についてですけれども、これについては――本日の紹介で全て色が付いていますけれども、これは信号色というふうに御理解ください。グリーンのところは、先ほど御紹介した、ヒトに対する規制と動物に関する規制というデフォルト型での規制でよいとされている領域になります。赤信号として、このナショナル・アカデミーズのガイドラインの中でやっちゃだめよと言っていることは、霊長類の胚盤胞にES 細胞を導入する研究、そしてES細胞が導入されて生殖細胞系列に寄与した可能性のある動物の交配、これについてはやってはいけませんというふうに言っています。次、黄色信号ですけれども、一定の条件、すなわち特別な審査を受けた上で、ESCROによる追加的な審査で承認を得た場合にはやってもいいですと言っているものが、胚、胎仔、出生後の発生段階を問わずヒト及び霊長類以外の動物にES細胞を導入する、そして、またこれも、胚、胎仔、出生後の発生段階を問わず霊長類にヒトES細胞を導入する、こういった研究については、だめとは言わないけれども、一定の厳密な審査を受けましょうということになっています。この黄色信号における申請者側、そして審査するESCRO側における留意点ですけれども、特別な配慮を払わなければならない点として、移植した細胞が動物の組織に定着し、組み込まれる範囲はどの程度か、そして、移植した細胞の分化の程度、移植した細胞の動物組織の機能への影響というものについて、配慮をしましょうと。そして、哺乳類の胚盤胞へのヒトES細胞の導入というものは、ほかの研究では必要とする情報が得られない場合に限って、これについて検討するべきであるという条件も付けています。

続きまして、ヒト多能性幹細胞を動物に入れる研究についてはどのように言っているかというと、だめよと言っているのが、ヒト以外の霊長類の胚にヒト多能性幹細胞を導入する研究、また、先ほどと同じようですけれども、ヒト多能性幹細胞を導入されて生殖細胞系列に寄与する可能性のある動物の交配については、だめと言っています。一方で、だめではないけれども、厳密な審査が必要ですと言っているのが、移植されたヒト多能性幹細胞が神経又は生殖の細胞や組織になる可能性が大きい研究については、ESCROによる審査・承認を得なければならないと。そして、これについても、先ほど見たような特別な配慮をしなければならないということを言っているわけです。

ここまでが、ナショナル・アカデミーズのガイドラインです。

続きまして、NIHはどういうふうに言っているかということになります。NIHに関しては、だめよという赤信号についてのみの規制ということになります。だめよというか、それに関しては助成しませんという、赤信号になります。ヒトES細胞又はヒトiPS細胞を霊長類の胚盤胞に導入する研究、そして、ヒトES細胞・ヒトiPS細胞の導入が生殖細胞系列に寄与した可能性がある場合の動物の交配をする研究、こういうものについては助成しませんということを言っています。これ以外のキメラ研究については、助成の条件を特には設けていません。御承知のとおり、NIHについては、このようなヒトの多能性幹細胞を動物に入れるような研究については助成を一時的に停止しますという通知が、2015年9月に発出されています。この背景としては、急速に研究の範囲が拡大していることを受けて、NIHは、この領域における科学の状況、検討しなければならない倫理的課題、そして、このタイプの研究に伴う動物福祉に関する懸念を評価するために慎重に検討したいということで、一時的なモラトリアムを設けているということになります。NIHが政策通知を発出するまでは助成をしないということになっていまして、いまだに政策通知は発出されていませんので、今、止まっているということになります。

これについての研究者の声ですけれども、中内先生を含みますスタンフォード大の研究チームの方からは、このような停止というのは、再生医療研究を妨げるものであるから、早いところそれをやめてほしいというような、要望が出ています。一方で、こちらもヒト-動物キメラの研究をされているBelmonte先生ですけれども、真意は分かりませんが、私は歓迎するよと、オープンなディスカッションというものを歓迎しますということを、両方とも『Science』に掲載をしています。

今、NIHでどういうような状態なのかということになりますけれども、NIHは、2015年11 月にワークショップを開催しました。ここではセッションが三つに分かれていまして、まずは初期段階の胚にヒトの多能性幹細胞を入れる研究の動向・実情について各研究者が紹介をするというようなセッションです。この中には、中内先生も含まれていましたので、ブタのキメラについても御紹介されています。二つ目のセッションは、神経幹細胞を入れるということについて、こちらも、研究者が集まりまして、研究の状況についての説明をしました。セッションIIIというのは、責任ある研究実施をするためにということで設けられたセッションでして、ここが一つ特徴的でして、呼ばれた人というのが、ISSCRのガイドラインを後で紹介しますけれども、それの作成メンバーであった人、そして、イギリスの方からウェルカム・トラストの人、カリフォルニア再生医療機構(CIRM)の人、あと、特徴的だったのは、動物に関する人を2名呼んでいるということになります。1名はAAALACという動物実験の認証機関の方を呼んでおりまして、もう1名はNIHで動物の福祉についてやっているセクションの方をお呼びしているというところが、一つ特徴だと思います。

続きまして、イギリスの動向について、御紹介をしたいと思います。イギリスは、2011 年にアカデミー・オブ・メディカルサイエンスが報告書を出しました。これはどういう報告書かというと、「ヒトの物質が含まれた動物について」という報告書です。この中では一般市民へのアンケートなども実施されまして、そして、その中で一定の勧告を出していたわけです。この勧告を、5年間かかったのですけれども、ホームオフィスがガイダンスをこのたび出したということになります。ホームオフィスというのは、動物実験の規制を担当している部局ということになります。この部局がヒト受精卵の法律だとかヒトの組織に関する法律を管轄する機関と共同しながらこのようなガイダンスを出したということで、政府内での調整をしながらこういうガイダンスを出しているということが、一つの特徴になります。

それで、この青信号ですけれども、これについては、ほとんどのヒトの物質を含む動物というのはここに該当するよということを言っていまして、このような場合は、ほかの動物実験と同様に、動物実験規制に関する法律に基づく監督と規制の対象になるということを言っています。

次に、黄色信号になりますけれども、これについては、脳の機能を“人間のような”ものにする可能性のある動物の脳の大きな変革を伴う研究、動物体内で機能するヒトの生殖細胞の生成又は増殖を導く可能性のある実験、進化上近い種とヒトとの区別において最も有用とされている動物の外観や振る舞いを大幅に改変することが予想される実験、ヒトの遺伝子やヒトの細胞をヒト以外の霊長類に導入することを伴う実験、これについては、動物実験の規制に加えて、アニマルズ・イン・サイエンス・コミッティーの審査・助言を受けなければならないということにしました。イギリスにおける大きな特徴は、方法については言っていないということになります。何が嫌なのか、どういう動物を避けたいのかというところから論じていまして、その方法については規定をしていません。そしてまた、ヒューマン・マテリアル・イン・アニマルという極めて大きいフレームの中で規制をかけているというのも、特徴になります。

そして、やってはならないと言っていることですけれども、動物性集合胚に直接的に関係するものとしては、“人間のような“振る舞いを生み出すなど、ヒト以外の霊長類の脳の重要な機能的改変をもたらす可能性があると国家専門家組織において判断された、十分なヒト由来神経細胞のヒト以外の霊長類への移植、また、ヒト胚・ハイブリッド胚の産出を導く可能性のある、生殖腺にヒト由来生殖細胞を持つ、あるいは発生させる可能性のある動物の交配については、十分な科学的正当性を欠く、又は非常に大きい倫理的問題を生じさせるため、現段階では認可されるべきではないということで、ここについては赤信号ということにしています。

では、学会ではどうしているのかということで、インターナショナル・サイエンス・フォー・ステムセル・リサーチ(ISSCR)のガイドラインについても、御紹介をしたいと思います。ここにおいては、御承知のとおり、2016年に二つのガイドラインが統合するというような形で一本化されています。まず、審査のカテゴリーというのが推奨2.1.3というところに書かれているのですけれども、その中では、赤信号として禁止される研究行為は、ヒトの配偶子を形成した可能性のあるヒト細胞を含有する動物キメラを交配させる研究についてはだめと言っていて、そして、黄色信号についてはどういうものかというのは、次のページになるのですけれども、専門的な審査を必要とするヒト-動物キメラ研究としては、中枢神経系又は生殖細胞系列のキメラ化をもたらすためにホスト動物にヒトの全能細胞又は多能性細胞を組み入れることを伴う研究は専門的な研究管理を必要とするということで、専門性の高いところに見てもらわなければならないよということを言っています。これはもちろん、国際的な学会ですので、その方法については各国の方針に従うということになります。ESCRO等で審査をするというのが、アメリカの場合になります。

今までざっと見てきて、何となく何がだめなのかということは分かったような感じではあるのですけれども、一つ一つ細かく見ると、文言が違ったりしていまして、分かりづらいということがあります。私なりにまとめてみました。ここから分かることは、ヒトのES だとかiPS細胞を動物の個体、動物の胚だとか胚盤胞へ導入することを禁じてはいないということが、まず一つ言えるかと思います。ナショナル・アカデミーズでは、これについては少し慎重な態度をとっている、黄色信号になります。ただし、霊長類に関しては特別視をしていまして、ここについては、ナショナル・アカデミーズ、NIH、ともに赤信号ということで、禁止ということをしています。そして、もう一つ特徴的なのが、動物の外形/行動のヒト化ということです。これについて、UKは黄色信号になっています。ほかのアメリカやISSCRは特段、これは「-」なので、言っていないのです。言っていないのですけれども、恐らくこれは青信号というように思います。すなわち、余りここについては特段の注意をしていないということになりまして、一つ、これはイギリスの特徴であると。外形や行動についてのヒト化を政策的に組み入れているというのは、一つの特徴であるということになります。やはり霊長類に関しても一定の配慮をしていて禁止をしているということと、共通してだめなのが、生殖細胞を含有する可能性のある動物を交配すること、これは明確に全部赤信号にしています。

小括。ここから分かることは、まず、原則としてヒトES細胞/多能性幹細胞を動物の胚、胎仔、成体に導入することを禁止していないし、ヒト-動物キメラ胚(動物性集合胚)を動物に移植するということについても禁止していないこと、ただし、霊長類の胚/胚盤胞への導入だとか、生殖細胞系列に寄与した可能性のある動物の交配は禁止しているということです。次に言えることは、日本の場合は、臓器の作成に関する基礎的な研究のためという、研究目的の方から制限をかけているのですけれども、そのような制限はなされていないということが分かります。また、動物性集合胚の培養期間について、日本の指針では14 日としていますけれども、このような制限も設けていないと。この辺が分かったことかと思います。そして、特別な配慮をしているのが霊長類であること。また、動物の特性としては、脳神経細胞、生殖細胞を持つ動物。そして、イギリスにおいてはプラスして、ヒトのような外見、振る舞いをする可能性のある動物を作るということについても、特別な配慮をしているということになります。

続きまして、動物性集合胚に関する日本の規制状況と課題ということで、お話をさせていただきたいと思います。動物性集合胚の定義は「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」に記載がされていますけれども、これをよく読んでみると、動物性融合胚の作成というのがそもそも禁止されているので、このグレー印のところは余り関係ないということになります。そうして見ると、一つ以上の動物胚と、ヒトの体細胞、ヒトの受精胚、人クローン胚の胚性細胞とが集合して一体となった胚が、現実的には特定胚を作る手段ということになります。

そして、特定胚指針を見てみますと、まず、やってはいけない赤信号が、ヒト又は動物の体内に移植してはいけない、禁止になっていますけれども、やっていいこととしては、条件付きで、まず、ヒトに移植することが可能なヒトの細胞から成る臓器の作成に関する基礎的研究に限って実施ができますよという目的からの規制、そして、取扱いも、原始線条が現れるまでの期間、あるいは、それが現れない場合でも14日間までという、取扱いの期間。また、ヒトの細胞についての条件も課されています。

先ほど冒頭に事務局からも御紹介ありましたけれども、2013年に生命倫理専門調査会が「取扱いについて」という報告書を出しまして、その中で提示した検討課題が以下のとおりになります。まずは、作成目的の拡大方向への見直し。そして、人と動物との境界が曖昧となる個体を産生することによって人の尊厳を損なうおそれがないように、科学的合理性、社会的妥当性に係る一定の要件を定め、それを満たす場合に限って、動物胎内への移植を認めることが適当であると生命倫理専門調査会は考えるのですが、その移植に当たっての要件の検討が必要ということで、要件の検討事項として、マル1、マル2、マル3、マル4があります。このような観点から作業部会では検討がされたということになります。そして、個体産生の要件についても検討をしなさいということ。また、地味ですけれども、個別の研究計画ごとに適切に判断できるような体制・運用の在り方についても検討するようにという内容がございました。

そこで、もし生命倫理専門調査会の提示を受けて規制を緩和したならばということで、この図ですが、まず、特定胚、動物性集合胚を作って培養して、この段階でも研究をして、そして、解禁になれば、次にこれを動物の中に移植すると。移植して、今度は胎仔が生まれるというような流れになるわけです。今の段階では、移植はだめと言っているので、ここまでについての規制ということになります。それがこっちについてまでになると、作業部会の方で検討がなされたように、動物性集合胚の移植でしか得られない科学的知見だとか、そういう科学的な面から、分化制御についての技術だとか、そういう検討事項もたくさんあるのですけれども、それと同時に、規制という面でも実は新たな領域に踏み込むということになります。

クローン技術規制法というのを見てみますと、まず、胎内に移植してはいけないものに動物性集合胚は入っていないので、ここは関係がないのですけれども、第4条の方を見ると、文部科学大臣は、動物性集合胚が、人又は動物の胎内に移植された場合に人クローン個体若しくは交雑個体又は人の尊厳の保持等に与える影響がこれらに準ずる個体となるおそれがあることにかんがみ、特定胚の作成、譲受又は輸入及びこれらの行為後の取扱い(以下「特定胚の取扱い」という。)の適正を確保するために、特定胚の取扱いに関する指針を定めなければならない、としています。また、第6条を見ると、文部科学大臣への届出を要するのですけれども、特定胚を作成し、譲り受け、又は輸入しようとする者は、届け出なければならないと、ここまでは書いてありますけれども、先ほど見たように、まず、ここで特定胚を作りました、特定胚を譲渡されました、個体を作りましたといったときの、もらって個体を作る人というものについては、その事前のところでストップしている、そういう規制だったので、今までは必要がなかったから入れることもなく済んでいました。しかし、個体を作るだとかいうことになりましたら、ここもいじる必要が出てくるのかなあという気がしております。

ちょっと話が変わりますけど、動物実験に関する規制は「動物の愛護及び管理に関する法律」を根拠法としていますけれども、その中の1条文の中で3Rsが語られていて、これの下に環境省の基準だとか各省庁の基本指針があります。これは、出生後の哺乳類、鳥類、爬虫類が対象になっていまして、この辺はイギリスとは違っていて、イギリスの場合だと、妊娠期間の半分以上過ぎた胎仔から動物として取り扱う、規制の対象、保護の対象ということになります。研究内容に関する条件は特段こういう基準や指針の中では設けられていなくて、審査は動物実験委員会でやりますけれども、動物の福祉だとか、科学的合理性、安全性の観点からの審査ということになります。

もし規制を緩和した場合、特定胚指針その他規制の適用範囲も検討要件になるのではないのかなあというのが、今回、私がこのスライドを用意するために勉強させていただいて、感じていることです。研究のゴールとしては、中内先生がやっているような、臓器を人に移植する臨床試験というのが、研究の中では一番長く、最後まで行くということになります。分化能を調べたりするのは、この手前のところで研究が終わるということになるかと思います。規制を緩和したときには、もちろん特定胚指針で作成はできるだろうと。次に、移植をするということについても、改正特定胚指針で対応ができるだろう。ただ、ちょっとこの辺からは分からなくなってきて、キメラの胎仔についての研究は特定胚指針でできるのかなあと思うのですけれども、キメラ個体を産生したとき、これも特定胚指針でできるのだろうか。すなわち、ここから移植するというところのこのところまでは特定胚指針で見られるかなと思うのですが、次、生まれた後についても特定胚指針でカバーできるのかというのは、明白なことではないのではないかというふうに思っています。さらには、キメラ個体についての研究ですね。そして、今度は摘出した臓器についての研究、たくさんなされることになると思いますけれども、こうなると特定胚指針の話ではなく、動物について、臓器を摘出するという行為については動物実験規制がかかるかもしれませんけれども、臓器自体の解析ということは、もしかしたら人を対象とする倫理指針になるのか。でも、そうなったときには、今のままで対応できるのか。さらには、最終的なゴールに行ったとして、臓器を人に移植する臨床試験をするとなったときには再生医療新法の適用になるかと思いますけれども、今のままで対応が可能なのかというと、これもちょっとクエスチョンなのかあと。この辺については、どこまで特定胚指針でカバーできるのか、あるいはカバーすることにするのかということについては、一つ決めなければならない話ではないかと思います。

最後のパートになりますけれども、まず、イギリスでの調査ということで、これは2010 年にイギリスの医学アカデミーが実施しました。ここでは、先ほど御紹介したように、相対的に懸念が強かったこととしては、“人間のような”外見、脳、生殖機能ということで、これがUKの政策には反映されています。

少し古くなるのですけれども、私たちもフォーカス・グループ・インタビューというのを2012年にやっています。時間がないので方法については割愛したいと思いますけれども、結果として分かったことは、臓器不足解消を目的として動物個体を産生・利用することについての肯定的な意見、たくさん出てきています。医学の発展だとか、移植待機患者だとか渡航移植の必要な人の解消ですね。あと、拒絶反応が克服できるとか、新薬開発にはどうしても犠牲が必要だし、私たちは牛も豚も食べているしということで、肯定的な意見も出ています。他方で否定的な意見というのもありまして、動物個体作成については、まず、自然に対する人為的操作ということについて、すごく抵抗感を示す、そういう意見が多かったです。自然ということを大切にする人が多いです。次に、キメラ動物が誕生したとき、そして、その処遇への懸念ということもありまして、動物を犠牲にすることへの葛藤というのはたくさん意見が出ましたし、また、ヒトに近い外見や意識を持つ未知の生物が誕生した場合の不安、そして、もし誕生したら、その動物をどう扱ったらいいのだろう。処分したときには、どういうふうに廃棄するのだろうというような話。あと、人間と動物の境界の問題だとか、その動物はアンコントローラブルになる。また、自分や子供とのつながりというのがあります。作成された臓器の移植については、作成された臓器自体の機能への不安だとか、長期的安全性についての不安だとか、いじめや偏見が生まれるのではないかといったことや、動物の性質が出ちゃうのではないかというようなことも、おっしゃっていました。

そこで、つながりということに関して、一部御紹介します。「僕の場合は、さっき言ったようにどの動物をとっても、多分自分の遺伝子を持ったものを殺すのが抵抗ある」と。また、別の男性ですけれども、「結局、生まれた、臓器をもらった子豚は殺すわけですよね、最後は。それが豚じゃなくて人間だったら、自分の子供を殺すようなものなのですね、まさに」とか、「私は自分の子供にどうしてもと思っても、そこまでのことをして、どういう豚が生まれるか分からないリスクまで背負って、その豚が、自分の子供の細胞を持っている豚が死ぬわけです。そこまで自分のエゴは通せないです」ということで、とても、誰の細胞、誰の遺伝子ということについて重要視をしているということが分かりました。ここから、キメラ動物については、「臓器産生のための代替可能な動物」という位置付けもありますけれども、それとは別に、「自分の一部を分けた特別な動物」という存在になり得るということが示唆されまして、仮に患者が死亡して患者の細胞を持った動物が残った場合、遺族にとってその動物は特別な存在になる、そういう可能性もあることが分かりました。 私たちのやっていることは、フォーカス・グループ・インタビューなので、かなり限界があります。ただ、今言いたかったことは、一般市民の懸念というのは、知能だとか、生殖という範囲を超えて、多様であるということです。また、NIHのワークショップですけれども、これも、専門家が招聘されたのみで、一般市民が議論に参加できていないということが指摘されています。

最後です。まとめとしては、アメリカ、イギリス、ISSCRの規制の枠組みというものについては大分理解できたのですけれども、実際の審査実績だとか、審査における判断はどうやっているのかということは、まだ私には分かりません。そして、特定胚移植後の研究について、特定胚指針でカバーできるのだろうか、どこまでカバーするのか、そして、ほかの規制との調整は必要ではないのだろうか、こういう法的・政策的検討も必要なのではないかということがあります。また、成城大学の標葉先生が2016年1月19日の作業部会で報告されていますけれども、ヒトの臓器を持つ動物を作ることについて、一般市民の支持は得られているとは言えません。となったときに、一般市民がどこに懸念・嫌悪を持っているのかということは、抽出した方がいいのではないかと。その中から、一般市民の誤解や無知によるもの、また、技術で対応可能なもの、それ以外というものを精査して、科学者からの発信というのも必要じゃないかというふうに考えています。

ちょっと長くなって、済みません。ご清聴、ありがとうございました。

【高坂主査】 どうも、神里先生、ありがとうございました。海外、主にアメリカとイギリスの現状、それから日本での現状、最後に、意識調査といいますか、そういったところについて、お話を頂いたわけです。

非常によくまとめていただきましたが、今の先生の発表について、いろんな意見が多分あると思いますので、委員の先生方から何か質問があれば、どんどん出していただきたいと思います。いかがでしょうか。
どうぞ。

【髙山主査代理】 ありがとうございました。アメリカの状況について一つ質問したいのですけれども、その前提として、日本の現行法の考え方も確認したいと思います。一般的な「動物の愛護及び管理に関する法律」で全ての動物実験に適用されるべき基本的な考え方というのは、日本法でもお示ししていると思うのですね。それは適用範囲が広かったり狭かったりということはこれから変えていく余地もあると思うのですけれども、命を大切にするとか、できるだけ苦痛を与えないとか、犠牲にする動物を減らすといったような考え方だと思います。それから、クローン技術規制法の方ははっきりと動物とヒトとの区別を曖昧にするような研究については規制の対象にしているということで、種としてのヒトを保護しているという考え方が出ていると思います。それから、後の調査のところで一般の方から述べられていた観点として、遺伝子組換え生物の影響についても懸念する声がある。これも、日本の現行法では一定程度、規制の考え方というのが出ていると思うのですけれども、それ以外に、今の日本にある法律の規制の根拠となる考え方以外の別の観点から研究を規制していくような規制強化の発想というのに対して、私は個人的には非常に疑問に思っていまして、それを見ますと、参考資料1-3の生命倫理専門調査会とか、あるいは先生のスライドの中にも※で出てきましたけれども、動物愛護の観点というのを配慮すべきという意見が出ています。これは、特定胚とか動物性集合胚だけに当てはまるような新しい規制根拠というのを、今、法律の中で認められていないのに何か持ち出してきて、それで研究の推進をストップするというような傾向にもしなってしまうと、とても心配される状況ではないかと、私は思っています。

その観点から見ますと、アメリカの状況を御紹介いただいた中の後の方に、動物福祉に関する審査というのが幾つか出てきまして、これによって研究がストップしてしまうという状況に対して批判的な意見を述べておられる先生もおられるという御紹介でした。ここで言っている動物の福祉というのは、具体的には何が問題となっているのか、もしお分か
りでしたら、教えていただけますでしょうか。

【神里委員】 済みません、スライドの何ページでしょうか。動物福祉からの……。

【髙山主査代理】 スライドの7枚目の黄色い枠囲みの真ん中辺に、「動物福祉に関する審査」というのがありまして。

【神里委員】 これはIACUCですので、通常の動物実験に関する審査委員会でやるということになって、これは、先ほど二つのデフォルトがあると、そのデフォルトの一つである、動物の規制についてやりなさいよと。そこで見るものは、動物の福祉、すなわち一般的な動物実験の観点からやりますと。申請してくださいと。それとは別に、ESCROの方では、こういったヒトと動物という、ヒトの寄与度に関してのすみ分けについて、ここは紹介している規定かと思います。

【髙山主査代理】 分かりました。じゃあ、全然、曖昧模糊とした不明な内容のものが言われているわけではないということですね。

【神里委員】 はい。

【髙山主査代理】 あと、調査結果とかから見ると、動物の種に対して人間が手を加えるということ自体に対する、宗教的な嫌悪感を持っていらっしゃる方もかなりいらっしゃるのではないかなと推測しますが、それは日本の文化的伝統に必ずしもぴったり合っているわけじゃない内容もあるように思うので、少なくとも現在の日本法の観点の中にそれは入ってないかなあというふうに思ったのですけれども、それはそういう理解でよろしいのですか。

【神里委員】 ここにおいてのフォーカス・グループ・インタビューの対象として、特に動物の福祉に関係する人など、あえて除外をしています。動物、宗教、医療に接する機会の多い人は除外をして、割と一番多い人、一般的な人というのを対象としています。ですので、ここにおける動物に対するというような感情も、何か宗教的な背景があるとか、そういうことではなくて、一般的なもやもやとした中での感情というのは皆さんお持ちで、そういう中で、そうはいっても、自分が受けている、飲んでいる薬は動物実験を経て出来上がったものだという中で、葛藤をしているという状況が見えました。だから、動物を犠牲にするから「ノー」と言っているのではなくて、葛藤です。その中で私がちょっと考えたのは、いろいろな感情だとか懸念というのがあるわけで、最後に書いたのですけれども、ヒトの細胞や遺伝子を導入する動物実験は日常的にやられているということが、一般市民には余り知られていないですよね。そういうことをご存知ないので、突然、ヒトの臓器を持つ動物となると、皆、びっくりするわけです。なので、研究というのは今どういうことをやっているのかということを知っていただく機会を研究者の方からもたくさん提示するということで、まず、一般市民の誤解によるというところを解きほぐしていく。あと、懸念に対して、今、分化制御の研究が盛んにやられていますけれども、技術で対応できるものというのもあるだろうし。ただ、それ以外のものについては、もしかしたらその中で、日本人としての文化だとか、動物観だとか、人に対する生命観というものが隠れているものもあるかと思いますので、それを精査すると、日本人の生命観・動物観という意味でも大変な知見が得られるのではないかと思っています。この辺がぐちゃぐちゃになっているとよくないので、整理は必要かなと思っています。

【髙山主査代理】 どうもありがとうございます。

【高坂主査】 ほかにいかがでしょうか。ある意味、非常に議論が難しい対象だとは思うのですが、御感想でもいいですから、今の話を伺って、何でも結構ですから、ないでしょうか。
どうぞ。

【知野委員】 どうもありがとうございました。1点質問なのですけれども、今のところでちらっと御説明がありましたが、一般の人々が不安を抱くというので34ページにいろいろ書いていらっしゃいますけれども、技術で対応できるものとは、今、分化制御の話をされましたけれども、これは具体的に、要するに、まだそんなことはできません、相当先の話ですと、そういう類いの話なのか、何かもっと対応できる方法があるのか、その辺、教えていただけますでしょうか。

【神里委員】 済みません、私は生物科学が専門ではないのでそこはお返事できないのですけれども、その点について、科学者の方から、こういう懸念については、今、ここまではできているのですよとか、あとは、分化制御はできていなくても、ほかの方法として、例えば生殖ができないような形に生まれた胎仔について不妊手術をするだとか、分からないのですけれども、いろんな対応があるのであれば、それを出していただければ、解消に役立てるのではないかと。だから、その辺は、一般市民の方と科学者の方とのインタラクティブなコミュニケーションというのが、この分野は特に必要じゃないかと思っています。

【知野委員】 そうですね、確かに。一般市民からすると、今はだめであっても、いずれこうなるのではないかと、そういう疑問が、仮に科学者の方に説明されても同じことが湧くのではないかと思うので、そこが一番難しいところだと思います。

【高坂主査】 ほかにいかがでしょうか。

例えば、アメリカの例で、明らかに神経細胞、キーワード的に言うと、神経細胞、生殖細胞、これはだめですよと。もう一つ、霊長類という言葉が入っているのですね。州によって多分違うのでしょうけど、霊長類は絶対だめだけど、マウスはオーケーというようにとれるところが多々ありますよね。黄信号になっていたり。そこら辺の、マウスという動物と霊長類の動物というのは、アメリカの方ってどういうふうに区別して考えていらっしゃるのですか。

【神里委員】 済みません、そこは明確なお答えできませんけれども、霊長類というものについては日本人以上に特別視をしていて、霊長類を使った動物実験に対する規制だとか反対運動というのもすごく強いという背景がありますので、一段高い規制をしていくというのが、この分野だけじゃなくて、一つの動物実験の規制の在り方になっているのではないかと思います。

【高坂主査】 ということは、いわゆる一般的な動物愛護といったところよりも一つ上の考え方をされているということですね。

【神里委員】 そうですね。ペットという意味での犬だとか猫というのはここには出てこないわけで、霊長類というのは、進化の過程での人間との近さという観点から、人間に割と近い方向で保護したいという、そういう方向だと思います。

【高坂主査】 それからもう1点、私、誤解したのかもしれないのですけれども、動物性集合胚だけではなくて、例えば胎仔の脳内にあるES細胞等を移植するというような実験、これも一種のキメラになっているわけで、それもやはり黄信号的になっていますけれども、一方、日本では余りこれは規制の対象になっていないのですね。アメリカでは割とブロードにキメラということを捉えて規制をかけているという、そういったものは、日本との違いというのは何かあるのでしょうか。

【神里委員】 そうだと思います。特定胚指針はどうしてもすごく狭い領域をやっているので、胎仔の方に多能性幹細胞を入れるということは、一般的な規制、すなわち動物実験、そしてヒトのiPSを入れるのならiPSという観点からの規制になるのですが、動物性集合胚についてはそこが急激に厳しくなるわけです。できるものの結果が同じであるならば、恐らく同じような方向性で議論をしなければならないのですけれども。という意味で、アメリカだとか諸外国はみんな同じ土俵の中で議論をしているということになります。

【高坂主査】 それから、もう1点。済みません、何点もお聞きして。NIHが相当厳しいガイドラインを出していますね。一方においては、州別にかなり違ってきていて、特にカリフォルニア州なんていうのは中内先生に対してまだ援助を続けているというような状況があって、アメリカの州によって考え方が違っているという、そこら辺は、アメリカの中ではどういう議論、全く議論になってないのか、あるいは、ちょっと議論があるのか、アメリカで統一すべきではないかというような、そういった議論というのはないのですか。

【神里委員】 済みません、カリフォルニアのCIRMのものもスライドを用意してきたのですが、今すぐ出ないのですけれども、規制をしています。カリフォルニアでは、ES細胞についての規制緩和という意味で他の州と違うわけですけれども、動物性集合胚に関しては、ナショナル・アカデミーズの規制とそんなに変わらないということになります。それはカリフォルニア州の規則の中でまず定められていて、それがCIRMの方におりてスタンダードガイドラインができているのですけれども、それもカリフォルニアの規則と同じ立て付けになってできているということになります。だから、何も規制がないということではなくて、中内先生の研究に関しても、スタンフォード大学のESCROの中でちゃんと審査をされ、動物実験委員会にも行って、ヒトを対象とする委員会でもというような、きちんとアプルーバルを取って研究をしているので、規制が全然厳しくないということではないです。

【高坂主査】 ただ、NIHはより厳しいということですよね。

【神里委員】 NIHはむしろ、助成をしないと言っていることについての赤信号しか出していないので、それについて、それでいいのだろうかと。赤信号以外のことについてはやらなくていいのだろうかということが、恐らく今回検討をしていることかと思います。

【高坂主査】 なるほど。分かりました。
どうぞ。

【永水委員】 大変勉強になりました。イギリスのことについて伺いたいのですけれども、スライドの何ページかな? イギリスで言うと3枚目なのですが、動物の外観や振る舞いを大幅に改変することが予想される実験については規制の対象にかかるということですけれども、こちらは、我が国で言うように、人の尊厳というものが理由なのでしょうか。というのは、外観は多分、皮膚とか、そういうことではないかと思うのですが、振る舞いを改変しても、人と動物との境界がそんなに遺伝的に曖昧にならなくても振る舞いがヒト的になる場合もあるのではないかと思うのですが、このあたりは、どうしてイギリスではこういうふうに振る舞いというのに着目しているのかというのを教えていただければと思います。

【神里委員】 これは2010年に実施されたイギリスでのパブリックコメントを受けて出てきたものが反映されているということになりますので、そこについての深い理由というのはよく分からないのですけれども、ただ、神経細胞を霊長類に移植するというものですので、その中で、振る舞いがあったりとかというものについてはだめですということを言っています。振る舞いというのは、外見プラス言語、言葉というのもここに入るとされていまして、やはり、人間に近くなるというものについて、すごく怖いという意識が高いのではないかというふうに思います。

【高坂主査】 それでよろしいですか。
ほかに。どうぞ。

【花園委員】 大変勉強になりました。ありがとうございました。
一つ質問ですけれども、アメリカ、イギリス、ISSCR以外に、例えば中国における規制の現状等は御存じでしょうか。

【神里委員】 済みません。中国に関しては、こちらの議論の中で中国の研究者が、中国での規制を今後すると、その中で議論は参考になるということをおっしゃっていたのですけれども、それ以上に中国での状況というのは、私は存じ上げていませんので、必要であれば、それについても調べておきます。

【花園委員】 例えばゲノム編集技術なんかも、結局、中国が先んじるという場面がございましたので、この集合胚に関しても、中国に関してもいろいろ情報を集めていく必要があるかなと思いました。

【神里委員】 はい。

【高坂主査】 ほかに。どうぞ、先生。

【奈良委員】 大変参考になる発表、ありがとうございました。今のイギリスのことに、今まで出されてきた御意見とちょっと重なるところがあるのですが、イギリスの部分のスライドの2枚目、Home Office. Guidance on the use of human material in animalsという、イギリスとタイトルが付いた後の、そのすぐ次のスライドになりますが、こちらの方で2011年に報告書の勧告が承認されたという御説明があったのですが、この報告書の内容についてちょっと教えていただければと考えます。特にどの部分かと申しますと、先生の今の御説明によって規制の内容そのものはよく分かったのですが、規制の根拠となる考え方、そういった点がもしかしたらこの報告書の中に一部見えているのではないかというふうに推測することができるわけです。一つ、素人ながら考え付くのは、要するに、ヒトと動物との違い、境界線の問題だと思うのですね。ヒトが持っていて、他の動物にはない、そういう特徴のようなものというものを重視して、逆に霊長類の場合にはそうした特徴を持っていること、あるいは持つことが可能であるというようなところで特別な配慮が必要になるという考え方なのかなと推測するのですが、その場合のヒトだけが持つ固有な特徴や性質というものを、脳とか、あるいは中枢神経系の活動とか、そういったところに求めるのではないかというふうに思うのですね。だから、脳とか神経系というものについての研究、これをとりわけ規制するというような、そういう考え方になるのかなというふうに推測するのですが、それについてはこういう考え方でよろしいのかという点が第1点と、あともう一つ、この報告書に限定されなくてもあれなのですが、ヒトという種が持つ遺伝的同一性、こういったようなものについて言及しているような、そういう考え方というのも欧米にはあるのでしょうか。つまり、例えば、こうしたある種の研究が、ヒトという種のレベルで持っている遺伝的な同一性というものを、こういう言い方が適切かどうか分かりませんが、侵害したりするような、そういうような可能性があるので、これはやはり禁止すべきだというような、そういう考え方みたいなものもあるのかということ。ちょっと長くなりましたけど、2点について、もし情報をお持ちでしたら、お聞かせください。

【神里委員】 ありがとうございます。この報告書の内容については、今はもう記憶が乏しくなってしまっているので、もしよろしければ、また思い出してまとめた上で御提示させていただければと思います。ドイツに関しましても、報告書レベルなのですけれども、やはり動物にヒトの物質を入れるということについての議論がなされまして、報告書が出ています。そちらに関してはかなり哲学的・倫理的な方向からのアプローチで報告書を書いていますので、そちらの方も併せてまとめて、また、イギリスにおける議論というのも、先生おっしゃったように、例えばフランスだと人間の種というものの統合性・同一性というものをすごく重要視しているということで、種というまとまりについての意識というのは、欧米諸国にはあるかと思います。そしてまた、脳についてはヒトと動物を分ける一番大きい重要な分岐点ということで重要視しているというところは確実だと思いますので、その辺についての議論がどのようなものだったかということについては再度読み直してみたいと思いますので、済みませんけれども、次回以降にさせてください。

【奈良委員】 ありがとうございました。

【高坂主査】 ありがとうございました。

今、奈良先生の御質問の中で、最後の遺伝的な点というのは、恐らく今回のあれには該当しないのだろうと思うのですね。というのは、ヒト型マウスにしても、今、ヒトの遺伝子を動物に入れるとか、さんざんやっているわけですね。だから、それではなくて、やはり集合胚の中で問題になってくるのはちょっと別のものかなという気はしています。

今、先生がおっしゃったように、人のアイデンティティー、人間とは何かですね。こういった点であるとか、要するに人と動物との境界が曖昧になるとか、このパブリックコメントでも出ています。あるいは、人の尊厳を損なうのではないか、人の尊厳とは何かとか、そういったいろんな点が出てきますので、そういった点も踏まえて、第2回目以降、議論を深めていきたいと。先ほど日本の宗教的な考え方とかっていうようなこともあったので、次回は多分、そういった方もお呼びして、お話を伺えるのではないかなという気がしております。

なので、今日はこのくらいにさせていただきまして、また次回以降、議論をしていきたいと思います。最終的には、こういった動物性集合胚の研究を拡大していいのかどうか、その場合にはどういう規制を設けているべきか、あるいは、従来、我々が持っているガイドラインをどう見直していけばいいのかといったことも含めて、こういった研究はだめだと、そういう結論もあり得ます。そういったことを少し議論させていただきたいというふうに考えています。よろしくお願いいたします。

それでは、前半の議題(1)が終わりまして、2番目のヒトES細胞に関する指針の見直しに入っていきますが、済みません、ここで3分ぐらい、休憩をしていいですか。

【杉江安全対策官】 結構でございます。

(以下略)

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