iPS細胞と動物実験の代替

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2012年の京都大学・山中教授のノーベル賞受賞以来、iPS細胞技術に期待する世論が盛り上がっています。

それによって、動物の利用が当然であるかのような風潮に拍車がかかっていると感じますが、ではiPS細胞技術は、動物実験を減らすためには活用できないのでしょうか?

iPS細胞技術に期待されているもの

iPS細胞技術によって応用が期待されている分野には以下のようなものがあります。

(1)再生医療……iPS細胞を直接患者に移植することで治療に応用する
(2)創薬開発への応用……患者由来のiPS細胞によって病気のなりたちを研究し、創薬にいかす
(3)試験系への応用……iPS細胞を毒性試験や薬効試験に利用する

世間で話題になっているのは、主に(1)についてだと思いますが、(1)は現在、安全性と効果を研究するために膨大な動物実験を生み出しています。画期的な治療法の発見につながれば、間接的・結果的に動物実験を減らすことはあるかもしれませんが、現時点では、ヒトに安全に応用できる技術かどうか、はっきりしない段階です。

動物実験の削減に関係してきそうなのは、(2)と(3)です。

(2)は、従来動物で研究されてきた疾病についても、直接人間の組織で発症の仕組みを研究できる可能性が出てきたことを意味します。

また(3)は、受精卵を必要とするES細胞とは違い、倫理的問題なく大量にヒトの幹細胞を得られるようになった点で、応用が期待されている分野です。幹細胞は、体の中のさまざまな部位の細胞に変わる能力を持つ細胞なので、そこからヒトの組織や器官をつくって試験系に応用できると考えられています。

話題:2012年~2013年動向

再生医療の話題に押されがちではありますが、関連するシンポジウム等が続いているので、その内容をご紹介します。創薬や試験系への応用も、まだまだ端緒についたばかりの印象ですが、iPS細胞技術が動物実験を減らすことに関連する技術であることがわかります。

動物実験しない治験~iPS創薬で慶応大学が国内初

2018年4月、iPS細胞を使った創薬で、慶応義塾大学が、動物実験を経ずに人間での治験を行うと報道されました。国内初事例だそうです。

iPS細胞創薬とは、患者の細胞からiPS細胞を作り、病態を示す細胞に育てて、これに様々な化学物質を加えることで、効果のありそうな候補物質を薬として開発する創薬です。慶應義塾大学は、進行性の難聴を引き起こす遺伝性の難病「ペンドレッド症候群」の病態を示す内耳細胞を作り、既存の免疫抑制剤「ラパマイシン」の効果を確認。通常ならば動物実験で有効性を調べてから人での治験に進むみますが、行わずに治験に進むと公表しました。

この難病は実験用の動物を作ることが難しいことが理由としてあげられています。同じ病気を持つ動物がつくれなければ、確かめることはできないからです。しかし、そもそも動物で似たような病態を無理やり作っても、それが人間の病気と同じ病気と言えるかどうかという問題が、動物モデルにはあります。また、動物と人間の間には種差があり、動物で効かなかったために候補から落とされてしまう薬に、実は人間で効く薬が含まれているかもしれません。ヒトの生物学を基礎とする創薬が求められています。

日本経済新聞「新薬 動物実験しない治験とは?」よりQ&A抜粋

2018年4月30日

今回はなぜ動物実験をしないのか。
動物実験で効果を確かめるには、その病気のマウスなどの動物がいなければできない。だが今回の病気を再現した動物は開発されていない。

研究チームはその分、ほかの実験で確認を進めた。通常のマウスに投与して患部の内耳に物質が届くことを確認。細胞実験から目的の細胞に届けば効果が出ると分かった。マウスと人の内耳周辺の構造を比べ、人でも作用すると推測したという。既存薬なので安全性は確保できている。

動物実験をしない利点は。
病気の動物がつくれない難病の新薬開発が進む。開発にかかる期間が短くなり、コストも下がる。希少疾患は様々あるが患者が少ないため、企業が採算面で開発に及び腰な病気も多い。既存薬から候補を探す手法ならば開発しやすい。
他の病気でも動物実験を省略できるか。
まず、安全性が確認済みの既存薬を使うことが大事な条件だ。確認されていなければ動物実験は欠かせない。

 

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