トップページ > 科学の犠牲になる動物たち 動物実験・実験動物 > 丸善出版『生命と科学技術の倫理学』に対する訂正申し入れ書

丸善出版『生命と科学技術の倫理学』に対する訂正申し入れ書

2016年4月30日

丸善出版株式会社
代表取締役社長  池田 和博 殿

PEACE~命の搾取ではなく尊厳を
東さちこ

『生命と科学技術の倫理学―デジタル時代の身体・
脳・心・社会』の誤りに対し訂正を求めます

 動物保護団体のPEACEと申します。私どもは、実験動物福祉等に強い関心を寄せつつ「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動物愛護法)の改正運動に関わってきたメンバーを中心に活動しておりますが、このたび、貴社発行の書籍『生命と科学技術の倫理学―デジタル時代の身体・脳・心・社会』の中に同法に関する明らかに誤った記述を発見し、その内容から看過できないものがあると考えております。

 研究者によって以下のような事実誤認がなされている事実、またそのことが書籍として印刷・販売され社会に拡散されていることに対し強く抗議するとともに、速やかな訂正を求めます。

【以下、1~4について、該当箇所は全て第11章「研究等倫理審査委員会の位置と使命」(倉持武)の「5.4.4 医学研究に関わるその他の文部科学省関連指針」の中の「(4)動物実験関連」(228-229ページ)における記述です】

  1. 229ページに「『動物の愛護及び管理に関する法律』(1973年、最終改正2014年5月30日、略称「動愛法」、この法律によって動物実験委員会設置が義務付けられた。」(終わり括弧がないのは原文ママ)との記載がありますが、そのような事実はありません。法律の条文はもちろん、政省令等においても動物実験委員会設置を義務付けるような記述はありません。

    未だ我が国において実現しておらず、市民が制定を求めている条項について、既に立法済みであるかのように偽って書くことはあってはならないことです。

    恐らく事実誤認の原因となっているのは、2005年の同法改正後に、文部科学省、厚生労働省、農林水産省が、動物実験に関する基本指針を制定し、そこに動物実験委員会の設置が盛り込まれているためと思われますが、これらの指針はいわゆるガイドラインにすぎず、遵守義務はありません。事実、これまで環境省や日本製薬工業協会のアンケート調査において、動物実験委員会を持たない機関があることは数字で示されています。法令違反であれば、誰が自己申告するでしょうか。

    これらの基本指針は、2005年の動物愛護法改正後に、急に文部科学省が動物実験基本指針の検討をしはじめ、他の2省もそれに続いたものですが、動物愛護法には動物実験の3Rについて理念が盛り込まれただけであり、動物実験に関する基本指針の策定を求めるような文言はどこにもありません。

    さらに、3省以外の省庁は指針を定めていません。また農林水産省の指針は、民間の法人(私企業等)にはかかっていません。動物実験に関係する事業や研究助成金を所管している省庁には経済産業省、環境省、防衛省、消費者庁などがありますが、動物実験委員会の設置をもとめるようなガイドラインは持っていません。動物愛護法がそのような指針を作るよう求めていないので、なくても当然です。

  2. 同じく229ページ、上記の続きの部分に、②動物の愛護及び管理に関する法律施行令と③同施行規則が挙げられていますが、この2つには、動物実験基本指針の背景に該当するような動物実験に関連する条文はありません。この文脈では削除が妥当と考えます。
     
  3. 229ページに「CIOMSの倫理指針」が挙げられていますが、本書がこの部分までで述べている「CIOMSの倫理指針」とは、人を対象とする生物医学研究に関する指針のことであり、動物実験を実施する際の原則を定めた「医学生物学領域の動物実験に関する国際原則」とは異なります。この2つは全く別の文書です。

    「医学生物学領域の動物実験に関する国際原則」は、かつては通称「CIOMSの原則」でしたが、現在はICLAS(国際実験動物学会議)も改訂作業に加わったため、「CIOMS-ICLAS の国際原則」等の呼称で呼ばれています。動物実験を実施する際の国際原則はあくまで「CIOMS-ICLAS の国際原則」(2005年の動愛法改正時には「CIOMSの原則」)であり、「CIOMSの倫理指針」をここで挙げるのは誤りです。

  4. 本書の論述では、「ヘルシンキ宣言」、「CIOMSの倫理指針」(正しくは「CIOMSの原則」)、「ボローニャ宣言」を受けて日本の国内法が整備されたかのような表現がなされていますが、残念ながらそのような事実はありません。

    2005年の動物愛護法改正へ向けて環境省が設置していた「動物の愛護管理のあり方検討会」の資料をご確認いただければと思いますが(該当は第6回 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/arikata/h16_06.html)、主に参考にされたのは諸外国で先行している法規制です。それら諸外国で採用されている3Rの原則の理念が最終的に法案に反映されただけであり、国際的な宣言や指針が具体的に根拠として示されたことはありません。

    一部、最終的に議員立法になったために法案の成立過程が密室となり、うかがい知ることができない部分はありますが、当時のロビー活動において、動物実験関連団体や動物実験関連省庁等がこれら国際的な宣言・原則等に基づいて日本も対応すべきとの意見を述べたのを耳にしたことはありません。当時、これらの団体や省庁等の関係者は全て、日本に実験施設の登録制をつくらせないことに専念したものであり、国際的な動向に従う機運はありませんでした。当時出された日本学術会議の提言(報告)、衆議院・参議院の環境調査室作成の資料、改正法に関する解説本、法改正後の関係省庁での基準改正・指針策定のための審議会資料等の記録においても、これらの国際宣言・原則等に関する言及は出てきません。

    「CIOMS-ICLAS の国際原則」に至っては、改定作業中に動物愛護法の3回目の改正が実施されましたが、日本の動物実験関係者は国際原則の文言を緩和させる方向に動きこそすれ、原則が国レベルにおいても求めているような動物実験の監督制度については導入に断固として反対しました。結果として、日本には諸外国が実現しているような制度は未だ構築されておりません。

    日本の動物愛護法は理念的な記述にとどまり、実効性の上でこれら国際宣言・原則等を担保しているとは言い難い状況です。内容も精査していただければと存じます。

 
 主に抗議したい点は以上ですが、「結章 三つの基本課題に対する理論モデルの提唱」(森下直貴)においても、偏見に基づく事実の誤認と断じてよい表現があります。252ページにある「動物の権利を唱えて活動する人々ですらクジラ(イルカ)>牛という動物間の(知能を規準とする)序列を疑うことはほとんどない」としている部分及びそれに連なる部分です。動物の権利とは異なる概念に基づいて鯨類保護の活動している人々は存在するかもしれませんが、それを動物の権利派と誤認するというのは、あまりに不勉強で、実態を知らずに書いているとしか言いようがありません。産業側が意図的に流しているプロパガンダをうのみにするのは、専門家としていかがなものでしょうか。

 動物には種ごとに異なったニーズを持っており、イルカはイルカの本性に従って、牛は牛の本性に従って、それぞれの動物種らしく生きる権利を持ちます。そのことについて「クジラ(イルカ)>牛」などと序列をもって考えている活動家はいないでしょう。実際に、アニマルライツにとって、牛を搾取しないこと(肉を食べないこと、乳製品を摂らないこと、皮を利用しないこと等)は基本中の基本です。

 法的保護に限定した場合、確かに種ごとの能力に応じた法的権利保護(概念ではなく法律上の動物の権利)を求める活動はありますが、それを単純に「賢いからと主張している」と誤認しているのだとしたら問題です。知能の高さによって、監禁等された場合に感じる苦痛度が高くなることが問題視されているのであって、単純に「賢いから保護を求めている」と理解しているのであれば、そもそもこの問題に対する理解力がないか、もしくは関係書籍などはお読みになったことがないということだと思います。

 以上、とりいそぎ気がついた部分のみではありますが、事が重大であったため、本書面を送付させていただきました。お忙しいところ誠に恐縮ですが、5月20日(金)までに書面にてご回答をいただけないでしょうか。よろしくお願い申し上げます。

 


補足:本文書送付後に、環境省告示である「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」にも「委員会」という言葉が入っているが本書が述べているものに該当しないということについても説明すべきであったかと気がつきました。この飼養保管基準は、「実験の内容には踏み込まない、実験動物の飼養保管の部分についてだけ関係する基準である」というのが国の見解ですから、動物実験の内容について踏み込むような審査を行う動物実験委員会の設置を求めているわけではありません。この告示に書かれている「指針の策定」は、あくまで機関での動物飼養管理についての指針のことを指し、他の省庁につくれと言っているわけではありません。

このエントリーをはてなブックマークに追加