冷凍庫で蘇生したラット 富山大学への質問書および回答書

富山大学において遺伝子組換え動物の不適切な扱いが発覚した際、ラットが蘇生した状態で死体一時保管冷凍庫内で発見されたと公表されたため、詳細に関し富山大学に質問書を送付しました。また、併せて再発防止などを求める要望書としました。

回答については以下の通りです。経緯と追加で確認したことなどについては、ブログもご覧ください。


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2014年11月3日

国立大学法人富山大学
学長 遠藤俊郎 様

実験動物の不適切な取り扱いに関する要望ならびに質問書

 私たちは、動物たちが現代社会の中で置かれている状況に心を痛め、改善を求めて活動している市民団体です。先日、文部科学省の報道発表により、貴大学にて実験動物の不適切な取り扱いがあったことを知りました。また、貴大学より送っていただいた報告書にも、安楽殺措置をとったはずの遺伝子組換えラット3匹が蘇生した状態で死体一時保管冷凍庫内にて発見され、施設管理者によりその場で安楽殺措置が行われたことが記されていました。

 報告書にはそれ以上の情報がありませんが、動物にとって苦痛度が高い状況が推察され、重大な動物福祉上の問題が起きたことがうかがえます。しかし、報告書では遺伝子組換え動物の取扱いの観点からのみしか対応等の報告がなされておらず、実験動物福祉の問題としてどのように対処されたのか等が不明です。よって私たちは、何が起き、どのように対処されたのか、詳細な事実関係を確認したいと考え、当質問書を送付させていただきました。

 また、事実関係はどうであれ、このような虐待的な動物の取り扱いが生じたことに対して動物保護団体として抗議いたします。当該研究者に対しては今後動物実験を行わせない等の処分の検討も含めて厳重に対処し、再発防止へ向けて対策をとること、また、そもそも実験動物の使用そのものを代替・削減していくことを要望いたします。

 大変恐縮ですが、以下の質問に関しては、11月17日までに文書にてご回答のほど、よろしくお願い申し上げます。


 以下、質問は、大学からの回答(平成26年11月17日付け)を交えて公開いたします。

回答書

【質問事項】

1. 冷凍庫内で蘇生しているところが発見されたラット3匹は、どのような目的の実験に用いられ、不活化措置(安楽殺)前には、どのような実験処置が施されていたのでしょうか。外科的処置が行なわれていたかどうかも教えてください。

回答:
 個別の研究計画の内容については、手紙やメールでの問い合わせについては公表を行っておりません。ただし、当該ラットの発見当時の外部所見として外科的処置が施されていないこと、また実験責任者に確認し外科的処置が行われていないことを申し添えます。

 
2. 当該ラット3匹に当初施された不活化措置(安楽殺)とは、どのような方法だったのでしょうか。

回答:
 今回の事例では、複数匹のラットを定法によりCO₂ガスで同時に安楽死させたものですが、そのうち6匹(遺伝子組換えラット3匹、遺伝子組換えでないラット3匹)が蘇生して発見されております。

 
3. 当該ラット3匹が入れられていた冷凍庫の温度は何度でしょうか。また、蘇生していたというのは、どのような状態だったために判明したのでしょうか。体が動いていた、息をしていたなど、具体的な状況を教えてください。

回答:

 当該冷凍庫の温度は、-30℃に設定されておりました。また、上記の蘇生した6匹においては、呼吸を含む体動が認められました。

 
4.蘇生しているところが発見された後に施された安楽殺は、どのような方法によるものでしょうか。

回答:
 本学の動物実験取扱規則に従い、熟練した技術者が直ちに頸椎脱臼法にて行っております。

 
5.これらのラットを実験に使っていた研究者が誰かということは判明していますか。見つかっているのが1匹ではなく複数匹であることからも、単発的なミスではなく、そもそも習慣的に不適切な方法で行っていた等の理由が考えられるように思いますが、不適切な安楽殺措置に関する調査も行われたのでしょうか。なぜこのようなことが起きたのか、判明していることを教えてください。

回答:
1)死体の排出記録、飼養保管記録、および実験記録から、研究者および安楽死処置の実施者は特定されております。

2)今回の事例では、複数匹のラットをCO₂ガスにより同時に安楽死させ、そのうち6匹が蘇生して発見されましたが、発見されたのは今回のみで、蘇生した件に関しては単発的ミスであったと考えられます。
 今回の事例が起こった後、直ちに、遺伝子組み換え動物実験計画の管理者に、安楽死に関する調査を実施し、蘇生した件は、今回のみであったことを確認しています。

3)安楽死させたラットが蘇生した原因は、実施者の動物の死亡の確認が不十分であったためと考えられます。
 CO₂ガスによる安楽死の手順に関しては、実施場所に詳細方法を日本語表示していましたが、実施者は日本語が十分に読めない者であり、動物実験責任者が十分な説明を行っていなかったため、このような確認不足が生じたと考えられます。この点については、下記の再発防止策を講じております(詳細は問10の回答をご覧ください)。

①安楽死方法および安楽死確認方法のマニュアルの改訂と再教育
②共同利用施設および各飼養保管施設・実験室でのマニュアルの日本語・英語・中国語併記の実施
③後述するマニュアル違反者への実験停止措置の厳密な運用

 
6.カルタヘナ法の対象となる動物実験については、動物福祉上の問題が付随的に表面化する場合がありますが、それ以外の動物実験については報告や査察の制度もなく、不適切な扱いが表に出てこない実態があると感じています。安楽殺が適正に行われているかどうかは遺伝子組換え動物に限らぬ問題であり、全ての実験動物に関して、同じような扱いがこれまでされていなかったかどうか調査が必要だと考えます。今回、そのような調査は行われているでしょうか。行われていましたら、結果について教えてください。

回答:
 前述の通り、遺伝子組換え実験に関しては過去に遡って調査いたしましたが、安楽殺後の蘇生は上記のラット6匹のみでした。また、遺伝子組換えでない実験動物に関しては動物実験委員会が、毎年各実験室および飼養保管施設の管理者に対する調査(動物実験に関する自己点検・評価)を行っており、当該事例のような結果はこれまで報告されていません。

 
7.蘇生していたラットを実験に用いていた研究者は、現在も貴大学で動物実験を続けていますか。

回答:
 本件を受け、動物実験委員会の議に基づく委員長の勧告に従って、発端の実験責任者および実施者は、実験を停止しました。また、実験責任者に対する厳重注意と実施者に対する動物の死亡確認の教育を徹底させております。

 
8.貴大学は、実験動物の取り扱いについて動物福祉上の問題があった場合、どのような対処を行うことを定めていますか。問題を起こした関係者に動物実験を停止させるなどの処分を行えるような内部規定は存在しますか。

回答:
 今回の事例が起きた生命科学先端研究センター動物実験施設においては、利用規則があります。同規則により、動物実験取り扱い規則や遺伝子組換え生物使用実験安全管理規則等の利用規則に違反した場合、センター長がセンター利用を停止できることになっております。
 また、実験動物の取り扱いについて動物福祉上の問題があった場合には、前述(問7)のように動物実験委員会の勧告として実験停止を実施できるような体制となっております。

 
9.今回の事例について、動物福祉上の理由での処分は何らか行われたのでしょうか。

回答:
 前述(問7)のように、臨時の動物実験委員会が開催され、ラット蘇生が発見された実験の実験責任者および実施者については、動物実験委員会が実験停止を勧告し、実施しております。また、動物実験委員長より、実験責任者に厳重注意を行っております。

 
10.動物にできる限り苦痛を与えないという観点から、再発防止のためにどのような対策をとられていますか。動物実験委員会は、この問題にどのように関与したでしょうか。

回答:
1)動物実験委員会としては、今回の事例の当初から、遺伝子組換え委員会と共同で対処しております。
2)再発防止について、動物実験委員会として下記の事項を実施あるいは実施予定としています。

a)生命科学先端研究センター動物実験施設の安楽死実施場所のP1A管理区域としての整備および機器の更新を実施しました。

b)同施設の安楽死措置室において、死亡確認方法が分かるように、安楽死措置時の手順の表示を、改定しております。また現在の日本語表記の他に、英語・中国語での併記を進めています。

c)動物実験施設利用案内(飼育管理マニュアルを含む)および動物飼育室・実験室飼育管理マニュアルの改訂を行い、CO₂ガス単独の安楽死措置を禁止し、すべての安楽死処置後に死亡の確認(目視および触診)を義務付けるようにしております。

d)動物実験委員会が安楽死措置の場所および方法をより明確にチェックできるように動物実験計画の申請書の様式を改定しております(動物実験計画書の申請書はweb上から審査するため、現在webシステムを改定中です)。

e)今後このような事例が再び起こらないように、安楽死措置時の動物の死亡確認を含めて実験者に動物実験取り扱い規則を十分理解させるとともに、c)のマニュアルを厳守させるため、この件に関して動物実験および遺伝子組換え実験に関する臨時の教育訓練を本年度中に準備中であり(通常の毎年の教育訓練は実施済み)、また実験責任者については毎年動物実験および遺伝子組換えに関する教育訓練に参加することを新たに義務づけております。

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