犬のイメージ写真(本文の犬とは無関係です)

書籍紹介『純血種という病 商品化される犬とペット産業の暗い歴史』

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A Matter of Breeding 純血種という病

純血種という病 商品化される犬とペット産業の暗い歴史
マイケル・ブランドー 著 マーク・ベコフ 序文
夏目大 訳 白揚社 刊
ISBNコード:978-4-8269-9061-5

「雑種の犬のほうが病気になりにくいし、健康なのにね」とは、よく犬の保護活動界隈で言われる言葉である。ブルドッグのような短頭種の呼吸困難などの例を出すまでもなく、「純血種は病気になりやすい」という印象は多くの人が持つところだろう。

考えてみれば当然だが、品種としての性質を固定するために血が濃い関係で繁殖が繰り返される。それが純血種の犬の健康を損ねる結果を招く。

そして時代は、人に役に立つ能力を持たせる改変から、見た目重視の改変へ。人が「美しい」と思う外見を求めて、犬の健康のことなど度外視で品種づくりが進められてきたのだ。牧羊犬は羊を追いかけなくてよくなり、遺伝病に苦しむことになった。

純血種というと、どこか連綿と今に続く伝統の存在を感じてしまうが、私たちがよく知っている犬の品種の多くは、比較的最近できたものであり、100年前にはなかったものだと著者は言う。

そして品種作出に熱心なイギリスでも、昔、高貴な人々が純血種を飼っていたころには、その犬のスタンダードは必要なかったのだという。この貴族の家系の人々が飼う犬が、この品種。既に絶滅した品種もあるが、見た目がその品種らしいかではなく、誰が飼っているかが犬の「高貴さ」の保証だったというわけだ。

しかし、一般人がこれらの犬を飼うようになって、その血統らしさ、高貴らしさを保証する基準が必要になった。それがスタンダードだ。

この本は、品種改良の歴史を負の側面から紐解き、その問題点を鋭く指摘する本だ。特定の犬種好きには、辛いところもあるかもしれない。それでも著者は、犬の健康を損なうだけでなく、心まで壊す品種改良を、もう止めようではないかと主張する。

単なる雑種礼賛ではなく、これはブリーディングに対する告発の書だ。

遺伝病を排除しようという話でもない。海外で出始めている、特定の品種について繁殖を止めるべきだという話でもない。動物福祉というものがなかなか優先されない日本で、もっと根本的に人と犬の関係を問おうとする本書のような本が翻訳出版されたことに心からエールを送りたい。

参考文献に動物福祉団体の資料も挙げられていたのでリンクする。

RSPCA:Pedigree dog breeding in the UK: a major welfare concern?
HSUS:The Purebred Paradox The Problematic Quest for a “Perfect” Dog

目次

序 マーク・ベコフ
まえがき第1章 イギリスの古き良き伝統イングリッシュ・ブルドッグのボブ/数え切れないほどの処方薬/目まぐるしく変わる流行/イギリス人にとって特別な犬/ブルベイティングという残虐な娯楽/変わりゆくブルドッグ像/戯画化された犬/曲げられた自然/良い血統に生まれたからといって……
第2章 純血種への行き過ぎた信仰

フレンチ・ブルドッグのウィニー/誤った慈悲心/フレンチ・ブルドッグとパリの貴婦人/耳の形をめぐる争い/折れ耳か、コウモリ耳か/誰のための利益か?/プロクルステスの寝台/あらゆる犬は「雑種」である/犬とオオカミ/人間とオオカミ/先祖に近い犬
第3章 犬による社会的地位の証明

名誉の発明/紋章に使われた三つの犬種/愛犬を紋章に/銃器製造業者が開いたドッグショー/酒場で犬を見せ合う/飼い主の社会的身分/「家の犬」/残酷な見世物からドッグショーへ/美しきニワトリたち/美には代償が伴う/ベスト・モンスタードッグ賞
第4章 優生学と犬と人間

雑種犬のサマンサ/外見から行動が予測できるか?/支配階級は純血を好む/人の優生学、犬の優生学/受け継がれていく古い価値観/「純血種」の驚くほど多様な子犬たち/アメリカにおける権威/ジェントルマンの深い考え/「改良」の成果/目を向けるべきもの/見当違いの美徳/働く場所を失ったボーダー・コリー/下がり続ける知性/介助犬にはなぜレトリーバーが多いのか?/ドッグショーの評価とセラピー犬の実力/「純粋」すぎたジャーマン・シェパード/捨てられた犬たちの時代
第5章 見世物にされた犬たち

金色の衣装に閉じ込められて/ラッシーとコリー/リンティンティンとジャーマン・シェパード/「彼らを犬にしてしまってはならない」/神話、伝説、空想/家具および装身具としての犬/耳/尻尾/毛色/ネコ科動物への憧れ/犬にすら見えないように
第6章 ミダス王の手

ボストン・テリアのマージとユーニス/アメリカの紳士/失われたコミュニケーション能力/タキシードを着せられた犬たち/イギリスの模倣/王族と貴族と血統書/権威の象徴を手に入れろ/利用されたアメリカ人/特権階級と触れ合える場所/横行する不正と不品行/抜け目のない人々/犬が主役の盛大なカーニバル
第7章 売買される貴族の地位

豚から真珠を奪うように/二度目の独立宣言/AKCの自社ブランド/民主的なブリーディング/アメリカらしい名前/「アダム」の出自/ブルドッグとの闘争/放浪癖のない犬/売り出されるボストン・テリア/階級模倣への果ない欲望
第8章 猟犬たち

ラブラドール・レトリーバーのテス/都会に暮らす猟犬たち/多様なレトリーバー/セント・ジョンズ・ウォーター・ドッグ/貴族に「救い出された」犬/狩猟という見世物/狭められた能力/狩りとドッグショー/人間の序列を守るために/銃の進歩と犬の変化/ポインターの奇妙な行動/狩猟場外での活躍
第9章 ラブラドール・レトリーバーの帰還

階級と狩猟/雑種犬の復権/ラブラドールの帰還/ラブラドールを求めた名士たち/アメリカでの初仕事/たまに会うだけの家族/閉鎖的なコミュニティ

おわりに――フランケンシュタイン博士の研究室、あるいは城で暮らすための代償

訳者あとがき/註/索引

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