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Natureニュース「マウスの飼育状態で、実験結果が台無しに?」

飼育環境を気にしない研究者が多いので動物実験結果はますます信頼が置けないものとなっている――そんなニュース記事がNatureのサイトに掲載されました。

ずばり「マウスの飼育状態で、実験結果が台無しに?」というタイトルであり、「マウスやラットを使った動物実験で、再現性がない場合、それは飼育環境に原因があることが多い」と書かれています。

マウスで有効に思われた治療法が人にはほとんど効果がないことは知られていますが、この記事がさらに問題にしているのは、あるマウス群で成功した治療法が、別のマウス群でうまくいかないことも多いという点です。

「マウスやラットをつかった研究は、もともと問題だらけ」とすら書かれています。

日本では、動物実験の密室性について指摘をすると、研究者の方々がよく「論文にすべて公開している」などと言いますが、私たちの知りたいことは論文には載っていないのが普通です。この記事でも、マウスは餌や寝床、照明の小さな変化にもとても敏感な動物だが、研究者はそれらの環境条件についてほとんど報告をしていないということについて触れられています。

広いケージでオモチャがたくさんある環境で飼育するとできる腫瘍が小さかったという研究も知られていますし、この記事でケージサイズの指摘がないのが不思議ではありますが、「実験室によってマウスの飼育環境は大きく違っており、それらの環境条件がマウスの生理状態に大きく影響を及ぼすことは研究論文から明らかだ」と書かれています。

ケージどころか、もっと微妙な違いですら、実験に影響を及ぼすということでしょう。

今年の2月9日~11日にかけて英国ホクストンのウェルカムゲノムキャンパスでマウス病態モデルに関する会議(“Mouse Models of Disease: Improving Reproducibility of Pathology Endpoints in Challenge Models”)が開催されましたが、その中でもマウスを使った実験に再現性が出ない理由について生物学的要因の観点で話し合われたとのことです。

「飼育環境が違うマウスで、大きな違いが出ることに驚く人がいます。私にとっては、このことに驚く人が多いこと自体が、驚きなのです。」
(ジョンズホプキンス大学の病理学者であるCory Brayton氏)

この記事では、交絡因子(結果に影響を与えてしまう他の因子のこと)の例として、概日リズム(約24時間周期で変動する生理現象)の例を挙げています。

概日リズムの違いで実験は異なる結果に

カルフォルニア大学の神経学者Christopher Colwell氏は、同僚と、同じ遺伝子改変マウスの系統を使って自閉症の行動研究をしていましたが、異なる結果が出てしまったとのこと。

その原因は、概日リズムの研究をしていた同氏は日中でもマウスを暗闇で飼育してマウスの体内時計を操作し、夜行性動物のマウスが昼間でも敏感になるようにしていたのに対して、同僚はそんなことはしていなかったというところにありました。マウスの概日リズムを乱すような飼育をしてしまうと、行動学の実験に違った結果を与えてしまうわけです。

同氏は、「人間だって真夜中にテストされれば、社会的、認知的なテスト結果は悪くなってしまうだろう」とも言っているとのことですが、同僚と同じ試験をしていて気が付いたからよかったようなものの、間違った条件に研究者自身が気が付かないまま論文となって公表されているものも数多くあるのではないかと思わせるエピソードです。

食べ物で体は変わる

また、日本の学会でも飼料メーカーの方から聞いたことがありますが、マウスに与える栄養分は実験成功のカギであるにもかかわらず、マウスの餌に無関心な研究者は多いという話も出てきます。餌の影響として挙げられているものを箇条書きにすると以下の通りですが、驚きの内容も含まれています。

  • マウスの餌には、女性ホルモンや内分泌かく乱化学物質が含まれているものがあり、いくつかの病気、特にガンに関する研究結果に影響が出る
  • 肥満の研究に使われる高脂肪、高糖分の餌は腐りやすく、そうなると、マウスは食べるのをやめるので、逆に痩せてしまうことがあるが、研究者がそれに気づかない場合がある。
  • 餌によってマウスの腸内微生物も変わるマウスの腸内細菌の種類は、マウスの販売業者によって違う
  • マウスの腸内細菌の構成が違うと、行動学テストにおいて不安レベルが異なってくる。しかし、マウスがもつ微生物を調べようとする行動学研究者は少ない。
  • マウスの腸内微生物は、大気環境や、母マウスがもっていたストレス、免疫機能など、多くの因子に影響を受ける。
  • 腸内微生物が異なれば、同じ遺伝子変異を導入したマウス系統でも、違った特質や表現型になる。(!)

また、マウスの繁殖・供給機関として有名なジャクソンラボラトリーの話が出てきますが、餌の種類や量、飲み水のpH(酸性・アルカリ性の程度)の厳しい管理を行っているにもかかわらず、所在地の異なる同社の3つの施設で、マウスの性質は異なるのだそうです。

顧客の研究機関で動物実験が標準化できるように、ジャクソンラボラトリーから特別な餌や飼育指導書を供給する試みを始めたそうですが、それで本当にクリアできる問題なのかは疑問です。

しかも、現在行っている実験結果に影響が出るとして、改良されたマウスや餌を採用したがらない研究者もいるとのことですから、保守的なのは日本だけではないようです。

研究者は時間がない

科学研究は本質的に競争でもあるので、研究者が動物実験の手法を変更することをためらいがちになることについても書かれています。

つまり、実験中に正しいタイミングで動物を扱い臨床状態やバイオマーカーを検査するであるとか、実験には老いたマウスやオス・メスの両方を使い広い範囲での情報を得るであるとか、環境要因もいろいろと含めて考えるであるとか、いろいろ含めれば含めるほど実験は長く時間がかかり、たくさん論文を書くことなどできなくなるだろう、というわけです。

この問題に対する米国国立衛生研究所(NIH)の対策は、「ある療法が臨床試験へと入る前には動物実験を繰り返すことを求める機関もあるが、NIHは広くは求めない」という形をとってきているとのこと。動物実験を無駄に繰り返すことより人のデータをとることこそ重要だと考え方が変わってきていることを感じます。

一方、NIHは2014年にメスのマウスを含めることを求め、コストを問題にする研究者には補助金を与えることにしたとのことですが、メス以外の交絡因子に関しては、まだこのような例はないそうです。

Natureは動物実験を否定しているわけではありませんから、マウスの系統や育てられた環境条件などの交絡因子を知ることにも意義を認めているようですが、やはりどこまでそのように知見をつきつめていっても、動物実験そのものの欠陥として問題は残るようにしか感じられません。

しかも、「交絡因子は、それほど注目されていないのが現状です」と締めくくられていますから、研究者は今現在も問題に気づかずに論文を公表し続けているということになります。

「マウスで成功したから人間でも治療法につながる可能性がある」などといった甘言を弄する報道には、もっともっと厳しい視線を投げかける必要があるでしょう。

(翻訳協力:M.N.さん)

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