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実験用ニホンザル繁殖施設、予算カットで…まさか全頭殺処分?

投稿日:2018年12月14日 更新日:

昨年7月15日、コラッセふくしまで開催された霊長類学会の自由集会として「ナショナルバイオリソースプロジェクト『ニホンザル』について」というイベントが開催されたので参加しました。

ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は、研究用の動植物等の収集・保存・提供などを事業とするプロジェクトで、ニホンザルは29ある対象種のうちの一つです。

この集会で、ある重大な発表がありました。

実験用ニホンザルの繁殖供給プロジェクトに国の予算がついた背景

NBRPは、平成14年(2002年)に文部科学省が立ち上げましたが、すでに第4期(平成29年度~33年度)が進行中です。現在は、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が予算を出し、実験用ニホンザルの繁殖供給プロジェクトであるNBRニホンザルについては、京都大学霊長類研究所が代表機関となり、自然科学研究機構生理学研究所が分担機関となっています。

このNBRニホンザルは、動物園などから多くのニホンザルを繁殖母群として集め、批判を浴びながら開始されました。京大霊長研は野外の放飼場を拡大、生理研は奄美大島のサル繁殖企業に繁殖を委託し、当時、1600匹を集めて年間300匹の子ザルを実験用として供給すると豪語していました。

NBRPにニホンザルが加わることになった背景には、野生ニホンザルの実験用違法捕獲疑惑が盛んに報じられたことなどもありますが、もう一つ、ニホンザルを守りたい野生動物の研究者と捕獲ニホンザルを実験利用する医学研究者の間に、長年対立があったこともあります。

野生捕獲を防ぐには実験用ニホンザルを繁殖すればよいというところが、対立の落としどころだったのです。

そういう背景があって実験用ニホンザルの繁殖を事業として始めた和秀雄氏の有限会社日本野生動物研究所の経営状態が実は悪く、国の予算を入れるしかないという事情がありました。サルの繁殖は、そもそも採算に合わないものであり、倒産が危ぶまれていたような企業を維持救済するために何億もの税金が投下されたのが、NBRニホンザルの裏の顔です。

この有限会社は、2010年、株式会社に商号変更した直後に特別清算となり、負債9億5000万円の報道とともに倒産しましたが、NBRニホンザルは、同じ場所に新しく作られた株式会社奄美野生動物研究所に委託をあっさり切り替えていました。まるで計画倒産かのようです! このとき、同社の事業はNBRニホンザルの繁殖に絞られたので、アッサムモンキー、ベニガオザルなど霊長類7種95匹が殺処分されました。

しかし、サルの実験利用削減の流れの中で、いよいよ、この奄美野生動物研究所への業務委託も切られることが決定しました。文部科学省の予算の減額が理由とのことですが、お金は終わりです。このサルたちをどうするのか、今NBRニホンザルで検討中であり、結論は出ていないようです。

実は、もう少し検討の経緯が表に出てくるのかと思い、待ってしまいましたが、もしかして何も公表されないまま殺処分もあるのかもしれないと思い、現在再度質問中ではありますが、経緯をアップしました。(追記:回答などについてこちらに補足しました)

奄美野生動物研究所のサルの檻は、4メートル四方程度に数匹という環境ですから、寿命の長いニホンザルを飼い殺しにし続けることになり、適切だとは思っていません。また、飼っていれば、いつか実験に使われてしまうかもしれません。

サルにとって何が最も良い選択なのか、非常に悩ましい問題ではあるのですが、科学の「美名」のもとに恐ろしいほどの数のサルを集めておきながら、実際には需要はなく、要らなくなったらお荷物扱いというのが今のNBRプロジェクトだということは言っておきたいのです。

このような無責任なプロジェクトを立ち上げたことの責任は問われるべきではないでしょうか。

奄美大島のサルたちはどうなるのか

昨年の集会で、現在2つあるニホンザルの繁殖施設を「一元化」する方向で検討しているとの話が出ました。1カ所を廃止するという意味で、つまりは、奄美野生動物研究所への委託を止めるという話でした。

講演では、そこで話が終わってしまって詳細は言わない感じでしたので、質疑応答で「要するに奄美野生動物研究所を切って、そこのサルを殺処分するということなのか?」と聞いたのですが、まだこれから委員会を立ち上げて検討するので、何も決まっていないとの一点張りでした。

ただ、一元化というのは、犬山の霊長研の施設だけ残す方向で進めたいということだというのは間違いありません。サルの頭数でいうと約半分に規模縮小です。

講演では誰も奄美野生動物研究所の名前を出さず、質疑応答でも「1年ごと更新だから奄美野生動物研究所だと決まっているわけではない」などとこの期に及んでまだ言っていましたが、生理研が委託しているのは、ずっとこの企業だけです。(倒産で法人は変わりましたが!)

集会後に文部科学省の担当者にも確認しましたが、まだこれからNBRニホンザルで委員会を立ち上げて検討すると聞いているとしか言えない感じではあるものの、一元化については認めていました。つい先日も聞いてみましたが、まだ結論は出ていない、報告を待っていると言っていました。

集会で出た話は、かなり厳しい内容

自由集会は、資料の配布すらありませんでしたが、概略は以下の通りです。

●集会の趣旨の説明としては、「ニホンザルのバイオリソースの立ち上げには
野生動物の先生方にもご協力いただいたのに、その後霊長類学会で経緯をご説明していなかったので、その機会を設けた」と言ってました。「問題は山積しており話題提供と議論をしたい」とのこと。

●生理研・伊佐正氏の講演は、ほとんど過去の立ち上げ時の経緯について。

●京都大・渡邊邦夫氏、野生動物の研究者の立場から。昔、観察していた野生ニホンザルの群れが丸ごと動物実験用に捕獲されてしまうという辛い体験をした。今の野生のサルの状況については、年間3万匹駆除されている、生息域も広がっている。カニクイザルの実験利用が東南アジアの野生のサルへの圧力になっているのではないか、等。

●最後に、昨年4月から代表管理者となっている霊長研の中村克樹氏が今後の話をしました。文科省のバイオリソース予算が減ってきていること、供給数が年間60数頭で安定しており、当初のような300、200というところからかなり下がってしまったことを一元化する理由に挙げていました。

●飼育数は平成29年3月末で生理研(奄美)が363頭、霊長研が384頭。去年、それぞれ51頭と26頭を提供。計76頭。(※HP公表数と異なるようなので、メモを間違えたのだろうか? これまでの統計についても質問中)

●当初は文科省から、研究目的が拡大しすぎないようにと言われ、脳研究に限っていたが、数年前からその縛りはとれている。

●供給する際の審査は厳しくしているので、最初は霊長研の申し込みも断ったくらい。体制がちゃんとしていない機関や、ケージの小さい機関などがあったので、自分たちがかなり日本の動物実験の3Rの向上に寄与したはずだとの説明。
その結果、不必要にサルを使わない傾向になり、実験ごとの使用数の削減にも貢献したので、サルの供給予測がかなり減ってきてしまった。
推移としては、300→200→120→100→現在70頭。

●文科省のバイオリソース予算は全体が縮小気味で、「危機管理体制を整備し、ガバナンスを強化してください」と文科省からは言われている。ニホンザルのバイオリソースが、15%と突出して予算をもらっているが、予算規模を適正化するということで、文科省と生理研と京大で話し合った。今後飼育繁殖事業は京大に一元化する方向で検討したい。

●生理研のサル(奄美で飼っているサルのこと)の半数はBウイルス陽性。日本に受け入れ施設がない。悩んでいる。

●質疑応答では、奄美野生動物研究所の財政状況が悪いのかということも質問したが、それが原因というわけではないような応答でした。

●霊長類の学者は、東南アジアのサルの捕獲圧を気にしていて、カニクイザルをニホンザルに置き換えられないのかと聞いていました。製薬などの世界では、これまでのデータやノウハウの蓄積があるので動物種の切り替えは難しいと思うと代表管理者が回答。

今後どうなるのか

終了後に関係者に聞いたところによると、

  • 動物園から母群として導入したサルで、まだ生きているサルもいる。
  • 奄美野生動物研究所のサルを生かそうとすると年間5000万円かかる。
  • 立ち上げ当初にサルを集めすぎた? しかし、「サルを引き取ってくれてありがたい」というところがかなりあったため、集まってしまった?

こちらからは、

  • 長期間の保護飼育をするとしたら霊長研の放飼場のような環境しか福祉的と言えない。
  • サルの値段に必要経費を上乗せするべきではないのか。
  • サルを使った成果(医療機器開発など)があると言うのなら、成果物の売り上げや特許から何パーセントかとるべきではないか。サルの動物実験に恩恵があるというのなら、そう考える人たちがお金を出し合うべき。
  • チンパンジーのサンクチュアリがやっているように、観察研究のような理由づけで研究費を取得できないのか。

など述べましたが、頭数が多すぎることが根本的な問題です。そもそも国際的には動物福祉の流れがあり、実験利用が減っていくことは15年前でも想定できたはずです。このようなプロジェクトに飛びついた文部科学省や実験研究者、そして安易にサルを渡した動物園関係者も、どう落とし前をつけるつもりなのでしょうか。

NBRニホンザル 平成30年3月31日現在の飼育頭数

自然科学研究機構生理学研究所(飼育委託) ※奄美野生動物研究所
  繁殖群 197 頭 ・ 育成群  51 頭
京都大学霊長類研究所
  繁殖群 218 頭 ・ 育成群 184 頭

NBRニホンザルの報告書によれば、「平成25年度末から繁殖事業を京都大学霊長類研究所のみとした」とのことで、既にサルの繁殖は1本化されており、奄美野生動物研究所での繁殖は停止しています。つまり、現在も単に飼育を継続している状態と考えられます。

追記

その後、回答があったことなどをこちらで補足しました。


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