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死亡した初のクローン犬 卵子提供犬は131匹、代理母犬は123匹

dog-cloning

2005年4月に生まれた世界初のクローン犬「スナッピー」が昨年5月に死亡していたとの報道が先日ありました。10歳です。

スナッピーは、論文不正で韓国を揺るがせたファン・ウソク(黄禹錫)元ソウル大教授が「作製」したクローン犬だったため、本当にクローンかどうかが疑われましたが、大学の調査によって「本物」との認定がなされるという、いわくつきの犬でした。

驚くべきことに、ファン・ウソク氏は、現在、韓国でクローン犬作製を行っているスアム生命工学研究院(Sooam Biotech research foundation)に関与しており、ここでは1回10万ドルで犬のクローンを請け負っています。既に2015年までに700匹もクローン犬をつくったとされており1、同団体のサイトを見ると、スナッピーよりずっと若くして既に死亡している犬たちももちろんいます。

犬のクローンをつくるためには、卵子を採取するための雌犬と、代理母として出産させるための雌犬の両方が多く必要なはずですが、1日に500個の胚を作成するとも報じられているスアム生命工学研究院2では、一体どのようにそれらの犬を準備し、管理しているのか、はなはだ疑問です。

スアム生命工学研究院は、中国のバイオテクノロジー企業ボヤライフ・グループ(Boyalife Group、博雅幹細胞集団)と共同で世界最大の動物クローン工場の建設を進めていることも、懸念とともに報じられています。

スナッピーはこうして生まれた

例えば、1匹のクローン犬を得るため、どれだけたくさんの犬を必要としたのか。スナッピー誕生に至るまでの実験の手順をファン氏らの持つ特許の情報から振り返ってみました3

  • レシピエント卵子※を採取するために使用したイヌは、実験動物飼育管理認定のためにソウル大学校がつくった基準にしたがって飼育された1~3年の雑種のメス131匹。(※クローンをつくりたい動物から得た細胞の核を入れて、代理母犬の子宮に着床させるための卵子)
  • 発情期が始まったイヌを対象に膣スミアと血清プロゲステロンの濃度を毎日測定して排卵日を特定、排卵日から48~72時間後の成熟卵を採取。
  • 卵子採取の方法は、まずメスのイヌに麻酔を施し、無菌的に外科手術を実施。腹の中央部を切開して、先端を丸く処理したニードルを卵管腹腔口に挿入、縫合糸によって固定。その後、卵管と子宮の接合部にカテーテルを装着して卵回収用培地を潅流させることによって潅流液がニードルに流れていくようにした。この潅流液を滅菌ペトリ皿に移し、顕微鏡で観察して成熟卵を選別する。
  • 1匹から平均12個の成熟卵が得られ、合計1370個の卵子を採取した。
  • これらの卵子の核を取り除き、3才のオスのアフガンハウンドの耳の皮膚組織からとった細胞の核を入れる。(技術的な詳細は省略)
  • この核移植胚を外科手術により代理母の卵管に移植。代理母となる犬が直ちに準備できる場合には核移植胚の移植を直ちに実施し、そうではない場合には核移植胚を活性化(=特定の環境で短期間培養)した翌日に移植を実施した。
  • 代理母には雑種犬とラブラドールリトリーバーからなる123匹のイヌを使用。核移植胚1095個を外科的に移植した。
  • まず麻酔をかけ、卵管を露出させるための一般的な開腹手術法により腹の中央部を切開。手で腹腔内を刺激し、卵巣、卵管、子宮を引き出し、卵管の開口部を確認。注射器を卵管内に入れて、核移植胚をカテーテルから卵管に注入。抗生剤を含む生理食塩水500mlを腹腔内に注入し、腹部を縫合。手術後感染を防止するために抗生剤を3日間投与。
  • (123匹のうち)3匹のイヌで妊娠を確認。そのうち1匹は死に、残り2匹のうち1匹から帝王切開手術でクローン犬「スナッピー」が得られた。もう1匹の「NT-2#」も帝王切開手術で生まれた(が、3週間後に肺炎で死亡している)。

卵子の採取には、切開する方法と切開しない方法があり、切開しない方法ではその後も卵子の採取が可能とあり、切開された犬からは2度と採取できない、つまりこの実験としては用済みになったということです。また、犬では、1年のうち卵子を採取できる期間は非常に限られています。

卵子提供(ドナー)犬と代理母犬は、どうなる?

クローン犬作製実験が非常に多くの犬を利用するものであったことに驚かれるのではないかと思いますが、そもそも韓国で犬のクローンをたくさん作製できる背景には、数多くのメス犬を容易に入手できる状況があると言われています。

かつてアメリカでファン・ウソク氏の協力のもとクローン犬商売を立ち上げたBio Art社が、今はペットのクローンをつくるのを止めている理由をサイトで公開していますが4、韓国企業(RNL Bio社)が安い価格を提示して参入してきたことに不満を述べており、高い倫理水準を守りながら競争に打ち勝つことができないことを示唆しています。

また、韓国で犬のクローンが成功したのは、韓国に犬を食べる習慣があり、多くの犬が生産されているためと指摘。2009年時点でクローン1匹あたり卵子提供犬と代理母犬12匹が必要だが、これらの犬は、韓国では食肉になる運命にあるだろうとしています。

あまりに衝撃的な内容ですが、下記の記事をみると、ほかにもこのように述べている人がいます。

「【EU発!Breaking News】韓国企業、『愛犬のクローン1頭プレゼント』。『代理母犬は食用に』との批判も。」より

もっとも『Dog, Inc.』の著者を持つジョン・ウーステンディーク氏は、「韓国では救助犬や警察犬、そして賞に輝いたチャンピオン犬などがどんどんクローンになる。おまけに卵子提供犬と代理母犬は用が済めば食用として市場行きだ。欧米諸国比べて犬の生命に対する倫理観が低いのではないか」などと批判している。

ちなみにBio Art社は、ほかにも、クローンの需要があまりないことや健康問題も理由として挙げていました。白いはずの小犬が緑がかった黄色で生まれたり、骨格の異常(多くは重篤ではないが気がかりな異常)があったり、通常なら防止できる感染症のアウトブレイクが起きたりし、寄生虫にも悩まされたそうです。

ペットのクローン作製は倫理的なのか

スアム生命工学研究院のサイトの「CLONING TECHNOLOGY」のページを見ると、代理母犬の「妊娠率」がスナッピーのときより上がってきていることが示されていますが、これはあくまで妊娠した犬の匹数の割合であって、胚の数でいうとそれほど出生率は上がっておらず、錯覚をさせているのではないかと感じます。

例えば、図で妊娠率が20%を超えたとされているときの論文では、妊娠率23.53%であった群(一度に移植した胚の数が11-25個であった代理母犬のグループ)でも、胚の数に対する出生率は1.58%にすぎません。また、このグループ以外は、そもそも全く妊娠していません。

その次の妊娠率50%とされている論文でも、1匹のクローン犬を得るのに代理母犬は14匹、胚の数は54必要とあるので、胚の数に対する出生率はそれほど上がっているわけではありません。これがスアム生命工学研究院が示している最も最近の知見です(少なくとも英語では)。

それ以外のクローン作製実験もふくめ、犬と猫についてアメリカの団体が論文から情報をまとめた一覧表は下記をご参照いただきたいのですが、1匹のクローンを得るために他の多くの犬や猫を利用するというのは、やはり考え方として疑問です。

多くの犬猫が殺処分されている現状があるのに、わざわざ特殊な技術を使って「生産」すること自体、ペットのクローンが大きく批判を受ける原因ですが、それ以前に卵子提供と代理母として同種の動物を犠牲にすることをいとわないというのはエゴに感じられます。

ペットのクローン問題は、舞台が韓国・中国へ移り、ますます懸念が深まります。

 
※現在情報収集中であり、新しい情報が入り次第、このページは更新する可能性があります。

▼犬及び猫のクローン作製実験に関する論文における結果一覧

すべてのペットクローン論文を網羅しているわけではありません。

論文公表年
(著者
*

移植された胚の総数

卵子提供犬の数

代理母犬の数

妊娠した代理母犬の数

生きて生まれた数

生存数
(30日間)

失敗率

100% – (7) / (2)

クローン動物
作成の結果

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)

(7)

(8)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イヌ

2005
(BC Lee, et al)

1,095

131
※1

123

3

2

1

99.9%

流産1/新生児期に死亡1/生存1

2007
(G Jang, et al)

167

23

12

3

3

3

98.2%

生存3

January 2008
(G Jang, et al)

32

82

8

0

0

0

100.0%

N/A

March 2008
(G Jang, et al)

358

46

20

2

1

1

99.7%

流産1/生存1

March 2009
(MS Hossein et al)

215

44

13

5

5

4

98.1%

新生児期に死亡 1 /生存4

269

51

16

1

1

0

100.0%

新生児期に死亡 1

September 2009 (MS Hossein et al)

712

言及なし

36

4

5

4

99.4%

流産1/新生児期に死亡 1 /生存4

September 2009
(G Jang, et al)

309

38

15

2

2

1

99.7%

代理母犬による致命傷1 /生存1

September 2009
(HJ Oh, et al)

181

51
※2

9

1

1

0

100.0%

死産1 /新生児期に死亡 1

219

9

3

8

7

96.8%

死産1 /新生児期に死亡1 /生存7

合計(匹)/平均(%)

3,557

426

261

24

28

21

99.4%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネコ

2002
(Shin et al)

87

言及なし

8

2

1

1

98.9%

流産1 /生存1

2005
(XJ Yin, et al)

675

言及なし

10

2

3

2

99.7%

死産1 /新生児期に死亡1  /生存2

2007
(XJ Yin, et al)

812

言及なし

18

4

5

4

99.5%

死産1 /新生児期に死亡 1 /生存4

2008
(XJ Yin, et al)

430

78

15

4

5

4

99.1%

死産2/新生児期に死亡 1 /生存4

March 2008
(XJ Yin, et al)

176

言及なし

11

3

2

2

98.9%

流産1 /死産1 /生存2

March 2009
(MC Gómez, et al)

291

16

8

3

1

1

99.7%

流産3 /死産2/生存1

December 2009
(C Wang, et al)

114

言及なし

9

2

0

0

100.0%

流産3

62

言及なし

6

2

2

0

100.0%

流産2

44

言及なし

4

0

0

0

100.0%

N/A

April 2010
(SJ Cho, et al)

281

言及なし

13

1

1

0

100.0%

新生児期に死亡 1

合計(匹)/平均(%)

2,972

>94

102

23

20

14

99.5%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イヌとネコ

合計(匹)/平均(%)

6,529

>520

363

47

48

35

99.5%

 

 

AAVS(The American Anti-Vivisection Society)が公開している“Published Domestic Dog and Cat Cloning Experiments and Outcomes”をもとに一部改変。
※1 元の表は論文から計算によって推定された数字が入っているが、特許情報では131匹と書かれているため、修正。
※2 元の表では半分に割った数がそれぞれに入っていたが、合わせて51匹とのことなので、上記の形に修正。

出典(表の順)
Lee BC, Kim MK, Jang G, Oh HJ, Yuda F, Kim HJ, Hossein MS, Kim JJ, Kang SK, Schatten G, and Hwang WS. 2005. Dogs cloned from adult somatic cells. Nature. 436(7051):641.
Jang G, Kim MK, Oh HJ, Hossein MS, Fibrianto YH, Hong SG, Park JE, Kim JJ, Kim HJ, Kang SK, Kim DY, and Lee BC. 2007. Birth of viable female dogs produced by somatic cell nuclear transfer. Theriogenology. 67(5):941-7. Jang G, Oh HJ, Kim MK, Fibrianto YH, Hossein MS, Kim HJ, Kim JJ, Hong SG, Park JE, Kang SK, and Lee BC. 2008. Improvement of canine somatic cell nuclear transfer procedure. Theriogenology. 69(2):146-54.
Jang G, Hong SG, Oh HJ, Kim MK, Park JE, Kim HJ, Kim DY, and Lee BC. 2008. A cloned toy poodle produced from somatic cells derived from an aged female dog. Theriogenology. 69(5):556-63.
Hossein MS, Jeong YW, Park SW, Kim JJ, Lee E, Ko KH, Kim HS, Kim YW, Hyun SH, Shin T, Hawthorne L, and Hwang WS. 2009. Cloning missy: obtaining multiple offspring of a specific canine genotype by somatic cell nuclear transfer. Cloning and Stem Cells. 11(1):123-30.
Hossein MS, Jeong YW, Park SW, Kim JJ, Lee E, Ko KH, Hyuk P, Hoon SS, Kim YW, Hyun SH, Shin T, and Hwang WS. 2009. Birth of Beagle dogs by somatic cell nuclear transfer. Animal Reproduction Science. 114(4):404-14.
Jang G, Hong SG, Kang JT, Park JE, Oh HJ, Park CK, Ha JH, Kim DY, Kim MK, and Lee BC. 2009. Conservation of the Sapsaree (Canis familiaris), a Korean Natural Monument, using somatic cell nuclear transfer. Journal of Veterinary Medical Science. 71(9):1217-20.
Oh HJ, Hong SG, Park JE, Kang JT, Kim MJ, Kim MK, Kang SK, Kim DY, Jang G, and Lee BC. 2009. Improved efficiency of canine nucleus transfer using roscovitine-treated canine fibroblasts. Theriogenology. 72(4):461-70.

Yin XJ, Lee HS, Lee YH, Seo YI, Jeon SJ, Choi EG, Cho SJ, Cho SG, Min W, Kang SK, Hwang WS, and Kong IK. 2005. Cats cloned from fetal and adult somatic cells by nuclear transfer. Reproduction. 129(2):245-9. Yin XJ, Lee HS, Kim LH, Shin HD, Kim NH, and Kong IK. 2007. Effect of serum starvation on the efficiency of nuclear transfer using odd-eyed white cat fibroblasts. Theriogenology. 67(4):816-23.
Yin XJ, Lee HS, Yu XF, Kim LH, Shin HD, Cho SJ, Choi EG, and Kong IK. 2008. Production of second-generation cloned cats by somatic cell nuclear transfer. Theriogenology 69:1001–1006.
Yin XJ, Lee HS, Yu XF, Choi E, Koo BC, Kwon MS, Lee YS, Cho SJ, Jin GZ, Kim LH, Shin HD, Kim T, Kim NH, Kong IK. 2008. Generation of cloned transgenic cats expressing red fluorescence protein. Biology of Reproduction. 78(3):425-31. Gómez MC, Pope CE, Kutner RH, Ricks DM, Lyons LA, Ruhe MT, Dumas C, Lyons J, Dresser BL, and Reiser J. 2009. Generation of domestic transgenic cloned kittens using lentivirus vectors. Cloning and Stem Cells. 11(1):167-76.
Wang C, Swanson WF, Herrick JR, Lee K, and Machaty Z. 2009. Analysis of cat oocyte activation methods for the generation of feline disease models by nuclear transfer. Reproductive Biology and Endocrinology. 7:148. Cho SJ, Bang JI, Yu XF, Lee YS, Kim JH, Jeon JT, Yee ST, Kong IK. 2010. Generation of a recloned transgenic cat expressing red fluorescence protein. Theriogenology. 73(7):848-55.


1 “UK couple have dead dog cloned in South Korea“. 2015年12月24日 The Guardian
4 Lou Hawthorne “Six Reasons We’e No Longer Cloning Dogs” BioArts International, 2009年9月10日
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