一昨年、信州大学で動物実験委員会の審査・承認を受けずに動物実験が行われていたことが発覚したが(詳細はこちら)、今年3月に入り、ようやく平成28年度分の厚生労働科学研究費補助金(いわゆる厚労科研費)の報告書が公開され、その後の経緯が判明した。
通常であれば、昨年の6月頃に公開される報告書だ。
それによれば、問題の発覚した平成27年度分の翌年にあたる平成28年度のマウス実験は、進捗なしとなっている。「実験計画を大幅に見直す必要が生じた」ということを研究分担者自らが認める形である。
(1) 疾患モデルマウスの作成に関しては、NF-κBp50欠損マウスを用いて行う予定であった実験計画を大幅に見直す必要が生じたため、今年度は進捗しなかった。
出典:平成28年度厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業総括研究報告書「子宮頸がんワクチン接種後に生じた症状関する治療法の確立と情報提供ついて研究」(研究代表者 池田修一 信州大学医学部附属病院難病診療センター)2ページより
問題発覚当時の信州大学の対応から、倫理審査だけではなく内容についても問題が諸々指摘されているマウス実験を今後も続けるつもりなのではないか?という懸念を感じていたので、見直す必要があるという結論に至っていることは驚きだったが、このほうが研究班ひいては信州大学に対する科学的信頼の回復につながるのではないかと感じる。
報告では、動物実験委員会で妥当性を検討された実験ではなかったことについても触れるべきではないかとは思うが……。
ちなみに問題のあった平成27年度分について、報告書の修正は行わないと厚生労働省から聞いており、これは今でも疑問である。また、平成29年度分については、研究費自体は下りているが、マウス実験は含まれない形になっているそうである。
形としては、未承認実験を行った研究者に対し、その後、この研究では研究費は配分されていないとは言えるのかもしれないが、2006年に厚生労働省の動物実験基本指針ができて以降厚労省がしてきた説明とは対応が異なるため、現在確認中である。といっても、回答は1年以上来ていない。
動物実験委員会の役割を信州大学は理解しているのか
動物実験委員会の審査・承認を得ずに実験が行われたことについて、単に手続きを抜かしただけだと見る向きがあることは非常に問題だ。
本来、動物実験委員会が一番にやらなければいけないことは、動物以外の方法で研究・立証する手段を指摘することである。また事前にin vitro試験を経ているかなどの根拠の確認も重要だ。動物をやむなく用いるということになって初めて、実験の設計が現在の科学の手法・論理に沿っているか、動物の苦痛にはどう対応するかということが検討される。
また、その研究の目的にそもそも、動物に苦痛を与え殺すだけの意義があるのかどうかということも承認に際しては勘案される。
だからこそ、異なる研究目的の実験計画書で別の目的の動物実験ができるなどということはあり得ないのだが、信州大学は、NF-κBp50欠損マウスを用いる緑内障研究の動物実験計画書で子宮頸がんワクチン副反応の研究ができると主張しており、実際に、後日事後承認されてた子宮頸がんワクチンの計画書の承認期間が始まる前に、マウス実験は行われていた。(つまり、問題となった子宮頸がんワクチン実験のマウス実験は、今でも未承認実験だと考えられる)
昨年1月、沖縄OISTで開催された動物福祉シンポジウムでも、動物実験施設の国際認証であるAAALACインターナショナルから来日した演者が、「動物実験委員会の承認は単なる手続きと思われがちだが、違う」と述べていた。
ということは海外でもそのように思われがちということかとは思ったが、その実験ではどうやって動物福祉を担保するのか、妥当な実験なのかということを、それぞれの実験について検討し、必要があれば手順を変更させるという重要な役割が動物実験委員会にはあるのだ。
ただの手続きではなく、中身をチェックするプロセスだということだ。
それを理解していない大学に動物実験を行う資格があるのか、甚だ疑問である。