井の頭自然文化園のモルモット 過密・落下・殺処分

ふれあい問題を考える(1) 井の頭自然文化園のモルモット 過密・落下・殺処分 

とかく美談にされがちな動物との「ふれあい」について、問題点を探るシリーズの第1回目です。以前、倒れているモルモットを見たことのある井の頭自然文化園のふれあいコーナーを改めて訪問しました。繁殖に力を入れていることでも有名ですが、どうしてメスしかいないのでしょうか……。


昨年(2013年)10月1日、井の頭自然文化園(東京都)の無料開園日に行ったところ、雨天にもかかわらずモルモットのふれあいコーナーでは親子連れが行列をなしており、コーナー内も人でごったがえしていました。

しかも、来場者は10分交代で入れ替えとのことでしたが、モルモットは、交代制になっていません。

平日の人が少ないときにはコーナーを二つに分けて、モルモットも2交代制になりますが、なんと、土日など人の多いときはコーナー全面を開放し、モルモットを交代制にしていないとのことでした。これでは一日じゅうストレスに晒されることになります。モルモットたちは、何となく、全体に疲れた様子に見えます。

過密 人が多い

しかも、モルモットのほうも過密です。皆大人しくしていますが、すでにいじられることに対して諦めがあるのではないかと感じます。下左の写真のモルモットはお尻をずっといじられていましたが、嫌がることもやめています。

また、顔をつままれたり、水を飲んでいるときにずっとなでられたり、体をぎゅっとつかまれたりしていても、だれも注意していません。中にいる人は、勝手にモルモットをつかまえて、なでていい形です。

モルモットたちは、なるべく人間から遠ざかろうとして、隅っこに集まります。

非常に過密。手前のモルモットはお尻をずっといじられていた。 井の頭モルモットふれあい

水 つまむ

また、胴体をつかんで下半身をぶら下げる持ち方がされているので、ちゃんと抱き方を教えてほしいと思いましたが、なんと、壁にはぶら下げる持ち方が正しいというイラストが描かれていました。

写真撮影では、フラッシュをたいている人もいます。(写真、下右)

持ち方 フラッシュ

コーナーの中には、シルバーボランティアの方々がたくさんいるのですが、だれも乱暴な動物の取り扱いや、フラッシュなどに対して注意はしていません。ボランティアは、数だけいても仕方がないと感じます。

これらの状況は、平日に行ってみたときも、同様でした。そもそもモルモットは、臆病で繊細な動物です。見知らぬ大勢の人に日々いじられる状況が、動物にやさしいと言えるのでしょうか。動物は、人間が身勝手に扱っていいと教えているようにしか見えません。

■ふれあいのモルモットが大人しい別の理由

ふれあいに出されているモルモットは、基本的にメスです。井の頭自然文化園も、ふれあいに出されているのは、メスだけでした。オス同士は闘争してしまうため、ふれあいには使えません。また、オスとメスを一緒にしてしまうと、必要以上に子どもが生まれてしまいます。

現在は、井の頭自然文化園も去勢手術をして使うことを試みているそうですが、それでも闘争してしまうため、1匹ずつでの飼育が必要となってしまい、スペース上の問題で難しさがあるそうです。

つまり、「ふれあいには扱いやすいモルモットを」などと言われますが、これはメスだけの話ということです。オスも半分生まれることを考えれば、嘘を言っていると言っていいでしょう。(また、メスたちがさらに大人しくなるのも、ふれあいに使われているうちに諦めを学ぶからだと思います。実際、ふれあいが終わって戻される際には、ぴょんぴょんはねて活発になります。台車が動くからというのもあるでしょうが、食事のできる時間だということもわかるのではないでしょうか)

そして、園内で繁殖を行っている場合は、オスも同じ数生まれますが、どこへ行ってしまうのでしょうか? 当然のことですが、淘汰、すなわち殺処分されることになります。井の頭自然文化園も、安楽死のほとんどは、オスの間引きです。付近の小学校に譲る場合もあるとのことでしたが、学校もモルモットにとってよい場所とは言えません。

ふれあいコーナーでは、そもそも入場者数を制限していないので、モルモットのストレスを分散させるためにも頭数が必要になり、数多く繁殖する必要が出てきてしまっています。すると当然、不要になるオスも増え、殺処分が生じてきます。

つまり、モルモットのふれあいは、「命の大切さを教える」と言えるようなものではないと思わざるを得ません。間引きを伴っていることを隠しながら、教育を語ることは欺瞞ではないでしょうか。この悪循環を断ち切るには、思い切った改善が必要だと思います。

■モルモット統計 平成24年度

匹数備考
繁殖数161匹
(オス75匹、メス86匹)
死亡数87匹
(うち、45匹が殺処分)
殺処分した個体のほとんどが、オスの淘汰。病気などによる安楽死は少数。そのほかは、自然死するまでふれあいに出している。
譲渡数25匹全てオス。譲渡先は、幼稚園・小学校・中学校、16校。
多摩動物園と大島公園動物園に2匹移管

※ただし、この園ではモルモットを生餌には使っていないとのこと。死体も他の動物のエサにはせず、解剖するとのことでした。

■モルモットを投げないで!

井の頭自然文化園の場合、特に人が多いときに過酷なふれあいになっていると思いますが、それでもマイクロチップで個体識別をし、子どもがモルモットを落とした場合はナンバーを記録するなど、丁寧な管理を試みていると思います。

そこで、その落下記録を情報開示請求してみたのですが、驚いたことに、ほぼ毎日のようにモルモットたちが落とされています。しかも、中には「投げられた」という記録もかなりあります。記録の残っていた3月下旬から開示請求をした11月末までで810回の落下の記録があり、そのうちの33回は「投げられた」という記録でした。

まだよく理解できていない年齢の子どもたちにさわらせているので当然そういうことも多いだろうと想像はできますが、中には大人が投げたという記録もあります。

やはりそもそも、動物園で一般の人に飼育動物を触らせていること自体が問題だと思わざるを得ません。

また、ゴールデンウィーク中の無料公開日である5月4日が突出して落下回数が多くなっていました。この日は、午前中だけで2000人の利用があったと言っていたという情報をいただいています。来園者の多さが、落下の回数にも表れています。

さらに、治療に至った件数はわずかですが、「唇を切る」などの記述が想像以上にありました。

落とされた個体に特に病気が多いなどの相関性は特にないとのことでしたが、この記録を見ただけでも、ふれあいがモルモットにとって過酷だということはよくわかると思います。詳細は落下記録のページをご覧ください。

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人が多すぎる井之頭自然文化園のモルモットふれあい

■改善を要望

人の多い日の状況が特に目に余るため、また、現場にいる人がオスが殺処分されていることを知らない様子で正確なところがわからなかったことなどもあり、後日井の頭自然文化園に話し合いをお願いしました。

その日聞いたところによると、職員にはAATなどを学んだ人は特にいないとのこと。モルモットは、病気が深刻な場合などの安楽死はあるが、基本的には死ぬまでふれあいに出されており、リタイアはないとのことでした。また、ボランティアには、オスが殺処分されていることは伝えていないようでした。

淘汰は決裁を回して決定するとのことで、安易にされているわけではないとは感じますが、たくさん繁殖してたくさん触らせるシステム自体がおかしく、改善が必要だということを要望しました。

改善についてはもちろん即答はできないとのことでしたが、現在はオスの去勢なども試みているとのことで、今後も大きく改善がなされることを期待します。

赤ちゃんはかわいいが……オスは繁殖用を除けば、必要とされていない
赤ちゃんはかわいいが……オスは、繁殖用を除けば、必要とされていないのが現実。メスも、毎日ふれあいで触られる一生。
ふれあいが終わった後に倒れていたモルモット。園のスタッフに言ったところ、トレーに載せて「病院、病院」と言いながら連れて行ったが、その間も自力で起きることはなかった。はたしてどうなったのだろうか。

動画「モルモットたちは、ふれあいがおわるのをまっている」

モルモットたちは、ふれあいの時間がおわることを、とてもよろこんでいます。ふれあい中、どれだけモルモットたちがじっとがまんしてうごかないようにしているか、知ってください。

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