[寄稿] 韓国「動物はモノではない連帯」発⾜と、それが投げかける課題
韓国から寄稿をいただきました。「動物はモノではない」という声が韓国で高まっています。
注 PEACEとしてはこうしたアクションに動物を連れて行くことに賛同ではありません。
[寄稿] 韓国「動物はモノではない連帯」発⾜と、それが投げかける課題
遅れ気味の時間のためバスから降りて⼩⾛りで向かうと、遠くから聞こえる声ですでに集会が始まっているのに気づく。場所はソウル永登浦区の国会議事堂前。5⽉の末だというのに、もう真夏のような暑さの中、20名くらいの参加者たちは各々の団体の、あるいは⾃作のピケを掲げながら、声をあげている̶̶「動物は『モノ』ではなく『知覚ある⽣命』だ! 動物と共存する世界を!」。
韓国政治の中⼼地、この極めて⼈間中⼼主義的な都会の真ん中に突如として現れたのは、⼈間だけではない⽣命のための尊厳を求めるコミュニティだ。このコミュニティは⼈間という⼀つの種を超えてもいる̶̶声をあげる⼈々の中の数⼈は動物の仮⾯をかぶっており、それを⾒守るのは、参加者たちと⼀緒にやってきた2匹の⽝だからだ。
2023年5⽉30⽇午後1時、私は韓国の国会議事堂前で開かれた「動物はモノではない連帯」発⾜の記者会⾒に⾜を運んだ。
韓国では 2021年10⽉、⺠法第98条2に動物は「物件」、すなわち「モノ」ではないという規定を新設する⼀部改正法案が法務部によって発議されたが、現在に⾄るまで法案審議すらもされていない。この状況に対して改めて声をあげ、「動物の⾮物件化」を記す⺠法⼀部改正法案通過を促すため、21にも及ぶ団体の間で「動物はモノではない連帯」は結成された。
団体は⾮常に多岐に渡り、具体的には、弁護⼠団体(動物の権利を擁護する弁護⼠たち、⺠主社会のための弁護⼠会)や政党(緑の党)から、環境団体(環境運動連帯、⼥性環境連帯など)、そしてもちろん動物団体(動物解放の波、夜明けサンクチュアリ、ホットピンクドルフィンズなど)が含まれる1。
当時の様⼦を写す映像
⺠法における動物
韓国でも⽇本と同様、法的に動物は「物件」、つまりモノだ。
韓国の⺠法第98条は、「物件」を「有体物及び電気その他管理できる⾃然⼒」と定義しており、動物はこの中の「有体物」とみなされる。「物件」であることは、権利と義務の客体であることを意味する。すなわち⼀般に⺠法では、権利と義務の主体になれるのは「⼈格(person)」に限られ(この中には、ホモサピエンスという⽣物学的「ヒト」のみならず、企業、つまり「法⼈」も含まれる)、それに対して「物件」は権利主体者の利益に供されるための「財産(property)」でしかない。⽇本では動物は「動産」とも規定されるが、意味する内容は同じことだ。「動産」であれ、「物件」であれ、動物は結局のところ「モノ」、⼈間や企業のために存在する財産に過ぎない。
⺠法改正法案はこの規定を変えることを試みるものだ。
実際、すでにこれが現実化している諸外国もある。オーストリア、ドイツ、スイスなどには動物が物件ではないという規定がすでに存在している(1988 年のオーストリア⺠法285a 条、1990 年のドイツ⺠法 90a 条及び 2003 年のスイス⺠法 641a 条1項)。
これは動物虐待の発覚時、所有者の所有権を制限することを可能にしたり2、あるいは虐待を受けた動物の治療費などを請求可能にするという。ここでは動物がその財産的価値を超え、⼈格的価値が付与されているわけだ。さらに進んで、フランス 3 やベルギー 4 には動物が「感覚・感情能⼒(sentience)のある存在」とする規定すらある 5 。いずれにせよ、これらの国では動物はもはや⼈格とも、単なるモノや客体、財産とも区別される、特別な地位を与えられることになったというわけだ。
⺠法改正の意義
実際に⺠法が改正されることで期待される意義としては、実際的な意義に加え、宣⾔的な意味、そして象徴的意義を挙げることができるだろう。
まず、実際的な意義としては、この規定の存在によって動物虐待を法廷に上げやすくなることが期待される点がある。⽇本と同様、韓国でも動物への虐待を罪に問うことは、未だに極めて難しい。⼝にするのも憚られるような方法で動物を殺したとしても無罪が宣告されるのが⽇常茶飯事なのが現状だ。そんな中、「動物が物件ではないという基本原則だけでも法に規定されてこそ、動物を虐待者の⼿から救出し、正当な⺠・刑事上の判断を仰ぐことができる」ようになることが見込めるというわけだ 6。
とはいえ、動物⾮物件化の中⼼的な法的意義は実質的なものというよりは、宣⾔的なものであるようだ。動物は物件ではないという規定はそれ⾃体で何かを禁じたり、命令するものではないからだ。それでも、そのための法制度を変⾰するための重要なステップにはなりえる̶̶これが宣⾔的意義だ。
キム・ドヒ弁護⼠が語るように、「憲法を根拠に個別法と権利が導出されるように、動物を物や所有物ではない存在と認めるならば、これを根拠に様々な法と制度を変えることができるだろう」7。実際、⺠法上での動物の⾮モノ化が実現した国では、このような後続的な変化が起きつつある。ドイツでは動物虐待時に最⼤3年の懲役が科される動物保護法を施⾏中であり、オーストリアではペット保有税が科されるが、これは不妊去勢⽀援や動物警察運営費に⽤いられるという8。
これとともに重要なのは象徴的意義だ。動物福祉問題研究所アウェアのイ・ヒョンジュ代表が「⺠法改正が宣⾔的規定にとどまっても、韓国社会全体で動物を⾒つめる視線を変え、⼈間と動物関係をリセットすることに肯定的な影響を及ぼすだろう」と語ったように 9、この改正は、⼈間と動物の関係について根本的次元において再考するきっかけを提供する。「動物は物件ではない」という規定はそれ⾃体で、⼈間中⼼主義の法的根拠の⼀つをなくすからだ。
⼈間以外の動物を「モノ」と規定する⺠法の背景には、⼈間を優越した存在として、そして⼈間以外の動物を当然の如く⼈間よりも劣等な存在として前提する⼈間中⼼主義、あるいは⼈間⾄上主義があるなら、この規定は̶̶このイデオロギーを廃絶し、⼈間と⼈間以外の動物を完全に平等化することはなくとも̶̶少なくとも、動物のために今まで存在したことがない存在のカテゴリーを考えることを要請し、促す。
こうして動物解放の波のイ・ジヨン代表は語る。「動物は物件ではないことが法に反映されるということは、⼈間中⼼主義の⼆分法的思考⽅式を克服し、⽣命が尊重される世界をつくるための重要な端緒になるだろう」10。「動物は物件ではない」と規定することは、⼈間中⼼主義を乗り越えるための格好のスタート地点になるのだ。
とはいえ、⽔⾯下では動物に対する意識の変化はすでに起きつつある。韓国では、ペットと暮らす⼈は 1500万⼈を超え、これは⼈⼝の4分の1にのぼる 11。そして、動物福祉問題研究所アウェアの調査によると、もはや 94パーセントを超える国⺠が改憲案に賛成している12。
もちろん同じくペットを飼っていると⾔っても動物の福祉や権利に対する考えや感覚に差異は⼤きいものの、ますます多くの⼈々が動物と共に暮らすようになり、「動物」がこの社会においてどのような存在であるのかに関する考えが急速に変化しているということは間違いないだろう。
この観点からすると、このような⺠法改正は⼀⽅では変化する⼈々の意識に「追いつく」ものであると⾔ったほうが正確かもしれない。
今後の課題
未だ動物の法的地位を問うための具体的なアクションすら⽣じていない現在の⽇本の状況からすると、このような動きがあるということだけでも勇気づけられることだろう。だが、⺠法上での動物の⾮物件化がたとえ実現したとしても、ほんとうに動物がモノとして扱われることがない社会をつくるための道ははるかに険しいという点は強調しておいていい。
まず、先に述べた点とも関わるが、実効性の問題がある。「動物は物件ではない」と規定するだけでも少なくとも今よりは動物虐待事件に対応することは有利にはなるだろうが、とても⼗分ではない。ジョ・キョンイム弁護⼠が語るように、「⺠法の世界で、『動物が物件ではない』という宣⾔が実効性を持つには、動物が権利の客体にならない、あるいは⼈と同様に権利・義務の主体になるなどの法効果が共に語られなければならない」13。こうして、動物が「物件」ではないならば、動物は権利の主体と客体という関係において何であるのかをより具体的に規定する必要がある。
けれども、実際のところ問題はさらに巨⼤であり、根が深い。
例え動物がこうして権利主体であることまで明記され得たとしても、⼯場式畜産や動物実験をはじめとする⼈間社会に根づいた動物利⽤がある限り、それはやはり名⽬上の規定にとどまるからだ。ほとんど可視化すらされない⼯場式畜産や動物実験から競⾺にまで⾄る産業的動物利⽤こそ、巨⼤規模で⾏われ、⼈間社会の⼟台をつくり上げている「動物虐待」に違いない。しかし、⺠法改正によっても、この実践を問うことは難しい。ここにあるのは資本主義を俎上にあげる必要性だ。
また、これとも関わるが、問題解決のための⽅途が動物虐待への厳罰化に「のみ」求められるなら、それもまた⼤きな問題だろう。もちろん動物虐待に関して今の処罰が軽過ぎるのは事実であり、改正されるべきだ。けれども、個⼈の残虐な動物虐待のみならず、同時に、産業的動物利⽤における動物虐待を、そして、そうした個⼈を⽣み出しえた社会を問うべきなのだ。
すなわち、種差別主義と資本主義はもちろん、家⽗⻑制や植⺠地主義、そして優⽣主義といった絡まり合った暴⼒が構造化された社会を、だ。
結局のところ、悲惨な動物虐待が起きるのは、⼈間すら尊厳ある⽣を⽣きるのがかくも難しいこの世の中においてだ。最⼤の動物虐待は構造化されて不可視である中、動物虐待をする個⼈の異様さが際⽴つなら、それはこの社会の異様さが縮図的に現れ出たゆえに他ならない。動物虐待の問題を個⼈の悪⾏に還元するのではなく構造的なものとして捉えるための努⼒が求められている。それは動物運動がより広い社会運動とつながるための今までにない道を切り拓いていくことでもあるだろう。
注
1 ちなみに今回の⺠法改正の動きは、⽂在寅政権時の2018年にあった動物権を含めるよう改憲を求める運動ともつながっている。動物の権利を擁護する弁護⼠たちを始め、今回の連帯参加団体の多数が加わった「改憲のための動物権⾏動」は、現在時点では改憲という成果を得ることはできないでいるとはいえ、憲法が改正すれば⺠法改正の後押しにもなるためだ。
2 http://news.heraldcorp.com/view.php?ud=20230529000102
3 https://www.loc.gov/item/global-legal-monitor/2014-04-25/france-animals-granted-new-legal-status/
4 https://aldf.org/article/brussels-recognizes-animals-as-sentient-beings-distinct-from-objects/#_ftn1
5 http://news.heraldcorp.com/view.php?ud=20230529000102
6 https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1093849.html
7 https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1093849.html
8 https://www.metroseoul.co.kr/article/20230606500217
9 https://post.naver.com/viewer/postView.naver?volumeNo=35713378&memberNo=38212397&vType=VERTICAL
10 https://www.ohmynews.com/NWS_Web/OhmyPhoto/annual/2023_at_pg.aspx?CNTN_CD=A00029319711
11 https://post.naver.com/viewer/postView.naver?volumeNo=35713378&memberNo=38212397&vType=VERTICAL
12 https://www.hani.co.kr/arti/animalpeople/companion_animal/1074555.html
13 https://www.koreanbar.or.kr/pages/board/view.asp?teamcode=&category=&page=1&seq=12809&types=11&searchtype=&searchstr=
