タッチングプールに人だかり…人の手を避けるサメたち
魚にさわらせる「タッチングプール」では、子どもたちにエイやサメをさわらせていた。毒をもつハリなどはあらかじめカットしているそうだ。係員へ「毒をもつ生き物にはさわらない、近寄らないと教えるべきでは?」の問いに対しては、「最近は知っている子どももいるので」とのことだった。強い日差しにさらされ、触ろうとする手を逃れるようとするエイたち。
人の手の届かないプールの真ん中で、じっと動かないサメたちもいた。そこにいれば、触られないことを知っているのだろう。
そもそも、さわることが教育ではなく、生き物を知り、距離感を保ち配慮することが教育のはずだ。実際、海水浴場に現れる野生のイルカにかまれたなどの事故が起こるのは、ふれあいやタッチングによる水族館が与えた誤った距離感のせいだといえる。
欧州などでは、魚類のタッチングは動物福祉上の問題からしなくなってきていると聞くが、水族館関係者の集まるイベントなどではそのような情報交換もされているというのに、新規オープンの施設で、あいもかわらず生きものをオモチャのように提供していることは驚いた。
殺風景な青いだけのプール
魚たちはそれでも、生息環境の再現が試みられているように感じたが、それが鰭脚類(ききゃくるい)や鯨類、ウミガメに及ばないのはどうしたことだろうか。無機質で青のペンキで塗られただけの水槽ばかりだった。照りつける太陽を避けるようにわずかな日陰にじっとしており、呼吸するために浮上しては、また日陰に身をひそめるアザラシの姿があった。環境エンリッチメントなどどこにもないではないか。ちなみに、海の中は原色の青一色ではなく複雑な変化に富んでいる。海=青は人間の先入観にすぎない。
地球温暖化は水族館の屋外プールにも影響があり、温度調整がおいつかなかったり、扇風機で対応したりしている水族館もあるという。だが2024年、地球温暖化真っ只中に建設された神戸須磨シーワールドには、酷暑の中の動物への配慮が見られなかった。
吐き戻しを続けるイルカもおり、垢と吐しゃ物が水中を漂っていた。排せつ物も、狭いプールの中に排出され続けている。野生ならば岩に体をこすりつけたり、砂の中の魚を探したりなどの多様な行動があるのだが、本能を満たす配慮はない。彼らはただ見世物、被写体として消費されていく。
ショーにありがちな排泄物と塩素と垢が解けた水をあびせるサービスに喜ぶのも考え物だろう。館内は使い捨てであふれており、販売されている水除けのコートもまたプラゴミとなっていく。
イルカは泳ぎながら排泄し、うんちは水に溶ける。#イルカショー の間も排泄していた。
皮膚は1日に12回、約2時間ごとに更新され、古い皮膚がはがれ落ちる。水槽に白い浮遊物が多くあるのはイルカの垢。便の細菌は塩素で殺菌。イルカショーで客が浴びている水は、排泄物と垢と塩素入りの水という事だ。 pic.twitter.com/2FN3zOSrRA— PEACE展示動物問題チーム (@team4wild) November 4, 2024
海と水槽の悲しい対比
イルカとシャチのプールの向こうには自然の海が広がっていた。時間とともにに変化していく海の色と、画一に塗られた青い塗料の水槽。自然の海の広さと、人工の水槽の狭さ。人は海で遊ぶけど、海の生き物は海に戻れない。
出口付近ではかつて神戸市立須磨海浜水族園で飼育されていた淡水魚の無料展示がある。うろこは剥げ落ち、尾ひれはぼろぼろの魚たち。だから無料で展示なのだろうか。最後までつらい気持ちにさせる水族館だった。
教育目的という表向きの大義名分は、生き物娯楽消費と収益優先の本音にかき消されていた。
神戸市が誘致した、企業利益優先の水族館。その選択は正しかったと言えるのでしょうか。
動物の権利や福祉に関心を持つ人々がふえ、社会の意識が変わったとき、
なぜこのような非倫理的な選択がなされたのか、反省がなされることを願ってやみません。
参考文献
1 村山司『イルカの不思議』 誠文堂新光社、2015年
2 J-CASTニュース「ステージ降りないシャチ…母が手助け、観客ハラハラの20分 実は『遊びの一環』だった」2024年11月12日
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