アメリカには、動物実験代替法を評価し、行政的受け入れを勧告し、利用を推進していくための省庁間連絡委員会としてICCVAM(The Interagency Coordinating Committee on the Validation of Alternative Methods)という組織が設けられています。
動物を使う毒性試験は、複数の行政機関が所管する分野にまたがって関係してくるため、アメリカでも「縦割り行政」的な問題があり、円滑な代替法の推進のために設置されたそうです。動物実験の代替、削減、苦痛の軽減(3R)を推進するため、省庁間および国際間の協力関係を構築し、代替試験の開発や規制上の受入れ、そして実際の使用を促進することを目的としています。
5月21日、そのICCVAMの、今年の公開フォーラムがオンラインで開催されました。学界、産業界、市民団体、その他の主要なステークホルダーの間でのパートナーシップを促進するため、ICCVAMは毎年、公開フォーラムを開催しています。情報を共有し、利害関係者からのアイデアや提案について、直接のコミュニケーションを促すことを目的としています。
これまでは対面の開催でしたが、今年はオンラインセミナー(ウェビナー)として開催され、400人以上の視聴者が参加したとのことです。
聴講された方から、報告をいただきました。
ICCVAM(代替法検証省庁間連絡委員会)公開フォーラム2020 レポート
ICCVAMは、米国で行われる毒性試験に3Rを適用するために2000年に正式に設立された委員会で、20年を迎えるにあたり、これまでの成果がこのフォーラムで語られました。
LLNA(The Local Lymph Node Assay)が、ICCVAMに最初に提出された代替法として紹介されていました。1997年のことです。これはアレルギーに関する毒性試験ですが、この代替法のおかげで、モルモットの犠牲が大幅に減少したとされています。
しかし、最初の委員長であったBill Stokesの10年間では、185個の提案の中からICCVAMが承認した代替法は、たった4つでした。(皮膚腐食性のためのCorrositex、急性毒性のためのUp/Down法、皮膚感作性のためのLLNA法、眼刺激性のためのBCOPおよびICE法)
欧州では、この時点で34個の方法が認められていたことと比較すると、あまりに進捗が遅いと批判されることになったのです。
2番目の委員長は、Warren Caseyで、今回のフォーラムでも講演しました。
その中で、ICCVAM内に設立された新しいグループ「指標ワークグループ(Metrics Workgroup)」に言及しました。一般市民は、代替法が進んでいるかの「ものさし」をほしがっており、このグループは、代替法の進歩を、市民に知らせる方法を考えるグループなのです。
ちなみに、Warrenが任務についた期間に、多くの代替法が承認されています。
3番目の委員長は、今年就任したNicole Kleinstreuerで、今回のフォーラムの総合司会を務めました。緻密に物事を進める女性だと感じました。
Nicoleは、NICEATM(The NTP Interagency Center for the Evaluation of Alternative Toxicological Methods:代替法評価に関する毒性学プログラム省庁間センター)の最新情報を講演しました。
その中で、「トランスレーショナル・トキシコロジー・パイプライン」という考え方を説明しました。代替法には、QSARなどの計算予測法、細胞・組織レベルでの毒性試験、そして微量の化学物質を投与するマイクロドージングなど人体をつかった代謝試験等がありますが、単独の試験だけで毒性を判断するのは困難です。そこで、すでに行われた動物実験(急性、慢性毒性)のデータも含めて、集められた膨大なデータをつかって、化学物質の人体への悪影響をコンピューター計算しようという考え方で、今後のキーポイントになる方法だと述べていました。
また、ICCVAMには毒性試験を行うすべての省庁が参加しています。
このフォーラムでは、それぞれの代表者が、代替法の進展について語りました。
EPA(環境保護庁、日本で言えば環境省に近い)
EPAは、ほ乳類を使った毒性試験を2035年に撤廃すると宣言しました。
例えば、この省が担当する殺虫剤の毒性試験をどのように代替していくのかについて、同省のMonique Perronさんが語りました。同省では、動物実験が本当に必要なのかについて2000年初期から検討を始め、まず、2007年にイヌの慢性毒性試験を廃止しました。その後も必要のない動物実験は、通達を通して、その数を減らしてきました。
また、「Triple Packs」と呼ばれる代替法と動物実験を合わせて行う皮膚吸収毒性試験についても、代替法だけにすることを提案したところ、委員の誰も反対しなかったと語っていました。2035年の撤廃に向けて、自信ありげな態度を感じました。
FDA(食品医薬品局、日本で言えば厚生労働省に近い)
FDAは、薬や食品添加物の承認を行うため、多くの動物実験を企業に要求しています。そのため、同省が、いかに代替法に熱心になるかが重要です。
講演したのは、Suzanne Fitzpatrickさんで、同省の代替法ワーキンググループの委員長をしています。強調していたのは、定期的にウェブセミナーを開くので、企業は、考案した代替法を直接、同省に提案してほしいということで、強く訴えていました。同省では、2010年から生体模倣システム(例えば、小さなチップ上で育てたマイクロ肝臓)に、多額の補助金を出してきたことを説明していました。
EPAほどの積極性を感じることはできませんでしたが、少なくとも、代替法を否定しない態度は理解することができました。
パブリックコメント
フォーラムの最後に、動物保護団体のPETAがスピーチに立ちました。
PETAは、ご存じのように、世界最大の動物保護団体であり、医学系の大学を出た研究者を7人も雇用しています。そのため、このようなフォーラムにおいても、内容を理解でき、専門的なコメントをすることができます。
スピーチしたのは、Amy Clippingerさんで、ペンシルベニア大学で細胞分子生物学を学んだ研究者です。
彼女のコメントは、予想以上に、柔らかなものでした。まず、NAMs(動物を使わない、新しい毒性評価方法を考えること)というスタンスが、各省庁の決定候補に、明らかに入ってきたことをうれしく思うと述べていました。
また、代替法を開発する会社も、積極的に各省庁へコンタクトしやすい環境になってきたと述べていました。
最後に、OECDをはじめ、米国以外の機関との国際的協力をしっかりやっていってほしいとコメントを結んでいました。
フォーラムの動画やスライドも公開されています。下記リンク先を参照ください。
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