大分市によるウルグアイへのニホンザル寄贈計画問題~市議会会議録抜粋

高崎山のニホンザルの親子

大分市が、野生のニホンザルを捕獲してウルグアイの動物園に寄贈しようとしていることについて、大分市議会でも反対する声があります。井手口良一議員による質問と、それに対する市側の答弁、及び同議員による予算への反対討論の内容を会議録から抜粋します。

ここに問題が言い尽くされていると思います。

第1回大分市議会定例会会議録 (第7号)より抜粋

令和4年3月22日

○34番(井手口良一)(中略) 次に、ニホンザル寄贈事業についてお聞きします。
この事業が大分市の観光行政上、どのような効果があると考えているのか、理解ができません。来年には市長、県知事の選挙もありますが、そのような時期に、全国的に批判的な論議を巻き起こしかねない事業をやることを、多くの市民が危惧しています。

まず、国内法の問題です。

我が国では、餌づけ個体群を含む野生個体の捕獲は、鳥獣保護及び狩猟に関する法律上の捕獲とされています。我が国に生息するニホンザルは、農業被害防止を優先するあまり、種の保全の問題をはらみながらも、有害鳥獣駆除を優先してきました。しかしながら、今回は海外への寄贈を目的としているため、捕獲は有害鳥獣駆除行為ではありません。

また、捕獲個体を捕獲後30日以上続けて飼育しようとする場合及び他に譲渡する場合には、捕獲の許可とともに飼養許可も必要となります。飼養を目的とした捕獲と飼養の許可は県知事の権限です。県の意向についてお聞かせください。

○議長(藤田敬治) 佐々木商工労働観光部長。

○商工労働観光部長(佐々木英治) 今回のウルグアイへの高崎山のニホンザル寄贈事業につきましては、鳥獣保護管理法に基づき、博物館、動物園その他これに類する施設における展示を目的とした捕獲の許可を受ける必要があることから、現在、許可行政庁であります大分県と協議を行っているところでございます。

大分県としては、全国でもこうした事例が少ないことから、環境省と協議をする中、ウルグアイに寄贈するために捕獲したニホンザルが確実にウルグアイに届き、適切な環境の下飼育されるということが確認できれば、捕獲を許可することは可能であるとしており、引き続き、許可に向けた協議を慎重に進めてまいりたいと考えているところでございます。

○議長(藤田敬治) 井手口議員。

○34番(井手口良一) 次に国際法、この場合はワシントン条約に関してです。
ニホンザルはワシントン条約の附属書Ⅱに分類されており、国際間取引は可能ですが、輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要となっています。
大分市は1977年にはイタリアのローマに、1978年には韓国に猿を贈呈したことがありますが、日本がワシントン条約の締結国になった1980年以降、大分市がニホンザルを海外に寄贈したという話は聞いていません。
猿の研究で国際的に権威のある京都大学霊長類研究所は、ニホンザルが海外に流出しそうな場合、直接にも間接にも、流出を促進するような行為に手を貸すべきではないとしています。予算案を上程する以上、政府による輸出許可を得られるという確認はしていると思われますが、許可の要件には、受入国側の施設整備があります。その辺を含めて、国の意向について詳しい説明を求めます。

○議長(藤田敬治) 佐々木商工労働観光部長。

○商工労働観光部長(佐々木英治) 経済産業省のワシントン室に確認しましたところ、ニホンザルの輸出については、ワシントン条約第4条の2に規定される、当該猿の輸出が種の存続を脅かすものでないことなどの要件を満たせば、輸出をすることは可能という回答を頂いているところでございます。

また、同ワシントン室からは、受入国となるウルグアイにおいても、受入れについての事前手続が必要な場合もあるとの助言を頂いていることから、現在、在ウルグアイ日本国大使館の協力を頂く中、同大使館を通じて確認を行っているところでございます。

○議長(藤田敬治) 井手口議員。

○34番(井手口良一) 最後に、捕獲した個体の取扱いについてです。
捕獲した個体は、輸送の手続や防疫手続の間、どこかで飼養することになります。たとえプレジデンシャルスイートクラスのおりを用意したとしても、おりはおりです。捕獲直後特有の情緒不安定状態の猿たちの映像が、全国ネットで繰り返し放映されることを想像しただけで、大分市のイメージにどんな影響を与えるか心配になります。たとえ天然記念物指定区域内の猿ではないと説明しても、高崎山の猿というイメージを払拭できないでしょう。

おりの中で不安のあまりに攻撃的になっている猿の映像を見た人々がどう感じるかということを念頭に、所管課がこの事業に期待する観光事業への効果についてお聞かせください。

○議長(藤田敬治) 佐々木商工労働観光部長。

○商工労働観光部長(佐々木英治) 本事業は、ラグビーワールドカップ2019日本大会を契機として始まった、本市とウルグアイとの国際交流を一過性のものとせず、将来にわたり持続的なものとするために、市民に愛され、本市の観光を代表する高崎山のニホンザルを親善のかけ橋として寄贈するものでございます。

これまで、寄贈先となるウルグアイのドゥラスノ県知事からは、ニホンザルの受入れを希望する意思表示を頂いており、この取組が、良好な交流関係の構築と両国民の友好を深めるとともに、世界中のメディアやSNS等で話題となることで、高崎山自然動物園の知名度の向上と国内外からの誘客につながることを期待しているところでございます。

○議長(藤田敬治) 井手口議員。

○34番(井手口良一) 私は、南米での国際協力の現場で働いた経験から、南米での国際協力の難しさについて知っているつもりです。協力事業について合意がなされた後、カウンターパート側の資金不足やトップの交代などによって、その事業が暗礁に乗り上げたことも多々ありました。

我が国の単年度会計制度など理解できる素地もなく、ニホンザルを多頭飼育できる施設についての相手方の建設資金などについても、大いに不安が残るところです。

しかしながら、本議題についてこれ以上論議を深めることは、常任委員会に対しても失礼になろうかと考えます。あとは委員会での慎重な審議と、委員長報告に期待します。泥谷委員長、よろしくお願いいたします。

令和 4年 第1回定例会会議録(第8号)より抜粋

2022年3月28日

○34番(井手口良一)(登壇) 34番、無所属の井手口良一です。
議第1号、令和4年度大分市一般会計予算、第1条歳入歳出予算、歳出第7款商工費第1項商工費第5目高崎山自然動物園費第12節委託料のうち、動物園管理等委託料のうちのニホンザル寄贈事業並びにその関連予算700万円について、反対討論します。

本市の貴重な財源を使いながら観光面でのイメージアップが図られるどころか、動物を虐待し命の尊厳を軽視するとして反感を買い、大分市と大分市民の名誉をおとしめる事業になりかねません。

先ほど、経済環境常任委員長からの報告がありましたが、経済環境常任委員会に対しては、執行部側から詳細な説明があることを期待していました。少なくとも、委員長の御報告ではそれは伺えませんでした。私の一般質問で明らかになった不確定要素以外にも不確定、未確認の問題があり、それはそのまま事業の計画案立案の段階で十分な検討がなされていなかったことを想像させます。

この、国際交流や大分市の観光キャンペーンとしての性格を持つと言われている事業予算が、高崎山自然動物園費、その中でも維持管理に関わる動物園管理等委託料として計上されていること自体、大いに問題です。これでは、市民が高崎山自然動物のニホンザルを他国へ寄贈しようとしているという印象を持ったとしても、無理はありません。

また、寄贈しようというニホンザルについても問題があります。一つは、頭数に関することです。新聞報道などでは、30頭程度を捕獲して、そのうち健康状態などから15頭を選抜して寄贈するとありました。では、残りの15頭ほどのニホンザルの扱いはどうなるのでしょうか。

もう一つは、そのニホンザルたちはどこで捕獲するつもりかということです。高崎山自然動物園関連の予算から委託料が計上されているとはいえ、まさか天然記念物に指定されている高崎山自然動物園域内で捕獲するのではないとは私は理解しています。

しかしながら、天然記念物となっている高崎山自然動物園域内に隣接する高崎山の山域やその近隣地域では、野生の猿たちが天然記念物区域と自由に行き来することを市民なら誰でも知っています。たとえ天然記念物区域外で捕獲しても、高崎山やその近隣での捕獲となれば、多くの市民にとってはその猿たちは高崎山の猿なのです。

さらなる疑問は、相手先の受入れ態勢についてです。ウルグアイ国ドゥラスノ県には、確かにワシントン・ロドリゲス・ピキネーラ生物公園という施設があります。

ワシントン条約に関して、国はウルグアイ国の受入れ態勢について確認する必要があるとしていますが、その施設の受入れ態勢、中でも飼育のための施設についてはどのような確認作業がなされてきたのでしょうか。15頭ものニホンザルを永続的に飼育するためには、相当大きなおりか上野動物園や日本モンキーセンターにあるような猿山を建設する必要があります。そのような施設が既に先方にあるのでしょうか。これから建設するというのであれば、どんなものを想定しているのでしょうか。

ハード面のみならず、ソフト面でも心配なことがあります。ニホンザルをマカク属の猿は、東南アジアから東アジアにかけて生息する種であり、南米にはいません。南米に生息する猿は、比較的小型で温和な広鼻猿類と呼ばれるものです。ニホンザルを含むマカク属の猿など、大型の霊長類についての飼育経験のある飼育係がいるかどうか大いに危惧されます。

私の質問の際、受入れ態勢についての確認は、在日ウルグアイ大使館に依頼しているという答弁がありましたが、大使館員を仲介した確認だけで大事な大分のニホンザルを送り出していいものでしょうか。ラグビーボールを持って走っているニホンザルの姿を銅像にして送るというのであれば、私ももろ手を挙げて賛成したところです。

この事業が、生きたニホンザルを、しかも高崎山自然動物園費によって外国へ送ろうとするものであることに、むしろ憤りさえ感じます。そもそも、この事業の発想そのものが、大分市の観光の目玉は高崎山であり、高崎山の主役はニホンザルだからニホンザルを寄贈しようということですから、猿は高崎山自然動物園のニホンザルではないという、どんな抗弁も弁解も心ある市民には通用しません。

また、この事業の相手国が南米のウルグアイ国であることにも大きな危惧を感じます。

私は長年、南米で国際協力事業に携わってきました。南米の人々の気質について周知しているつもりです。ウルグアイは、1999年以降経済的に直撃され、その後干ばつや口蹄疫の発生も重なって、経済的な低迷にあえいできました。その後、一度はプラス成長に転じたのですが、2020年以降再びマイナス成長に落ち込んでいます。さらに、ここに来て新型コロナ感染拡大の影響も大きく、GDPの下振れ傾向を押し広げているところです。

私の尊敬してやまないホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダーノ氏は、2010年3月1日より2015年2月末までウルグアイの第40代大統領を務めて経済回復に奮闘しましたが、世界で一番貧乏な大統領として有名です。

今回の事業では、県も国も相手国の受入れ態勢を確認することが必要とは言っていますが、では国や県が責任を持って確認を取ってくれるのでしょうか。ニホンザルは、狭く劣悪な飼育環境下で飼育されると、鬱病を引き起こすことさえあると言われています。繰り返しますが、南米に生息する小型で温和かつ人によくなれる性質の霊長類とは全く違うのです。相手先施設の受入れ態勢を、いつ誰がどのように確認するのでしょうか。

在日ウルグアイ大使館に任せっきりで、大分市からは誰も受入れ施設や飼育要員について確認し現地に赴かないまま、猿の飼育環境についての確証もないままに、大事なニホンザルを送り込むという話自体、私は胸が痛む思いです。

さらに、来年2月に猿を送り届けるという予定のようですが、それまでに相手機関の準備が整っていなければどうなるのでしょうか。

事業予算そのものは、繰越明許で事足りるかもしれませんが、延期になってさらに長期間狭い場所に閉じ込められるかもしれない猿は、たまったものではありません。とても動物愛護を強く訴えている市政とは、整合性が取れている事業とは思いません。

以上の理由から、議第1号、令和4年度大分市一般会計予算、第1条歳入歳出予算、歳出第7款商工費第1項商工費第5目高崎山自然動物園費第12節委託料のうち、動物園管理等委託料中のニホンザル寄贈事業並びにその関連予算700万円について反対します。

 

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