発熱性物質試験に使われるウサギたち
発熱性物質試験に関し、カブトガニの血液を利用する試験法とその代替法について、これまで何度か取り上げてきました。でも実は、発熱性物質試験には、ウサギを使う試験法も存在します。
カブトガニの血液を利用する試験法は、細菌エンドトキシン試験(BET)と呼ばれ、グラム陰性細菌(大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌など)に由来する毒素を検出します。
一方、それ以外のグラム陽性細菌や真菌、ウイルスなどによる発熱性物質(非エンドトキシン)を検出するのが、パイロジェン試験(RPT)と呼ばれるウサギを用いる試験です。
これは、3匹のウサギを使う試験で、体重1.5 kg以上の健康なウサギが使われます。試験する物質を耳静脈にゆっくり注射し、その前後で発熱が生じているかどうかを比較します。発熱がある場合には、発熱性物質陽性の判定となります。試験に使われるとき、ウサギは自然な座姿勢のとれる緩やかな首かせ固定器に固定され、体温は直腸で測定します。この試験はウサギの再利用が認められていますが、発熱性物質陽性と判定された物質を投与されたウサギは、もう使えないとされています。
EUはウサギの動物実験を廃止する
ただし、このウサギの動物実験も、動物を用いない代替試験法である単球活性化試験(MAT法)が既に開発されています。
EUは、この単球活性化試験を2010年に欧州薬局方に導入済みで(EP Chapter 2.6.30)、発熱性物質試験におけるウサギの使用について、実験動物の使用数統計でも減少の傾向が見られます(21%減少)。
しかし、企業の自主努力に委ねていてもなかなか代替が進まないのは万国共通のようです。それでは問題だとして、欧州薬局方委員会は以前から段階的廃止を掲げていましたが、2024年7月、ウサギを用いるパイロジェン試験を廃止すると決めました。削除された欧州薬局方は、2025年7月1日に施行されます。
EUのプレスリリースによれば、世界中で年間40万匹のウサギが、この試験のために使われています。
プレスリリース European Pharmacopoeia bids adieu to rabbit pyrogen test in its monographs
日本は第十九改正日本薬局方で代替の実現なるか?!
一方、日本はどうでしょうか。日本の医薬品承認審査で用いられる試験法を定める日本薬局方は、まだウサギの動物実験の代替法を採用していません。
日本薬局方は、現在、第十八改正版が使われていますが、次の第十九改正の検討が進められている最中です。
第十九改正日本薬局方作成基本方針においても、「動物を使用しない試験法への代替(代替試験法)」の採用が盛り込まれていますので、日本も第十九改正でウサギの発熱性物質試験の代替をぜひ実現してほしいものです。
日本薬局方は、改正の合間に追補が行われることはありますが、回数は多くありません。第十九改正の次の第二十改正までウサギを犠牲にし続けるなどということがあってはなりません。国際協調において遅れをとりますし、動物の科学的利用の問題について鈍感な国だと自ら広めるようなものです。
医薬品医療機器総合機構動向:パブリックコメントで案が示されるも安心はできない?
最終的に承認するのは厚生労働省ですが、実際に薬局方改正の検討を進めているのは、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)です。
PEACEでは、PMDAの審査マネジメント部が日本薬局方第十九次改正へ向け2023年の6月に行ったパブリックコメントに、「現行のウサギを用いる発熱性物質試験法を削除し、in vitro発熱性物質試験法(MAT法)に差し替える」ことを求める意見を送りました。
2023年パブコメ当時の日本動物実験代替法評価センター(JaCVAM)の今後の活動計画より
その後、2024年9月のPMDAのパブリックコメントに「単球活性化試験による発熱性物質試験法の代替法〈G4-13-190」〉」が案としてかかったのですが、これで第十九改正での採用確定か?!と思いきや、関係者の方に聞いてみたところ、まだ確定ではない、わからないとのことで、驚きました。
今月5月21日~23日に開催された第72回日本実験動物学会総会でも「動物実験がなくなる? 代替法の可能性と限界を知る」と題するセミナーが開かれ、このウサギの発熱性試験の代替法の採用について、今後の見込みとして挙げられていたのですが、やはり確認してみると、確実に改正されると決まっているわけではないようです。
厚生労働省へ代替法採用を求める意見を!
ウサギたちを救うために、日本薬局方第十九改正で、なんとしても動物実験代替法である単球活性化試験(MAT法)の採用を実現させなければなりません。改正の検討を行っているPMDAは、あくまで科学的にどうかだけを判断する組織であって国民への窓は開いていませんが、この件については、厚生労働省が意見の窓口になると言ってくれています。下記のサンプルレターや関連情報も参考に、意見送信フォームから、ぜひ国民の声を届けてください!
日本薬局方の第十九改正の検討が進められていますが、「一般試験法」のなかのウサギを用いる発熱性物質試験法を削除し、動物を使わない単球活性化試験(MAT法)に置き換えてください。
欧州ではMAT法が既に2010年に欧州薬局方に収載されており、さらに欧州薬局方委員会は、MAT法が最良の代替法であるとしてウサギ発熱性物質試験の廃止を決定しています。国際協調の観点から、また動物倫理の観点から、生きた動物を使う試験法ではなく、インビトロの動物実験代替法への代替を進めてください。日本の動物愛護法も、
世界中で年間40万匹のウサギが犠牲になっていると言われていますが、代替法があるのにおかしいのではないでしょうか。
《参考》日本企業も対応が進む
2023年4月11日、朝日新聞に「医薬・化粧品でウサギの実験やめよう 島津製作所などが代替の新手法」という胸躍るタイトルの記事が載りました。島津製作所のMylc MAT法を紹介する記事です。これもウサギのパイロジェン試験を置き換えるもので、提携するマイキャン・テクノロジーズが開発した MAT 試験⽤ aMylc 細胞(ヒト末梢血単核球由来研究用ミエロイド系細胞)を使⽤することで、エンドトキシンのみならず⾮エンドトキシン発熱物質に対しても既存法より感度良く検出できるのが特徴だとしています。
医薬品やワクチン、化粧品の製造の際に必要だったウサギを使った動物実験をなくしていきます――。島津製作所は10日、そんな…
マイキャン・テクノロジーズは、2023年と2024年の日本動物実験代替法学会で、この新しい動物実験代替法に関するランチョンセミナーを開催しており、一作年は日本動物実験代替法センターの足利太可雄室長のお話、去年はEUの規制についてのお話を聞くことができました。
また、細菌エンドトキシン試験のために野生カブトガニを使い続けている富士フイルム和光純薬も、このウサギの発熱性試験について代替ツールを販売開始したと公表しています。カブトガニの利用からの撤退も早々に実現してほしいものです!
富士フイルムホールディングス傘下の富士フイルム和光純薬(大阪市)は27日、医薬品の安全性を実験動物のウサギを使わずに調べ…