日本政府の「健康・医療戦略」に動物実験代替法の開発が盛り込まれました!
令和7年(2025年)2月18日に閣議決定された最新の「健康・医療戦略」では、以下の部分で動物実験の代替について言及されています。
「Ⅱ 現状と課題」のなかの「2.3-1 出口を明確にした研究開発パスウェイの設定」では以下のように述べられています。
「第4期がん対策推進基本計画」、「21 世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本 21(第三次))」、「認知症施策推進基本計画」、ワクチン戦略、「第2期循環器病対策推進基本計画」、良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律(令和5年法律第 57 号)第8条第1項に規定する基本計画等に基づき、疾患領域は、がん、難病・希少疾病に加え、生活習慣病、神経疾患・精神疾患、老年医学・認知症、成育等についてはライフコースの視点で全体的なマネジメントを導入するとともに、感染症有事に備えた対応も含め、出口志向の研究開発を進める。また、我が国の強みである iPS 細胞の研究開発を始め再生・細胞医療・遺伝子治療を含む新規モダリティの開発、動物試験の代替方法の研究開発及び整備を行う。
また、「Ⅳ 具体的施策」においては、「4.2 研究開発の環境の整備及び成果の普及等」のなかの「(3)制度及び運用の充実」に レギュラトリーサイエンスや国際規制調和の推進についてのセクションがあり、そこで厚生労働省の施策として以下が挙げられています。
ヒト予測性の高い動物実験代替法等及び革新的治療機器へのヒト病態モデル法等の新規評価研究を推進する。(厚)
ずばり、動物に代わり得る新しい評価方法の研究開発が国の戦略のなかでも位置づけられたのです。
「健康・医療戦略」は、国民が健康な生活や長寿を享受することのできる社会を形成することを目的とした国の定める戦略であり、2014 年に制定された「健康・医療戦略推進法」に基づいて内閣に設置された「健康・医療戦略推進本部」(本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官及び健康・医療戦略担当大臣、本部員はその他国務大臣)が定めるものです。
これまで、令和2年と3年の「健康・医療戦略」には「動物実験等についての基本指針等に則り、適正な動物実験等の実施を確保する」ことは盛り込まれていましたが、動物実験の代替については盛り込まれていませんでした。
動物実験代替法の開発や整備が盛り込まれたのは今年が初めてです。
背景にあるのは実験動物不足か?
動物実験代替が国の戦略にもりこまれたのは素晴らしいことであり、昨今の国際的な動物実験の代替・廃止をめぐる情勢を考えれば当然とも考えられますが、日本でようやくこうしたことが国の方針に盛り込まれた背景には、実は実験動物として使われているカニクイザルの価格高騰の問題があるのではないかと思われる点は要注意です。
健康・医療戦略推進事務局と厚生労働省が、健康・医療戦略推進本部で開催される会議で下記のような資料を出しており、「健康・医療戦略」の中にも、「研究開発を推進する上で必要となる霊長類等の実験動物を安定的に確保するための方策について検討し、実施する」という一文が書き込まれているからです。

実験動物の安定的確保について書き込まれている該当箇所は、「4.5 次なる感染症有事に備えた研究開発体制の整備」のなかの、「 ワクチン・診断薬・治療薬の研究開発推進」についてのセクションです。
JIHS 及び関係機関と連携し、研究開発を推進する上で必要となる霊長類等の実験動物を安定的に確保するための方策について検討し、実施する。(文、◎厚)
JIHSとは国立健康危機管理研究機構のことであり、旧・ 国立感染症研究所と旧・国立国際医療研究センター が今年4月に統合されてできた組織です。
厚生労働省は、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて実験用のカニクイザルの価格が高騰、入手しづらくなった状況に対し、いくつかの研究班に研究費を出しており(下記一覧参照)、結論として動物実験関係者らはカニクイザルを繁殖維持している医薬基盤研(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センター)でのカニクイザルの繁殖拡大を待望している状況があります。
関連学会等の議論を聞く限り、動物福祉の観点等から施設の更新が必要であるため、今すぐには医薬基盤研で実験用カニクイザルをもっとふやしましょうとはならないようですが、動き始めてしまったら、不幸なサルたちの「増産」が始まってしまいます。
実験動物が手に入りづらくなって、ようやく動物実験代替にも関心を寄せるというのは何とも情けないですが、必要なのは動物実験の代替とそのための研究開発です。国民として、そのことを国に訴えていきましょう。
厚生労働科研費 報告書
- 日本におけるカニクイサル等(非ヒト霊長類)の需要と供給の現状把握と不足見込み数の推計並びに今後の検討・提言に向けた研究(三好班)
- 非ヒト霊長類の動物実験代替法に関する国内外の動向調査および開発に向けた基礎情報の取得に資する研究(足利班)
- 非ヒト霊長類の動物実験代替法等の薬事上の取り扱いに関する研究(小川班)
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