ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」第5期へ向けて文科省へ要望

ニホンザル親子

ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」第5期へ向けて文部科学省へ要望

ナショナルバイオリソースプロジェクトの第5期公募が始まる前に、文部科学省研究振興局長あてに、NPO法人 動物実験の廃止を求める会(JAVA)と連名で要望書を送りました。回答を2021年11月1日付でもらいましたので、各要望事項の後に差し込んで掲載します。

残念なことに、第5期のナショナルバイオリソースプロジェクトでもニホンザルは採択されてしまいました。

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ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」による 動物実験のためのサルの繁殖・供給の廃止を求めます

2021年9月29日

ナショナルバイオリソースプロジェクトに関する要望書

私ども2団体、PEACE 命の搾取ではなく尊厳を とNPO法人 動物実験の廃止を求める会は、動物実験の廃止を目指し、3Rの推進に取り組んでいるNGOです。

昨年、貴省の事業であるナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)で採択されている「ニホンザル」のプロジェクトに関し質問状を出させていただきました。そのご回答を受けて、その後、当該プロジェクトの中核機関及び分担機関へ公開質問状を計3回送りましたが、私どもが知りたい事項について、ほとんどご回答をいただけず、不信感を抱いております。

金額は非公開とのことですが、NBRP「ニホンザル」に配分されている予算のうち多くが割かれているはずである民間の再委託先について、現在飼育されているニホンザルがどうなるのかの問題は、特に気がかりです。母群として集めたニホンザルが多数不要になる事態はプロジェクトの失敗とも言え、研究者らの過大な見積もりに基づいて採択を行った貴省にも責任があると考えます。

現在、次期第5期の公募時期も近付いており、私どもとして、以下の点について貴省にお願いしたく、要望いたします。

【要望事項】

1.NBRP「ニホンザル」分担機関からの再委託先である奄美野生動物研究所で飼育されるニホンザルの処遇について、方針が決まり次第公表をお願いいたします。

NBRP「ニホンザル」開始当初、「動物実験の3R(代替、削減、苦痛の軽減)」は研究者の間でほとんど意識されていませんでした。法的にグレーな野生ザルが容易に手に入る時代の感覚のまま、研究者らが希望した数をもとに「母群1500~2400頭を集め毎年300頭を実験用に供給する」という過大な繁殖・供給数が目標として掲げられ、多くのニホンザルが集められました。

しかし、2006年の動物愛護法改正を経て、実験動物の使用に対する研究者の意識は変化し、実験で使うサルの数が減り、NBRP「ニホンザル」の供給実績は、当初の予測を大きく下回ることになりました。

国際的にも動物を実験に用いること自体に対し強い批判があり、動物実験代替の方向は強まる一方です。また、求められる動物福祉の水準も年々上がっています。このような中、ニホンザルの需要が目標に遠く及ばないことは、当然予測できたと私どもは考えております。

生理学研究所から事業の再委託を受けている奄美野生動物研究所は、今年の3月31日時点で172頭のニホンザルを飼育しているとのことですが、既に繁殖を行っておらず、このサルをどうするかが現在課題になっていると認識しております。

そもそもニホンザルを必要以上に集めすぎたのは人間の責任であり、事業に対する見込みが甘かったことの皺寄せがサルに行くのは間違っています。自然の環境に近く、福祉に配慮された環境で、余生を過ごさせるのが、サルを実験利用する研究者や、その実験結果から利益を得る事業者らとしての責任ではないでしょうか。

これまで、当該サルたちの処遇について、中核機関及び分担機関に計3回の公開質問状で質問してまいりましたが、未だ検討中とのご回答でした。検討が終わり、方針が決まり次第、速やかにその具体的内容を公表することを、NBRP「ニホンザル」に対しても要望しておりますが、貴省に対しても要望いたします。

重大な決定を公表しない秘密主義は、血税を用いる事業では許されません。また、例えば殺処分後に公表するようなことがあれば、科学研究に対する市民の信頼は著しく毀損されることでしょう。貴省から直接の公表が難しければ、NBRP「ニホンザル」に対し記者発表等を命じるのでもかまいません。どうか公表をお願いいたします。また、私どもにも必ずお知らせください。

【文部科学省回答】
リソースに関する事業方針については、実施機関において公表していますので、今後とも法令、ガイドラインに基づいて、実施機関が適切に行うよう指導助言を行います。

2. NBRP第五期の公募において、「ニホンザル」を採択しないでください。

国会質問への答弁により、2019年になってようやく、貴省がNBRP「ニホンザル」の再委託先の民間機関が奄美野生動物研究所であることを認めました。随意契約により毎年巨額の予算が支払われている民間企業がどこであるか、頑なに公表してこなかったNBRP「ニホンザル」及び貴省に対し、私どもは強い不信感を表明いたします。さらに、奄美野生動物研究所にこれまで毎年委託費がいくら支払われたかについても非公表とのことですが、この点に関しても強く抗議いたします。NBRP「ニホンザル」は、税金の使途に関し、不透明極まりない事業だと言わざるを得ません。このことは、NBRP事業そのものへの不信感も深めております。

また、奄美野生動物研究所でのニホンザル飼育が終了するのであれば、NBRP「ニホンザル」でサルの飼育・繁殖・供給を行う施設は、京都大学霊長類研究所だけになります。文部科学省のNBRP事業は、ライフサイエンス研究の基礎・基盤となるバイオリソース(動物・植物・微生物等)について、「体系的に」収集・保存・提供等を行うためのものであり、もはや一機関でしか繁殖・供給が行われていない種はプロジェクトにふさわしくありません。京都大学霊長類研究所は、もともと単独でRRS(リサーチ・リソース・ステーション)計画を立てており、NBRPに頼る必要はないはずです。また、そもそも奄美野生動物研究所の前身であった企業(2011年に倒産)が深刻な経営不振にあえいでいたことが、NBRP予算が必要だった理由であり、奄美野生動物研究所でのサルの飼育がなくなるのであれば、これも不要になります。

そもそも、霊長類を動物実験に用いること自体が倫理的に問題であり、国際的にも批判の声が高く規制強化の方向性にあるリソースに将来性はありません。これらのことから、NBRP「ニホンザル」は第四期で終了とし、第五期のNBRPには応募しないことをNBRP「ニホンザル」の代表機関及び分担機関に要望しておりますが、もし応募があった場合にも、採択しないことを、貴省に対し求めます。

認知能力も高く、社会性も強い動物種を飼育すること自体が問題であり、単独飼育を伴う実験や、身体的侵襲を伴う実験、心理ストレスを伴う実験などから、日本でも順次廃止していくべきです。京都大学霊長類研究所へも、実験供給用のニホンザルの繁殖・供給を中止することを要望いたしました。私どもは、科学は倫理的・人道的であるべきだと考えており、日本での実験用霊長類の使用の廃止へ向け、貴省にも決断をお願いしたく、要望いたします。

【文部科学省回答】
NBRP第5期の予算が措置された際には、その対象となるリソースについては公募し、その後の外部有識者からなる選考委員会において学術的観点からの審査を経て選定していただくものであり、特定のリソースの採択の可否については、予め決まっているものではありません。

3.NBRP第五期の公募において、新たな動物種の採択は行わないでください。また、ニホンザル以外の既存の動物種に関しても、できる限り採択を減らし、動物実験ではない研究手法の発展につながるプロジェクトをサポートしてください。

ニホンザルの繁殖・供給事業が先細りであるからといって、次期、第五期NBRPにおいて、他の動物種を新たに採択するようなことはしないでください。本年3月30日付けのナショナルバイオリソースプロジェクト推進委員会報告書「今後のバイオリソース整備の在り方について~ライフサイエンスの発展を支え、先導する事業に向けて」の中で、「新たな研究分野のために、研究動向も見据えた新しいバイオリソース の開拓も求められてくる」(8ページ)とあり、注に「今後の調査が必要であるが、例えば、ターコイズキリフィッシュ、霊長類モデル、フェレット、コケ植物(蘚苔類)等があげられる。」と書き込まれていることに、強い懸念を感じております。

科学において動物の使用を避ける方向は、近年ますます強まっており、例えばEUは、2010年に、加盟国に遵守義務のある「実験動物保護指令」において「動物実験の完全代替という最終目的のための重要な一歩」と明記しました。さらに本年9月15日には、欧州議会が、実験での動物の使用を積極的・段階的に廃止するための行動計画を確立するよう欧州委員会に求める決議を採択しています。今後、動物実験の廃止へ向けたロードマップを検討することになるでしょう。すでに、オランダのように、2025年までに実験動物に頼らないイノベーションの世界的リーダーになることを宣言している国もあります。

日本も、この波の影響は少なからず受けており、ターゲット創薬においてAIを活用し動物実験の段階を省略することが目指されていることや、患者のiPS細胞から難病発症の機序を研究することなどが、日々話題になります。

私どもは、NBRPそのものに反対しているわけではありません。動物実験の代わりとなる新しいアプローチ方法論(NAMs:New approach methodologiesの略)においても、ヒト細胞やヒト組織などの利用は不可欠です。日本は、患者由来等のヒト細胞・組織の使用に対し倫理的ハードルが高すぎ、それが新規動物実験代替法の開発のボトルネックになっているとも言われています。

どうか、動物を犠牲にしない観点から、バイオリソースの収集・供給事業を見直してください。新たな動物種について採択は行わず、既存の動物種に関しても、できる限り採択を減らし、動物実験ではない研究手法の発展につながるプロジェクトをサポートすることを要望いたします。

以上、よろしくお願い申し上げます。

【文部科学省回答】
2の回答のとおり、採択されるリソースの種類、数については、公募、外部有識者により学術的観点からの評価により選定されるものです。

なお、その際には、科学技術。学術審議会のライフサイエンス委員会基礎・横断研究戦略作業部会等において、ゲノム編集技術等の向上等により生体で収集・保存。提供する必要性の低いリソースが出てくることや、今後のライフサイエンス研究の動向を踏まえ利用実績や見込み等を考慮し支援するリソースの見直しを適宜行うべき等の指摘を踏まえて選定されるものと考えています。

参考ページ

2020年に文部科学省に出した質問書はこちらです。
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