信州大学の未承認動物実験は厚生労働省の指針違反ではないのか
信州大学の計画書未承認の動物実験の件では、厚生労働省の動物実験基本指針違反にも相当するはずであるため、研究費との関連について下記の疑義照会文書も送付しました。
下記の文書に加え、追加の資料を送り、督促も何回かしましたが、結局回答をいただけないままになっています。平成28年度はマウス実験は中止されましたが、翌年の平成29年度は東京医科大学が、全く別のマウスを使った実験を行っています。あくまで信州大学がマウス実験を止めただけでした。
2016年12月22日
厚生労働省健康局健康課
予防接種室長 江浪 武志 様
「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と
情報提供についての研究」における
動物実験基本指針違反に関する疑義照会
日々の御公務、誠にお疲れ様です。私どもは現代社会の中で苦痛や犠牲を強いられる動物たちの問題に目を向け活動をする市民グループです。貴省が国立大学法人信州大学の研究班(代表者池田修一教授)に対し厚生労働科学研究費補助金を拠出している「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究」に関し、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針(以下、動物実験基本指針)」への違反があったものと考えられます。
事実関係について調査・認定の上、研究費応募資格停止等、適正な対処を行ってほしく、本書状を送付させていただきました。
厚生労働科学研究費補助金を所管する大臣官房厚生科学課に確認したところ、このような疑義の申立て並びに回答に対応するべき部署は予防接種室であるとのことでしたので、室長の江浪様宛送付させていただきました。
詳細は以下の通りとなっております。よろしくお願い申し上げます。
経過1・信州大学が未承認実験について公表
信州大学は、本年8月10日付けで「信州大学医学部における未承認実験とその対策の実施について」(別添資料①)という文書を公表しており、この中で、動物実験委員会からの承認を得ずに行われた動物実験があったことについて書いています。
この未承認の動物実験が何の実験であったかということについては、同じく8月10日付けで当会宛に情報開示された動物実験計画書のうち、課題名「NF-κβp50ノックアウトマウスを用いた各種ワクチン接種後の神経細胞変性に関する研究」(別添資料②)であることを信州大学は認めています。
この実験計画書は、「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状に関する厚生労働科学研究事業」のために行われた動物実験について限定して当会が情報公開請求を行ったところ開示されたものであり、厚生労働科学研究費補助金が用いられたものであることは間違いありません。
本年3月16日に厚生労働省が開催した「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状に関する厚生労働科学研究 事業成果発表会」で公表されたマウス実験の内容にも、n=1であった等のその後の研究不正調査結果を除けば、一致します。
しかし、この計画書の提出日・受付日・承認日は本年7月22日となっており、成果発表会(3月16日)や、当会による情報公開請求日(6月20日)よりも後に承認されています。ちなみに、7月22日は、当会へ送付する「法人文書開示決定通知書」が作成された日です。
つまり、信州大学の動物実験委員会は、実験計画書が提出されず未承認で行われた実験であったことを認知しながら事後に承認を行うという極めて超越的な対応をとったことになります。そのようなことが動物実験基本指針の運用上許されているとは到底考えられず、動物実験は事前に審査を受け適正に実施されているという貴省及び文部科学省、動物実験関連団体等からのこれまでの説明とも大きく食い違います。
また、当会への法人文書開示決定通知の日と実験計画書の承認日が同日であり、かつ最終的な文書開示日と未承認実験に関する公表日が同日であることからも、情報公開実施までに信州大学が学内で対策をとったことが伺えます。
そもそも、平成26年7月1日以降の実験を全て平成28年度に承認するというのは、極めて悪質です。
特に、未承認のまま動物実験が行われていたのは、平成28年度だけではなく、平成27年度もであることにご留意ください。少なくとも平成27年度については、既に「総括・分担研究報告書」が公開されており、そこに記載されている動物実験についても、貴省への報告があった時点で、全期間にわたり動物実験が承認されていた事実がありません。厚生労働科学研究費補助金の採択については1年ごとと伺いましたので、平成27年度に違反状態であったにもかかわらず、平成28年度も採択されたということになります。
平成27年度にしろ、平成28年度にしろ、動物実験が行われた際に動物実験基本指針違反であったことに違いはありませんが、事後に承認するといったことが認められるのであれば、「動物実験には動物実験委員会による審査・承認が必要である」という、国が進めてきた体制整備自体が崩壊いたします。
経過2・信州大学は子宮頸がんワクチン研究を緑内障研究の継続実験だと主張
信州大学は、前述の資料①「信州大学医学部における未承認実験とその対策の実施について」において、「動物実験計画の再申請を行わず、学長承認を得ずに実施していた」とし、まるで継続申請が行われていなかっただけであるかのような言い訳を述べていますが、この再申請が行われていなかった元々の実験が何であるかを当会が確認したところ、信州大学からは、平成23年度承認の「正常眼圧緑内障モデルマウスを用いた神経保護、網膜再生の研究」(別添資料③)と題された研究課題であると回答がありました。
この緑内障研究の動物実験と、今回問題になっている子宮頸がんワクチン研究の動物実験で共通しているのは使用するノックアウトマウスのみであり、実験の目的も、手法も(ひいては代替・苦痛の排除・使用数等に関して検討すべき事項も)、用いられた研究補助金の出どころや採択内容も、また研究結果の公表場所も、全て異なっています。
信州大学の動物実験委員会がこの2つの実験を一連の研究とみなしたとの回答を大学から得ていますが、例えば、子宮頸がんワクチン研究の名目で出ている厚生労働科学研究費補助金を緑内障研究に流用することは可能でしょうか。そのようなことは許されていないのではないでしょうか。
緑内障研究については、既に過去に信州大学の別の研究者に対して「正常眼圧緑内障モデルマウスを用いた神経保護、網膜再生の研究」(別添資料④)という研究課題で文部科学省の科学研究費が支払われており、研究成果として挙げられている論文(別添資料⑤)に子宮頸がんワクチンの未承認実験の実験責任者も名前を連ねています。
また、資料③の実験計画は、平成24年に変更の手続きがとられていますが、その際の実験計画書の有効期限は平成26年6月30日であり、資料③に添付しました報告書を見ても、平成26年度中に実験が終了していることは明白です。
明らかに緑内障の実験は独立した過去の研究であり、子宮頸がんワクチンの研究を一連のものとみなしたという信州大学の言い訳は通用しません。
事実、資料②の「NF-κβp50ノックアウトマウスを用いた各種ワクチン接種後の神経細胞変性に関する研究」の実験計画書では、信州大学の動物実験委員会自らが「継続」ではなく「新規」として受付けており、これを実験終了後に承認しています。大学側が一連の研究であり継続で承認したと主張する内容とは、事実が異なります。
また、万が一、「同じマウスを使うから一連の実験だ」との論理がまかり通ってしまえば、ほかの実験でも同じ系統のマウスを使っていれば一連の実験であるとの言い訳が通り、全国の動物実験委員会の業務に悪影響を及ぼすことでしょう。
以上、実験が継続であろうと新規であろうと、動物実験が実施されたときに未承認であった事実に変わりはありませんが、信州大学の言い訳に惑わされることなく事実を調査・認定し、適正に厚生労働科学研究事業の運営をしていただきたく、厳にお願い申し上げます。
厚生労働科学研究費補助金の原資は我々市民の払う税金であり、ルールを守らない研究者に支払われることがあってはならないものです。また動物実験は、行われている事実だけを見れば動物虐待と区別がつかない行為です。貴省が何のために動物実験基本指針を策定しているのか、原点に立ち返り、適正な運用をしてくださいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
なお、この照会に対するご回答を文書にてお送りくださいますよう、お願い申し上げます。