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「iPS細胞研究の創薬への応用」

日本学術会議薬学委員会生物系薬学分科会・日本薬学会シンポジウム
「iPS細胞研究の創薬への応用」

2013年1月11日

聞くことのできた部分から、専門的な話ははぶき、iPSと創薬、ひいては動物実験の代替につながる部分の動向について、概略をまとめました。

●ヒトiPS細胞由来神経細胞を応用した薬物安全性評価システムの開発

 国立病院機構大阪医療センターの研究者から、神経系の研究をin vitro(培養細胞などの試験系)で行うことについてのお話でした。

<概略>
 神経毒性をin vitroで調べることは、実は結構難しい。神経系の創薬では従来、主に動物細胞を用いて初期実験をし、動物を用いて研究する。その後は、もう臨床試験。しかし例えば最近発売された抗てんかん薬では、動物実験レベルではそれほど有効ではないのに、ヒトでもっていくといい効果が出た。従来は動物実験の結果が重要視されてきたが、必ずしも動物実験の結果は人に外押できない、となってきた。ではin vitroでやればいいかというと、ヒト神経細胞を使ったシステムはほとんど皆無で、この分野のシステムの確立にはブレイクスルーが必要だった。

 1992年、神経幹細胞を増殖する技術開発はあったが、分化能に限界があり、胎児由来の細胞を使う点で倫理的問題もあった。製薬会社が使うことは現実的に無理だったので、結局この分野はなかなか進まなかったが、iPS細胞はブレイクスルーとなるだろう。倫理の問題を乗り越えて、多機能幹細胞が手に入るようになったからだ。

 どういう神経がほしいのかというのも問題だった。神経系の創薬でほしいのは、例えばパーキンソン病ならこの神経、アルツハイマー病ならこの神経というものがある。ES細胞を用いる技術開発はあったのだが、倫理的問題があった。iPS細胞なら、ヒトの神経幹細胞から分化誘導させることが患者由来の細胞ででき、大規模スクリーニングにも対応できる。iPS細胞のすぐれた分化能はいろいろな開発系に応用できるだろう。いま、iPS細胞を用いた神経毒性系の評価系をつくる研究開発をやっている。毒性としては、急性毒性、慢性毒性のようなものであったり、従来難しかった発達神経毒性であったりする。

 実例としては、iPS細胞を神経系の細胞にもっていくのは簡単そうで難しい。肝臓などよりはつくりやすい細胞なので神経細胞にはなるのだが、創薬ではだれがいつやってもできる方法がほしい。そこで考えているのはマイクロデバイス(チップ)上で三次元培養する方法だ。分化誘導にも使える簡便な方法だ。

 毒性評価をハイスループットで行なうときに問題になるのは、神経幹細胞が増えるのに100時間前後かかること。だからなるべく小さいスケールでやりたい。毒性があるかないか、実際にいろいろな薬剤のスクリーニングを行なってみた。人の体内にある幹細胞に対して毒性があるかないかなどは従来調べられてこなかった。がん幹細胞をねらった薬剤などが開発されてくると、正常幹細胞への副作用を調べる必要が出てくるのではないか。

 神経細胞系アッセイ(試験)の落とし穴は、細胞のマチュレーション(成熟)かもしれない。ネットワークを形成をしているか、またその時期を評価しないといけないが、むずかしい。20日くらいだとレスポンスしないので、1カ月くらい培養しないといけない。30日でいい試験系になるが長く培養すればもっとよくなるかもしれず、(時期によってわかるようになることが違うので)どういう目的のためにどういう試験をやっていくのか、このあたりの標準化が必要となっている。

●医薬品の研究開発におけるiPS細胞の利用

 武田薬品工業の研究者のお話です。同社は、慶応大学とiPS細胞の研究で共同研究を行っています。かなり期待の持てる話でしたが、会場からは「バラ色すぎるのでは」の指摘もありました。

<概略>
 製薬会社にとってiPS細胞とは、化合物の安全性や有効性の判断に使えるのではないかとか、疾患特異的なiPS細胞の活用によって病態の解明や画期的治療法の開発ができるのではないかとか考えられている。創薬と再生医療も切り離せず、iPS細胞は製薬会社に影響をあたえる技術。ヒトiPS細胞の検討を、2008年終わりくらいから開始した。ただし、これによって「こういう薬ができました」というわけではない。

 創薬には時間とコストがかかるので、必要なのは効率化である。従来使われてきた株化細胞は、よくふえるということは、がん化のシグナルが動いているということで、正常とは少し違う。ヒトiPS細胞の利点は、入手が比較的容易で、培養系で作成でき、ハイスループットに対応でき、倫理的ハードルも低く、患者からとれるなどであり創薬につかえると考えられる。iPS細胞の応用については、再生医療では拒絶反応や発がん性が取り沙汰されているが、in vitro試験系に用いるのなら、その点は問題とならない。

 どのような場面に使うかというと、難病や有効な治療法のない病気への創薬や、医薬品開発の効率化などにiPS細胞を使いたいと考えている。難病というのは、原因が不明で患者は少なく、たくさんの患者で研究できない。そこでiPS細胞で研究できないかという話になってくる。患者由来のiPS細胞のバンク化して、in vitroの試験ができないか。利点はあるが、発症プロセスをin vitroで再現することができないと使えない。それができれば、創薬につながる。これは難病以外の一般的な疾患も同じ。今までにないストラテジーが生まれてくるのではないか。

 成功の鍵は、分化誘導にある。ツールとして使うには、ロットごとの差が少なく、複数ドナーから同じようにつくれるとよい。こういうところが解決できれば医薬品の評価ができるようになるが、今までの研究では可能ではないかという感触を得ている。

 創薬のスクリーニングでは非常にたくさんのものからどんどん必要なものを絞りながら探していく。一刻も早くスクリーニングをしたいので、多くの被験物質を早く正確に、コスト低く、行なえることが重要。数百万化合物から探す。最近の創薬では、フェノタイプスクリーニングといわれるものが行なわれている。今後はiPS細胞が使われていくだろう。

 スクリーニングの次に、果たして生体内で効くのかを調べる。薬が効くには、標的臓器へ到達して、有効な濃度を保っていなければいけない。従来の開発では、動物で試してヒトで失敗というパターンは結構ある。ヒトと動物は違うので、iPS細胞を使えば、ヒトでOKだということが先にわかる。動物はその確認のために使う。効率はあがるのではないか。薬効の確認についても役に立つだろう。「動物の薬をつくっているのではない」とよく上司からも言われたものだ。最初に動物でフィルターをかけると、もれが起きるので、これは機会の喪失である。先にiPS細胞によって、ヒトに効くことを確認したい。ドロップを防ぎ、より効果的な医薬品の開発につながるのではないか。

 次は安全性だが、従来法だと、動物で大丈夫でもヒトでだめということがあるが、ヒトで大丈夫ということをiPS細胞でやっておけば、成功確率があがる。そのためには正しく評価できる評価系が必要。こういうところを見れば安全というのは、ある程度のコンセンサスは必要。武田だけが言っていてもだめ。動物実験の削減などの努力についても、標準化をしながらやっていかなければならない。iPS細胞の研究についても、独自性を追及しつつ、基準(レギュレーション)で認められていく必要がある。臨床試験に入ったときの、リスクを下げたい。

 また、薬剤の感受性には個人差がある。iPS細胞を使って、こういう患者さんに対してはいいというようなことがあらかじめわかれば、メカニズムに入っていけるし、治験のデザインにも生かせる。

 では、現在どこまでできているのか? 細胞の入手と倫理の問題は、大体クリアできているが、個人差については、共同研究などでこれから拡大していくしかない。ハイスループットについては、現時点ではそこまでいっていない。これは道具があれば解決するが、モデル化は、そこまでは行っていない。病因の解明は、これから重点的にやっていきたい。iPS細胞技術は、製薬会社に大きく影響を与える基盤技術である。

●iPS細胞研究の創薬への応用:研究支援者の立場から

 研究者ではなく、京都大学iPS細胞研究所(所長は山中教授)で研究支援を行なっている立場の人からのお話でした。

<概略>
 同研究所はiPS細胞中核研究拠点であり、まだ未熟な基盤技術であるiPS細胞を確固としたものにするのが目的。10年目標には、知財確保、再生医療用iPS細胞のストックの構築、前臨床から臨床試験への移行、難病希少疾患の治療薬開発が挙げられている。昔は論文発表が目標だったが、今は知財確保や産学連携、情報発信なども必要で、技術も高度化している。広報なども専門家が必要。研究者が研究に専念できるように、支援の仕事をしている。

 iPS細胞の強みは、自由自在に利用できること、疾患の原因解明に使えること、など。わが国発の技術で、期待も大きく、追い風がある。しかし、課題は山積である。細胞誘導技術や、病態解析、創薬ターゲット探索などは、まだこれからである。そして、強い競争にさらされている。創薬研究におけるアカデミアの役割は新知見の発見。産学連携によってある時点からは企業にバトンタッチするべき。研究所としては特許の取得や共同研究に力を入れている。

●iPS細胞を用いた安全性評価試験が行政的に受け入れられるために
 
ずばり、日本の動物実験代替法評価センター(JaCVAM)からのお話です。iPS細胞技術が動物実験の代替につながっているのが間違いないことがわかりますが、そのためには、年月が必要で、乗り越えなければならない課題がさまざまあることもわかります。世論の後押しも必要です。

<概略>
 安全性試験は、国際的に妥当性が認められて初めて広く使うことができる。高いレベルの安全性や、国際ハーモナイゼーションが必要。新薬の承認申請において、臨床試験に入った後で開発中止となるのは、動態が理由のものは減ってきていて、安全性が理由のものがふえてきている。動物とヒトの間には種差の問題があることがわかる。

 アメリカでは、動物実験より臨床試験を増やすような意識が広がっている。試験法の国際調和が必要。動物実験の3R、極力動物の利用を削減しようといった傾向は、かなり世界的に普及している。安全性、コスト、3Rのバランスをとりながら試験戦略を考える必要がある。まだいいin vitro試験がない試験分野はいろいろあり、どのようにin vitro試験を使っていくか考えなければいけない。単に動物実験を止めればいいわけではない。
 
 試験法は、まず科学的妥当性が確かなものになってから、バリデーションに2~10年、テストガイドライン化・行政的受入れに2~3年かかる。データ改ざんなどが起きると支障になる。試験法の構築には、目的との整合性も大事である。2つに1つはプロトコールがなっていないし、開発者の思い込みや誤解があるのは問題。また、試験法というのは、自分しかできないような方法はだめで、ある程度の人ならだれでも使える方法でなければならない。バリデーションにかかわらないピアレビュアーの評価が行なわれるなど、行政的受入れには時間と手間がかかるもので、評価センターはEU、アメリカ、日本などにある。日本だけで試験法をつくっても国際的には認められない。

 行政的受入れの際の問題としては、まずin vitro試験の限界がある。安全性試験として、単独でできる方法はない。仮にiPS細胞でいい試験ができたとしても、それはスクリーニングとしては有用だが、レギュラトリーサイエンスとして安全性が担保できるかどうかは非常に難しい。すでにある代替法も、ほかの試験との組み合わせが必要。ヨーロッパでは、動物実験の前にin vitro試験をしろという風潮も出てきている。動物実験を行なう理由を明確にしろということだろう。in vitro試験は有害性の評価には使えるが、リスク評価はできないことが致命的。薬物動態をうまく活用する必要がある。また、行政的には、偽陰性の多い試験法は認められない。

 バリデーションの問題としては、適切なプロトコールがみつかるまでバリデーションを繰り返さないといけない。シンプルでわかりやすい試験法である必要があり、データのスクリーニングや、統計学的な処理も必要。被験物質は適切な種類と数が必要で、作用機構が明確であるべきである。

 実際のところ政治的駆け引きもいる。必要だという機運が高まらないとだめだし、類似した試験法のつぶしあい、足の引っ張り合いもある。日本の意識は、アメリカ、ヨーロッパに頼る感じがあるが、欧米は社会的意義で開発している。JaCVAMができるまで、何と日本人がつくったテストガイドラインはひとつもない。しかし、研究開発の場でインハウスのバリデーションをとおして創薬開発などに使われるものも多いだろう。その中でもまれたいい方法が、将来的には行政的受け入れにも耐えるだろう。

 ゴールは、国民の安全性を守ることにある。iPS細胞は、細胞の安定供給などがまだまだ課題。必要性が認知され、協力者が現れる必要がある。また、簡便で科学的裏付けのある試験法が必要。10年後、勝ち残れる試験法を開発してほしい。iPS細胞が出てきたことによって新しい試験法が出てくる道が開けたので期待はしているが、JaCVAMのキャパシティの問題がある。

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