アジアゾウの今を考える~タイ現地レポート2025《PART 1》

2025年2月、PEACEのスタッフがタイを訪問しました。アジアゾウに関連する施設や保護区を巡ってきましたので、PART1~2の2本に分けてレポートをお送りします。
PART1では、木下サーカスが寄贈したというゾウの病院はどこにあるのか? 木下サーカスに聞いても回答はなく、現地を訪問して尋ねてきました。ゾウの観光利用について考えます。
ゾウ乗りやショーまでもある「保護」センターには
木下サーカスの病院はなかった
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木下サーカスが寄付したという病院が見つからない
木下サーカスは1999年に、タイのランパンにある国立エレファント・コンサーベーション・センター内にゾウの病院「キノシタ・エレファント・ホスピタル」を建設したと、サイトに掲載しています。しかしセンターを訪ねてみたところ、そのような名前の病院はなく、付属するゾウの病院のスタッフも木下サーカスのことは知りませんでした。
「キノシタ・エレファント・ホスピタル」は過去にあったが名前が変わったのか、木下のサイトの写真に記憶はないかなどを現地で聞いてみましたが、答えられるスタッフはいませんでした。事実は判然としませんが、少なくとも現在、現地に「キノシタ・エレファント・ホスピタル」が存在しないことだけは確かです。〔追記:木下サーカスが、ゾウの病院が存在しないことを認めました。詳しくはこちら。〕
国立の施設だが、ショーやライドなどの観光サービスだらけ
観光用のゾウ乗り(エレファントライド)やゾウのショーは、いまや厳しい批判にさらされていますが、木下サーカスが病院を建設したとしているこのセンターは、ゾウの使役やショーを観光客に披露し、ゾウ使い体験をさせていました。センター内の病院でゾウの治療を行う一方で、ゾウ乗りやゾウの絵描き、ゾウの材木の運搬などもあり、ゾウ使いによるショーも行われていたのです。
ショーは午前中に2回行われており、訪問した時間帯では既に終わっていたのですが、この日は森林局の役人の視察があり、特別にショーが行われていました。
ゾウの絵描きは、実際にゾウが絵を描くわけではなく、ゾウ使いが筆を持たせたゾウの鼻を手でもって描かせています。つまり、描かれた絵はゾウ使いの画力によるものに過ぎませんが、この絵はグッズとして販売されています。ゾウは、終わったら、鎖で係留されていました。
ショーなどではゾウに何か指示するときにブルフックが使われ、つんつん突いていました。
母ゾウから子を引き離してトレーニング
このセンターでは、子どものゾウは1歳半までは母親と一緒ですが、その後はトレーニングにまわします。このトレーニング施設を、「保育園」とよんでいました。案内をお願いしたガイドさんが数年前に役人をこのトレーニング施設に案内したことがあると言っていましたが、誰でも行けるところではないそうで、予約は必須ですし、一般人が入れるかどうか不明とのことでした。暴力で抵抗できなくさせ子ゾウの心を折る「パジャーン」が行われているのかどうかも聞いたのですが、はっきりとはわかりませんでした。
ただ、母子の引き離しがあることは間違いありません。ゾウは本来、母系の群れで暮らし、群れ全体で子育てをする動物です。
国立エレファント・コンサーベーション・センターは行くべき施設ではない
ここは、自然に囲まれた環境でゾウたちは水浴びもできるので、飼育も長距離移動も狭い鉄のコンテナの木下サーカスのゾウや、コンクリートの狭い環境で飼育される日本の動物園のゾウよりは、ずっとましといえます。
しかし、ゾウ使いがゾウに乗りながらのショーがあるのはやはり疑問です。タイではそれだけゾウ乗りや使役が根強いのだろうと思いました。
「責任ある観光」を推進するイギリスの旅行代理店兼出版社、レスポンシブルトラベル(Responsible Travel)は、「私たちが支持しないエレファントパーク」の中にこの国立エレファント・コンサーベーション・センターを含めています。
Elephant sanctuaries which we do & dont support. Honest and…
また、旅行サイトのトリップアドバイザーでも「Does not meet animal welfare guidelines(動物福祉のガイドラインをみたしていない)」とされ、センター内で行われているゾウ乗りやショーに批判的なレビューも多く投稿されています。
木下サーカスの寄付先だから安心などと思って訪問しないでください。むしろ、ショービジネスと一体の場所だからこそ、木下サーカスは、このセンターに病院を寄付したと思うのです。
有名なゾウの病院と間違えないで!
というのも実は、この国立エレファント・コンサーバティブセンターのすぐ近くには、民間で運営されている別の有名なゾウの病院が存在します。 世界初となるゾウ専門の病院「FAE (アジアゾウ友の会)エレファントホスピタル(Friends of the Asian Elephant Hospital)」(レポートPart 2を参照)がそれで、1999年に地雷で足を失ったメスのアジアゾウ「モタラ」に義足を提供して治療を行なったことで世界的に有名になりました。ここは木下サーカスがサイトに書いているゾウの病院とは異なる、別のパイオニア的な病院であることに注意が必要です。
木下サーカスが病院を寄付したと書いてるのも1999年ですが、なぜこの病院を寄付先にせず、ショービジネスを行う国立エレファント・コンサベーション・センターを選んだのでしょうか。木下サーカスのゾウは、現在はラオスから借りていますが、以前はタイ政府と契約をして、タイから連れてきていたのです。絶滅危惧種であるアジアゾウを営利利用するには、収益の一部を保護に回す名目が必要だったのでしょう。
レスポンシブルトラベルも、ゾウ病院と国立エレファント・コンサベーション・センターを間違えないでくださいと書いています。
アジアゾウの今を考える~タイ現地レポート2025 Part 2へ
追記(2025年5月8日)
木下サーカスが、タイに「キノシタ・エレファント・ホスピタル」が存在しないことを認めました。詳しくはこちらをご覧ください。
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本年2月、PEACEのスタッフがタイを訪問しました。アジアゾウに関連する施設や保護区を巡ってきましたので、PART1~2の2本に分けてレポートをお送りします。PART 1 木下サーカスが寄贈したというゾウの病院はどこにあるの[…]