「欧州における農畜産業をめぐる最近の動き」参加報告
農畜産業振興機構のセミナーに参加した会員の方からのレポートです。
「欧州における農畜産業をめぐる最近の動き」
平成25年4月17日 alicセミナー https://www.alic.go.jp/
- スイスの次期農政改革 ~「農業政策2014-17」の背景と概要~
(株)農林中金総合研究所 首席研究員 平澤 明彦 氏
講演資料リンク - 欧州における酪農事情
農畜産業振興機構 調査情報部 矢野 麻未子
講演資料リンク
<セミナー内容>
EU圏内統一規格の市場で関税なしのEU酪農概況について、生乳クオータ廃止(生産量上限規制)による市場への影響を、先行実施のスイス事例から分析、今後随時実施予定のEU諸外国の概況報告と規制撤廃影響予測レポート。
1.EU酪農概要報告
2013年の堅調な夏場以降は、供給量は7割に減少すると予測され、生乳クオータ廃止(生産量上限規制)については、2015年3月31日まで段階的引き上げたクオータ量設定値を目標に段階実施、EU指令に即した加盟国別各基準と事情によって、生産力格差がしょうじている。各国作成義務ずけレポートからも規制廃止による影響は限定的と報告(スイスでは規制撤廃による市場価格下落影響を受け混乱)、今後はソフトランディングを目指す、段階的設定値以下で上下変動続けながら推移し、目標値達成は2022年想定で安定すると予測している。
2.酪農関連産業の再編
近年は対露輸出でチーズやヨーグルトなど乳製品の生産量の輸出が増加し、穀物由来の飼料を使用しない為トウモロコシなど飼料高騰の影響も限定され、対ユーロ安が寄与し、酪農生産市場が急速に拡大する。
一方、生乳クオータ廃止補助枠の削減も、認証制度効果2.5倍の付加価値による乳製品高価格化、機能性食品市場開拓、ホエイ活用の乳幼児粉乳補助食品開発強化など、競争力のある地域による生産拡大が、統一市場で優位に展開、現在、多国籍企業の乳製品部門撤退し食品部門編成が行われ、効率大規模経営可能な地域差が顕著化しつつある。アジア圏に進出し、中国と貿易協定を結ぶなど輸出活況な企業動向がみられる。
3.法改正への合意形成プロセス
CAP改革へ直接支払いでは、環境配慮を目的として一定条件をクリアできれば補助が支払われる。「greening」(受給条件の義務化)が特徴的で、これは直接支払い枠の30%予算を占める。
現在、世論及び関係者への合意形成に政府側はかなりの時間をかけ進めている。EU三者協議6月〆2013年を断念し、施行は2015年へずれ込むと予測される。
※CAP改革へ直接支払いの30%枠に、環境配慮を目的として条件をクリアで補助が支払われる「greening」: 受給条件の義務化(作物の多様化,既存の永年放牧地の維持,生態系重点地域の確保)
※ 近況更新情報「欧州委、CAP直接支払に「財政規律」発効を提案」http://t.co/oW9yvOJGhG
4.口頭報告&質疑応答
新たなミルクパケージ規則のEU諸国の違い
書面化の規則によるものが80%を占め、そのうちドイツでは事前契約によるもの80%で、契約内容の履行については、規制は機能していないとも言える。又イギリスは、行動プラクティスを遵守の縛り受ける35%の組合以外は民間による為、EU統一規格外に独自の契約内容を作成しコントロールを行っている。
<私感>
動物福祉や環境への配慮を条項に含む農業法のEU諸国事例として興味深い政策は、セミナー資料「スイス」農政改革で、1996年国民投票により可決された農業法が1998年成立し、次期農業法では目的規定に動物福祉が追加され、国民の強い支持を得ている。
EU全域では、2013年共通農業政策が検討され、規制手法を一部段階廃止しながら、酪農産業への取り組みを、保護制度から競争市場経済に転換させ、もう一方で一定の配慮条件に手厚い直接支払いを行う経済手法で、動物福祉含む環境保全の遵守を担保し、結果として生産者の育成と産業活性を達成する。
EU諸国では、酪農は伝統として風土と歴史があり、動物福祉に配慮した酪農生産を行う事で、生産者&企業&消費者に社会的利益が分配され、日本で指摘されるアニマルウェルフェアによる商品価格転換による消費者の不利益は生じないばかりか、総体的には高品質で安価な商品がEU圏内市場で提供されている実態がある。
EU共通指令に即し、圏内諸国が環境への負荷に配慮した政策を選択した結果、酪農に関わる消費経済活動においても継続可能な循環社会が実現されている。
別途参考資料