新日本科学米国法人に対する米国農務省告発状全文

追記:新日本科学の米国法人であるSNBL USA Ltd.は、この問題が起きた2年後の2018年、動物実験に関する部門を独立させる形で分社化し、その子会社(Altasciences Preclinical Seattle Inc.)をAltasciencesグループに事業譲渡しました。以後、新日本科学の前臨床試験(動物実験など)は、主に日本国内で展開すると公表がありました。

新日本科学の米国法人であるSNBL USA社の動物福祉法及び規則違反容疑に関し、行政法審判官(Administrative Law Judge、行政法判事)に告発状が提出されました。

この手続きは、法令への不適合事項が重大な場合や反復して違反が認められた場合に行われ、動物福祉法に基づく規制に違反した場合の行政の対応としては最も重いものです。事業者は告発状の事実を認めるか、審判を求めるか回答し、行政法審判官は農務省動植物検疫局(APHIS)と事業者双方による証拠に基づいて決定及び命令を下します。違反者に対しては、免許を一時停止または取消でき、罰金を科すことができます。1

(アメリカの動物福祉法では、動物取扱業者(主に動物の売買や輸送を行う業者、動物商)や展示業者が免許制、動物実験施設は登録制であり、SNBL USAは免許と登録の両方の番号を持っています)

動物の取扱いについて、何が争点となっているかが全て書かれていますので、告発状の全文を翻訳しました。訳には含まれていませんが、9月26日付けで受理のハンコが押されています。

原文


アメリカ合衆国農務省
農務長官の面前にて

件名:                ) 動物福祉法(AWA)事件登録書 16-0 187

SNBL USA社、ワシントン州法人、 )

被告発人            ) 告発状

本状に名前を明示された被告発人が改正動物福祉法(合衆国法典第7編第2131条以下参照)(以下、「法」又は「AWA」という)及びその下で公布された規則(連邦規則集第9編第1条1項以下参照)(以下、「規則」という)に故意に違反したと信じるに足る理由がある。それ故、動植物検疫局(APHIS)長は以下の容疑で本告発状を発する。

管轄申立て

  1. SNBL USA社はワシントン州法人であり、その訴状・呼出状送達のための登録代理人は、6605 Merrill Creek Pkwy、Everett、Washington 98203を所在地とするマーク・ホンダである。
  2. 本状にて言及される場合は常に、被告発人とは、法及び規則で定義されるところの動物取扱業者であり、かつ、AWA免許番号が91-B-0078である者である。
  3. 本状にて言及される場合は常に、被告発人とは、法及び規則で定義されるところの研究施設であり、かつ、AWA登録番号が91-R-0053である者である。

事業規模、法的対応履歴、善意、違反容疑の重大性に関する申立て

  1. 被告発人は、非ヒト霊長目を飼育し、それらの動物を研究又は試験の目的で使用している。被告発人は米国内で2つの施設を運営している。1つはワシントン州エバレットにある飼育・研究施設であり、もう1つはテキサス州アリスにある飼育・保有・輸入・研究施設である。被告発人は、2015年に1,455匹の動物を販売し、4,731,050ドルの総利益をあげたとAPHISに報告し、また、被告発人は、2014年に1,384匹の動物を販売し、5,072,619ドルの総利益をあげたとAPHISに報告した。被告発人は、2015年に研究用に2,891匹の動物を使用したとAPHISに報告し、また、2014年に研究用に3,249匹の動物を使用したと報告した。
  2. 2008年1月23日に、被告発人はAWA違反容疑について規則の合意条項に基づいて和解し、12,937ドルの民事制裁金を支払った。2009年9月23日に、被告発人はAWA違反容疑について規則の合意条項に基づいて和解し、1,406ドルの民事制裁金を支払った。
  3. 法のもとに発布された規則及び基準(連邦規則集第9編第3章)(基準)への違反によって、APHISにたびたび勧告されたにもかかわらず、被告発人は、最低限の必要条件を満たしてこなかった。2010年、APHIS当局は、被告発人の管理下にある動物3頭が死亡し、1頭が逸走した、という記録を入手した。すなわち、(1) 2010年1月8日、非ヒト霊長目の幼獣が、逃げ出せる隙間のある金網のフェンスを抜けて、飼育設備から逸走した。(2) 2010年1月25日、非ヒト霊長目の幼獣が、類似の金網フェンスから逃げ出し、飼育設備の外側パネルに頭が挟まって死亡した。(3) 2010年9月9日、非ヒト霊長目(HV22)は、そのフェンスから手を伸ばし、ドアの開閉用ケーブルを引っ張り、そのケーブルに絡まって死亡した。また、(4) 2010年10月25日、非ヒト霊長目(PeR2)は、フェンスの金網から手を伸ばし、開閉用ドアのケーブルを引っ張り、そのケーブルが首に絡まって死亡しているのが発見された。
  4. この告訴状において、申し立てられた違反行為の重大性は大きく、被告発人が満たさなかったその施設への最低基準において、38頭の非ヒト霊長目の死、そして、被告発人が提供できなかった、動物への十分な獣医学的ケアが含まれる。被告発人の、申し立てられた違反行為は、2011年12月26日から2016年5月4日という長期間に及んだ。

違反容疑

  1. 2015年12月10日頃、被告発人は、4件の別個の実験計画に関し、動物を使う活動を行うことを計画し、また、これらの実験計画に使用される動物数に対する十分な論理的根拠なしに、動物を使う進行中の活動1件において、大きな変更を行うと立案しており、連邦規則集第9編第2条31項(e)(2)に違反するものである。
  2. 2016年5月4日頃、被告発人は、2件の別個の実験計画に関し、動物を使う活動を行うと計画し、また、これらの実験計画に使用する動物数に対する十分な論理的根拠なしに、動物を使う進行中の活動1件において、大きな変更を行うと立案しており、連邦規則集第9編第2条31項(e)(2)に違反するものである。
  3. 2016年5月4日頃、被告発人は、訓練と指導を職員全体に確実にさせることを怠った。そして、その規則のもと、被告発人の責任を満たす、職員全体の資質が、十分な頻度で調査されておらず、連邦規則集第9編第2条31項(e)(2)に違反するものである。そして、具体的には、被告発人の持つ、6頭のマカクが死亡した肝生検手術の記録は、職員が十分に訓練されていなかったことを示している。
  4. 下記に示した日付頃、被告発人は、動物に適切な獣医学的ケアを施すこと、また、適切な施設、職員、装置やサービスの提供が可能かどうか、病気やケガに対し適切な予防や処置が行えるかどうか、すべての動物の日々の観察などについてなど、適切な獣医学的ケアプログラムを計画することを怠った。これは以下の通り、研究施設に適用される獣医学的ケアに関する規則、連邦規則集第9編第2条33項に違反しており、また動物取扱業者に適用される獣医学的ケアに関する規則、連邦規則集第9編第2条40項に故意に違反するものである。
    1. 2013年10月1日から9日にかけて。被告発人は、カンボジアのプノンペンから、アメリカのテキサス州ヒューストンへ840頭のマカクザルを輸送した。2013年10月1日、SNBLの獣医師は、動物たちはのどが渇いており、何頭か衰弱し、やせ細っており、前回の輸送時に比べて状態が悪いことを観察した。しかし被告発人はマカクザルに獣医療を提供せず、360頭はテキサス州アリスへ、480頭はワシントン州エバレットへ、運輸会社のストーン・オーク・ファームズ&トランスポート社(AWA免許番号32-T-0008)により送られた。被告発人の獣医スタッフは誰もワシントンまで同行しなかった。5頭が到着前に死亡し、到着後まもなくして、2013年10月4日、17頭が死亡もしくは安楽死となった。続く5日間の間に、さらに3頭が死亡した。死亡や安楽死した25頭のマカクザルは、脱水症状と低血糖(症)からくる多臓器不全の状態になっていた。連邦規則集第9編第2条33項(a)、第2条33項(b)(1)、第2条33項(b)(2)、第2条33項(b)(3)、第2条40項(a)、第2条40項(b)(1)、第2条40項(b)(2)、第2条40項(b)(3)。
    2. 2015年10月2日。被告発人はケージに1頭のカニクイザルを拘束した(研究265.42の動物番号10)。しかしサルの頭部がケージにはさまっていることを見落とし、サルは窒息死した。連邦規則集第9編第2条33項(b)(1)、第2条33項(b)(3)、第2条40項(b)(3)、第2条40項(b)(1)。
  5. 2012年6月11日から6月14日にかけて、被告発人は、動物にストレスやケガ、不要な不快さを引き起こさせないよう、可能な限り慎重に扱うことを怠り、動物取扱業者に適用される規則、連邦規則集第9編第2条131項(b)(1)や、研究施設に適用される規則、連邦規則集第9編第2条38項(f)(1)に故意に違反した。具体的には、被告発人の非ヒト霊長目の捕獲方法は、鎮静剤を使用するのに、網で捕らえるため、ケージに入るなどし、それが原因で2頭のブタオザルが異常高熱で死亡した。AQ2は2012年6月11日に捕らえられ、その後フィールドケージ内で衰弱が確認され、2012年6月12日死亡した。HA04は2012年6月11日に捕らえられ、その後〔脳卒中やてんかんなどの〕発作がおき、2012年6月14日安楽死された。
  6. 下記の日付頃、被告発人は、動物取扱業者に適用される、連邦規則集第9編第2条100項(a)に故意に違反し、非ヒト霊長目のための最低限の基準を満たすことを怠った。
    1. 2013年7月10日。被告発人は非ヒト霊長目のための居住設備を適切に修理・補修することを怠り、具体的には、ビル3Gの上部支柱のボルトがなくなっていた。連邦規則集第9編第3条75項(a)。
    2. 2013年7月10日。被告発人は非ヒト霊長目のための居住設備を適切に修理・補修することを怠り、具体的には、IOビルにおいて、多くのケージの金属の天井に、2つの穴があいていた。連邦規則集第9編第3条75項(a)。
    3. 2013年7月10日。被告発人は非ヒト霊長目のための居住設備を適切に修理・補修することを怠り、具体的には、病棟の天井が低く、動物が収容されている最上部のケージは天井タイルに届いており、ケージの扉が完全にあかない状態になっていた。連邦規則集第9編第3条.75項(a)。
    4. 2013年7月10日。被告発人は非ヒト霊長目のための居住設備を適切に修理・補修することを怠り、具体的には、複数のビルにおいて、ドアの枠の周りを囲む、雨など水から守る薄い金属板が、動物たちに触られ、側板から引き離され、鋭い先端が出てしまっていた。連邦規則集第9編第3条75項(a)、第3条75項(c)(1)(ii)。
    5. 2013年7月10日。被告発人は非ヒト霊長目のための居住設備を適切に修理・補修することを怠り、具体的には、複数のビルのケージの金網フェンスで、結束用ワイヤーが壊れ、その鋭い先端が出ていたことが見つかっている。連邦規則集第9編第3条75項(a)、第3条75項(c)(1)(ii)。
    6. 2013年7月10日。被告発人は、IOビルの多くにおいて、サビの除去を怠った。APHISの査察官は、複数のケージの亜鉛メッキされた金属製天井、ブランコの鎖、エンリッチメントのはしご、ケージ内部の金網フェンスの支柱などにサビがあることを確認した。連邦規則集第9編第3条75項(a)、第3条75項(c)(1)(i)。
    7. 2013年7月10日。いくつかのケージにおいて(ビル12D、ビル5N、ビル3P及びF)、マカクザルにエンリッチメントのために与えられていたプラスチック製の滑り台がかみ砕かれ壊れており、へりはギザギザになり大きな穴が開いていたが、被告発人は、移動もしくは交換することを怠った。同様にビル5でも滑り台がかみ砕かれて壊れており、ボルトの露出も確認された。連邦規則集第9編第3条75項(c)(1)、第3条75項(c)(1)(ii)、第3条75項(c)(2)。
    8. 2013年7月10日。MBの処置室のキャビネットの下端の薄板が欠けていた。連邦規則集第9編第3条75項(c)(1)、第3条75項(c)(2)。
    9. 2013年7月10日。IOビルの多く及びIIGにおいて、屋内のシェルターに入る入口で、屋外のセメントの床が腐食し、下の鉄筋がむき出しになっていた。また腐食したところに水たまりができていることが確認された。連邦規則集第9編第3条75項(c)(1)(ii)、第3条75項(c)(2)、第3条75項(f)。
    10. 2016年2月11日。2つのケージでエンリッチメントのための装置が2つ壊れており、プラスチックの先端がギザギザとがった形状になっていた。連邦規則集第9編第3条75項(c)(1)、第3条75項(c)(1)(ii)、第3条75項(c)(2)。
    11. 2012年4月30日。いくつかのケージにおいて、屋内のシェルターへ入る入口で、屋外のセメントの床が腐食し、腐食したところに水たまりができていることが確認された。連邦規則集第9編第3条75項(c)(2)、第3条75項(f)。
    12. 2013年2月6日。ビル1では、いくつかの屋内居住用ケージの壁からペンキが剥がれ落ちていることが確認された。連邦規則集第9編第3条75項(c)(2)。
    13. 2013年7月10日。ケージ12Bで、止まり木によって壁のセメントに穴があいていた。連邦規則集第9編第3条75項条(c)(2)。
    14. 2013年7月10日。ビル2及び3のいくつかのケージにおいて、屋内及び屋外の壁のペンキがはがれていた。連邦規則集第9編第3条75項(c)(2)。
    15. 2013年7月10日。ビル3において屋外の2つのケージにおいて、黒い物質で濁った水たまりができていた。連邦規則集第9編第3条84項(a)。
    16. 2013年7月10日。ビル11の病棟内換気口の表面にカビが発生していた。連邦規則集第9編第3条84項(c)。
  7. 2014年5月5日頃、Qビルのケージ洗い場の清掃や衛生管理を被告発人は怠っており、非ヒト霊長目に対する最低基準、連邦規則集第9編第3条84項(c)を満たすことを怠ったことにより、研究施設に適用される規則に違反した(連邦規則集第9編第2条38項(k))。汚れたケージから落ちた汚物が床にあり、動物室近くの廊下まで汚れが続いていた。
  8. 以下に記す頃に、被告発人は故意に、動物取扱業に関する規則(連邦規則集第9編第2条100項(a))又は、研究施設に関する規則(連邦規則集第9編第2条38項(k))に違反した。非ヒト霊長目に対する最低基準を満たさなかったためである。
    1. 2015年12月10日。A121号室の床を含む数か所の床の塗装が剥げているのが確認されている。
    2. 2011年12月26日。6週齢のオスの非ヒト霊長目が、隣接するケージの上の網に引っかかっているのを被告発人は見つけた。その子ザルは、ケージの金網部分と壁の間の5cmほどの隙間を通って飼育設備から抜け出したが、その際、隣のケージのサルが、子ザルを引きずりこもうとしたため、網にひっかかり外傷を負った。子ザルは、ひどく衰弱しており、体温は下がり、息をするのが精いっぱいで、脱水を起こしていた。結局、子ザルは、外傷と低体温症によって、その日の午後に息を引き取った。連邦規則集第9編第3条80項(a)(2)(iii)。
    3. 2013年5月8日頃。被告発人は、相性の悪い非ヒト霊長目を同じケージに入れた。具体的には、1匹のオスのブタオザル(Z13039)は同じケージのサルと喧嘩となり、ひどい外傷を左足部及び太ももに負い、その後、安楽死処置となった。連邦規則集第9編第3条81項(a)(3)。
    4. 2013年5月24日頃。被告発人は、相性の悪い非ヒト霊長目を同じケージに入れた。具体的には、1匹のオスのブタオザル(Z12383)は、同じケージのサルと喧嘩となり、ひどい外傷を頭部及び体に負い、そのため死亡した。連邦規則集第9編第3条81項(a)(3)。
    5. 2013年10月1日から9日にかけて。被告発人は、サルがのどが渇いており、何匹かは明らかに弱り、病気又は身体的に苦しんでいると気づいていたにもかかわらず、治療を受けさせるためではなく、商用目的で、840匹のカニクイザルを輸送した。連邦規則集第9編第3条90項(c)。

よって、法又は法に基づく規則を被告発人が故意に犯したのか裁定するため、本告発状を被告発人に送達することとする。

被告発人は、この訴えに対する回答を、法に基づく訴訟手続きのための実務規則に則り(連邦規則集第7編第1条130項以下参照)、アメリカ合衆国農務省(ワシントンD.C. 20250-9200)の審判書記官に文書で提出しなければならない。

回答を行わない場合、本告発状の申立てを全て認めたものとみなされる。APHISは、法に基づく訴訟手続きのための実務規則に則り、本要求を行うものであり、この命令は、法により定められたものであって(合衆国法典第7編第2149条)、このような状況下で認められている。

Mashington, D.C. において
2016年9月22日動植物検疫局行政官
Kevin Shea

アメリカ合衆国農務省法務顧問室
訴訟代理人
SAMUEL D. JOCKEL
1400 Independence Avenue, S.W.
Room 2331-A South Building
Washington, D.C. 20250-1400
202-690-4299 (Fax)
samueljockel@ogc.usda.gov; (202) 720-2869


参考文献

1 Cardon, A.D., Bailey, M.R., Bennett, B.T. The Animal Welfare Act: from enactment to enforcement. J Am Assoc Lab Anim Sci. 2012;51:301–305.

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