<論文紹介>行動基準を用いた爬虫類の福祉評価法(日本語訳)
英国獣医師会(British Veterinary Association)誌「In Practice」に掲載された爬虫類の福祉に関する論文の日本語訳です。論文を紹介した際の記事は以下のとおり。NPO法人アニマルライツセンターさんが翻訳されたものをご厚意で転載させていただいています。
❝Assessing reptile welfare using behavioural criteria❞
Clifford Warwick, Phillip Arena, Samantha Lindley, Mike Jessop and Catrina Steedman
https://bvajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1136/inp.f1197
翻訳協力:Asako Kajiura
行動基準を用いた爬虫類の福祉評価法
科学的な爬虫類臨床医療が多くの外科医やその他のグループからの注目を集めている一方、爬虫類の行動的・心理的健康に関してはこの限りではない。爬虫類の行動変化は他の動物同様、不安・怪我・病気等の指標であることが多々ある。行動のサインがストレスや身体的問題の指標であるのと同様に、身体のサインは行動の問題の指標になりうる。異常行動は怪我や病気の結果の可能性もある。本論文では飼育状態におけるストレスや外傷・病気、それらの原因の兆候を含む爬虫類の異常行動を明らかにし、既存の生物学的・飼育管理的問題に関する研究内容を概観することを目的としている。行動問題に関する簡明な診断ガイダンスも提示した。本研究は動物と飼育方法を評価する時の参考になるだろう。
生物学的・行動学的考慮点
犬や猫のように飼い慣らされている動物と全ての爬虫類を含む飼い慣らされていないペットでは大きな違いがある。生物学的に見ると犬や猫そして家畜である牛、馬といった動物は遺伝子的に『前適応的』及び『ソフトワイヤード』特性を持つ。この特性がこれらの動物の他生物との共存や人の支配下での生存を可能にしている。それに対し爬虫類は前適応的特性をほとんど持たず、彼らは自然環境のもとで生存するのに有利な生態的・行動的・精神的特質を『ハードワイヤード(*応用が利かない)』に生得している。
拘束環境にある爬虫類の生物学的適応性に大きな悪影響を及ぼす要因として挙げられるのは、犬や猫と異なり爬虫類の拘束環境はほぼ例外無く適切に管理されていない小さな飼育施設であり、彼らはそこで一生を過ごすこととなる。このような生物学的考慮や管理環境が欠如している状態は、診察を行う獣医が的確な診断をおこなう妨げとなる。
行動理解を通した判断
一般的な認識とは異なり爬虫類はストレスを示す多くの異常行動を明確に表す。
爬虫類を含む動物の行動理解は彼らの状態や健康を判断する上で必要不可欠である。
もちろん、精神的ストレスは血液検査や侵襲性の低い便検査を用いて診断することもできるが、これらの診断方法には純粋な基準データの不足や焦点となる判断の限界といった様々な混乱要因が含まれる。例えば、人間を対象とした研究によると、興奮に関係する刺激等の要因がコルチゾールを介している場合、認識しているストレス、疲労、うつ等はコルチゾールを増加させない可能性がある(1996年 van Eck他)。刺激を受けている動物の状態を精神状態測定(例えば爬虫類のコルチコステロン)により明らかにすることは困難であることがこれらの研究結果から推定される。
ある状況下における正常・異常行動
爬虫類に見られる行動の多様性は鳥や哺乳類に見られる多様性に近似又は類似する場合があり、鳥や哺乳類のそれよりもまさることもある(2004年 Gillingham)。正常行動とは彼らが本来持つ行動を意味するだけではなく、彼らにふさわしい行動範囲と環境も意味している。
例を挙げると自然環境では長時間の探査運動行動を動物がとることは正常且つ健康的であると考えられる。しかし餌は十二分に与えられていても、拘束された狭い空間で歩き回る時間が1時間より短い時間ならば、異常・健康上に問題がある行動と判断されるべきである。
飼育動物の広範囲な種を対象としたフィールド観察(*自然界で行動を観察すること)はあまりなされてきていない。よって飼育動物の観察者は比較データの情報不足に悩まされる。また、これに関連して、フィールド観察によるストレスを感じているかもしれない動物は彼らの習慣的な行動とは異なる行動をとる可能性がある。例えば観察者と自然環境に生息するイグアナのアイコンタクトが正常なパーチング姿勢(*半立位姿勢)の妨げとなることもある(1991年 Burger他)。このような誤ったフィールド観察の情報を基準としたために、飼育動物のストレス状態が『正常』として間違った判断をされる可能性もある。
自然環境でもストレスの要因は存在する。しかしバランスのとれた自然環境において、動物は問題に対処し順応していく。
自然環境とはちがい、飼育下では自然界の多くの環境的特色を人口的に作り出すための代替品が動物たちの拘束環境に設置されている。しかしそのような代替品が自然環境を作り出すことは難しく、動物たちは狩り、行動範囲、広大な生息域での探索といった生物的に必要とされている正常な行動を動物から奪い取られている。(2004年 Arena及びWarwick、2004年 Warwick)。
生物的・行動的兆候の誤った解釈
爬虫類の販売人や飼育者そして専門家は『摂食』『体重』そして『繁殖』の善し悪しを“肯定的”なサインと考えて健康状態を判断する。しかし爬虫類の状態を理解するには上記の項目だけでは不可能というだけでなく、誤った判断をすることにもなりかねない(1993年 Broom及びJohnson、2004年 Warwick)。健康や福祉が脅かされていることを示す兆候が観察された環境において、いくつかの“肯定的”なサインが動物の幸福を示すとは限らない。
異常行動と拘束によるストレスの兆候
一般的に飼育下による慢性ストレスは、行動の抑制、頻繁な驚愕・攻撃・硬直といった異常行動を増やし、探査行動、繁殖行動、複雑な行動を減少させる(2007年 Morgan及びTromborg)。
しかしこれらの基準は動物の分類や種により異なる。表1は爬虫類に見られる飼育下のストレス兆候を、表2は彼らの正常行動、静止状態、『快適』状態のサンプル指標を示している。これらはArena及び”Warwick(2004年)Warwick (2004年)Warwick他(2001年a)に発表された行動判断基準を本研究者が要約したものである。
表1:飼育環境によるストレスの行動指標
行動 | 指標 | 可能性のある原因 |
透明な境界物への反応 (Interaction with transparent boundaries:ITB) | 間断なく(最大、活動時間の100%)透明な囲いを押す・這い上がる・掘り抜くといった執拗な行動 | 探査行動、逃亡行動 自滅・自己破壊 本来持っている心理的構造と適応への制約により透明な囲いを認識することができない。 |
活動過多 | 異常に高いレベルの身体的行動・過剰又は繰り返し行動 | ITBに関係すること多 過密環境 自滅・自己破壊 過剰な拘束、貧弱で不適切環境 |
活動低下 | 低体温、病気、外傷、痛み、共住者からの攻撃 | 低温、感染症/器質的異常、転倒、落下、共住者の攻撃、輸送による心理的ダメージ |
食欲不振 | 低体温、病気、外傷、痛み、共住者からの攻撃 | 低温、感染症/器質的異常、転倒、落下、共住者の攻撃、輸送による心的ダメージ |
覚醒過度 | 異常に高いレベルの覚醒 環境からの刺激に『過敏』 | 恐怖、防御、逃亡行動に関係すること多 過剰な拘束、露出された、貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
速い体の動き | 異常にぎくしゃくとした歩行運動又は跳躍動作 | 恐怖、防御、逃亡行動に関係すること多 過剰な拘束、露出された、貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
平坦化姿勢 | 表面に対して体を平らにさせる。しばしば覚醒過度と組み合わさって起こる | 恐怖、防御、逃亡行動に関係すること多 過剰な拘束、露出された、貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
頭部を隠す行為 | 故意に頭部を物や基板の下に隠す | 恐怖、周囲の照明・光ストレス行動に関係すること多 過剰な拘束、露出された(夜行性動物への過度な周囲の照明を含む)貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
体を膨らませる行為 | 故意に(しばしば繰り返して)体を膨らませたりすぼめたりする。 『シャー』という音と共に行われることもある。 | 恐怖、防御、逃亡行動に関係すること多過剰な拘束、露出された(夜行性動物への照明を含む)貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
『シャー』という音を出す行為 | 故意に体を膨らませたりすぼめたりを繰り返すのと同時に『シャー』という音をたてる。 | 恐怖、防御、逃亡行動に関係すること多過剰な拘束、露出された(夜行性動物への過度な周囲の照明を含む)貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
共住者間攻撃行為 | 攻撃的又は防御的行動 共住動物への噛み付き、追いかけ行為 | 周期的生殖行動、共住者を避ける必要がある時にできない環境 過剰な拘束、露出された貧弱で不適切環境に関係すること多 空腹 |
人間への攻撃行為 | 顎や尻尾を使った擬似/実際の攻撃 | 恐怖、防御、逃亡行動に関係すること多 過剰な拘束、露出された(夜行性動物への過度な周囲の照明を含む)貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
掴み行動 | 蛇やトカゲがしっかりと人間や物を掴む行為 | 恐怖、周囲の照明・光ストレス行動に関係すること多 過剰な拘束、露出された(夜行性動物への照明を含む)貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
擬死行動 | 動物(特に蛇)が足を引きずり、ひっくり返り、失神表現をする行為 | 恐怖に関係すること多 |
アーチ体勢 | 蛇が体をアーチ形に曲げることにより、囲い内に共住する蛇や人間との身体的接触を避けようとする行為 | 恐怖、周囲の照明・光ストレス行動に関係すること多 過剰な拘束、露出された(夜行性動物への照明を含む)貧弱で不適切環境で多く見られる。 |
凍結行動 | 観察者とのアイコンタクトやその存在に影響され凍結姿勢又は緊張による静止行動 | 周囲の照明・光ストレス行動に関係すること多 過剰な拘束、貧弱で不適切環境で多く見られる |
歯ぎしり | 海ガメ及び陸ガメが口できしるような摩擦音をたてる行為 | 恐怖、周囲の照明ストレス行動に関係すること多 過剰な拘束、露出された(夜行性動物への周囲の照明を含む)貧弱で不適切環境で多く見られる。 痛み |
動作の躊躇 | 日常的に見られないむらのある動き | 恐怖に関係すること多 過剰な拘束、不適切環境で多く見られる |
たじろぎ行動 | 小さな刺激に対して、手足、頭や尾を引っ込めるといった過敏反応 | 恐怖に関係すること多 過剰な拘束、不適切環境で多く見られる 痛み、病気 |
長時間におよぶ手足頭尾の引っ込め行動 | 海ガメや陸ガメが数分又はそれ以上の時間手足頭尾を引っ込めている状態を持続させる | 恐怖、痛み、病気に関係すること多 |
口呼吸 | 散発性の通常ゆっくりとした口呼吸又は息切れ | 高体温、感染症/身体器官の機能障害/病気、重度の咽頭部外傷、落下、転倒、共住者による攻撃、輸送による心的ダメージ |
息切れ | 速い口呼吸、胸垂(トカゲの下顎の下にある垂れている皮膚)の伸びが伴うこともあり総排出腔からの排泄が行われることもある | 高体温 |
取扱い中に起こる総排出腔からの排泄 | 総排出腔からの悪臭のある尿、便、糞尿 | 恐怖に関係すること多 |
ペニス及び半陰茎の勃起 | 人間の存在・接触が原因によるペニス又は半陰茎(*トカゲ類ヘビ類の雄のもつ交尾器官)の勃起 | 恐怖に関係すること多 |
食物の随意的吐き戻し | 人間の存在・接触が原因による食べ物の吐き戻し | 恐怖に関係すること多 |
尾の自切 | 人間の存在・接触が原因による随意的な尾の自切 (トカゲに見られる) | 恐怖に関係すること多 |
擬似発声 | (性的行為に関係なく) ワニ類、トカゲの幾つかの種、海ガメがかん高い音を発声する行為 | 恐怖、身体的な刺激、痛み、病気に関係すること多 |
毒液のスピッッティング | 人間の存在・接触が原因により毒蛇が毒液を出す行為 | 恐怖に関係すること多 |
眼からの出血 | 人間の存在・接触が原因による眼からの出血(幾つかの種のトカゲに見られる) | 恐怖に関係すること多 |
色の変化 | 一般的にある種のトカゲ類(特にカメレオンに見られる)色を変化させる行為-速い変化の時もあればゆっくりとした変化の時もある | 恐怖、痛み、高体温、低体温、過剰な拘束、不適切な環境、外傷、病気に関係すること多 |
アブノーマルな場所 | 爬虫類生物が正常ではない時間又は正常ではない環境にとどまっている状態 | 病気、外傷、不快、共住者からの攻撃、高体温、低体温に関係すること多 |
表2:静止状態及び『快適性』の行動指標
行動 | 指標 | |
正常/リラックスした覚醒 | 近くの又は新しい物へのリラックスした状態での興味や認知 リラックスした状態での視覚探査 | 正常な環境調査 |
落ち着いた様子で物や空気の匂いを嗅いだり味を見たりする行為 | 無刺激性周辺化学物質試料 | 正常な環境調査、食物探索 |
身体姿勢や身体方向のわずかな変化 | 甲羅干し中の手足のストレッチ、備え付けの設備を利用した体の角度調整 | 正常な体温調節行動及び休息 |
ゆっくりとした体の動き及び移動 | リラックスした状態での環境調査 | 正常な環境調査、食物探索 |
リラックスした状態で飼育者や物を握る行為 | 蛇又はトカゲがリラックスした状態を持続させながら(時にはしっかりと)人間又は物を握る行為 | 正常なリラックスした状態の行動及び休息 |
リラックスした状態での飲水 | ゆっくりと飲む行為 | 正常な生命活動 |
リラックスした状態での食事 | 日常的な食性行為 | 正常な生命活動 |
リラックスした状態での呼吸 | 日常的な呼吸行為 | 正常なリラックスした状態での行動 |
身体的安静 | 日常的なリラックスした状態の活動 例:心配や恐れが無い状態での活動 | 正常なリラックスした状態での行動 |
医療環境における一時的状況や検査による影響により、多くの異常行動問題が観察できないこともあり、混乱や誤診を導くこともある。
正常行動・静止状態・快適状態の指標
医療環境において爬虫類の正常行動を観察することはほぼ不可能であるが、表2を参考にし、観測に必要不可欠な指標を学ぶことができる。正常指標が観察されても、異常指標もまた観察される場合は総合的に健康とは言い切れない。
また、曖昧な行動指標も存在する。例えば睡眠は行動や健康の異常と正常のどちらも示すことがある。
行動問題の身体的兆候
身体的問題(例えば外傷又は局所感染症)は環境に因する行動問題があることの指標となることがある。以下はその例である。
- 吻側(動物の体において、口あるいはその周辺が前方へ突出している部分)の病変は、透明な境界(ITB)に関連付けられるだろう。
透明な囲いを押す、登ろうとする動作や囲いの下/周囲を掘ろうとする動作等、過度な拘束によるストレス関連の度重なる(最大活動時間の100%)行動問題であるITBの例を写真1は示している。
写真2はこの異常行動を要因とする摩擦障害である。
- 樹上性動物類が硬い表面に落下したり落とされたりしたことによる腹面側下顎の病変。
- 熱調整装置又は日光浴設備からくる不適切な環境温度が原因の接触性火傷(特に背びれ部分)。
- 十分な逃避スペースが確保されていない過度な拘束環境での共住者からの攻撃及び求愛行為が原因である頭部・四肢外傷及び感染症
写真3は共住者に噛まれたことが原因によるトカゲの上顎部膿瘍
写真4は同じく共住者に噛まれたことが原因による沼ガメの肢部膿瘍
- 過度の拘束環境での活動低下状態が原因による腹部皮膚疾患
- 非刺激環境における異食症が原因による腸便秘
写真5は重度異食症関連の胃腸部便秘レントゲン写真
写真6は異食症の個体から取り出された砂利と石
環境
人工的な環境は、面積・温度・湿度・照明・風流・設備等において非常に複雑な問題を抱えている。其々の問題には一連の重要な要因が伴うことが知られている(要因の不認識もしばしばあり、これが大きな問題を引き起こす)。国の宝くじを当てるには49個の選択可能な数字のうち6つの正しい数字選ばなければならない。 確率のオッズは14,500,000:1である。飼育環境には数千の動的変数があり、そこから6つの正しい変数を選択できる確率は非常に小さい。このことが拘束環境にある爬虫類が長生きできない理由を部分的に説明するだろう。
この論文の主議論は行動に関するものであり一般的な畜産に関するものではない。しかし空間及び温度という生物行動に強い関連性のある事項をより詳細に考察する。
空間
ペットトレーダーや愛好家そして他のオーナーから間違ったアドバイスを受けることによって多くの爬虫類は非人道的な小さな檻の中で飼育される。爬虫類生物は狭い空間で『安全だと感じる』、生来『固着性があり』広い空間は必要ではないと一般的に誤解されている。このような考えは爬虫類を『檻の中で飼育可能なペット』として販売している業者にとっての都合の良い解釈であり、科学的根拠も倫理的正当性もない。
他の動物と同様に爬虫類も自発的に動くことができる空間を必要とする。動物は必要なとき自発的に『隠れ場所』を探す。閉ざされた空間を強いることは罠にかけるのと生物学に見て同じことである。
爬虫類における行動圏の研究によると彼らは高い行動性があり、数百平方メートルから数千キロメートルの範囲で動くという。樹上モニターを用いた研究では186メートル以上の範囲で毎日動き、スキンクトカゲは1ヘクタール、米国産の主に陸生のカメは40ヘクタール、インディゴ蛇は158ヘクタールの行動圏をもつ。海ガメは数千キロの範囲で行動すると言われる。
体の小さな種や子供は大きな種や大人と同じぐらいの(時にはそれ以上の)範囲で行動する。小さな種は食虫性であることが多く、体の大きな種より高い頻度で食事をする必要があるだけでなく、速い速度で動く獲物を追いかけ捕まえるにはかなり敏活性がなくてはならない。
大きさ等の違いはあるが、全ての爬虫類の活動性は高い。しばしば固着性の種として誤解されがちのニシキヘビのような種でも例外ではない。モニタートカゲやニシキヘビのような大型の肉食生物は特に大量の食事をした後、短い静止時間を持つことがある。しかしこれは一時的な短い時間の行為にすぎない。これをもって総合的な行動パターンや必要な空間の判断材料として取り入れるべきではない。
体位と姿勢
自由に動き回ることができる十分な空間が正常な行動と健康のために必要だが、全体の配置も動物の姿勢や位置姿勢に対応するためにも重要である。
全ての爬虫類はある一定の体の角度や向きを求める(これらは時に非常に微妙な角度や向きの違いである)。快適性及び体温そして身体的な不快感の改善に姿勢や体位は関係する。蛇は自分の体の長さより短い幅の檻の中では真っ直ぐに伸びる姿勢をとることができない。直線姿勢は腸の不快感を取るために必要な姿勢である。写真7は過酷な空間的制約の例である。
この檻の中で蛇が真っ直ぐに伸びる姿勢を自由にとることは不可能である。
よって、甲羅干しをするための枝や逃げるための隠れ場所を設置するのみでは十分な飼育空間とは言えない。
良い檻と悪い檻
その状態そのものに正当性のない拘束環境において『適切』で『十分な』空間や檻のサイズを求めようと試みることはあさはかな考えなのかもしれない。十分な大きさであると考えられ提唱されている檻の大きさ(それが十分に考慮されたサイズであろうと)は容認できる最小サイズの檻である。
過密住居及び隠れた過密住居
二つの形の過密住居が存在する。一つは『表立った過密住居』そしてもう一つは『隠れた過密住居』である。極端に多くの動物がある一定の空間に居住している状況を『表立った過密住居』という。『隠れた過密住居』では必要な時に全ての居住動物が設備にアクセスすることができるかどうかが問題となる。
従って、十分な大きさがあると見られる囲いでも常時アクセス可能な設備が不足している場合、ある種の過密十余欠陥が存在すると考えられる。故に、過密状態にないという状態は歩き回ることのできる空間と例えば飲み水用の入れ物や甲羅干し用の場所といった十分な設備が常時利用できる状況の両方がなくてはならない。(2011年b Warwick及び他)
写真8は海ガメの幼亀が土のあるスペースを確保できず、甲羅干し用の熱設備を使用することができない状態の過密住居例である。
写真9は『隠れた過密住居』の例である。
海ガメの幼亀達はスペースを確保できてはいるが、甲羅干し用の熱設備を全員が同時に使用することができない状態にある。
温度調節に関する問題
爬虫類は生来、ちょうど適した温度状態を環境内で探し、それを得るための行動をとる。自己知覚(動物自身による)した明確なニーズがあるにもかかわらず温度調節ができない状況は、それが唯一の問題であっても、極度のストレス及び慢性的衰弱を悪化させる結果となる。
行動性体温調節反応による発熱及びストレス
爬虫類にとって発熱は主に心理性ではなく行動性のものである。行動性体温調節反応とは弱って感染しやすくなっている動物が平常より高い体温を得るために温かい場所を求めることである。
同様に、健康であるが扱われ方や種内の競争にうまく反応できないようなストレスを感じている爬虫類は心因性熱を出したり落ち着くまでより高い熱源を探したりすることがある。少しでもストレスを感じる出来事の後には、彼らが温かい熱源を探すことができることが重要だ。人に扱われることは捕獲や捕食と同様に彼らは感じるかもしれない。
能動的低体温
能動的高体温の他に能動的低体温がある。能動的低体温とは怪我をしていたり病気を患ったりしている動物が故意に低い最適温度又は非常に低温を探求する状態を言う。寒い自然環境において動物が冬眠するように、気候は低体温を引き起こす要因になる。怪我をしていたり病気にかかったりしている爬虫類を扱う場合、能動的低体温が微生物の増殖の減少や生理的障害から回復するために必要であり、いくつかのケースでは弱っている動物の生理機能の停止が治癒に結びつくことを考慮するべきである。
しかし健康問題を抱えている個々に対する取り扱いには注意を払い、平常な状態であるという考えを安易に推定・受容するべきではない。低体温を理解することは難しいが、臨床医にとって有益であると思われる。
適切な温度勾配は健康維持のために必要不可欠である。体温調節の必要性は人間による推量ではなく個々の動物によってのみ知覚可能な非常に微妙な生理的兆候によって決められると考えられる。怪我を負ったり病気にかかったりした爬虫類の体温を人工的に上げる治療はよく行われている。本研究者はこのような治療は場合によっては治癒に貢献するかもしれないが、急激な微生物過増殖や毒血症を引き起こす恐れがあるため慎重に行われるべきだと考える。準備のできていない捕獲動物にとっては大きな生理的欲求を引き起こすかもしれない。その上、適切な体温になった後も捕獲動物は物理的に体温上昇を避けることができない状態にあるかもしれない。
(*アニマルライツセンターが補足)
References
- Arena P. C., Warwick C. (2004) Miscellaneous factors. In Health and Welfare of Captive Reptiles. Eds Warwick C., Frye F. L. J., Murphy B. Chapman & Hall/Kluwer. pp 263-283
- Broom D., Johnson K. G. (1993) Stress and Animal Welfare. Chapman and Hall/Kluwer. pp 80-82
- Burger J., Gochfield M., Murray B. G. (1991) Role of a predator’s eye size in risk perception by basking black iguanas, Ctenosaura similis. Animal Behaviour 42, 471-476
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- Morgan K. N., Tromborg C. T. (2007) Sources of stress in captivity. Applied Animal Behaviour Science 102, 262-302
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- Warwick C., Lindley S., Steedman C. (2011b) Signs of stress. Environmental Health News 10, 21