盲導犬は要りますか? 「同行援護従業者(ガイドヘルパー)養成研修」レポート

盲導犬の募金箱をあちこちで見かけます。メディアなども推進一色。現在、大きな社会リソースが盲導犬の育成・普及のために割かれています。しかし実際には、盲導犬利用者は、視覚障害者のうちのごく一部に過ぎません。そして犬の福祉を考えたとき、このまま盲導犬の利用を維持していってよいのだろうかと考えてしまうのも事実です。

盲導犬の代わりになる方法はないのだろうか? 盲導犬を使っていない視覚障害者の人たちはどうしているの? 基本的な背景を知り、盲導犬を見つめなおすため、ガイドヘルパー(視覚障害者の同行援護を行う従業者)をされている方から、寄稿をいただきました。

今回は、2014年にガイドヘルパー養成研修を受けた際に書かれたレポートになりますが、現在も内容はほぼ同じとのことです。(変更があったところなどに、一部注釈をつけました。)


「同行援護従業者(ガイドヘルパー)養成研修」レポート

高橋和子

1.研修受講の動機

筆者は盲導犬のボランティア経験があるが、その経験から視覚障害者の外出介助は、犬ではなく人間が行うのが最善という結論に達し、このたび同行援護従業者養成研修を受けてきた。これは厚生労働省の事業で、視覚障害者の外出に同伴するヘルパー、いわゆるガイドヘルパーを養成する研修である。

全国31万2000人の視覚障害者中、盲導犬使用者は900人余りで、大多数は白杖を使って歩いている(道路交通法では、視覚障害者に白杖使用もしくは盲導犬の同行を義務づけているが、違反者に対する罰則規定はない)。
また視覚障害者に、晴眼者(目の見える人)が付き添っているのも時々見かける光景だ。付き添いがいれば、概ねより安全な歩行が可能になる。
人ではなく犬を視覚障害者に同伴させる現行の盲導犬制度は、制度自体にも、利用者と犬の双方にとっても多くの問題点があり非合理的で時代錯誤だと筆者は考える。

視覚障害者の外出の付き添いについて調べたところ、私的介助(家族やボランティア)以外に、高齢者の介護ヘルパーと同様の、公的な制度である「ガイドヘルパー制度」の存在を知った。
この制度は、現行法上は「同行援護」、ヘルパーは「同行援護従業者」という名称になっているが、介護関係者の間でも、以前の「ガイドヘルパー」のほうが汎用されているので、ここでは「ガイドヘルパー」の名称を使いたい。
ただし制度(事業)名としての「同行援護」は、そのまま使用する。

詳細は、以下の厚生労働省のホームページをご覧いただきたい。

なお、この制度は名称だけでなく、内容にも度々変遷があったようで、費用負担が国か地方自治体か、国と地方自治体の似た制度が併存するなど複雑だ。
そのせいもあり、利用する側からも働く側からも、問題点が多々あると聞いた。そもそもガイドヘルパー制度についてよく知らない視覚障害者も結構いるようなのだ。

筆者は具体的な問題点を探るため、自らこの研修を受け、ガイドヘルパー資格を取得することにした。以下は断片的ではあるが、筆者が受けた同行援護従業者養成研修に関する報告である。

2.研修申し込みまでの経緯

現在、同行援護は「障害者総合支援法」の中の「自立支援給付」のひとつとして位置づけられ、市区町村が窓口になっている。
この「障害者総合支援法」に基づく32時間の研修(一般課程20時間+応用課程12時間)を修了すれば、無試験でガイドヘルパーの資格を得ることができる。実際には5〜6日間の研修になるので、高齢者の介護ヘルパーの研修日程よりはずっと短期である。なお資格取得に年齢制限はない。
研修修了後は介護事業所等にガイドヘルパーとして登録し、利用希望者を斡旋してもらい実務に就く仕組みだ。

ただし65才以上の高齢者は約350万人に上るのに対し、視覚障害者は約31万2000人なので、ガイドヘルパーの需要は介護ヘルパーの需要よりかなり少ない(近年では高齢で視覚障害もある人が増えてはいるのだが)。そのため介護ヘルパーがガイドヘルパーを兼務する事業所も多い。

※介護ヘルパーは一般的には65才以上の人が対象となる

研修は、介護事業を運営する民間法人や福祉関係の研修を専門に行う学校などで受講できる。市や区などの地方自治体でも実施するところがある。教科書は共通だが、定員(最大40名)や受講料(2万円台~4万円台)には開きがあり、地方自治体が主催する研修は民間に比べ格安な場合が多い。
実は今回の研修の年(2014(平成26)年)の4月に介護制度が一部改正され、すでに稼働中のガイドヘルパーにも、急遽9月末までにこの研修を受講することが義務づけられた。
そのため、この研修は大盛況を呈していたが、8月中旬に厚生労働省が突如受講期限を平成30年までに延長した。当初の期限だと、ヘルパーの実務が多忙なため(特に介護ヘルパーとガイドヘルパー兼務の場合)研修に対応できない小規模事業所も多く、中には同行援護事業を縮小か中止、または大きな介護事業所に丸投げする話も出ていたそうだ。
筆者の住む市も、7月にこの研修を実施したが、受講要件が「介護職員初任者研修」(旧称「介護ヘルパー2級」)の有資格者に限られていた。

※現在ではこの受講要件は撤廃されている

市によるとその理由は「最近は高齢で視覚障害もある利用者が多いので、法律上、屋外の介助しか対応できないガイドヘルパーは役に立たない。家の中の介助(介護ヘルパー)と両方できる人でないと。」ということだった。
具体的には、例えば外出時に、屋内での外出準備は介護ヘルパー(介護保険)、玄関から一歩出たらガイドヘルパー(障害福祉)が対応するとのことで、同じ利用者に対して、家の内外で法律・対応が変わるのは非現実的に思えた。

3.研修内容について

結局筆者は通学に比較的便利な、近隣の市の社会福祉法人(複数の介護事業所を運営)の研修を受講した。募集定員は10名で満員だった。

研修は5日間の講義と実習で、前半の一般課程にも「アイマスクを装着した歩行とガイド」等が含まれていた。講師は5名で、3名は当法人の職員、2名は障害者自立生活センターに勤務する視覚障害者だった。
受講生10名中、筆者以外は皆実務経験者で、そのうち2名はガイドヘルパーだけをしているが、他の7名は高齢者の介護ヘルパーとガイドヘルパーの兼務で、介護ヘルパーの実務割合の方がずっと多かった。
研修は8月の猛暑中に行われたが、講師陣は皆熱心で当法人職員の講師はヘルパー経験が豊富、教科書より実践を重んじる充実した内容だった。また視覚障害のある講師からも直接教えを受けられたのは大変有意義だった。
視覚障害のある講師は「ガイドヘルパーは不足しているので、受講者が増えるのはありがたい」と言っていた。

研修で強調されたのは、同行援護が単なる視覚障害者の移動支援ではなく、情報提供が重要だということだ。利用者を安全に確実に目的地に誘導するだけでなく、できるだけ多くの有益な情報を利用者に提供しないといけない。それこそが視覚障害者の自立支援という、この制度の趣旨に叶っているというわけだ。
晴眼者は、情報の80%を目から得るといわれるが、視覚障害者は自分の目以外から情報を得て、判断・行動をせざるを得ないのだ。
外出中の代筆や代読が、新たにガイドヘルパーの任務に加わったのも情報提供の一環だ。情報提供は、視覚障害者が決定権を持ち、自立するために不可欠で、利用者は「連れて歩かれる人」ではなく、あくまで主役なのだ。
ガイドヘルパーには目立たず、「出すぎず」に利用者を介助する姿勢が要求される。理想的には、利用者が次に同じ道を歩く時には、一人で(白杖だけで)歩けるようなガイドをするべきだと教わった。

また、研修中のアイマスク体験は「目からうろこ」だった。
最初の屋外の歩行実習で、筆者自身がアイマスクをつけて白杖も持ち、ガイドヘルパー役の受講生と最寄り駅まで往復したが(片道約15分)、行きは恐怖心でいっぱい、おっかなびっくりで足を運び、大汗をかきながらも無事駅に到着。これはひとえにガイドヘルパーのおかげだと納得した。帰りは来た道とは別ルートだったが、腹をくくって「ガイドヘルパーを信頼すれば大丈夫」と自分に言い聞かせ、ほんの少し余裕も生まれ、行きよりはずっとスムーズに歩けた。
ただ同時に、「アイマスク体験をしただけで、視覚障害者の気持ちがわかったと思うな」という晴眼者の講師の言葉も重く心に残った。

また研修中に、白杖を持った視覚障害者の講師(先天性全盲の40代女性)をガイドしたが、講師の歩く速さに驚いた。ガイド役の筆者が引っ張られるような速度なのだ。スタスタと、まるで見えているような速さ。
その講師は以前に一度同じ道を歩いたことがあり、歩くポイントになる場所や危険箇所を覚えていたそうで、「何度か同じ道を歩けば、大体は白杖だけで歩けるようになる」と言っていた。
拙い初めてのガイドだったが、道中にあったバス停の詳細を知らせたことは、その講師から褒めてもらった。何かの時に役立つ情報とのことだった。

残念ながら同行援護の利用者にも、ガイドヘルパーを「道案内人」と勘違いしていたり、外出の行程の下調べ等をガイドヘルパー任せにしたり、さらには制度自体をはき違えているケースもあるそうだ。これでは自立はおぼつかない。

視覚障害者の7−8割は、何らかの見える機能が残っており、全盲者は2−3割と言われている。見え方も人それぞれで、多種多様だと知った。先天性か中途失明か、失明原因の病気も様々で、進行中の場合もある。同じ人でも朝昼夜で見え方が違う、弱視だから危険が少ないとも限らない。拡大鏡で字は読めるが、色はわからない、またはその反対等々。従って、個々の利用者の見え方に合わせて、きめ細やかにガイドすることが大事だ。

また中途失明者は、ガイドヘルパー利用に至るまでに、相当な心の葛藤を経ているので、十分な配慮と、「また利用しよう」と思わせるような心遣いが必要。例えば中途失明者はものに触るのが苦手な場合が多いので、そういう点も配慮すべきとのことだった。
行き届いた介助のためには、ガイドヘルパーは日頃から生活の中で自然現象等を的確に表現する術や、福祉機器の情報などを得るように心がけること。そういう心がけが、余裕のある情報提供につながる。

なお点字については、習得に非常な努力が必要だと思った。実際に点字を習得していない中途失明者も多いが、その場合も自らが使う器具に、印となる突起のあるシールを貼ったりして工夫しているし、現在では視覚障害者用の携帯電話機も、高価だが販売されており、今回の研修で筆者がガイドした講師も自在に駆使していた。

4.研修後、実務開始

研修を終えると同行援護を行う事業所などに登録するのだが、先に述べたように、ガイドヘルパーの資格だけでは登録できない事業所も多い。

※同行援護事業を行う社会福祉協議会や介護事業所の一部、ごく少数だが同行援護専門の介護事業所ではガイドヘルパー資格だけで登録可

ガイドヘルパーは一般的には利用者が少ないので、収入も多くなく、それだけで生計を立てるのが難しい。雇用保険や有給休暇、年金・退職金などもなく、何年続けても時給払いのパート扱いである。
ある介護事業所の代表者に、ガイドヘルパーの利用希望者が少ない理由をたずねると、高齢者は遠慮から敬遠し、若い人は一人で(白杖を使って)歩けるか、家族などに介助してもらう場合が多いのでは、という意見だった。

またガイドヘルパーのなり手が少ないのは収入の問題だけでなく、外出の同伴という内容上、利用者1人あたりの勤務時間が長くなることも理由の一つだとのこと。
介護ヘルパーの勤務時間の単位は30分から1時間と短く、勤務の合間に私用の融通が利くが(例えば自分の買い物や、一時帰宅が可能)ガイドヘルパーにはそれができない場合が多い。ヘルパー職には圧倒的に女性が多いので、これは重要なことだそうだ。
また、ガイドヘルパーと介護ヘルパーの基本時給は同額だが、事業所に行政側から入る報酬は、ガイドヘルパーより介護ヘルパーのほうが少し多いそうだ。
これでは介護事業所も、同行援護事業に積極的になれないかもしれない。

筆者は、すでに介護・ガイドヘルパーとして働いている友人の情報から、隣市の2ヵ所の民間介護事業所にガイドヘルパーとしての登録を打診した。
両方とも登録可で、各々2名の利用者がいるが、利用希望曜日と時間帯などから一方を選んで登録することにした(複数の事業所に登録も可能)。
この事業所は小規模で、高齢者のデイサービスと訪問介護が中心だ。デイサービス登録者は15名、訪問介護は30名余で、デイサービス登録者の約半数は訪問介護も受けている。
介護内容は、事業所の規模や経営者のポリシーによってもかなり違うようだ。

また「障害者が65才になると、障害福祉から高齢者の介護保険の対象に切り変わるため受けられるサービスが減ったり、自己負担額が増えたりするケースが相次いでいる」と指摘される現状については、地方自治体によって対応が違い、当市では本人の希望でどちらかを選択でき、負担額も収入によって異なるので一概に良し悪しは言えないそうだ。ただし基本的には障害福祉と介護保険の両方は使えず、必ず一方を選択する。
介護保険を選択した場合、同行援護は障害福祉の制度なので使えなくなるが、市の生活支援事業でカバーすることも可能だそうだ。
近年は視覚障害のある高齢者の人口が増加しているので、介護保険と障害福祉の運用の兼ね合いという問題は今後大変重要だと思う。

筆者は面接を経て登録を済ませ、現在は事業所のスタッフとガイド実習中で、来月(注:原稿執筆当時)から実務開始予定である。
しかし実務経験者達からは、「現場は研修ほど甘くない」と聞いている。
筆者の実務次第については追って報告したい。

5.ガイドヘルパーと盲導犬

最後に「視覚障害者の目の代わり」といわれる盲導犬についても言及しておきたい。盲導犬も一種の「同行援護」であろうか。
しかし筆者は今回の研修で、人間による同行援護のほうが犬とは比較にならないほど有効で、盲導犬とは全く次元が違うと痛感した。
同行援護は単なる移動介助ではなく、利用者が自立するための情報提供(コミュニケーション)が最重要なのだ。
盲導犬はこの点で、ガイドヘルパーにはるかに及ばない。犬には代筆・代読は無論のこと、言葉による情報提供は不可能だ。

多くの人が誤解しているが、盲導犬はいかなる場合も使用者の指示によって動くのであって、犬が使用者を誘導するのではない。犬は人間よりずっと「目が悪く」、色の識別もほぼできないと言われている。
また種々の見え方の視覚障害者に、盲導犬が臨機応変に対応するのは困難だ。
ある盲導犬団体では、かつて自らのホームページに「視覚障害者の歩行介助は、(犬ではなく)人が手引きするのが最善」と掲げ、同伴者のための歩行介助講座を開いていたほどだ。

またガイドヘルパーが盲導犬を連れた視覚障害者の介助をするのは、かなり危険だと思う(当研修の受講者には、盲導犬を連れた視覚障害者のガイド経験者はいなかった)。
原則的にガイドヘルパーは利用者の半歩前を歩くが、それでも大型犬と使用者、ガイドヘルパーが一緒に歩けば幅を取り、安全確保が非常に難しい。そもそもガイドヘルパーが同伴する場合、盲導犬が必要なのか疑問である。
また盲導犬は「別の犬に代わる」ことはできないが、人間のガイドなら代替も可能だ。

同行援護は現在、定期的な外出(通勤・通学・通院など)には認められていないが、これらも地方自治体の生活支援事業でフォローできる場合が結構あるそうだ。要はケースバイケースで、利用者本人の行政への働きかけ次第とも聞いた(視覚障害のある講師は、「通勤や通学などは、慣れるまでガイドヘルパーを使えるようにしてほしい」との意見だった)。
なお遠方に出かける際は、行く先でのガイドヘルパーを手配し予約することもできるが、より利用者の利便性に沿った臨機応変な運用が望まれる。

盲導犬使用者数は、盲導犬団体等の大規模なキャンペーンにもかかわらず、この9年連続で減少している。
行政や盲導犬団体等は、社会に盲導犬の受容を推進しているが、政府系の世論調査でも「世の中の50%の人は犬が嫌い」という結果が出ている。
犬嫌いの人には大型犬は無条件で怖いものだ。また近年は犬アレルギーも増加中だ。幼児や児童は、不用意に犬を触りたがる。一概に社会に大型犬の受容を強要するのは無理がある。
おまけに盲導犬は、育成・飼育する労力を考えると、有効性・経済性の面からも利点が少ない。訓練前後の大変な部分はボランティア任せ、育成費は税金と莫大な寄付に拠る、大型犬の飼育は労力も費用もかかるのに使用者に一任、稼働は犬の寿命から長くて約8年。犬にとっても、散歩さえさせてもらえない盲導犬の生活は、ストレス以外の何物でもない。
さらに追い討ちをかけるのは近年の夏の暑さだ。地球規模の温暖化で、今後夏の気温上昇はますますひどくなるだろう。盲導犬の主力犬種であるラブラドール・リトリーバーは暑さに弱く、すでに使役中に熱中症で倒れるケースも散見される。真夏日や猛暑日の舗装道路の熱さがいかほどか、触るか裸足で歩いてみるといい。酷暑に戸外で犬を歩かせるのは虐待に等しいと知ってほしい。

同行援護制度には現在も流動的な部分はあるが、今後改善と充実を図り、普及に努め、有能なガイドヘルパーが増え、多くの視覚障害者がもっと「気楽」に利用できるようになれば、割に合わない膨大な税金や善意、犬の犠牲に依存する非効率な盲導犬制度に固執する必要はないと確信した。
また視覚障害者用のIT機器の開発も日進月歩で、これらの活用は視覚障害者の歩行を含めた自立に大いに役立つはずだ。
今回の研修は「人間の介助は人間(人間が開発した機器も含む)がするべき」という持論を再確認できた点でも、筆者にとって非常に有意義なものになった。


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