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アメリカ:海洋哺乳類保護法(MMPA)に基づく海産物輸入規制は2026年1月施行で市民団体と合意

漁業では、狙った魚だけが獲れるわけではなく、クジラ、イルカ、アザラシ等の海洋哺乳類なども一緒に捕獲され、死亡したり、重傷を負ったりしています。

毎年、世界中で65万頭以上の海洋哺乳類が漁具に巻き込まれるなどして犠牲になっていると見積もられており、商業漁業による意図しないこれらの犠牲は「混獲(bycatch)」と呼ばれています。動物たちは溺死したり、船外に投げ出されて負傷したりすることによって死亡します。商業漁業による混獲は、現在、世界中の海洋哺乳類の個体群にとって最大の保全上の脅威です。

アメリカの海洋哺乳類保護法(MMPA)に基づく海産物輸入規制

アメリカでは1972年以来、海洋哺乳類保護法(MMPA)によって、海洋哺乳類の混獲を防止する対策がアメリカと同等の水準でとられていない商業漁業で漁獲された海産物の輸入を禁止することが定められていました。

アメリカは世界最大の魚介類輸入国であり、アメリカで消費される魚介類の約70~85%は、カナダ、インドネシア、エクアドル、メキシコなどの130か国以上から輸入されています。アメリカが海洋哺乳類の混獲をなくすことを目的とした規制に乗り出すことは、とても意味のあることでした。

しかし、米国政府は、どの漁業を禁止するかを決定するプロセスを確立した2016年まで、この条項をほとんど無視していました。そして、その後も輸入禁止措置の施行日を何度も延期してきました。2023年1⽉1⽇にやっと始めることになっていたものが、免除期間がずるずると引き延ばされ、2025年12月31日までに延期されていました。

アメリカでは昨年夏、この遅さに業を煮やした市民団体3団体が、規制を履行していないとして政府を相手取り国際貿易裁判所に訴訟を起こしていました。国際貿易裁判所は、アメリカの特別審理裁判所(特定の種類の訴訟に関して米国全土に管轄権を有する裁判所)のひとつで、国際通商裁判所とも訳され、貿易や関税に関する事件を扱います。

Center for Biological Diversity

Center for Biological Diversity: NEW YORK— Conservation grou…

しかしこの度、政府との間に和解がなされ、2026年1月1日に発効することで合意されたと公表がありました。さすがにこれ以上、延期されることはないはずです。

Center for Biological Diversity

日本の水産庁も、2022年に既にこの新たな規制に関する説明会を開いていましたが(下記に報告を載せました)、ウェブサイトの表記も「輸入規制の開始は、令和8(2026)年1月からを予定しております」と改められていました。

参考リンク:施行の延期の履歴(ジェトロの海外ニュース―ビジネス短信)

どのような仕組み? 水産庁の説明会を開いてみた(2022年)

2022年6月、日本の水産庁は「米国の海産ほ乳類保護法(MMPA)に基づく水産物輸入規制に係る説明会」を開催、PEACEも参加しました。なとり、ニッスイ、一正蒲鉾、全漁連、地方自治体などが参加していました。

当時、アメリカは2023年1⽉1⽇から、アメリカと同等の混獲削減措置がとられていない漁業で漁獲された水産物の輸入を禁止すると決めている時期で、水産庁の説明会も「もうすぐ施行される」という感じでしたが、実際にはその後、アメリカが施行を繰り返し延期しました。(上記参照)

規制の仕組みは下図のようになっているとのことで、日本などの輸出国からアメリカ政府に申請をして、アメリカ側が禁輸漁業かどうかを決めます。アメリカと同等の混獲措置がとられてないと判断されれば、禁輸漁業となり、アメリカに海産物を輸出できませんが、混獲の恐れがないとされれば、免除漁業となります。下記のような図が示され、審査結果によっては⼀部漁業について、禁輸漁業の漁獲物が含まれていないことを証明する書類(Certificate of Admissibility、認容証明書)が求められる可能性があるとのことでした。

まだ日本から260の漁業をアメリカに申請した段階とのことで、詳細がどうなるかわからないところも多い説明会でした。(終了後に確認したところ、申請する単位は、大臣許可もしくは知事許可ごととのことだったので、例えば静岡県知事許可のキンメダイで1漁業のようなカウントになるとのことでした)

アメリカ側が、どの漁業を禁輸漁業とし、どの漁業を認容証明書があれば輸入できるようにするか、まだ判断は出ていない段階だったので、禁輸漁業になりそうなものはあるか質問したところ、基準がないのでわからないが、定置網では鯨類の採捕は禁止されていないので、禁輸漁業になる可能性が高いとのことでした。

もともとアメリカに水産物を輸出していなければ影響はないので、どの程度のことなのか、影響の範囲はよくわかりませんでした。 ただ、ある自治体が「禁輸漁業となった場合、もう変更にはならないのか」と質問していたので、影響が全くないということはなさそうに感じました。ちなみに、日本のアメリカへの輸出実績は下記のようになっています。

禁輸漁業となった場合、アメリカ側はどこが問題だったかは教えると言っているそうなので、指摘された点を改善すれば、再度申請はできるそうです。この規制は、日本だけではなく、アメリカに水産物を輸出するすべての国が対象です。施行後に、中継国に関する規制も予定されているとのことでした。

アメリカでこの法律を所管しているのは、海洋大気庁(NOAA;National Oceanic and Atmospheric Administration)です。審査結果についてはNOAAのサイトで公表されるとのことで、説明会開催当時はまだ公開されていなかったのですが、現在はNOAAのサイトに「外国漁業リスト」が公表されています。アメリカに魚や魚製品を輸出する漁業に関し、海洋哺乳類の偶発的な死亡・重傷の頻度や可能性に基づいて「輸出」または「免除」に分類された外国の商業漁業が一覧で記載されています。「2020年外国漁業最終リスト」には日本の商業漁業も掲載済みです。

NOAA

The Import Provisions aim to reduce marine mammal bycatch as…

和歌山県に聞いてみた。「 定置網漁は申請していない」

定置網でクジラを混獲して死なせたことが問題になった漁業といえば、和歌山県です。なので、説明会終了後に和歌山県の水産振興課に聞いてみましたが、アメリカの禁輸漁業に該当しないであろう漁業種類についてのみ申請したとのこと。もともと輸出も、そんなに行われてはいないようでした。 定置網漁は(鯨類を混獲しているので、そもそも申請が通らないということで)申請されていませんでした。〔2022年当時〕

水産庁は、アメリカの法律”Marine Mammal Protection Act”を「海産ほ乳類保護法」と訳していますが、PEACEでは「海洋哺乳類保護法」の訳を用いています。「海産」とは「海でとれること」を意味しますが、動物たちは単に海に生きているのであって、人間のための産物ではないからです。

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