神戸須磨シーワールド kobe suma sea world KSSW シャチ ラン 

神戸須磨シーワールドを現地訪問した鯨類専門家によるレポート

去年6月1日に神戸須磨シーワールドは開業しました。その直後にオルカ・リサーチ・トラストOrca Research Trust)から、神戸須磨シーワールド 2頭のフランスのシャチ、ウィキーとケイジョにとって、なぜ適切な施設ではないのか(原題:KOBE SUMA SEA WORLD, Japan.Why it is not a suitable facility for the two French orca Wikie and Keijo.)」と題する報告書が緊急で出されました。専門家が神戸須磨シーワールドを訪問しての評価報告書です。

この早さに驚きました。これは、神戸須磨シーワールドに2頭のシャチを輸出しようとしていたマリンランド・アンティーブの問題を受けて、フランス政府向けに作成された緊急評価レポートであり、衝撃的なことに、フランスの2頭のシャチは神戸須磨シーワールドに売却されたことが明らかになっていると書かれていました。その後、日本に輸出されなくなったことは本当によかったと思わされる内容です。

PEACEでは昨年の世界オルカデーに、このレポートに関する連続X投稿をしましたので、その内容を以下にまとめます。

※注:以下、写真とキャプションはPEACEによるものです。

シャチたちの歯について

PEACEでは以前、シャチの歯についての論文を紹介しましたが、この緊急評価報告書を書いたIngrid N. Visser博士は、このオルカの歯に関する論文の著者でもあります

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神戸須磨シーワールドに関する、この評価書でも、ステラの歯の多くがひどい状態で、ランの歯もステラほど摩耗はしていないが、問題があるとしています。

金属製の門、水槽のコンクリート、おもちゃなどの硬い表面をかじったり、噛んだりすることでシャチの歯は擦り減り、歯髄が露出します。 感染の可能性を減らすため、歯が削られますが、通常、鎮痛剤を使用せずに行われ、シャチの歯に永久に開いた穴が残ります。 ステラの歯には穴があります。

鴨川シーワルドから貸し出され名古屋港水族館で死んだ「ビンゴ」の標本の歯も削れていて、なおかつ穴がある

ステラは神戸須磨シーワールドでも施設の硬い表面をかじっています。 2 頭のシャチの歯の損傷の大部分は須磨シーワールドへの移送前に発生したものであるにもかかわらず、行動上の問題が継続しています。

この評価書は、歯のさらなる損傷と健康への継続的な懸念が残るとしています。 この行動は、この施設がシャチの飼育に適していないことも示しています。

さらに、日本でシャチを飼育している施設の状態が疑問視される点として、飼育されているシャチの歯が緑色がかっていることが記録されているのは日本だけだということがあると指摘されていました。原因はわからないそうですが、歯の内部に藻類が繁殖したのか、日本で飼育されているシャチの食事の化学的な不均衡が原因かもしれないと推測されています。

食べたものの吐き戻し行動

また、動物福祉の観点から、神戸須磨シーワールドで起きている異常行動として、慢性的な吐き戻しがあると指摘されていました。須磨シーワールドのシャチのショープールでは、魚の体の一部(鱗、骨、ひれ、肉など)が水面に浮かんでおり、下方に流れていました。水槽の底には、水の渦により吐き戻した魚が溜まっている場所がありました。

これらの魚のかけらが広範囲に見られることから、吐き戻しの程度は明らかとしています。どちらのシャチも吐き戻して再摂取していることが観察されたとのこと。

飼育下のシャチの、このような慢性的な吐き戻しと再摂取はストレスに関連しており、シャチの健康に影響を及ぼし、歯を損傷する可能性があるとされています。

体の組織の損傷

さらに、体には組織の損傷が見られます。 クジラ目の動物が体の一部を硬いものの表面に繰り返し打ち付けると、組織の損傷が発生します。さらにその組織が再び損傷を受けると、治らない状態になることがあり、痛みや痒みなどの症状が顕著になる場合もあります。

ステラは下顎の結合部に青白い部分があり、その周囲はマスタード色の変色で囲まれています。青白い部分は、他の部分とは異なる白色をしており、質感も異なります。また黒色の色素沈着のため目立ちにくいですが、吻端にも組織損傷があります。日中は別の色をしており、何かにこすったりぶつけたりしていたとみられています。

ドローン映像では、神戸須磨シーワールドの展示プールでランがアクリルの壁にわざと頭を叩きつけている様子が記録されていました。 このような頭を打ち付ける行動は、シャチを含む多くの鯨類で記録されています。シャチが窓を突き破り、重傷を負ったケースもあります。

神戸須磨シーワールドで、新しい施設に導入されて間もなく、このような行動が記録されたことは、深刻な懸念事項だと述べられており、この行動は、深刻な福祉問題を示しているとも指摘されています。

ショーの前の予期行動について

また、シャチたちには、ショーが始まる前などに、何かが起こりそうだと動物が想定したときに示される予期行動が起きていました。これは深刻なフラストレーションや、場合によっては攻撃性につながる可能性があるものです。

シャチはショーの前の方が小さい円を描て泳ぎ、速度も速くなります。また、口を開けて餌をねだる姿勢で泳いでいます。

《参考》この予期行動については、欧州のサーカスのレポートでも指摘されていました。調査によれば、 サーカスの調教師や飼育員のようなグループだけが、この予期行動を「動物がショーを楽しみにしている」と擬人化して解釈していました。しかし、ほかの専門家集団は、動物がふだん低福祉状態に置かれていることの証だと考えているとのことでした。
例えば、芸をした後にもらえる餌がほしければほしいほど予期行動は起きやすくなるでしょうし、専門家の分析のほうが納得できますが、日本では事業者による擬人化が真実だと信じ込まれる傾向にあります。

攻撃性について

攻撃性については、ステラに比較的新しいと思われる掻き傷があることが挙げられていました。ステラと一緒にいるシャチは娘のランだけですが、野生のシャチ社会では、娘が母親を攻撃したという記録はなく、神戸須磨シーワールドの2頭に強いられている歪んだ社会的側面が伺えるとしていました。(2頭は長年、別の施設で飼育されていました)

浮いたままぷかぷかするロギング

飼育下の鯨類は、水面にぷかぷかと長時間浮いたままでいることがありますが、これはロギング(水面に丸太のように浮いた状態でいること)と呼ばれています。
長期間のロギングにより、蚊が飼育下のシャチに病気を伝染させるリスクがあることが立証されているそうですが、そうした病気は、飼育下のシャチの死因ともなりうるそうです。神戸須磨シーワールドのシャチたちも、かなりの時間をロギングに費やしています。
神戸須磨シーワールド kobe suma sea world KSSW シャチ ラン 
ショーの合間、特にランが水面や水中でぷかぷかしていた

施設のスペックの低さ

神戸須磨シーワールドのシャチプールは、深さわずか 6.5 メートルしかありません。その2倍あってもシャチの飼育には不十分ですが、例えばフランスのマリンランド・アンティーブは、深さ11メートル。 神戸須磨シーワールドは、シャチの福祉に対する設計が不十分だと断じています。
プールは小さく、3つに分かれたプールを繋ぐゲートを全部開けたとしても、直線で泳ぐことがほとんどできません。
シャチのショープールの全景
また、シャチプールの東側に建てられた建物は、淡いベージュ色に塗られています。これが光を反射し、シャチプールのエリアに、さらにまぶしさを生み出していました。 米国オーランドのシーワールドで22年間動物トレーニング担当副社長を務めたチャック・トムキンス氏が神戸須磨シーワールドでトレーナーに指導していますが、彼も、神戸須磨シーワールドの日本人女性もサングラスをかけていました。強いまぶしさのためでしょう。

ショーの内容も酷い

ショーは、昔のサーカス公演を彷彿とさせるほどシャチに対する尊敬のないものでした。トレーナーはシャチに乗ったり、シャチによって水中から押し出されたりし、シャチを単なるパフォーマンス の余興に変えてしまっていると指摘されています。

 

その後、ステージ上にのぼる行動がみられるようになった。ショーでステージにのぼらせていることは、行動に好ましくない変化ももたらしている

トレーナーの安全対策もとられていない

トレーナーの安全に対する懸念も示されていました。 神戸須磨シーワールドでは、トレーナーは水に引きずり込まれたときに使う「スペアエア」(緊急用の小型酸素ボンベ)を身に着けていないと指摘されています。
世界中で、トレーナーがこのように脆弱な状態でシャチと交流する慣行は中止されており、例外は日本だけとのこと。日本にシャチを送り出そうとしていたフランスのマリンランド・アンティーブでも、シャチのウィキーがトレーナーに対して攻撃的であることがわかっているため、トレーナーが水に入ることはすでに中止されていると書かれていました。

教育に力が入っていない

教育についても散々な指摘がされています。 動物に関する情報より、人が濡れたり滑ったりすることに関する情報の方が多かったとあるのはその通りで、思わず苦笑してしまいました。
シャチの骨格も展示されていたが、このシャチに関する情報(骨格の由来など) は見つからなかったと書かれています。そのエリアは、人も少なかったと指摘されていて、実際、その通りなのです。

鴨川シーワルドのシャチについて

神戸須磨シーワールドと同じ法人(グランビスタホテル&リゾート)が運営する鴨川シーワルドのシャチについても評価が書かれており、ラビーとララの吻先のケガについて言及されていました。原因不明のケガにもかかわらず、ショーに使われていると指摘されています。
4月24日夜ランが神戸に搬出された後、残りの3頭はメインプールに閉じ込められていた。3日後の朝、2頭の吻先に傷があることが判明。ラビーの傷は裂きイカのように裂けたような感じ。ランを探して柵に激突するなどしていたのだろうか?
シャチたちは酷い吐き戻しと再摂取、半時計周りのパターン化した遊泳が見られ、慢性的な常同行動を見せていました。
また、シャチ3頭がお互いに何度も繰り返し呼び声をかけていました。世界中のシャチを飼育している施設を訪問してきたが、このような光景を目にしたのは今回が初めてだと書かれています。 ただし、飼育されているシャチが施設間を移動されるときや、水槽の仲間が死んだときにも、同様の行動が報告されているとのことで、ランがいなくなった後だからではないかということが暗に示唆されています。

日本の他のイルカ飼育施設

著者は日本の他のイルカ飼育施設にも赴いていますが、すべてのケースで深刻な福祉問題があると述べています。 不十分なプール/生簀、殺風景で特徴のないプール/生簀、不十分なエンリッチメント、身体的なケガ、吐き戻しと再摂取などの異常行動などが見られたと記しています。
屋外施設では日陰不足が一般的ですが、屋内施設では自然光が不足しているという指摘があり、本当にその通りだと思いました。日本で飼育されているクジラ目の動物のケア基準が基本的なニーズを満たすのに不十分であることを示しているとも指摘されています。
《参考》展示動物の飼養保管基準や動物取扱業の遵守義務のある基準も、日本では有効的に運用されていません。民間の基準として、日本動物園水族館協会(JAZA)が順次定めつつある適正施設ガイドラインがありますが、イルカ類については、まだ公開されていません。しかし、とりまとめの担当は鴨川シーワルドなのです。日本にいると、もっとひどい施設はたくさんあるため、鴨川シーワルドがとりまとめること自体に違和感はありませんでしたが、これだけ問題が指摘されていると、十分なものが期待できるのか?不安になります。
出典
Visser, Ingrid N. (2024). Kobe Suma Sea World, Japan. Why it is not a suitable facility for the two French orca Wikie and Keijo. Pp. 47. Available from Orca Research Trust. orcaresearch.org.

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