アメリカICCVAM:化学物質・医薬品の安全性評価の戦略的ロードマップ

<アメリカ動物実験代替動向>
化学物質・医薬品の安全性評価の戦略的ロードマップ公表

ICCVAM(代替法検証省庁間連絡委員会)による紹介文を翻訳

アメリカで動物実験代替法の開発、承認、使用促進等を行うための国の組織であるICCVAM(代替法検証省庁間連絡委員会)が、今年1月、化学物質や医療製品等の安全性を評価するための新規取り組みの確立を目的とした戦略的ロードマップを公表しました。動物実験からの転換を図るものです。

その内容を紹介しているページの翻訳をしましたので、以下にご紹介します。

日本の代替法評価機関であるJaCVAMのサイトで、ロードマップ本文の日本語訳PDFが公開されていますので、併せてご参照ください。

「新しいアプローチ方法論 (NAMs) 」については、こちらもご参照ください。


アメリカにおける化学物質と医療製品の安全性を評価するための新規取り組みの確立を目的とした戦略的ロードマップ

2018年1月 代替法検証省庁間連絡委員会(ICCVAM)

この戦略的ロードマップは、ヒトでの妥当性を改善し、動物の使用を置換もしくは削減するため、アメリカの連邦機関及び利害関係者が、化学物質や医療製品の安全性及びリスク評価に新規の試みを採用しようと模索するときの手助けとなる情報源である。この文章は、16の連邦機関のメンバーからの情報提供と、多数の省庁間で構成されるワークグループ及び市民からの情報提供によって編纂された。これ自体は意見の一致という態度を表すものであって、特定の機関もしくはワークグループの意見や方針を必ずしも反映するものではなく、連邦政府関係機関による誓約として受け取るべきではない。

この戦略的ロードマップの目標を実行するための活動は、すでに進行中である。ICCVAMワークグループは、ロードマップの目標に取り組むための詳細な実行計画を発達させるだろう。そして、懸念される特定の毒性学的エンドポイントに合わせてある。ロードマップの実現については概要を見てください。

国民の健康を守る、もしくは改善するために21世紀の科学の使用を促進することを目指し、ヒトの健康への妥当性を改善するための、そして動物を使用した試験の必要性を削減もしくは廃絶するための毒性試験の新規アプローチについて開発を可能にするための、信頼を構築するための、そして利用を確保するための新体制を築くことを目的として、連邦機関及び利害関係者は共に働く。これらの新規のアプローチを成功させるための開発及び遂行は、下に示すような3つの戦略的な目的に対処するための組織的な取り組みを要求するだろう。

(1) 新しいアプローチ方法論 (NAMs) の発展にエンド・ユーザー(最終利用者)をつなげる

新しいアプローチ方法論 (NAMs) の成功の実現は、産業パートナー及び連邦機関によって協調的に進展する研究開発努力に依存するだろう。現在は、解決すべき問題を求めてあまりに頻繁に技術が出現する。上手に発展し改良された新しいアプローチ方法論の可能性を増大させるために、最終的に新技術を使用するであろう規制機関及び規制産業が、試験方法の開発者と早い時点で関わりを持つべきであり、技術発展を通じて関わりを持ち続けるべきである。

  • 今後予測される試験の必要条件を特定する。安全な製品の発展と登録に必要な、今後予測される科学技術を特定そして理解しあうため、機関や業界関係者は共同で仕事をする必要がある。
  • 代替法の発展に合うような助成金審査の基準を確立する。新しいアプローチ方法論の資金調達は、研究開発の過程においてできるだけ早く始めるべきである。しかしながら、現在進行中の助成金審査の過程は動物モデルを含めた研究報酬に適合している。新しいアプローチ方法論の発展をより良い形で支えるために、連邦政府による新しいアプローチ方法論の基金の流通における影響力の過程が調査されるべきである。
  • エンド・ユーザー(最終利用者)と研究者との間でのコミュニケーションを改良するための仕組みを発達させる。すぐに実行されうる、極めてコスト効率が良く影響力が高い行動の一つは、エンド・ユーザーと試験方法の開発者との間における対話を改善するための努力をし続けることである。連邦機関及び業界関係者は、試験法の開発者とユーザーとの間で遠慮のない話し合いを推奨するようなプログラムや過程を協力して発展させるべきである。例として、エンド・ユーザーは、規制される試験区分の内外での使用事例に伴って、機関や産業にとっての優先順位を特定することを目的として、一連の講習会(ワークショップ)もしくはオンラインセミナー(Web上で開催されるセミナー)を主催することが可能である。

(2) 新規の方法において信頼を築くための効率的で柔軟で堅固な慣行の利用を発展させる。

利害関係者と連邦政府関係機関は、初期の製品開発から最終的な使用目的に至るまで、柔軟で堅固な、統合的な取り組みを使用した新しいアプローチ方法論における信頼を確立するために共に働くべきである。

  • 試験要件と使用の文脈を明確に線引きする。定義によれば、バリデーションでは、ある特定の、そして本来の目的のための適応性が確立される。しかしながら、単一ガイドラインの動物試験によるデータは多目的に使用されうるのであって、代替試験法が開発されるときにも、全てのものが考慮される必要がある。最終的な使用の背景を考慮し損ねているということが、新しいアプローチ方法論を産業機関と政府機関が使わない理由として最も頻繁に挙げられている。それゆえ、現存の動物実験と新しいアプローチ方法論の両方のデータが使用されうるあらゆる文脈にそって、複数の機関がはっきりとその必要性について意思疎通を図ることが欠かせない。
  • 信頼を築くための新規のアプローチの使用を促す。機関や利害関係者は、特定の新しいアプローチ方法論の目的への適合性を評価するためのより柔軟で効果的な過程を発展させる手引きとして過去の経験を利用するべきである。これら新規のアプローチの発展は、協力的で透明性のある、包括的な方法の中で行われるべきである。これを成し遂げるための活動は以下のようなことを含むだろう:
    • ヒトの生物学、暴露、及びメカニズムの関連性(例えば作用機序やAOP)によって促進されるような、そして性能評価に動物のデータを用いないような、新しいアプローチ方法論の信頼性を確立するために研究する。
    • 産業によって内部ですでに使用されているスクリーニングの、規制での受理を効率よく促すための最良のアプローチについて話し合う場を設けること。
    • 代替法のアプローチが首尾よく評価される、もしくは実施される方法について、図式化したケーススタディ(事例研究)を機関や利害関係者に提供すること。
  • 分野横断的な連絡及び連携を促進するために公共と民間の協力体制を利用する。新しいアプローチ方法論の開発の成功は、知識とデータ双方の共有を促進するような官民の協力体制を経由して密接に協力しあう連邦機関や利害関係者の能力を頼みにしている。民間セクターに協力体制を拡大することによって、新規試験法の開発及び活用に組み込まれて行くような、製品開発と登録のサイクルを通じて得られる知識と経験が得られることになる。そのような協力体制によって、ICCVAM及び利害関係者の資源や蓄積された専門知識が、生産部門全体にわたり同時並行的に存在する試験の必要性や要求に影響を与え、代替試験法の研究、開発、採用そして推進に影響を与えるような機会が提供されるであろう。例として、それらのような協力体制は以下の事例を可能にする。
    • 高品質なヒト毒性と暴露データ源の同定及び照合。
    • 公的に入手可能で簡単にアクセスできる集中データ接続先の創造。
    • 動物実験と代替法から並列データの提案及び照合を積極的に求める。

(3) 連邦政府と規制を受ける業界による新規の方法とアプローチの結合及び使用を奨励する。

連邦政府と利害関係者は、新しいアプローチ方法論の成功する採用と利用の促進に積極的な役割を担う必要がある。

  • 新しいアプローチ方法論の受け入れに関して、明確な言語を提供すること。業界関係者は、規制当局の受け入れ状態に関する明確なガイダンスを欠くことが、新しいアプローチ方法論の利用を妨害する重要な因子であるとほのめかしている。もし産業界が、規制機関によってデータが受け入れられるかどうかについて確信がもてないなら、新しい方法の使用を期待することはできない。産業による利用の促進をするために、機関は新しいアプローチ方法論からのデータの利用と受け入れに関する明確な手本を示すべきである。
  • 国際的な調和と規制当局の受け入れを促進するために国際的なパートナーと協力する。世界経済において新しいアプローチ方法論を発展させるための各国による努力は、国々が最も保守的な国の要求に従っていつも試すように、新しい方法の国際的な採択がなければ、インパクトはほとんどないだろう。国際的なパートナーとの頻繁で率直なコミュニケーションによって、新しいアプローチ方法論の発展と進展が協調され、実現可能なところでは国際的な規制上の要件となることが確立されるだろう。そのような協調の場はすでにICATM(International Cooperation on Alternative Test Methods:代替試験法国際協力)に存在している。それは、国際的なバリデーション組織の中で、対話の促進を引き起こしている。ICATMメンバーの相互関係に加えて、連邦機関もまた、試験方法の業績に基づく評価の利用を含め、新しいアプローチ方法論における信頼を築くために新しいアプローチを確立させる必要性をますます強調し、OECD テストガイドラインプログラムと密に関わり続けている。
  • 新しいアプローチ方法論の使用を奨励及び促進するための過程を探索する。新しいアプローチ方法論を支持し、動物を基盤としたアプローチを断念しようとする連邦機関や産業パートナーにとって、単純に科学的信頼を確立することが十分な根拠になるとは限らない。新しいアプローチ方法論の利用を誓約する以前に、考慮されるべき実質的で非科学的な要因が多く存在する。これまでの成果を信じることであったり、法的懸念であったり、協調に関することなどである。新しいアプローチ方法論の成功の実現は、新しいアプローチ方法論の普及を可能にするためにこれらの因子を特定し、解決法を編み出し、機関と利害関係者が共に働くことに依存するだろう。例として、毒性研究の実施もしくはレビューを行う人材のために、新しい方法の利用に関するトレーニングプログラムが確立されるべきである。
  • 活動の優先順位付けや進行状況のモニタリング、成功の測定のための適切な測定基準を同定する。全ての3Rsの取り組みが、動物の数を減らしているか、もしくはヒトとの関わりを改良しているかといった、掲げられた目的における実際のインパクトを決定できるのかといった課題に直面している。新規の検査方法の導入における効果を測定することは、アメリカではとりわけ難しい。それは、毒性試験における動物の使用を数値化する能力が限られていることが原因である。これらの障害があるにも関わらず、与えられた活動の影響を見積もるために利用できる機関特異的な仕組みは存在するかもしれない。それは、特定の動物実験に適用された権利放棄の数を追跡するようなものである。この国家戦略の影響を評価するため、進捗状況を追跡し、成功を測る客観的基準を特定する効果的な判定基準を作り出す必要がある。

出典:
NIH:A Strategic Roadmap for Establishing New Approaches to Evaluate the Safety of Chemicals and Medical Products in the United States
https://ntp.niehs.nih.gov/pubhealth/evalatm/natl-strategy/index.html

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