信州大学:動物実験基本指針違反事例に関する質問書

未承認のまま行われた動物実験の件で信州大学に送った質問書です。1)~5)に関しては、回答は裁判係争中とのことでいただけませんでした。回答については、こちらをご覧ください。


2017年12月29日

国立大学法人信州大学
学長 濱田 州博 殿

動物実験基本指針違反事例に関する質問書

昨年、貴大学医学部で行われた「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究」の動物実験に関する情報公開請求を行った動物保護団体のPEACEです。本情報公開請求により動物実験計画書の承認を経ずに動物実験を実施するという言語道断な事件が発覚いたしました。

またこの件に関する貴大学の対応は、文部科学省の「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(以下、基本指針)及び「信州大学動物実験等実施規程」(以下、規程)に違反した実験に対し、実験終了後であるにもかかわらず過去にさかのぼって実験計画書を承認するという、何の定めにも基づかない極めて不適切なものでした。

このことに改めて抗議するとともに、先日新たに発覚した事実に基づき、以下の質問をいたします。ご回答のほどお願い申し上げます。

【質問事項】

1) 当該研究におけるNF-κBp50欠損マウスの実験開始日は、昨年事後承認された実験計画書に記載された実験開始日より前でした。実験終了後に承認するという不適切な決定がなされたにもかかわらず、実態と計画書が合っていません。昨年事後承認された実験計画番号260077の実験計画書もまた、国の基本指針及び信州大学の規程に違反した状態ではないのでしょうか。計画書の実験開始日より前に実験が行われていることについて、再調査を行うべきではないでしょうか。

詳細:
貴大学の池田修一教授がジャーナリストの村中璃子氏を訴えている裁判の証拠として「2015年12月28日のプログレスミーティングにおいてA氏が提示したものと原告池田修一が主張するスライド」(甲17号証拠)なるドキュメントがインターネット上で公開されています。

このドキュメントによると、昨年池田修一教授が厚生労働省の成果発表会で示したスライドのマウス実験の開始日は、2014年3月5日です。

しかし、昨年貴大学の動物実験委員会が、実験計画書の審査を経ずに実施された過去の動物実験について実験実施後に承認を行った子宮頸がんワクチン研究の動物実験計画書(実験計画番号260077)の実験開始日は、2014年7月1日となっています。

そもそも指針・規程違反が発覚した後に実験計画書が承認されているにもかかわらずこのような違反状態が継続しており、なぜこのような判断に至ったのか理解に苦しみます。現在も当該研究のマウス実験が承認を受けずに実施された状態であることに変わりはないことになり、再調査が必要であると考えます。

実験責任者(A氏、すなわち林琢磨准教授)が当該研究の前に行っていた緑内障研究の実験計画書で当該子宮頸がんワクチン研究を行うことができるとの貴大学の主張はあまりに常識外れの論であり、そのようなことがもし認められるのであれば、国が動物実験基本指針で定めている機関管理の枠組みそのものが瓦解します。多くの動物を犠牲にしながら科学研究を行う立場でありながら、そのような主張をするのは、あまりに無責任な態度です。また多くの動物実験関係者に対しても示しのつく態度であるとは思えません。

実験開始日を7月1日として事後承認しなければならなかった事情も想像しがたく、再調査の上、事実関係を明らかにし、大学としての社会的責任を果たすべきであると考えます。

2)2016年8月10日に貴大学が公表した「信州大学医学部における未承認実験とその対策の実施について」において、当該動物実験が文部科学省の動物実験基本指針違反及び信州大学の規程に違反していたことについて触れています。しかし、当該子宮頸がんワクチン研究は厚生労働科学研究費補助金を受けて行われた研究であり、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」にも違反していたことは明らかです。事件発覚当時、そのような判断がなされていなかったのでしょうか、それともなされていたが公表されていないのでしょうか。なされていなかった場合、この件についても再調査・再判断の上、厚生労働省への報告が必要ではないでしょうか。なされていた場合、厚生労働省への報告は行われているでしょうか。

詳細:
厚生労働省は従前より、動物実験基本指針への違反については補助条件違反として処分の対象になると説明を行っています。厚生労働省の動物実験基本指針違反こそ研究費助成に直結する問題であり、この点についての貴大学の判断及び当局への報告がどうなっているかについて説明を求めます。

3)前述の裁判については、被告側が提出した証拠として「2017年12月5日 訴訟閲覧報告書」(丙32)なる文書もインターネット上で公開されていますが、そこには、貴大学医学部における「未承認実験」には「いくつかの実験」があった旨の記述があります。昨年、「未承認実験」は何件、発覚したのでしょうか。研究課題名を一覧でお示しください。また全てが事後承認となったのでしょうか。

詳細:
この文書は、A氏(林琢磨准教授)が解雇不当として学校法人国際医療福祉大学を訴えている裁判に関するものであり、該当する記述は以下の通り。(注:下線は当会による)

原告準備書面(3)(平成29年8月30日付け)において、原告訴訟代理人清水勉弁護士及び出口かおり弁護士は、以下のとおり、主張している。

『お知らせ』(乙13)に記載された、「未承認実験」には、大学医学部におけるノックアウトマウスを使用したいくつかの実験が含まれており、原告がマウス実験を担当した子宮頸がんワクチンに関する研究も含まれていた。これらの実験を研究内容とする教授らが始末書を提出し、原告は、研究責任者ではなかったが(原告は、自身の研究としてではなく、別の教授の研究の一部を手伝う立場で、マウス実験部分だけを依頼されて解析していた)、ノックアウトマウスを使用した実験を実施した担当者として始末書を同大学に提出した。

4)情報公開請求によって当会に開示されたマウスの一覧のうち、2014年1月8日にタイピングされた群が上記3月5日の実験に用いられたものでしょうか。タイピングは生後何日で行われていますか。それは全てのマウスで共通でしょうか。

詳細:
上述の資料「2015年12月28日のプログレスミーティングにおいてA氏が提示したものと原告池田修一が主張するスライド」にマウスが生後10週とあるため、念のため確認を希望します。

5)2014年3月5日に開始された実験に、貴大学内で繁殖された生後10週のマウスが用いられており、その実験計画書の実験開始日は同年7月1日です。計画書が承認される前に、その実験に用いる動物のための繁殖を行うことを貴大学は許しているのでしょうか。ルールを教えてください。

6)「信州大学動物実験等実施規程」は平成28年6月1日と平成29年3月17日の2回、改正が行われていますが、それぞれどのような改正を行ったのでしょうか。

7)当該違反事例発覚後、上記規程改正以外に、貴大学において動物実験実施に関するルール、内規等に変更はありましたか。

以上、国の基本指針において、動物実験等の適正な実施のために必要な措置を講じる責務を負う者は研究機関等の長であるため、貴殿にお尋ねします。
できる限り速やかにご回答くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。


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