獣医学教育の改善・充実パブリックコメントへ意見送付
5月12日、以下のパブリックコメントに意見を送付しました。(2013.5.18掲載)
詳細
論点1・改正動物愛護法に対応するための獣医学教育について盛り込むべき。
「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正され、本年9月1日より獣医師には動物虐待発見時の通報努力義務が課せられます。
このことに関しては、虐待を見分けることは難しいといった意見が獣医師会から出ているのが現状ですが、事例を蓄積しての研究が不十分であることも理由の一つではないでしょうか。
これからの時代は、社会の要請に対応できるような獣医師の養成が必要であり、
そのための研究体制の構築も行うという記載をぜひ盛り込んでください。
また、刑事事件には関わりたくないといった獣医師の意識が強く働いているのが小動物医療の現場です。そういった意識を改め、法律に対応した行動がとれるようにするような教育をぜひよろしくお願いします。
論点2・動物福祉に関する教育を充実させるべき。
動物福祉・倫理に関して、「非常勤講師等の活用による対応が検討されている」という現状分析が一言あるだけでは不十分です。(2ページ「調査結果を踏まえた獣医学教育の改善充実の状況と課題」の本文3行目)
世界獣医学協会(World Veterinary Association)が、そのミッションに「動物の健康と福祉の確保・普及」を掲げているように、動物福祉は獣医師という職業にとって重要なテーマであるにもかかわらず、日本ではそもそも獣医学部が動物福祉の研究・教育の役割をになっておらず、不十分な現状があります。
国際レベルに対応する獣医学教育の改善・充実を掲げるならば、まず日本が取り組まなければならない課題であるのに、あまりにも扱いが小さすぎるのではないでしょうか。
近年、動物愛護の機運は国内でも高まってきており、獣医療ユーザーである小動物の飼育者が求めるようになってきているのは、動物福祉に裏うちされた診療です。動物を利用する対象と見るように教育を受けている獣医師と、ユーザーとの間に大きな意識のずれが生じている現状もあり、獣医師側の意識の変革を促すような教育が必要です。
また、動物福祉に関連して、特に教育を施すべき分野・内容としては、以下のようなものが挙げられます。
●家畜について:行動や生理・習性に関する教育だけではなく、動物福祉にかなった飼養管理技術や、欧米のアニマルウェルフェアに対する取組みや法律などについても教えるべき。
●伴侶動物について:動物病院での臨床だけでなく、犬猫の殺処分の問題やホーダー、ネグレクトなどの問題も獣医師が積極的に関わるべき重要な問題として教えるべき。
行政で殺処分を継続せざるを得ない原因の一つは、開業獣医師が安楽死に係りたがらないことであり、診療行為と社会とのかかわりについて、より考えさせるようなカリキュラムとするべき。具体的には、行政職員を講師に招いたり、センターの見学を行い、各地方の現状などを把握させるプログラムを作る、センターが譲渡を行う犬猫の不妊去勢手術を臨床実習として学生が経験する、など。
●実験動物について:動物実験の3Rを実現するための実践的な知識だけではなく、各国の法律や規制についても学び、国際的に通用するような倫理観を育てるカリキュラムを取り入れるべき。
論点3・臨床教育に動物実験の代替としての役割もあたえ、動物実験の代替に積極的に取り組むこと。
臨床教育の充実は必須ですが、臨床教育の役割として、実験動物の利用の代替としての役割も与えるべきだと考えます。
協力者会議の議論では、臨床教育を行うために事前に実習をふやす必要があるとの意見も出ていましたが、それでは本末転倒です。実習用に使われる動物の負担や犠牲を減らすために臨床教育をもって代替とするべきであり、実験動物の利用を増やすことはしないよう明確に求めてください。
モデルやシミュレーション、死体の利用などによって、実験動物の犠牲を減らしていくべきであり、希望する学生には、生きた健康な動物をわざわざ傷つけるような方法はとらない履修を認めるような体制づくりを行うべきです。
論点4・【研究職獣医師について】の部分で毒性学の教育の充実等の記載がありますが、それ以前に、実験動物福祉に関する知識をもった獣医師を養成し、実験動物の獣医学的ケアの重要性を社会に認知させる努力をするべき。
日本では、実験動物管理獣医師のいる動物実験施設が少なく、その重要性も理解されていません。この分野の教育もほとんどなされないので、公務員獣医師はたくさんいるのに、動物実験施設を公的に査察するような仕組み自体が導入できない、獣医師の配置の義務付けもできない等の貧弱な体制が続いています。
ライフサイエンス分野で研究職獣医師を充実させる以前に、日本のこういった状況を憂えるべきで、動物実験の3Rを担保する役割を担う獣医師の教育にもう少し力を入れるべきです。
獣医師以外でも問題のない職域に獣医師が執着する必要はなく、むしろ獣医師でなければならない分野で地位向上と教育に取り組むべきだと思います。
▼2012年の動物愛護法改正の概要と、2013年の施行までの一連の動きについては、こちらのページにまとめました。
「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護法)は、人に飼育される全ての動物の保護にかかわる法律です。人が産業利用する動物も決して対象外ではありませんが、諸外国とは違い、実験動物や畜産動物の保護・福祉に関する具体的な規定に欠けています。今後[…]