対EU輸出食肉の「動物福祉に関する基準」
2013年3月、口蹄疫のために遅れていた対EU向けの食肉輸出が解禁されました。これに際し、厚生労働省が「対EU輸出食肉の取扱要綱」を定め、EU加盟国向け食肉を扱うと畜場を認定する仕組みの詳細が定められましたが、実際には2014年5月まで認定施設がなかったために輸出はされていませんでした。
この要綱には、「認定されたと畜場等で定められた要件を遵守し、とさつ・解体から分割までが一貫して行われ、かつ、衛生証明書を添付された食肉は、EU加盟国への輸出が認められる」とあり、輸出できる品目としては、牛の骨格筋(牛肉)が定められています。
特徴的なのは、EU向けには動物福祉に関する定めがあり、「EU 向け処理を行う牛に対して、と畜場における搬入からとさつまでの間の施設・設備等、及び当該牛の取り扱いは、別添5『動物福祉に関する基準』に適合して行われること」とされていることです。
これは、EU並の動物福祉基準をクリアしていることがEU側から求められた結果であり、今年(2014年)になって認定施設ができたということは、日本でもやろうと思えばこの基準をクリアすることができるということだと思います。全文を以下に掲載しました。けい留所での飲水や給餌に関する配慮は、日本では全く一般的でないと思います。
ちなみに、認可されたと畜場・食肉処理場は、輸出前に欧州委員会の保健衛生・食の安全総局(DG SANTE(DG SANCOから改名))のウェブサイトに名称等が掲載されます。
(略号「SH」が、と畜場(Slaughterhouse))
別添5 動物福祉に関する基準
1 一般的事項
(1)と畜場において、EU 向け輸出の牛の搬入からとさつまでの間、動物福祉の観点から適切に取り扱われること。
(2)本基準を確実に実施するため、動物福祉に関する内容のマニュアルを整備すること。また、施設に動物福祉責任者を置き、同マニュアルに基づき適切に実施されていることが確認されていること。
2 と畜場の設備等
(1)けい留所及び通路は、牛が動揺しないよう環境を管理し、通常の動作を容易に行うための十分な広さを有すること。
(2)けい留所及び通路にタラップを設ける場合には、牛の落下を防止するための設備が設けられていること。
(3)けい留所には、牛が常時支障なく給水できるよう、適切な給水設備を設けること。
(4)けい留所及び通路の床面は、凹凸を設ける等牛の転倒を防止する構造を有していること。
3 と畜場における取り扱い
(1)と畜場に到着後、できる限り速やかに生体を積み下ろし、過度な遅延なくとさつすること。12 時間以内にとさつされない場合には給餌し、その後も適切な間隔で適量の給餌をすること。
(2)積み下ろし後直ちにとさつされない場合には、常時飲水できるようにすること。
(3)次の行為は禁止する。
・手足又は器具による強打
・目、鼻、尾等過敏な部位の刺激
・頭や耳、角、脚、尾等の牽引
・鋭利な器具による突き立て
(4)電気ショックを与える器具の使用は避けること。なお、移動し難い成牛のみ使用しても差し支えないが、1秒以内とし、繰り返し使用しないこと。
(5)ロープを使用して角、鼻環又は両脚を拘束、牽引等しないこと。ロープの使用に当たっては、次のとおりとすること。
・牛が障害を受けることがないよう適切に結さつすること。
・牛が必要に応じて、横臥、飲食できること。
・牛の首が圧迫又は障害を受けない方法によること。また、その恐れがある場合には、直ちに解放が可能となるよう措置すること。
(6)と畜場の開場時には、常に隔離所が使用できること。
(7)動物福祉責任者は、けい留場所における牛の健康状態を定期的に点検すること。
(8)スタンニングから放血までの操作は、1頭の牛に対して連続して行うこと。
(9)放血後の剥皮等の作業は、牛の生体反応が完全に消失してから行うこと。