ガイドヘルパーレポート第2弾【後半】

盲導犬はいりますか レポート第2弾 ガイドヘルパーとその他の歩行介助法について ー人間の介助は犬ではなく人間自身が担うべきー

ガイドヘルパーとその他の歩行介助法について

ー人間の介助は犬ではなく人間自身が担うべきー

寄稿 高橋和子

レポート前半

ガイドヘルパーとその他の歩行介助法についてー人間の介助は犬ではなく人間自身が担うべきー寄稿 高橋和子1. ガイドヘルパーの実務体験についてこれまで私がガイドヘルパーとして同行援護(外出に同行)した視覚障害者は12人(各人[…]

盲導犬はいりますか レポート第2弾 ガイドヘルパーとその他の歩行介助法について ー人間の介助は犬ではなく人間自身が担うべきー

2. ガイドヘルパー以外の歩行介助法・バリアフリー環境について

本題の前に、以下は数年前にある盲導犬団体の集会で見かけた光景だ。

70代後半に見えるかなり太った女性が、片手に体を支える短めのステッキ、反対の手に盲導犬のハーネスを握っている。彼女の体は斜めに曲がり、歩くごとに大きくかしぐ。まだ若い痩せた盲導犬が不安げに自分の主人を見上げながら歩調を合わせている。

この女性は歩行中ステッキもハーネスも一瞬たりとも離すことができない。

常に両手がふさがり見るからに危険な状態である。彼女は盲導犬団体の職員とも親しげに話していたので、団体もこの状態を容認しているようだ。犬の世話も彼女にとっては大変なことだろうが、なぜそこまで盲導犬に固執するのか。盲導犬を使えなくなった後のことは考えないのだろうか。

近年ペットの飼い主の高齢化でも社会問題が生じているが、どの盲導犬団体も盲導犬の使用者に定年を設けていない。また盲導犬の引退年齢が10才前後というのも大型犬の寿命からは遅すぎるし、盲導犬の引退年齢すら定めず使用者任せの盲導犬団体もある。

目覚ましい技術開発

閑話休題、ガイドヘルパーなどのマンパワーに加え、歩行介助に有効な機器や環境は長年にわたり開発・整備されてきた。視覚障害者用の機器は市場が狭いので利潤が上げにくいにもかかわらず、当事者や関係者の熱意を持って研究開発が進められている。

特にスマートフォン関連を始めとする近年のIT (情報技術)やAI(人工知能)の進化による利便性の向上には目覚しいものがある。アイデアが実用化や普及に至らない案件も多いようだが、視覚障害者の外出を支援するナビゲーション(経路誘導)システムなどは企業や官公庁が連携して開発に乗り出し、「盲導犬の代替物」などという不遜な題目で括れないほど多くの努力が続いている。

順不同になるが、それらの中の何点かをここで紹介してみたい。

電子白杖

まず視覚障害者の歩行に欠かせない白杖にも、折りたたみ式、長さ調節が可能なもの、反射板やライト付き、「スマートケーン(ケーンcane=杖)」(商品名)などの電子白杖と様々あり、ハイテク化も進んでいる。

電子白杖は超音波センサーで障害物を探知する電子装置がついた白杖で、障害物の存在を振動や音声で知らせる。さらに障害物の種類と距離を具体的に通知するなど一歩先の機能の開発も進行中だ。

例えば、東京工業大学の学生チームによるインターネット機能搭載の白杖「Walky」(2016年~)

ただ、すでに商品化されているハイテク白杖は高価・重い・雨天では使えないなどの理由で普及に至っていないようだ。私のガイド利用者にも電子白杖を使っている人はいない。

スマホアプリの活用

白杖歩行を介助するシステムには、点字ブロックに始まり、GPSなどのITを使ったナビゲーションまで各種あるが、近年視覚障害者にもスマートフォン(以下スマホ)の使用が急速に広がっていることから、スマホのアプリで歩行者を誘導するタイプが増えている。

スマホ、特にiPhoneは音声読み上げ機能や声で操作できる音声アシスタント機能などが標準装備され、その他視覚障害者に便利なアプリも提供されるので利便性が高い。

例えば東京都のアメディアが開発し、現在は無料で利用できる移動支援アプリ「ナビレコ」は、音声と振動で視覚障害者を目的地までガイドする。

2019年には同社が、音声ガイド地図の普及を主目的にした社団法人「音声ナビネット」を設立している。

子供用白杖

またハイテク化の反面、近年まで子供用の白杖はなく、大人用の白杖を切って使っていたが、重すぎる・握り部分の形状が子供の手に合わないなど難点が多かった。しかし2017年に長野県のキザキが初めて子供用白杖の開発・製品化に成功した。

この子供用白杖は「福祉機器コンテスト2018」-日本リハビリテーション工学協会主催-で最優秀賞を受賞している。

ロボット型歩行ガイド

ロボット型の歩行ガイド機器としては、山梨大学の森英雄氏が長年の開発を経て改良実用化した電動車椅子型の「ニューひとみ」(2002年「ひとみ」から改称)や日本精工のガイダンスロボット「LIGHBOT」(2017年商品化。主に病院や大型施設の屋内案内用)などが挙げられる。

また2020年にはスーツケース型の歩行誘導ロボット「AIスーツケース」も話題に上った。これは日本 IBMなど5社が共同で視覚障害者の移動を介助する機器を開発する企画で、自らが視覚障害者でIBM最高役員の一人である浅川智恵子氏が中心になっている。彼女は米国の大学でも教鞭をとっており、日頃からスーツケースを持って日米を行き来するのでこの企画につながったのだろうか。今後に期待したい。

靴装着型の歩行介助装置

さらに「あしらせ」という靴に装着する歩行介助(ナビゲーション)装置にも注目したい。これは車のホンダ(本田技研工業)のベンチャー企業が開発中で、スマホの機能と高度なAI技術を組み合わせた革新的な装置といえよう。

「あしらせ」が画期的なのはハンズフリーという点だ。これまでのスマホを活用した歩行介助装置は、スマホと白杖を手に持つ必要があるが、この装置は、スマホの機能が靴につける装置自体に搭載されている。「あしらせ」は今年度中の販売開始を目指してすでに実証実験に入っているし、同様の装置がオーストラリアでも実証実験中だ。

ハンズフリーの点からは、米国のジョージア大学が開発したAIを搭載した歩行介助用のバックパック、ウェストポーチ、ベスト等も挙げられる。

駅のホームと道路の横断

視覚障害者の歩行で一番危険なのは駅のホームと道路の横断と言われる。現在ではホームの内側が認識できる「内方線つき点字ブロック」が整備されている駅も多いが、駅ホームからの転落防止に最も効果的なのはホームドアの設置である。例えば東急電鉄は2020年までに主要3路線全駅にホームドアを設置した結果、人身事故がゼロになった。

ホームドア

ホームドアが設置されているのは2019年(令和元年)度末時点で全国9500駅中855駅に過ぎないが、国のバリアフリー法や障害者差別解消法の後押しもあり、首都圏や関西などの主要駅を中心に急速に設置が進んでいる。

ホームドア設置を進めるきっかけとなったのは2001年に起きたJR山手線新大久保駅のホーム転落事故である。この事故では転落者(高齢の晴眼者)を救助した韓国人留学生と日本人の2名が亡くなっている。

また、2011年にJR山手線目白駅で白杖歩行の視覚障害者が転落死。2016年には東京メトロ銀座線青山1丁目駅で盲導犬を連れた視覚障害者が転落死している(盲導犬はホームに残存)。その後、駅のホームで13件の視覚障害者転落死亡事故が起きているが、事故当時いずれの駅にもホームドアはなかった。

2016年には国土交通省が指針を示し、2020年の東京五輪開催に向け「1日の利用客が10万人以上の駅」にホームドアの整備を促し、10万人以下の駅にも利用状況によっては整備をするとした 1

例えば首都圏での「利用10万人以上」の該当駅は東京メトロでは144駅中52駅、都営地下鉄では106駅中11駅だが、前者は2025年までに、後者は2023年までに全駅に設置の計画だ。

ホームドアの設置には1駅約4~5億円はかかると言われ、コストの低減や技術開発が課題だが、設置時の費用分担は基本的に国、地方自治体、事業者が1/3ずつとされる。国(国土交通省)は年額3億3,400万円の補助金を支給(2013年度)、東京都は2020年度から補助金をホームドア1列につき上限3,000万円から4,000万円にアップ、補助対象も拡大した。

少し古いが2005(平成17)年度の統計によると、鉄道事故857件中ホーム関連事故は150件で17.5%を占める。ホーム関連事故の死傷者356人中、自殺が57.9%、酔客が19.4%、視覚障害者は2人で(どちらも負傷)1.3%である。従ってホームドアの設置は視覚障害者だけでなく、晴眼者にもメリットが非常に大きい。また鉄道会社も事故による遅延などの経済的損失を避けることができる。2018年の鉄道人身事故数は1108件で、想定損害額は46億円に達する。

ただしホームドア以前に駅員の付き添いや居合わせた乗客の配慮が大事なことは言うまでもなく、鉄道全駅の約半数に上る無人駅での対応も喫緊の課題だ。

視覚障害者の約4割がホーム転落または転落未遂の経験ありという調査結果もあるが、ホームドア以外にも一昨年マスコミで取り上げられた京セラが開発中の「スマート白杖」や、昨年東京メトロが導入した駅構内での誘導システムはどちらもスマホとITを組み合わせたもので、今後転落事故防止に一役買いそうだ。

視覚障がい者ナビゲーションシステム「shikAI」
視覚障がい者ナビゲーションシステム「shikAI」 QR コードを専用アプリで読み込む

道路横断

なお道路の横断用には大阪府のアイフレンズが開発した「シグナルエイド」(信号機と連動する小型の誘導用具)が代表的で、音響式信号機に向けてボタンを押すと誘導音が鳴り青信号の延長もできる(音響式信号機は全国で導入されている)。シグナルエイドは障害者向けの「日常生活用具給付等事業」の指定品で、購入時に自治体から補助金が出る。

その他、交差点に設置した機器から無線でスマホに信号の色を知らせ、ナビとも連動するアプリの実用化も進んでいる。警察庁が2021年度に約2000機を全国の交差点に設置する方針。

また額(ひたい)に装着するユニークな歩行支援装置 「オーデコ」(「おでこ」から命名)は2009年に商品化、2018年からレンタルも開始されている。東京都のアイプラスプラスと東京大学が共同開発したもので、額のカメラ映像がコンピューターを経て電気刺激として使用者の額で認識される装置とのこと。

ニーズとシーズのマッチング

厚生労働省が2014年(平成26年)度から障害者用福祉機器の「シーズ・ニーズマッチング強化事業」を展開し、使う側(ニーズ)と作る側(シーズ)の交流を図り、連携して開発・実用化する取り組みに助成を行なっている。

その成果はネット上でも見られるが、視覚障害者向けの機器については、毎年東京都墨田区のすみだ産業会館で開催される国内最大級の視覚障害者向け総合イベント「サイトワールド」で体験できる。(2006年から開催。2020~22年度はコロナウイルス感染拡大のため中止。)

歩行訓練に関する課題

話がそれるが、白杖歩行でさらに問題なのは中途失明者が満足な歩行訓練を受けられる機会が少ないことである。白杖を使った歩行訓練は任意事項でもあり、受講できる施設(福祉施設、病院、盲学校など)や訓練士が少ないなどの理由でなおざりにされる場合が多い。

私が住む市の担当課でも白杖歩行訓練の斡旋はしておらず、希望者には通院中の病院などへの問い合わせを勧めるのみと消極的だ。しかし私の事業所の管理者によると、失明後速やかに歩行訓練を受けるか否かでその後の人生が大きく変わってしまう、失明後に自立して仕事に就ける人は大抵早期に歩行訓練を受けているそうだ。

犬と機械 補助金はどちらに出すべきか

著名な盲導犬訓練士の多和田悟氏がかつて「ニューひとみ」を盲導犬の補填機器として有効だと論じているが2,3、同時に言及している盲導犬の使用者数の極端な少なさや盲導犬が生き物であるが故の多くの問題は未解決のままだ。

それどころか今や盲導犬の不足より使用者・使用希望者の不足が深刻ではないのか。盲導犬団体関係者は無理やり需要を作るのではなく現状を直視し、盲導犬制度の今後について真摯に考えてほしい。

ガイドヘルパー研修時に全盲の講師が、視覚障害者用のスマホを駆使しながら「こういう便利なものは高いんですよ」とこぼしていたが、盲導犬が使用者の収入に関わらず無料で支給される一方、視覚障害者がスマホやIT機器を購入する場合には国や地方自治体からの補助は出ない。スマホ各社に障害者用使用料割引制度はあるが、月に数百円程度の割引に過ぎない。

例えば東京都では盲導犬1頭につき約200万円が盲導犬団体に育成費として支払われ、都は毎年約10頭分の予算を組み追加支給もしている。使用者1人に頭数の制限はなく、50代で8頭目の盲導犬を使用している例もある。この人1人に約1600万円の育成費が税金から使われている計算だ。

そして、盲導犬が現役中に死亡しても死因は問われず、使用者が希望すれば速やかに次の犬が支給される。

片やスマホやIT機器の購入には何の補助もないのはあまりにも不公平だ。

なお盲導犬の育成費は税金によってのみまかなわれているわけではない。
1頭あたり育成費約500万円以上と言われることが多いが、各団体によりまちまちで、800万円以上(日本ライトハウス)、500万円以上(東日本盲導犬協会、兵庫盲導犬協会)、300万円以上(関西盲導犬協会、北海道盲導犬協会)などで、団体サイト以外の説明サイトではほぼ「500万円以上」となっている。
日本盲導犬協会とアイメイトはにウェブサイトで具体的な育成費の金額を表示していないようだが、これらの団体の2021年度の助成金と寄付金の合計を育成頭数で割ると、日本盲導犬協会は1頭につき約1億6274万円、アイメイトは約963万円となる。

2021年度育成数助成金と寄付金収入
日本盲導犬協会35頭56億9615万5056円
アイメイト18頭1億7337万66円

私の市の担当課は「スマホは嗜好品扱いなので補助金は出ない」との見解で、東京都も今後も補助金などを出す予定はないとの回答だった。

しかし今やスマホの一般普及率は非常に高く、もはや嗜好品ではなく生活必需品で、視覚障害者もスマホを持つのが当たり前になりつつある。スマホを使った歩行介助法も急増しスマホは白杖歩行にも不可欠な機器と言える。

全国のスマホ普及率は、単身世帯64.1%、2人以上世帯84.4% 50代までだと単身76.9%、 2人以上95.5% 40代までの10才ごとだと単身86~97.8% 、2人以上96.5~98.1% 4

盲導犬制度には多大な公費や寄付金が投入されているが、国や地方自治体は同行援護事業への予算増、スマホなどIT機器購入時の個人への援助を早急に実現してほしい。

今後は非効率で問題の多い盲導犬制度より同行援護事業の強化、IT機器の研究開発やバリアフリー環境の整備普及に尽力するべきで、その方がずっと広範囲の視覚障害者に役立ち、税金の不平等も減り、犬に犠牲を強いることもなくなるはずだ。

海外ではここ数年マイクロソフト、アップル、グーグルといった大手IT企業が社会貢献につながるアプリやプロジェクトの開発に力を入れていることもあり、視覚障害者の生活もそれらの活用によって飛躍的に向上している。いずれ盲導犬どころか白杖を持たずに歩ける日が来るだろう。

近年、大手の盲導犬団体が「使用者と一緒にいるのが幸せ」だと盲導犬に言わせる広告をテレビ等で頻繁に流していたが、散歩もさせてくれない飼い主の元で「幸せ」とは牽強付会の詭弁にすぎない。その証拠にこの広告映像の盲導犬はちっとも楽しそうな顔をしていない。関係者はその矛盾にも気づかないのだろうか。

また、あるカリスマ的な盲導犬使用者が「散歩なんかさせたら(盲導犬の)仕事をしなくなりますよ。」と笑顔で私に言ったのには心底驚いた。犬が本当に楽しんで仕事をしているのなら、散歩と盲導犬の仕事は両立するはずだ。どんな屁理屈を並べても「盲導犬に散歩は必要ない」という主張に整合性はない。

他の使用者からは「盲導犬をもらう際に、飼い方について何も習わなかった」とも聞いた。そのせいで犬のおやつにパンの耳や、もっとひどい飼い方が平気で行われている。盲導犬の使用者は、犬本来の習性や飼い方について少しでも学び、次はぜひ盲導犬以外の選択をしてほしい。盲導犬がなくならないのは「代替物」がないからではなく、福祉利権(盲導犬団体の温存)と盲導犬制度を善しとするマスコミと社会の無知、加えて使用者の犬への無理解に拠るところも大きいと思う。

参考文献

1 国土交通省「駅ホームにおける安全性向上のための検討会中間とりまとめ」2016年12月

2 日本ロービジョン学会学術総会・視覚障害リハビリテーション研究発表大会合同会議(2006.9.16~18、於東京女子大)講演要旨「インテリジェント車椅子『ひとみ』について」

3 多和田悟「Post Guide dog mobility?」財団法人日本盲導犬協会

4 不破雷蔵「携帯電話の普及率の現状を詳しくさぐる(2020年公開版)」 2020年5月29日, Yahoo!ニュース

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