ガイドヘルパーレポート第2弾【前半】

盲導犬はいりますか レポート第2弾 ガイドヘルパーとその他の歩行介助法について ー人間の介助は犬ではなく人間自身が担うべきー

ガイドヘルパーとその他の歩行介助法について

ー人間の介助は犬ではなく人間自身が担うべきー

寄稿 高橋和子

1. ガイドヘルパーの実務体験について

これまで私がガイドヘルパーとして同行援護(外出に同行)した視覚障害者は12人(各人に複数回同行)、全員が中途失明者で40代が1人、70代が3人、他の8人は60代だった。

私がガイドヘルパーになった経緯については、前掲の「同行援護従業者(ガイドヘルパー)養成研修レポート」を参照されたい。
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私が所属する事業所にはガイドヘルパーが登録上20名以上いるが、希望日時が重なると利用を断る場合もあるほどで、ヘルパーは常時不足している。

また、なぜ利用者に若い人はいないのか、事業管理者(長年ガイドヘルパーを兼務)に尋ねると「若い人は1人で白杖を使ってどこへでも行きますよ」という即答が返ってきた。無論例外はあろうが、これが当事者の実感だ。

盲導犬使用経験者もいたが…

私の利用者に盲導犬を使用する人はいなかったが、使用経験者は1人いた。

その男性は現在60代前半だが(既婚、妻は外勤)「犬の世話、特に排泄の始末がすごく大変だったので、1頭でやめた」そうだ。

盲導犬の世話は、家族がいても使用者が全て自分でする決まりだ。彼は盲導犬使用時も、初めての場所に行く際には犬は留守番させ、ガイドヘルパーを利用したそうだ。犬のおやつにはパン屋でもらった無料のパンの耳をよく与えていたとのこと。

他には40代の利用者が「盲導犬を考えたが、犬の毛が散ると聞きやめた」。

室内飼育の犬の毛はほぼ1年中抜ける。盲導犬になる大型犬も例外ではなく頻繁なブラッシングが必要。なお犬の毛は人間について家中に広がる。時には食器や冷蔵庫の中にも。

この2人以外は口々に「盲導犬…聞いたことはあるけどねぇ」との反応だった。また「視覚障害者にもいろんな人がいるから、犬も大変だ」と言った利用者もいた。

援護内容について

援護内容は主に運動を兼ねた散歩と買い物で、大体1回1時間半から2時間。

健康維持のためにしっかり歩く人も多い。利用料金は利用者の障害の程度や収入などによって異なり、無料から最高で月9300円。1か月の利用時間に上限があるので(20または30時間)、利用のやりくりをしている人もいる。同行援護は基本的に国の制度だが利用形態は市区町村によって開きがあるようだ。

私の利用者は、認知症気味だった1人以外は大変話好きで、ガイド中ほぼずっと話し続けていた。話の内容は世間話からかなり深刻な身の上話まで様々だが、皆失明後数年以上経過していたせいか、悲観的な内容は少なかった。

利用者の多くはガイドヘルパーに好意的で、身辺調査風の質問攻めに合うことも。私は安全なガイドと、話し相手の両方を同時にこなさないといけないため当初は慌ただしかったが次第に慣れた。

ガイドヘルパーとして働いてみて、1回の時間を長いと感じたことは殆どない。回を重ねるごとに利用者の人となりや興味の対象がわかってきて会話が弾むことが多い。視覚障害者でなくても高齢者は外で他人と話す機会が少なくなるが、ガイドヘルパーとの会話も利用者の活性化に非常に有効だと実感した。

話が飛ぶが、利用者との関係について私が忘れられないのは、ガイドヘルパー研修時のある受講生の談である。60代のその受講生はすでにガイド経験が豊富だったが、彼女の利用者にお互いすごく気の合う人がいて、友人関係とは少し違うが、これからもずっと一緒に歩こうと常々言い合っているそうだ。

こういう関係が持てるのはガイドヘルパー冥利に尽きると思うし、利用者にとっても幸運に違いない。

犬を使用するということ

また、ある盲導犬使用者が「ガイドヘルパーを頼むのは面倒で利用したことがない。犬なら好きな時にすぐ使える」と言ったが、ヘルパーや事業所はできるだけ利用者の希望に沿うよう、利用者の自立のフォローを第一にチームワークで努力している。ヘルパーと相性が悪ければ交代もできるし、指名可の事業所もある。体調などによる直前キャンセルも無料、遠方への同行も可能だ。

そしてガイドヘルパーの最大の利点は、話し、読み書きできること。私もガイド中に買い物の品定めを任されたり、ラジオ番組への投稿の代筆を依頼されたりする。たまには外でのランチに誘われることもある(料金は各自負担)。これらは利用者にとって大事なことだが、犬にはできない。

それに犬なら24時間いつでも好き勝手に使ってよいのか。

以前深夜に盲導犬と外出した視覚障害者が、交通事故に遭った事例がある。その犬は夜が苦手だったそうだ。そんな犬を盲導犬にするのがそもそも論外だが、複数の同居家族もいる視覚障害者が、1人で深夜コンビニに行くのが本当に自立の一環と言えるのか疑問に思う。

なお盲導犬は身体障害者手帳1級の視覚障害者しか受給資格がないが、ガイドヘルパーは身障手帳の等級に関わらず、必要と判定された視覚障害者なら誰でも、子供でも利用できる(実際には身障手帳1~3級の人の利用が多い)。

現在では身障手帳1級以外、さらに身障手帳非所持の視覚障害者にも盲導犬を支給している例がある。某大手盲導犬協会では自らのホームページに「身障手帳非所持でも受給可」と明記。

ただ、近年は高齢化に加え多重障害、例えば視覚障害と歩行困難・難病・認知症など、さらに経済的問題も抱える利用者が増加し、事業所が対応に苦慮するケースも増えている。同行援護は当初利用者の自立が最重要目的だったが、現在では臨機応変に利用者のニーズに応じ介助する方向にも拡大されつつある。

私が所属する事業所では市の担当課と密接に連携し問題共有に努めている。

ガイドヘルパーの一員として思うこと

自分がガイドヘルパーになる以前はあまり気づかなかったが、白杖を持った人とガイドヘルパーらしきペアが歩いている姿を街中や駅で時々見かける(ガイドヘルパーは所属を記した名札を首から下げていることが多い)。先日2組のペアがおしゃべりしながら駅直結のデパートに入っていくのを見たが、これからショッピングを楽しまれるのかと嬉しくなった。

しかしその反面、同行援護制度をよく知らない視覚障害者もかなりいるそうなのだ。これは事業所だけでなく、制度利用の窓口となる地方自治体の責任も大きいと思う。

同時にガイドヘルパーは人手不足に加え、ヘルパーの高齢化も進んでいる。私の住む市ではガイドヘルパー養成研修の実施やヘルパーの定年撤廃などで対応しているが、根本的な解決にはつながっていない。またガイドヘルパーは非常勤扱いで時給は1100円~1500円程度、単発の利用が多いためそれだけで生計を立てるのは難しい。これも若手や人材不足の要因だ。

なおこれらの問題点は、「わが国の視覚障害者の将来〜将来ビジョン検討委員会報告書」(2019年3月 社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合)の中でも詳細に指摘されているが(第5章「外出保障」・第1節「同行援護・移動支援の利用と拡充」)、就中そこには「(同行援護事業は)今や視覚障害者の外出手段の中でも最も安全で、視覚障害者の外出の自由を保障する柱となっている」と明記されている。

つまり視覚障害者自身が、同行援護を最善の外出手段だと認めているのだ。

ガイドヘルパーの一員として、今後この制度が視覚障害者を始め社会に周知されて利用者の便宜が図られ、労働条件の改善によりヘルパーの増員と質の向上が実現され、視覚障害者が気軽に利用できるようになることを願っている。

そのためにもガイドヘルパー未経験の視覚障害者は面倒がらずに是非利用してほしい。この制度は事業者側と利用者側の双方で意見交換しつつ所轄の公的機関にも積極的に改善を訴えていくのが最良の道だと確信する。

なおガイドへルパー以前に、学校などで視覚障害者と接する時間が持てないだろうか。家族や身近にいない限り視覚障害者と接する機会は少ない。

その結果街中で迷っている様子の視覚障害者を見かけても対処法がわからず声をかけづらい。しかし基本さえ知っていれば、簡単な介助ならそう難しくはないはずだ。

ただし声かけがむしろ迷惑になる場合もあるので気をつけたい。介助する場合は最後まで責任を持って。

盲導犬と使用者への接し方の啓発広報はよく目にするが、視覚障害者(身障手帳所持者)31万2千人中、盲導犬使用者はわずか840人余りで(しかも年々減少中)他は皆白杖を使って歩いている。

学校なら年齢の近い盲学校と相互訪問するのもいいし、盲学校が近くになければ歩行介助をぜひ教材として取り上げてほしい。

かつて私が交流した視覚障害者が「周囲の温かい見守りさえあれば、白杖で十分歩ける」と言っていたのが忘れられない。

2. ガイドヘルパー以外の歩行介助法・バリアフリー環境について へつづく

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