EU実験動物使用数統計 2018年に900万匹を初めて下回る

EUでは、欧州委員会に対し各加盟国が実験動物の使用数の報告をしなければならないことが、実験動物保護指令に定められてます。その情報を集めたEU全体の統計が公式に公表されています。
かつては3年ごとに1回公表されていましたが、2010年、法的根拠となるEUの実験動物保護指令が改正され、統計データの取り方も近代化されました。各国政府には公的な統計を年1回とることが義務付けられ(改正前は「できる限り定期的に」でした)、どういった統計をとるか、詳細な要件が2012年に付属書によって取り決められました。
このルールにのっとった新しい統計が2014年から各国ごとに公表されており、EUのサイトから全加盟国の公表ページへリンクがはられています。また、EU全体の統計は、新たに2019年11月から公表されることになり、既に新しい形式で公表が開始されています。
EU統計 2018年:加盟国全体では始めて900万匹を下回る
2018年統計から、EU加盟の28カ国に加えてノルウェーのデータも追加されました。
この年、上記29カ国では、研究・試験等で初めて使用された動物の総数は1060万匹でした。新しく加えられたノルウェーのデータを除くと、2017年からさらに5%減少し、EU28カ国で研究および試験に使用された動物の総数は、初めて900万匹を下回ることになりました。(下記表参照)
とても多いと感じる数字ですが、これは日本1国が1年間に使っている実験動物の数より少ないと考えられます。
EUの統計は遺伝子組み換え動物の統計もとっており、さらに遺伝子組み換え動物を維持するために犠牲となった匹数も統計がとられています。2018年は、およそ150万匹が犠牲となっていますが(下記表参照)、数がふえているのは、統計の取り方についての理解が進んだことが理由と考えられています。2017年から2018年にかけて増加しているのは、1加盟国から250,490件の増加が報告されたことが原因であり、ノルウェーがふえたことはあまり影響していません。
動物種別にみると、以下の通りです。既にEUでは、ラットの使用数が魚類を下回っています。(日本ではマウスの次に多いのがラットです)
また、目的別では、基礎研究がおよそ46%、トランスレーショナル及び応用研究が27%、規制のためが18%、生物学的製剤や抗体生産のためが5%、その他(教育・訓練を含む)が4%となっています。
その他、より詳細な情報は下記のレポート(英文)をご覧ください。
2018年統計レポート
EU統計 2015~2017年:新しい方式での初統計
2019年に、2015年から2017年にかけての統計が公表されました。新しい指令が施行されてから初めての統計の公表です。
EU統計レポート
EU統計 2011年:古い方式の最後の公表年
2013年に2011年分の統計が公表されました。このときまで3年ごとに統計が公表されていましたが、その後しばらく、新しい方式の統計になるまで、期間が空いています。
実験動物使用数の2008年と2011年の比較
種 |
動物数 |
動物数 |
2008からの増減(匹) |
種ごとの増減(%) |
マウス |
7122188 |
6999312 |
-122876 |
-1,73 |
ラット |
2121727 |
1602969 |
-518758 |
-24,45 |
モルモット |
220985 |
171584 |
-49401 |
-22,35 |
ハムスター |
32739 |
25251 |
-7488 |
-22,87 |
その他のげっ歯類 |
39506 |
28465 |
-11041 |
-27,95 |
ウサギ |
333213 |
358213 |
25000 |
7,50 |
ネコ |
4088 |
3713 |
-375 |
-9,17 |
イヌ |
21315 |
17896 |
-3419 |
-16,04 |
フェレット |
3208 |
2540 |
-668 |
-20,82 |
その他の食肉目 |
2853 |
4982 |
2129 |
74,62 |
馬、ロバ |
5976 |
6686 |
710 |
11,88 |
ブタ |
92813 |
77280 |
-15533 |
-16,74 |
ヤギ |
3840 |
2907 |
-933 |
-24,30 |
ヒツジ |
30190 |
28892 |
-1298 |
-4,30 |
ウシ |
33952 |
30914 |
-3038 |
-8,95 |
原猿類 |
1261 |
83 |
-1178 |
-93,42 |
新世界ザル |
904 |
700 |
-204 |
-22,57 |
旧世界ザル |
7404 |
5312 |
-2092 |
-28,25 |
大型類人猿 |
0 |
0 |
0 |
0,00 |
その他の哺乳類 |
5704 |
7888 |
2184 |
38,29 |
ウズラ |
9626 |
5614 |
-4012 |
-41,68 |
その他の鳥類 |
754485 |
669451 |
-85034 |
-11,27 |
爬虫類 |
4101 |
3824 |
-277 |
-6,75 |
両生類 |
61789 |
29583 |
-32206 |
-52,12 |
魚類 |
1087155 |
1397462 |
310307 |
28,54 |
計 |
12001022 |
11481521 |
-519501 |
-4,33 |
使われた動物種の割合、動物実験の目的別の割合は以下の通り。


EU統計レポート
- Seventh Report on the Statistics on the Number of Animals used for Experimental and other Scientific Purposes in the MemberStates of the European Union {COM(2013) 859 final}
- Accompanying document to the REPORT FROM THE COMMISSION TO THE COUNCIL AND THE EUROPEAN PARLIAMENT Seventh Report on the Statistics on the Number of Animals used for Experimental and other Scientific Purposes in the Member States of the European Union/* SWD/2013/0497 final *
参考
- アメリカの使用数統計についてはこちら。
- 日本には、こういった公式の統計は存在しません。施設に対して使用数の報告を求めるような制度も存在しません。業界団体による販売数統計は存在しますが、販売された動物のすべてをカバーしておらず、また研究機関での繁殖がかなりあると見られるため、実際の使用数よりかなり少なくなっています。以前は、学会が使用数をアンケートベースで公表していましたが、回答率も低く、参考になる数字ではありませんでした。現在は廃止されています。