EUが2020年の実験動物使用に関する統計を公表。使用数は800万匹を下回り、マウスの割合は50%以下に

欧州委員会が、EU加盟27か国およびノルウェーにおける科学目的での動物の使用に関する2020年の統計を発表しました。

報告書本文

これは、イギリスがEUを脱退してから初めて出る統計です。この年の報告書からイギリスのデータが含まれなくなっています。

かつて3年ごとだった統計公表は、2018年から毎年になっており、レポートの中では2018年からの3年間の推移が掲載されています。

実験動物の使用数全体は減っていますが、2020年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより施設封鎖や実験計画の中止などがあった年なので、多くの国でその理由による減少が報告されており、一概に例年と比較できない年になっているかとは思います。

以下、主だった部分だけピックアップしました。

日本では科学目的で動物が何匹使われているのか、把握する手段がまったくありませんが、EUではここまで詳しく各国が統計を出しています。EUでは、実験動物保護指令のもと、加盟国に報告の義務が課されています。詳しくはこちらをご覧ください。

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28カ国(EU27か国とノルウェー)の科学目的での動物の利用に関する統計(2020年)

使用数総計と、遺伝子組み換え動物の使用に伴う使用数の総計

下記の使用数の数字は、2020年に初めて実験に利用された動物の数で集計されており、繰り返し利用された場合の重複のカウントは回避されています。(重複分もカウントした、いわゆる「のべ数」も別途集計されています。)

2020年、ようやく使用数の総計が800万匹を下回りましたが、依然として恐ろしい数の動物が犠牲になっていることがわかります。

以下の表では、比較のため、過去の統計の数値からイギリス分が抜かれています(*印の年)。そのため、公表当時の総数とは数字が異なっています。

また、EUの統計は、遺伝子組み換え動物を生み出したり、繁殖維持したりときに淘汰した動物の数も集計しています。これらの動物は直接実験に使われるわけではありませんが、間接的には動物実験のための犠牲と言えます。

 2018*2019*2020
初めて研究、試験、生産()、教育の目的で使用された動物の総数8,822,4048,579,4397,938,064
遺伝子組み換え動物の作出と維持
909,944 659,418 686,628
 内訳遺伝子組み換え動物の作出378,876311,958388,729
遺伝子組み換え動物の維持531,068347,460297,899
総 計9,732,3489,238,8578,624,692

「生産」には、確立された方法によってつくられるポリクローナル抗血清などを含む抗体や血液製剤などの製品の製造工程に使用される動物が含まれます。

  • 研究、試験、生産、教育に使用された動物の数は、2019年に比べて7.5%減少しました。
  •  16加盟国が、2020年に研究、試験等に使用した動物数が減少したと報告しました。このうち11カ国は、少なくとも部分的に新型コロナウイルス感染症流行の結果として国の対策(例:ロックダウンによる活動の減少、実験計画のキャンセルまたは延期)が減少の原因となっています。
  • 一方、11加盟国とノルウェーでは、動物数の増加が見られました。このうち4カ国は、新型コロナウイルス感染症に関連する研究活動について特に言及しています。
  • 2020年の全動物総計の8%(686,628匹)が、遺伝子組み換え動物の作出と維持のために使われました。
  • 遺伝子組み換え動物の作出と維持は、2019年から4%の増加です。

使用のべ数

2020年、研究、試験、生産、教育の目的のための全ての使用(初めての使用と、その後のあらゆる再使用の総数)は、のべ約810万匹となります。これは、2019年から8%減少しています。

20182019 2020
8,979,0818,715,2248,054,930

動物種別

EU実験動物統計 動物種別円グラフ

  • 研究、試験、生産、教育に使用されたマウスの割合は全体の半分以下(49%)となりましたが、依然として最も多く使用されている種であることに変わりはありません。
  • 魚類は28%で、2番目に多く使用されています。
  • 動物種の全体に占める割合の分布をみると、2019年と比較して、魚類(+3%)、その他の哺乳類(+1%)、ラット(+1%)の割合が増加し、マウス(-4%)が減少しました。
  • イヌと霊長類の使用数は減少傾向が続き、それぞれ-16%、-10%の減少をしました。
  • 数は少ないものの、頭足類の使用も大幅に減少しました(-90%)。
  • その他の大きな変化として、ウマ、ロバ及び交雑種が2,500頭増加したことが挙げられます(+176%)。ハムスター(+66%)、ネコ(+15%)の利用も増加しました。
  • 新たな遺伝子組み換え動物系統の作出のために使用される主な動物種は、これまでと同様、マウスとゼブラフィッシュで、それぞれ75%と23%です。
哺乳類内訳(初回使用の統計の内訳)

※報告書には、より細かい動物種の内訳も掲載されています。

 201820192020
マウス

4,410,737

4,318,913

3,879,691
ラット
829,906792,744665,155
モルモット
123,486111,652111,172
ゴールデンハムスター
9,39710,42717,355
チャイニーズハムスター
2017149
スナネズミ
4,2693,6722,978
その他のげっ歯類
19,53428,27328,186
ウサギ
332,097342,644343,521
ネコ
1,5172,1402,464
イヌ
14,80210,3888,716
その他の肉食動物
5,3085,7808,117
畜産動物
122,746114,777118,002
ヒト以外の霊長類
6,1115,3194,784
その他の哺乳類
5,0834,2594,773


5,885,0135,751,0055,195,063

目的別

目的・用途別の統計は、初回使用数と再使用数を足した、のべ数で示されています。

下記の図は大枠の分類ごとの割合を示したものですが、サブカテゴリとして、もっと細かい目的・用途ごとの数字も公表されています。

EU統計 実験動物統計 目的別円グラフ

目的別統計の2018年からの推移は以下の通りでした。

 目的2018 2019 2020
基礎研究
3,982,9633,668,9043,293,349
橋渡し研究・応用研究
2,650,7302,535,9512,510,499
規制のため
(医薬品開発等、規制要件により求められたことによる使用)
1,622,8161,482,3721,404,240
生産(抗体、血液製剤等の生産のため)
354,209438,236406,860
職業技能の習得、維持または向上のための高等教育または訓練165,110160,544109,334
人または動物の健康・福祉、自然環境保護119,297203,939224,485
種の保存
83,683224,921106,058
法医学
273357105


8,979,081
8,715,224 8,054,930

苦痛度別

以前は統計がとられていませんでしたが、EUも実験処置の苦痛度(深刻さの程度)別の統計がとられるようになりました。それぞれどの程度の苦痛かは、苦痛度分類の説明を参照ください。この統計も、重複をカウントした、のべ数で公表されています。

 2018 2019 2020
非回復6% (521,765)6% (494,368)4% (330,392)
軽度 [それ以下を含む]48% (4,311,312)50% (4,380,747)49% (3,921,024)
中等度35% (3,169,559)34% (2,955,923)37% (3,006,764)
重度11% (976,445)10% (884,186)10% (796,750)
100% (8,979,081) 100% (8,715,224) 100% (8,054,930)

苦痛度分類の説明

i. 非回復 – 全身麻酔による実験処置を受けた動物で、意識が回復していない場合。

ii. 軽度(それ以下を含む)– 動物の幸福もしくは一般的な状態に対し目立った障害がない場合はもちろん、動物が短期間の軽い痛み、苦しみ、ストレスを経験するような実験処置を受けた場合、軽度として報告される。
このカテゴリーには、認可された実験計画で使用されたが、例えば未処置の対照動物のような、最低限(手慣れた獣医学的処置による針の挿入と同等程度)を超える痛み、苦しみ、ストレスまたは永続的な害などの経験が観察されていない動物も含まれる。
ただし、有害な表現型を意図して確立された遺伝子組み換え動物のコロニーの維持のために産ませた動物であって、結果的に有害な遺伝子型に由来する痛み、苦しみ、ストレスまたは永続的な害を示さないものは、この統計に含まれていない。

iii- 中等度 – 動物の幸福もしくは一般的な状態に対し中程度の障害を引き起こす実験処置はもちろん、動物が短期間の中程度の痛み、苦しみ、ストレス、または、長期にわたる軽度の痛み、苦しみ、ストレスを経験するような実験処置を受けた場合、中等度として報告される。

iv. 重度 – 動物の幸福もしくは一般的な状態に対し重度の障害を引き起こす実験処置はもちろん、動物が激しい痛み、苦しみ、ストレスを経験する、もしくは長期にわたる中程度の痛み、苦しみ、ストレスを経験するような実験処置を受けた場合、重度として報告される。

  • 重度と報告された動物の用途のほとんどは、規制要件を満たすための利用でした。(規制用途の使用の15%が重度です)
  • 種の保存や教育・訓練はほとんどが軽度でした。
  • 橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)や応用研究における利用は、基礎研究で報告された利用より、苦痛が高い傾向にありました。
  • 目的別のすべてのサブカテゴリを分析すると、バッチ力価試験(ワクチンの効力を試す検定試験)が最も多く重度の苦痛をもたらす使用がされていました(134,000匹)。動物の疾患・障害の研究(112,000匹)、神経系の研究(84,000匹)、免疫系の研究(67,000匹)がそれに続いています。
  • しかし、バッチ力価試験のための重度の苦痛をもたらす使用は2019年以降23%減少していることは注目に値します。

目的ごとの詳細

基礎研究
  • 基礎研究は、最も動物が使われた分野で、2019年と比較して減少していました(-10%)。
  • サブカテゴリを見ると、動物を多く使用する基礎研究の主な領域は、数の多い順から、神経系の研究、エソロジー/動物行動学/動物生物学、免疫系の研究の3つでした。これらを合わせると基礎研究における使用数の半分以上を占めていました。
  • 基礎研究のうち、重度の苦痛をもたらす使用の割合が高かった上位4領域は、上から順に筋骨格系の研究(19%)、神経系の研究(13%)、免疫系の研究(13%)、腫瘍学(11%)でした。
橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)・応用研究
  • 橋渡し研究・応用研究は基礎研究に次いで使用数が多い分野でした。2019年と比較して、わずかに減少していました(-1%)。
  • サブカテゴリで数が多かった上位5領域は、上から順に動物福祉、動物の疾患・障害、ヒトのがん、ヒトの神経・精神障害、ヒト感染症でした。
  • 橋渡し研究・応用研究のうち、重度の苦痛をもたらす使用の割合が高かった上位5領域は、上から順に病気の診断(30%)、ヒト感染症(24%)、動物の疾患・障害(22%)、ヒト筋骨格系障害(19%)、その他のヒト疾患(15%)でした。
抗体・血液製剤などの生産
  • 抗体や血液製剤などの生産のために使われた動物の数は全体の5%でした。そのうちの56%は血液由来の製品の生産に関連しており、マウス腹水法によるモノクローナル抗体の生産に関連したものが10%でした。
  • マウス腹水法によるモノクローナル抗体生産では、重度の苦痛をもたらす使用が多かった(34%)。しかし、2019年に報告されたこの目的の使用の90%以上が重度であり、重度の割合は大きく低下しています。これは、苦痛の軽減に関する技術の適用が改善され、エンドポイントが早くなった結果であると考えられます。
  • マウス腹水法によるモノクローナル抗体生産は、2018年から2019年にかけて35%の減少を示しましたが、予想に反し、2019年から2020年では12%増加していました。合計で5つの加盟国がモノクローナル抗体の生産にマウス腹水法を使用していると報告し、そのうち1つの加盟国、フランスだけで95%を占めていました。☛参考 マウス腹水法によるモノクローナル抗体生産には代替となる方法があるため、速やかな代替が望まれます。2020年、EURL ECVAM(欧州動物実験代替法評価センター)は、抗体作成のためのin vitro法の使用を勧告する文書を公表しました。

国別

最も多くの動物を使用した国は次の 3 か国で、この3国の使用数だけで全体の半数を超えます。

  • ドイツ 1,494,563匹 (18.8%)

  • フランス 1,477,344匹 (18.6%)

  • ノルウェー 1,410,152匹 (17.8%)

その他

動物の由来についての統計、毒性試験別の統計(例えばLD50・LC50に16,421匹等)、国別の統計なども公表されています。ヒト以外の霊長類については、年齢構成なども公表されていました。

各国がこのようなデータを出し合って科学目的での動物の利用を代替・削減していこうとしているなか、日本政府は長年、何もしていません。実験動物福祉に対する日本の意識の低さは歴然としています。

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