太地町の元ドルフィントレーナーの衝撃的なインタビュー
オーストラリアの鯨類保護団体Action for Dolphins(AFD)による、太地町の元ドルフィントレーナーへの取材に同行しました。AFDから公表された英語版の元となる日本語版記事を公表いたします。日本語版もAFDのスタッフが書かれたもので、英語版では簡略化されている部分も残しています。
元調教師の方は、ご自分の体験から、イルカ追い込み猟の現実、そして水族館などに売られていくイルカたちの現実を多くの人に知ってもらいたいという思いでインタビューに応じてくださっています。ぜひお読みください。
※記事中、「当会」とあるのはオーストラリアのAction for Dolphins(AFD)のことです。
Our investigator in Japan recently had the opportunity to in…
注:イルカ追い込み猟については、「漁」という字がよく使われますが、イルカは魚ではないため、この日本語版では「猟」の字を用いました。
2024年9月5日、2024-25年猟期イルカ追い込み猟初日に公表
太地町の元ドルフィントレーナーへのインタビュー日本語版を掲載3か月ほど前、オーストラリアの鯨類保護団体Action for Dolphins(AFD)による、太地町の元ドルフィントレーナーへの取材に同行しました。元ドルフィントレ[…]
当会AFDの調査員は最近、太地町の水族館に勤務していたイルカの調教師(トレーナー)にインタビューを行った。匿名を条件にインタビューに応じたその元調教師*は、太地町での悪名高いイルカ追い込み猟がいかに広範囲に及ぶ悲劇の一部に過ぎないか、そしてイルカの死が、いかに太地町における鯨類取引と飼育産業の全範囲にわたって、当たり前に起こっているかを明らかにした。毎年何百頭ものイルカが一網打尽にされる太地町のイルカ追い込み猟については、メディアで多く取り上げられてきた。しかし、インタビューを受けた元調教師を含め、水族館で働く人々が目撃した舞台裏の惨状についてはほとんど知られていない。彼らは、イルカが飼育や人間の食肉用に選ばれる方法や、飼育目的で選ばれたイルカが水族館でどのように扱われるかを直接体験している。このインタビューでは元調教師が、驚くべき広範囲にわたり、イルカをめぐる問題についての洞察を提供している。
* 身元保護のため、調教師は 「マスミ」という仮名で表記する。
幼い頃からイルカの調教師になることを夢見ていたマスミ氏は、学校では海洋科学を専攻し、夏休みは水族館で勉強したり、自主的に働いたりしていた。卒業後、海洋動物飼育施設で働く機会が訪れたとき、マスミ氏は 「夢がかなったようだ !」と大喜びした。
マスミ氏が就職した施設は和歌山県東牟婁郡太地町にあった。太地町はイルカ猟で知られ、現在では日本で唯一イルカの追い込み猟を行っている町である。その夢は数カ月で悪夢に変わった。
夏の間、マスミ氏は施設のイルカを訓練する役割を担っていたが、冬やオフシーズンには、イルカ追い込み猟で捕獲したイルカの中から飼育されるものを選ぶ「選別」という仕事を任されていた。
追い込み猟を行う漁協の漁師たちは、最初は海上のボートから入り江に追い込まれたイルカたちを分散させる。そして数人で波打ち際までイルカを1頭ずつ連れてくる。そして水族館やイルカ飼育施設に何か要望や注文がないか確認する。しかしマスミ氏によれば、漁師たちはすでに施設が最も望むイルカの種類を熟知している。つまり、若く、できればメスのイルカで、なるべくならハンドウイルカという種類である。
群れが太地町の畠尻湾にある小さな入り江に追い込まれると、猟師たちは海中に潜り、この基準に従って最初の選別を行い、大きくて年配のイルカをふるい落とす。多くの水族館では、オスは特に繁殖期に問題を起こす可能性が高いとみなされているため、特別な要求がない限り、隔離される。これらのイルカは、最終的には食肉として屠殺されることになる。
そして、どのイルカを飼育用に選ぶかを決めるのは調教師の仕事であり、太地町の施設(太地町立くじらの博物館、ドルフィンリゾート、ドルフィンベイス)が常に優先権を握っている。この入江での選別作業に立ち会うのは、漁師と調教師のほかに、時折訪れて、ほしいイルカを直接見て選ぶ遠方の水族館のスタッフだけであった(しかし通常、水族館は地元の太地町の調教師や業者にその選別を任せていた)。
ハンドウイルカは一般的に好まれるイルカ種だが、漁師たちの間では、獲れるイルカの頭数が減少していることが話題になっていた。漁師たち自身も、何年か前からこの事態を予測していたとマスミ氏は言い、乱獲が原因ではないかとも言われていると付け加えた。
「群れの数も、群れ内の頭数もすでに減少しており、漁師たちはよく、もう捕れなくなる日もそう遠くないだろうと言っていました」とマスミ氏は言い、何年かイルカの捕獲がゼロになった静岡県伊東市の富戸でも同じような問題があると付け加えた。それは証拠として十分であり、「野生の個体の全体的な頭数が減っている」とマスミ氏は言う。
ハンドウイルカ減少の状況に動じることなく、漁師たちは代替種を狙い始めた。マダライルカ、カズハゴンドウ、シワハイルカなどである。これらの種は、人になかなか懐かず神経質であるということから、漁師たちから完全に、そして積極的に無視されてきたとマスミ氏は語った。
また、この猟法がハンドウイルカの数を減少させた根本的な原因であることを認める声もあった。漁師たちがハンドウイルカを狙ったときは、群れごと一挙に捕獲していたとマスミ氏は言い、捕獲された群れが200頭以上になることもあったと付け加えた。そして捕獲されたイルカは、飼育用と食肉用に選別される。
マダライルカなどの新しいターゲットは、ハンドウイルカとの類似性から選ばれたわけではない。実際、ハンドウイルカは全体的に人懐こいということで知られているが、マダライルカは神経質なことで有名で、人との接触に適応するのが難しいと、野生のイルカとの経験も豊富なマスミ氏は言う。
しかし、調教師は漁師たちにそのことを説明しようとしたが、聞き入れられず、神経質なマダライルカに対する扱いは、適切といえるものにはほど遠かった。あるとき、彼らはマスミ氏に、10頭のマダライルカをすぐに目的の飼育施設に運ぶよう圧力をかけた。その急ぐ理由は、漁師たちがほかのイルカを市場に運び、そこで食肉として加工する必要があったからだという。すでに追い込み猟と選別の手順でストレスを感じていたイルカたちは、調教師が興奮した漁師たちの要求に応えなければならなかったために、さらに落ち着かなくなった。
実際、イルカたちは不安な状態にあり、目的地のプールまでの、船で15分という短時間の輸送を生き延びたのは10頭のうち2頭だけだった。「彼らはショック死したのです」とマスミ氏は言う。
マダライルカ1頭は、食肉として売ればたったの1万円ほどの値段だが、飼育用となれば数十万円の値がつく。
漁師たちは「いさなの会」(12隻の漁船を操る数十人からなる協同組合)のメンバーで、収入源として、イルカを食肉用としてよりも水族館用として高く評価していたことは明らかだった。しかし、マダライルカのそのような不適切な扱いについて、目的地の施設の管理者は、漁師に「かなり強めに注意したようだ」とマスミ氏は言う。
水族館のマダライルカ
イルカの死は、追い込み猟において、珍しいことではない。イルカが「極度のパニック」に陥るのは、太地町での追い込み猟の最中であり、その原因は、イルカの敏感なソナー(エコーロケーション)を混乱させるために金属パイプを叩いて水中に轟音を響かせること、また、外洋から太地町の入り江に群れを追い込み閉じ込めることによって、イルカが自然の生息地から引き離されることにある。マスミ氏によれば、動物たちを落ち着かせるためなどに何らかの薬を投与することなどは禁じられている。なぜならば、薬を投与されると食肉用として使えなくなるからだという。
また、妊娠中のイルカが流産や死産をすることも珍しくない。当会の調査員が目撃し、映像に記録した、血まみれの入り江でお腹を出して浮いている赤ちゃんは、おそらくその一例だろうとマスミ氏は言う。しかもこうした死亡は漁獲データには含まれていないことがあるという。
そのような不幸が避けられたとしても、妊娠した母親が流産や死産で、捕獲後すぐに子どもを失うこともある、とマスミ氏は言う。また、出産は無事に終わっても、母親が死んでしまうこともある。
水族館や他の施設に輸送中にイルカが死んでしまった例は、ほかにもたくさんある、とマスミ氏は付け加えた。調教師は、海外取引用のイルカの準備にも関わっていた。イルカはまず水で満たされた狭いコンテナに入れられ、大型トラックに積み込まれ、夜間に関西国際空港まで約3~4時間かけて運ばれる。この間、水はすぐに汚れて不衛生になるため、調教師や飼育員が水を交換補充することになっている。そして、水槽を空にして水を入れ替えるタイミングで、イルカがパニックを起こしてショック死することがあるという。これはハンドウイルカにも、ほかの種にも見られる。
イルカが死ぬもうひとつの原因は、イルカが初めて飼育施設に入ったときによくある強制給餌だとマスミ氏は言う。プールの水の汚染や、生簀のプラスチックごみ汚染も死因のひとつであり、日本で頻繁に起こる地震や台風などの自然災害によってイルカが網にかかったり、他の施設に移されたりする際に死に至ることもある。
日本の動物権利団体PEACEが集計したデータによると、太地町の水族館や関係業者の生簀では2021年に51頭のイルカが死亡している**。そのなかでも、ドルフィンリゾートという施設では数が最も多いときは1か月で22頭のイルカが死亡しており、そのように多くのイルカが死亡するのは、ひとつには津波や暴風雨による被害の可能性がある。ドルフィンリゾートは、プールでイルカを飼育している施設だが、イルカ追い込み猟の時期は、漁協の生簀でもイルカの飼育をしている。
ほかには、病気の発生が原因の場合があるのではないかとマスミ氏は推測している。
横浜八景島シーパラダイスでも同じようなことがあったそうで、豚丹毒という感染症の蔓延でイルカのほとんどがほぼ全滅しかけたそうだ。「飼育員の一人がミニブタを飼っていて、そのせいで豚丹毒が蔓延した可能性があると聞きました。特に狭い水族館のプールの環境では、感染症が発生すると瞬く間に広がります。」とマスミ氏はいう。
実際、太地のドルフィンリゾートという施設はまさにそのような施設であり、マスミ氏はこの施設の状態とケアレベルの点で日本の「ワースト3」に入るだろうという。(ほかの2つのうちの1つ、犬吠埼のマリンパークはあまりの劣悪さに最近閉館した。東京の品川区にあるもう1つのイルカショーを行なう水族館は、その窮屈な環境とイルカ飼育に対する世界的な感情の変化のために閉館する予定だ。)
マスミ氏が太地町の施設で認識していた数々の問題には、次のようなものがあった。
– 濾過が不十分で、狭いプールが過密状態であったため、水の汚れが酷く、塩素処理などが行われていた。
– プールは、温度調節・管理ができなかった。そのため、イルカたちは寒い冬の間、体に水ぶくれのような膨らみがたくさんできていた。(血液検査でも白血球の値が高かったため、スタッフは抗生物質を毎日投与しなければならなかった)。
調教師を最終的に辞め、当会AFDに自らの経験を語ることになったのは、調教師たちの注意義務の原則に反するような、動物福祉に対する明らかな軽視が核心的な理由だった。
結局、この状況がもたらした急性うつ病と、長時間労働などの劣悪な労働環境が、マスミ氏の退職につながった。
もうひとつの理由は、水族館業界の一部の人々が、自分たちはイルカを屠殺から守り、命を延ばしているのだと考えていたことだ。「私はそうは思わなかったし、それは言い訳にしか聞こえない。逆に『なんでこんな可哀想なことをしているんだ』と思っていました。」
このような信念を抱いていたのはマスミ氏だけではなかった。おそらくそれが、スタッフの離職率の高さの原因だろうと、マスミ氏は言う。「同僚のひとりが、彼らがやっていることは、『拉致監禁だよね』と言っていました。まさにその通りだと思いました。」
ちょうどその頃、太地町で活動家たちによる反対運動があったのだが、「もし、このような酷い光景を見たら、抗議したくなる、抗議するのは当然だ」とマスミ氏は思ったようだ。それからは仕事を続けられなくなったという。
興味深いことに、水族館関係者のなかには、イルカの死亡数があまりにも多いため、イルカショーを中止させようとする者もいたと、マスミ氏は言う 。事情により具体的な名称を明かすことはできないが、ある水族館では、館長がそのような要望を出したものの、運営会社の重役から莫大な経済的損失につながるという理由で一蹴されたという。水族館では、イルカがいなければお客さんが来ないという考え方が広まっているそうだ。
マスミ氏はまた、太地町の漁師と水族館との間に、漁師たちのビジネスが決して脅かされないようにするための「二枚舌の理解」があることにも苛立った。日本における飼育の基本原則のひとつである繁殖について話すことは、ほとんどタブーだった。
「聞いた話ですが、どこかの水族館の飼育員がイルカ追い込み猟の選別に参加し、その後テレビの取材を受けて、『将来は水族館でイルカの繁殖をさせていきたい』という話をしたらしいです。それに対して太地町の漁師さんが、『俺たちがイルカを獲ってやっているのに、なんでそんなことを言うんだ? 水族館の利益のために獲ってやっているんだ。繁殖なんかさせていたら俺たちの仕事がなくなっちゃうだろう』というふうに言ったというんです。私は、これを聞いてショックを受けました。要するに『繁殖するな』と言っているのです。」
当会の世界動物園水族館協会(WAZA)へのキャンペーンの結果、2015年に日本動物園水族館協会(JAZA)の会員は野生のイルカ、つまり太地町のイルカを購入できないという裁定を下した。それにより、繁殖に対するこうした姿勢は変化した。しかし、マスミ氏によれば、この感情の変化は束の間だった。
「日本の水族館の現状では、繁殖よりも、野生のイルカはいつでも獲れるし、太地町からいつでも仕入れられるという傾向が全体的に強いです。繁殖のことは前々から言われていたことですが、WAZAの介入後、繁殖が一時的に話題になっても、結局は太地のイルカ追い込み猟に日本の水族館は頼りきっている。別にイルカが死んでも、すぐに仕入れることができるというメンタリティです。」とマスミ氏は言う。
そして、繁殖プログラムを行っている場所でさえ、近親交配の問題や、マスミ氏が 「言い訳にしか聞こえない 」と言う、様々な理由で、野生からイルカを捕獲する必要があると言う。これらは、太地町やその他の地域で特定の利害関係者によって流布された「誤った情報」の結果であることが多い。
イルカの調教師になるという子どもの頃からの夢を断念せざるを得なかったにもかかわらず、マスミ氏は野生のイルカを観察することを楽しむ方法を見つけた。しかし、水族館やイルカの捕獲に関する誤った情報が利害関係者によって流され、それに加担するメディアによって反響されることに、深い懸念を抱いている。
最近、新潟の水族館で複数のイルカが死亡したことが報道され、地元メディアも注目したが、第三者委員会が施設の設計に重大な問題があることを指摘し、それが死亡につながる原因だったにもかかわらず、なぜか事件は軽視された。そのため、マスミ氏は深い怒りに包まれた。
「『新潟の水族館だけが叩かれているんじゃないですよ』と当然、思っていました。『そんな水族館はザラですよ。ほかのところでも、たくさんありますよ』と思っていた。みんな気づいていないだけなんです。」
マスミ氏は、体験したイルカ追い込み猟の現実を、そして水族館などに売られていくイルカたちの現実を、多くの人に知ってもらいたいと思っているという。
** 水族館等にはイルカの販売と死亡に関するデータを県に提出することが義務づけられたが、一時期(2020年から2021年まで)を除き、現在は情報公開されていない。
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