2015年、日本動物園水族館協会が追い込み猟からのイルカ導入中止を決定するまで

2015年、日本の水族館にとってエポックメーキングな出来事がありました。日本動物園水族館協会(略称:日動水、JAZA)が、追い込み猟から野生イルカを新たに導入しないことを決定したのです! JAZAが加盟する世界動物園水族館協会(WAZA)の10年来の方針を受け、JAZA会員園館の投票によって決定した結果です。
そこに至るまでには、国内外の先人たちのたゆまぬ働きかけがありました。私たちPEACEを含む国内の複数団体が合同アクションを開始したのは2013年からですが、JAZAの決定までの2年間の経緯は以下のようなものでした。このページからブログ等でご報告してきた経緯をたどれるようにしてあります。詳細は各ページをご覧ください。
この決定は画期的なものであり、盛んに報道されることで、未だに水族館のために野生イルカが捕獲されていることを広く日本中に知らしめました。私たちとしては、成功へ向けた第一歩ですが、現在も、JAZAに加盟していない水族館・展示施設が、和歌山県太地の追い込み猟による生体捕獲にイルカの供給を依存しています。また中国等海外へのイルカ輸出も続いています。これらについても、終わらせるべく、声をあげていきましょう!!
※共に活動しました「エルザ自然保護の会」が閉会にともない公式サイトを閉じていますので、一部記事でリンク先が見られなくなっています。ご了承ください。
※英語サイト:https://eng.animals-peace.net/entertainment/dolphins
JAZA・WAZAへの働きかけの経緯
【背景】
2003年 WAZAの倫理規範
・メンバーは動物の入手を繁殖によるよう努めるものとする
・WAZAは動物を野生から導入する際に残酷で非選択的な方法をとることに反対する
2004年 WAZAの台北会合
・追い込み猟のような動物に苦痛を与える捕獲方法を用いることを非難する決議を採択
2009年 WAZAとJAZAの合意
・9月中にハンドウイルカのみを捕獲し、残りの個体は放流する
(肉として食べない)という移行アプローチについて合意
⇒守られていなかったが、JAZAの理解に齟齬があったことが後日判明
2013年
WAZAの過去の決定および倫理綱領にJAZAが従っていないことについて、エルザ自然保護の会が先行して働きかけを行っていましたが、そこにPEACEとヘルプアニマルズが加わる形で働きかけを開始しました。
- 日本動物園水族館協会へ要請書を提出しました<全文>
同時に、WAZAへもレターを出しました。英語サイト参照。 - 野生のイルカを水族館に入れないで! 日動水・環境省へ意見を
JAZAと環境省に意見を送ってほしいとお願いをしました。 - WAZAからの回答
12月、WAZAから、要請書に対して回答がありました。要点は、
1)WAZAはいかなる動物であっても残酷な取り扱いを認めない。また、この方針を固く守る。
2)イルカ追い込み猟については、数世紀にわたって続く日本の文化の一部であるため、文化の多様性を認め、文化の違う人々と生産的な討論を続ける。しかし、WAZAがイルカ追い込み猟に対して反対表明をしたのは2004年です。WAZAは、イルカ猟を不可としながら、およそ10年間、有効な対策をとってきませんでした。 - 日本動物園水族館協会からの回答
JAZAからの回答が年末にありました。しかし、要請に対する回答は、「各種法令を順守し(中略)イルカの飼育展示についても、関係法令を順守するとともに適切に管理しております」と言うだけのもので、まったく答えにならないものでした。WAZAの方針についても答えていませんでしたので、私たちは継続して働きかけをすることを決めました。
※このころ起きていたこと:
12月半ば、アルビノのハンドウイルカの子どもが太地のイルカ追い込み猟で捕獲され、その映像がインターネットで広く流されました。「太地町立くじらの博物館」での展示が国際的に批判を浴びました。
2014年
- 野生のイルカを水族館へ入れないで! WAZAへ再要請
JAZAからの回答を受けて、WAZAへ再要請を行いました。JAZAがWAZAの出している、追い込み猟からイルカ購入を禁止する通達を無視し続けるなら、WAZAの会員として、ふさわしくないだけでなく、WAZAの資質や指導力が問われることになるとして、JAZAの除名についても触れました。 - 世界動物園水族館協会への2回目の要望(全文)
- 3団体合同プレスリリース
- イルカ類の捕獲の影響について&JAZA宛サンプルレター
サンプルレターをアップし、アクションを呼びかけました。ご協力をありがとうございました。
この時点で、海外ではイルカ猟と水族館の問題が大きく取り上げられ、主要な国際団体が3団体の要望に賛同し、一斉にWAZAやJAZAに対して同様の意見書を送りました。以下はその一部です。
・Animal Welfare Institute (AWI)
・Anti-Fur Society
・BlueVoice
・Cetacean Society International (CSI)
・Environmental Investigation Agency (EIA)
・Leilani Farm Sanctuary
・OceanCare
・PETA Asia
・Pro Wildlife
・Whale and Dolphin Conservation (WDC)
また、一部の団体は緊急プレスリリースを出し、メディアが取り上げるなど、海外では話題になりました。しかし日本では、3団体がプレスリリースを出すも、特にこの時点で取り上げられることはありませんでした。
※このころ起きたこと:
1月18日、キャロライン・ケネディ駐日米大使のツイッター発言が話題に。
米国政府はイルカの追い込み漁に反対します。イルカが殺される追い込み漁の非人道性について深く懸念しています。
— キャロライン・ケネディ大使 (@AmbCKennedy) January 18, 2014
要請書に対しては、1月24日、WAZAからエルザ自然保護の会あてにメールがありました。しかし、WAZAからの正式回答とは認められない私信と判断される内容だったため、中間報告として受領し礼を述べるとともに、予定通り2月20日までに要請書への回答を送るよう、エルザ自然保護の会から返信しています。WAZAは、海外の他団体にも同様のメールを送るとともに、下記のコメントを公表しました。
- 世界動物園水族館協会(WAZA)がイルカ猟へコメント
WAZAが「太地のイルカ追い込み猟を強く非難する」という声明をサイトで公表。
この後、海外2団体WDCとCSIが中心になって、44団体が賛同するレターがWAZAに対して出されていますが、そこにPEACEを含む日本の3団体も賛同しました。「JAZAがWAZAに加盟している限り、WAZAはイルカ追い込み猟に関する責任逃れはできない」として、太地からのイルカを購入または交換したWAZAの加盟水族館を調査すること、JAZAをWAZAから除名すること、さらにWAZAが、要望書を提出した署名団体と話し合う場を設けることを要請しています。連名要望書は、WAZAだけでなく、WAZAに加盟するすべてのメンバーに送られ、JAZAへも送られました。
また、Fins and Flukeという団体が、Change.orgで署名「Please support Japanese Groups by enforcing WAZA’s Code of Ethics」を実施してくれていました。
WAZAは、5月にイルカ猟に関するQ&Aも公表し、イルカ猟を支持しないと明言しています。
2015年
3月、再度WAZAに対し、公開質問書の形式でレターを提出しました。このレターを準備している最中に、オーストラリアの団体がWAZAに対して訴訟を起こしたとの報が入ってきました。それに対し、WAZAは3月24日に声明を公表しています。
- イルカ生体捕獲に関し、WAZAへ再び公開質問書
- An Open Letter to Dr. Gerald Dick, Executive Director of the World Association of Zoos and Aquarium (WAZA)(英語サイト)
上記のレターは、エルザ自然保護の会が海外の団体とともにスイスのWAZAの事務所を訪問した際に提出されています。このとき、連名団体に入った「全国動物ネットワーク」の協力により、日本の168団体が賛同に名を連ね、そのことにWAZAの上層部は大変驚いていたそうです。「海・イルカ・人」も、連名団体に入り、このときから5団体での活動になりました。
またこのときの面会は、JAZAがWAZAの「倫理規範(Code of Ethics)」に従っていないことについて市民団体側が強く指摘し、6カ月以内にWAZA・JAZAと日本の市民団体との会談を行うことが話し合われました。それを受けてエルザ自然保護の会から、JAZAの山本茂行会長(当時)あてに、会合開催要請の書状を5月に提出しており、その会談が8月10日に日本で実現することになりました。5月末の総会でJAZAの会長は、荒井一利・鴨川シーワールド館長(当時)に変わっています。
この会合開催へ向け、PEACEではメッセージ募集を呼びかけました。
8月、WAZA・JAZA・日本のNGOの三者会談が実現しました。問題意識について合意できただけでしたが、大きな一歩でした。終了後に、外国人記者クラブで記者会見も行いました。また、9月の猟期が始まる直前にJAZA会長とNGOとで話し合う場を持つことができ、さらに詳細を確認することができました。一連の報告です。
12月、イルカ追い込み猟の現状に関する勉強会を開催し、JAZA・WAZAへの働きかけについても発表しました。
2015年
突然、WAZAがJAZAの会員資格を停止し、追い込み猟からのイルカ導入を廃止しないのであればJAZAを除名すると公表しました! これを受けて、連携して活動していた5団体でプレスリリースを出しました。
(後からわかったことですが、2014年11月に既にWAZAはJAZAに会員資格停止を検討していることを通知していたそうです。これに対し、2015年2月にJAZAは漸減させる妥協案を回答。しかし、突然4月22日に会員停止が通告されたとのことです。※1)
リリースの内容は、当初、オルタナに掲載されただけだったのですが、この記事がYahoo!ニュースにも掲載されるとすぐ読売新聞が報じました。そして、NHKをはじめとした多くのメディアで盛んにイルカ追い込み猟と水族館の関係について報道される事態になりました。
そしてJAZAは、会員による投票を行い、WAZAに残る道が選択されました。念願の、イルカ猟からの野生イルカ導入廃止の決定です! 5団体で再度プレスリリースを出しました。
- JAZAが追い込み猟からのイルカ入手を断念!
- 【5団体合同プレスリリース】
日本動物園水族館協会(JAZA)加盟水族園館が追い込み猟によるイルカ生体捕獲を断念したことを歓迎~WAZA(世界動物園水族館協会)の会員資格停止問題~
5月20日、WAZAもJAZAの決定を歓迎する旨のリリースを公表しています。
JAZAの決定後
方針の詳細について、質問書を送付しました。2015年、2016年当時の回答は以下の通りでした。その後JAZAは、2017年に水族館部を、2018年にイルカ会議を発足しています。
その他、イベントの開催や取材対応など、関連するページです。
- 人間の娯楽のために野生動物を消費することは許される?
朝日新聞サイト「sippo」にも寄稿した記事です。 - J-WAVE「JAM THE WORLD」出演
- 緊急集会「マスコミが報道しなかったイルカ問題の真実!!!」(開催告知)
- イルカ緊急集会にご参加ありがとうございました<追記あり>
- テレビ愛知「激論!コロシアム」アンケートへの回答
野生イルカ導入及びイルカ猟をめぐる多くの誤解を解くために公開しました。 - 「JAZAは今後も野生鯨類の導入を禁止してゆくべきか」?~ミニシンポジウム「大型野生哺乳類との共存にむけて」参加感想
※その後、一部の水族館がJAZAを脱退しましたが、現在もJAZAはこの方針を維持しています。
脱退した水族館(イルカ飼育が行われているところのみ)
- あわしまマリンパーク
- 太地町立くじらの博物館
- 大分マリーンパレス水族館うみたまご
- 新江ノ島水族館
- 下関市立しものせき水族館 海響館
- 京急油壺マリンパーク
- 青森県立浅虫水族館
脱退が検討されていると報道のあった水族館
- 登別マリンパークニクス
- 下田海中水族館
※日本のイルカを飼育している施設一覧はこちら。
※JAZA加盟・非加盟を問わず、国内で鯨類等を飼育する施設(水族館等)を正会員とする業界団体として、2016年1月に「日本鯨類研究協議会(JACRE)」が立ち上がっています。前身は「日本動物園水族館鯨類会議」(鯨類会議)です。
参考文献:
※1:「日本鯨類研究協議会の紹介」(石橋敏章,日本水産学会誌 83 巻 (2017) 3 号)