昨年は「ノネコ」と称し、明らかに人里で暮らす所有者不明の猫(いわゆる野良猫)を殺害して食べ、その動画をYouTubeにアップするような猟奇的な事件が起こり、「ノネコと言えば食べていいのか」と批判的な世論が沸き起こるなど、「ノイヌ・ノネコ」の定義問題や、狩猟鳥獣指定を解除すべきという問題により一層、光があたった1年でした。
あくまでPEACEの活動の範囲内でですが、ご報告できていなかったことなどをまとめました。
検察審査会から6月5日付の議決結果が届きました。不起訴相当となってしまい、無念でなりません。ご報告はこちらをご覧ください。最終的に35,787名の署名をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。広島県呉市で「ノネコ」と称して猫[…]
超党派議連がノイヌ・ノネコPTを立ち上げ
昨年は、超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」が「ノイヌ・ノネコPT」(PT:プロジェクトチーム)を立ち上げ、9月30日に第1回が開催されました。2024年5月13日までに4回開催されており、議連のアドバイザリーボードの一員としてPEACEも参加してきました。
野外の自活可能な猫・所有者のいない猫(いわゆる野良猫)について、動物愛護法上、駆除を目的とした自治体での引取りは原則として認められていません。所有者のいない野外の猫であっても、みだりに殺せば動物虐待罪での処罰の対象となります(有罪の判例もあります)。また所有者のいる猫を誤って殺処分したことが問題となった過去の経緯等もあり、自治体は自ら猫の駆除を行うことはありません。
しかし近年、鹿児島島部や沖縄で、鳥獣保護法上の「ノネコ」の概念を用いることで捕獲が行われ、さらにそれがいわゆる野良猫等にまで対象を拡大しつつあることに懸念が持たれています。そうしたことがPT設置の背景にあります。
PEACEでは、もともと「ノイヌ・ノネコ」を狩猟鳥獣から削除するべきという意見を環境省に出してきたことや、実験動物のバイオリソース化事業の受託先として作られた企業が奄美のノネコ事業に当初関係していたことなどから懸念を持っており、このPTに参加しています。
PTは現在、関係団体・研究者等にヒアリングを重ね、環境省から疑問点への回答やデータ、見解等を出してもらっているところです。まだ議連として求めていく内容の方向性等は決まっていませんが、環境省は「ノイヌ・ノネコ」の狩猟鳥獣指定の解除に関しては、鳥獣保護管理事業計画に係る基本指針を5年ごとに見直す際に狩猟鳥獣の見直しを行ってきているので、その5年ごとの見直しにおいて検討することが妥当との回答をし続けています。
もちろん臨時で狩猟鳥獣の見直しを行うことはできなくはないということは認めているのですが、過去に臨時で見直しを行った事例はレッドリストの改訂に伴うウズラの削除のみとのことで、環境省は次回見直し検討開始の令和7年(2025年)まで動くつもりはなく、さらに言えば、そのときになればやるのか?ということも全く保証がない状況です。
毎回の報告がタイムリーにできておらず申し訳なく思っていますが、概要やその他の議論については、追ってこちらのページに掲載していければと思っています。(遅くなったら申し訳ありません)
[sitecard subtitle=PTについて url=https://animals-peace.net/domesticatedanimals/cat/amami-noneko-statistics.html target=]工[…]
奄美の「ノネコ」は、ほとんどが世界自然遺産登録区域ではない場所で捕獲されている
昨年7月、南日本新聞に「奄美の捕獲ノネコ 9割は首都圏へ 島外頼りのいびつな構造 『世界遺産の恩恵は受け、ノネコ要らないは身勝手』」との記事が載り、捕獲数推移も掲載されていました。
奄美・沖縄の世界自然遺産登録から26日で2年になる。鹿児島県奄美大島では、アマミノクロウサギなどの希少動物を補食する野…
これらの猫は鳥獣保護法上の、どういった許可で捕獲されているのか、奄美のノネコ管理計画が言及していないので疑問に思い、このとき調べました。
過去に、わなの数が狩猟で定められた上限より多すぎることから問い合わせた際も、まるで環境省の許可だけで行っているかのような回答だったため、環境省の許可のもと行われているようにミスリードされてしまっていましたが、その後、国立公園内(世界自然遺産登録区域+その緩衝地帯とほぼ被る)は環境省の捕獲許可、それ以外の地域は鹿児島県の捕獲許可で行われていることが確認できました。(この事実がはっきりしたことに伴い、過去の投稿に訂正・追加を加筆しています。)
さらに昨年、令和元年(2019年)の鳥獣統計が公表され、「ノネコ」のほとんどが県の許可のほうで捕獲されていることがわかりました。統計が公表されている2年間で、自然公園内(環境省許可)では、各年3匹ずつしか捕獲されていません。つまり、世界自然遺産登録に関係する区域以外での捕獲がこのノネコ管理計画のメインなのです。
この話をすると誤解されるのですが、ノネコの捕獲事業自体は環境省のものです。しかし、捕獲許可は2つに分かれているということを言っています。
- 国立公園の中は環境省の有害捕獲許可 ⇒捕獲はわずか
- それ以外は鹿児島県の有害捕獲許可 ⇒捕獲のメイン
ちなみに、「ノネコ」の捕獲を進めることは、世界自然遺産登録のための包括的行動計画にも明記されており、世界自然遺産登録と無関係ではありません。捕獲計画は希少種の保護・生物多様性保全を目的としているので、世界自然遺産に関わる区域(登録区域およびその環境地帯、つまりほぼ国立公園内)で「ノネコ」が捕獲されていると勘違いされている向きがありますが、むしろその範囲では「ノネコ」の捕獲はほとんど行われていないことが統計からもはっきりしているわけです。
このことをXで指摘すると、「嘘をつくな」というコメントがつくくらいですから、最も自然の深い場所で「ノネコ」が捕獲されていると信じられていることがわかりますが、ノネコ計画によって捕獲された「ノネコ」は、ほとんどが国立公園ではない森林域(人の居住地に近接している場所を含む)で、県の許可によって捕獲されています。
ノネコ計画では猫の捕獲地点を公表しておらず、その理由を奄美市は「希少種が多い森林域において捕獲しています。そのため、希少種保全の観点から、作業地域の詳細については差し控えさせていただいています」としていますが、実際には人の居住地に近い場所で捕獲が行われていることが上記のノイヌ・ノネコPTでも有識者や保護団体から指摘されています。
参考:環境省の鳥獣関係統計と、奄美市から公表されている捕獲数の対比表
統計は以下の通りです。
- 平成30年度について、環境省から鳥獣関係統計が誤っていたと回答を得ていますが、まだサイトは修正されていません。(環境省回答はページ下部に掲載)
- 追記 平成31年/令和元年の統計の矛盾点について、2024年8月15日に環境省から回答があったので反映させました。また、令和2年度の鳥獣統計も公表されたので追記しましたが、捕獲公表数と合わないので再度問い合わせ中。(青字)
年度 | 鳥獣関係統計 | 奄美市からの公表 | |
環境省の捕獲許可での 鹿児島県内捕獲数〔国立公園内〕 赤字は環境省の訂正回答前 | 鹿児島県の許可での捕獲 〔国立公園外〕 内訳は奄美市公表と問い合わせ結果に基づく 赤字は環境省の訂正回答前 | 奄美ノネコ計画の捕獲数 | |
平成30年度 (2018年度) | 3 (0) | 奄美40 徳之島64 計104 (奄美40、徳之島 0 計40) | 43 |
平成31・令和元年度 (2019年度) | 3 | 奄美122 徳之島73 計195 (奄美122、徳之島73のはずだが計176) | 125 |
令和2年度 (2020年度) | 0 | 奄美27、徳之島69のはずだが計90 ※矛盾が出ているので質問中 | 27 |
令和3年度 (2021年度) | 未公表 | 未公表 (奄美124、徳之島は81) | 124 |
令和4年度 (2022年度) | 未公表 | 未公表 (奄美101、徳之島は63) | 101 |
令和5年度 (2023年度) | 未公表 | 未公表 (奄美161、徳之島不明) | 161 |
鳥獣関係統計出典
平成30年度(2018年度)
- 都道府県知事の捕獲許可による捕獲鳥獣数(6)鳥獣による生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害の防止
- 環境大臣の鳥獣捕獲許可による捕獲鳥獣数(7)鳥獣による生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害の防止
平成31・令和元年度(2019年度)
- 都道府県知事の捕獲許可による捕獲鳥獣数(6)鳥獣による生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害の防止
- 環境大臣の鳥獣捕獲許可による捕獲鳥獣数(7)鳥獣による生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害の防止
鹿児島県の「ノネコ」の捕獲数について統計に誤りがあったとの環境省より回答
環境省の公表する鳥獣関係統計と奄美のノネコ計画から公表されている捕獲数に矛盾があったため、昨年環境省に質問をしました。その時の回答は以下の通りで、公表されている統計に誤りがあったことが判明しました。
沖縄奄美自然環境事務所沖縄奄美自然環境事務所野生生物課からの回答(2023年10月13日)
質問)環境省の鳥獣統計を見たところ、平成 30 年度に環境省の許可で鹿児島県で捕獲された猫(ノネコ)はゼロでした。鹿児島県の許可で捕獲された猫(ノネコ)は 40 匹で報告されていますが、奄美ノネコ計画での捕獲として 43 匹で報告されています。この差の3匹は、どういった許可で捕獲されたのでしょうか?
回答)国指定鳥獣保護区内で3頭捕獲されております。
国指定鳥獣保護区内での捕獲は環境大臣の許可をとり実施しております。
鳥獣統計の環境大臣捕獲許可頭数に誤りがありましたので、修正作業を実施しております。
質問)整合性を確認したいので、徳之島の年度ごとの猫(ノネコ)の捕獲数を教えていただけないでしょうか。
回答)過去 5 年分の捕獲頭数についてお知らせ致します。
平成 30 年度 | 平成 31 年度 | 令和2年度 | 令和 3 年度 | 令和 4 年度 |
64 頭 | 73 頭 | 69 頭 | 81 頭 | 63 頭 |
鳥獣統計を確認したところ、徳之島における鹿児島県知事許可の環境省による捕獲頭数が鳥獣統計へ反映されておりませんでした。
鳥獣統計の鹿児島県知事の捕獲許可頭数に誤りがありましたので、鹿児島県と修正作業を実施しております。
質問)徳之島の猫(ノネコ)も、環境省の捕獲許可と県の捕獲許可の両方で捕獲されているのでしょうか? もし分かれている場合、2)の捕獲数について、それぞれ内訳(環境省の捕獲許可分、県の捕獲許可分)を教えてください。
回答)徳之島には国指定鳥獣保護区が無いため、すべて鹿児島県知事の許可を取ったうえで捕獲を実施しております。
前問の通り、鳥獣統計の総数に誤りがありましたので修正致します。
さいごに
奄美では、捕獲等に年間何千万円もの巨額な国家予算がついているのに対し、一般家庭への譲渡活動は民間団体が自腹で行っています。マングースの捕獲事業の終わりが見えてきて、予算を維持するために次のターゲットが必要だったことを指摘する声もあり、それは当会が当初から感じてきたことでもあります。
また心ある民間の人々の努力によって殺処分が回避されているのに、「殺処分されていない」ということを盾に事業にまったく問題がないかのような態度を取り続ける環境省には、やはり腹立たしいものを感じます。
野外の猫の問題が悩ましいことは間違いがありませんが、議連がどういう結論を出すのか、最後まで意見し続けたいと思います。
[sitecard subtitle=PTについて url=https://animals-peace.net/domesticatedanimals/cat/amami-noneko-statistics.html target=]工[…]
更新履歴
2024年8月16日 環境省からの回答と令和2年の鳥獣統計の数字を表に反映させました。