動物と「規制の虜」問題 時期動物愛護法改正へ向けて―

規制の虜(Regulatory Capture)」という言葉をご存じでしょうか。

「規制の虜」とは、規制を行う側の組織が、規制を受ける側の勢力に実質的に支配されてしまう状況のことを言います。こうした力関係にある場合、本来規制を受けるべき産業が規制当局をコントロールできてしまうことになります。

動物を搾取し利用する産業についても間違いなくこの状況があり、むしろそれが当たり前のことのようになってしまっていると感じるくらいですが、去年Faunalyticsというサイトにこの問題の解決に関する論考「Independent Office of Animal Protection」を紹介する記事が掲載され、やはりこのことは問題にしていかなければいけないことなのだと改めて感じました。

Faunalytics

In countries where animal welfare laws prioritize the animal…

動物愛護法改正の議論とも関係するので、ざっと触れてみると、「規制の虜」は、業界の規制が一般大衆よりも民間団体や企業に有利な場合に発生します。その一例は畜産業であり、国の動物福祉政策が農業の促進を担う組織によって決められ、監督されている場合、動物そのものの福祉より業界のニーズが優先されることになると指摘されています。

これはまさに、日本の農林水産省において、畜産を振興するための部局である畜産局畜産振興課がアニマルウェルフェアの指針を公表している状況とぴったり合致します。

規制にまつわるこうした利益相反を取り除くにはどうすればよいか。著者は、独立した動物保護庁を設立することを推奨しています。論考全体を通じ、そのような部門がどのように機能するか、その運営方法や、動物福祉にどのように役立つかが解説されているとのこと。

つまり、独立の官庁または部局を設立することで、動物福祉に関する規則の策定や監督の責任が産業界以外の人々の手に委ねられることになるわけです。著者によれば、すべての方針や違反に関し、策定・検討・報告を含め、あらゆる動物福祉問題のガバナンスをこうした部局が扱うことを意味するとのこと。それにより動物福祉に関する法律を執行し、関連業界に従うことなく、それら業界について常に把握することができるわけです。

日本で言えば、動物ではなく食品安全の例になりますが、厚生労働省・農林水産省から独立した組織として食品安全委員会が設けられたことがイメージとして近そうです。

また、より小規模な場合として、国の動物福祉政策を監督する独立した長官などの役職を設けることも挙げられており、一例としてマルタで2014 年に設置された動物福祉高等弁務官のことが挙げられています。

しかし興味深い指摘もあり、こうした動きは動物にとって有益である一方で、畜産動物の保護活動にとっては欠点もあるそうです。つまり、こうした役職は国民に応えるため、任務は主に家庭動物に焦点が当てられてしまうというのです。(!)

動物福祉の規制を行うための独立した省庁や役職を設けることが選択できない場合、利益相反が生じる可能性の低い既存の別の部門に監督を移すのでもよいとされており、日本で環境省が動物愛護・福祉に関する政策を担っていることは、このパターンに当たりそうです。

動物を扱う業界を直接所管する農林水産省等から環境省が独立していることは、やはり大きなメリットと思われますが、犬猫を中心とした「ペット政策」重視に陥っていることは、まさにここで指摘されていることそのままでもあります。

これを克服するための要件とは何か。まず、当該国は汚職が少なく、動物福祉に関し、国民が関心を示すことのできる強力な民主的統治システムを備えている必要があり、そうした社会では独立した組織は国民の支持を得て、効果的に業務を遂行することができる……なかなか日本にはハードルが高そうな話ではあります。

メディアキャンペーンを通じ、動物福祉の意思決定を、畜産動物から利益を得ている人々から遠ざけることの重要性について一般の人々を教育することに重点を置く必要があるともありますが、日本はマスメディアの関心も高くなく、一層ハードルの高さを感じます。

しかし、どこの国でも、動物を利用する業界の力をどう抑えるか、同じような悩みを抱えながら動物のための政策を求めているのだということは興味深くもあり、また心強いです。

現在、2025年の動物愛護法改正を目指して超党派の議員連盟で検討が進められている真っ只中ですが、唯一、国の動物福祉政策を担う法律が畜産動物について一条も条項を設けていないおかしさや、実験動物福祉を担保するための具体的な法的枠組みが定められていないことなどについて、よりいっそう声を挙げていきましょう。

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