12月18日に、令和元年度第2回の「国際獣疫事務局(OIE)連絡協議会」を農林水産省が招集しました。今年9月に開かれたOIEコード委員会の報告書で提示されているコード改正案に対し、各国政府からのコメントの締切りが迫る中の開催です。真剣に意見を聞いてから政府コメントをつくるつもりがあるとはとても思えない日程感でした。
採卵鶏の福祉コードとなる「アニマルウェルフェアと採卵鶏生産システム」も、2017年の一次案、2018年の2次案に続いて3次案がコメント対象でした。
採卵鶏といえば、当然、バタリーケージを認めるのかどうか、どのような飼育システムを採用するのかが争点となりますが、日本は2次案に対し「米国からも、広く普及されている従来の生産方法であるケージ飼いが認められないと修正された第二次案には問題があり、一次案のように科学的な根拠のある測定指標に焦点をあてるべきとのコメントがあり、日本は米国のコメントに賛同する」とバタリー死守の意見を出しています。
3次案にはこれまでなかった一文「採卵鶏の良好なウェルフェアの成果は、さまざまな舎飼システムによって達成されうる」が追記されていますが、これもまさに日本が提出したコメントにあるもの。バタリーケージで良好なウェルフェアなど望むべくもないのに、こんなものが採用されてしまって、一体どうしたことでしょうか。
止り木や巣箱の設置についても、2次案では「設置するものとする」と必須になっており、日本の状況も、もしやこれで変わるのか?と淡い期待を持ちましたが、3次案では「設置が望ましい」との表現にダウン。もちろん日本は必須とならないような表現に変えるようコメントを提出しています。
国内の状況がバタリー一辺倒ですから政府の態度も当然と言えば当然ですが、あまりにも足を引っ張り続けるのは恥ずかしいものです。3次案に対してもウェルフェア向上のための意見を出すよう日本政府へ求める要望書を認定NPO法人アニマルライツセンターが中心となって取りまとめ、PEACEも含む8団体連名で提出しました。
要望1:砂浴びは他の行動と同様に「動機づけされた」重要な行動であることを反映すること
要望2:どのようなシステムでもよいという意味に捉えうる「Good welfare outcomes for layer pullets and pullet laying hens can be achieved in a range of housing systems.(採卵若雌鶏及び採卵鶏の良好な福祉の結果は、さまざまな鶏舎システムで達成できる。)」を削除すること
要望3:砂浴びエリアの設置を必須とすること
要望4:ついばみの区域(鶏の探索欲求を満たす区域)を必須とすること
要望5:巣作りの区域の設置を必須とすること
要望6:止まり木の設置を必須とすること
要望全文は下記リンク先をご参照ください。
OIE連絡協議会を傍聴したスタッフによるメモは概略以下の通りです。業界の認識どうなっちゃってんの!?の衝撃の発言も。
バタリーケージとは、手間暇かけることが心底できない経営者のためのシステムなのだということを痛感します。だからといって、そこまで認知を歪めるか!?と驚きます。
令和元年度第2回国際獣疫事務局(OIE)連絡協議会 傍聴メモ
12月18日開催。農水省からの説明は、ほとんど資料通り。
資料は既に農水省サイトに公開されています。こちら。
意見が出た部分は主に次の通りです。
2019年9月のOIEコード委員会の報告書において提示されたコード改正案に係る意見交換
(2)鳥インフルエンザ
山口(自治体畜産振興担当課):
低病原性が高病原性になることもあるから、低病原性も通報対象にした方がよい。
ペットや動物園の通報義務はあるのか。
ワクチン接種したものは見分けられるのか。
農水:
病原性が変異した時は、新興感染症として緊急通報の対象になっている。
ペットや動物園はコードから外れている。
マーカーワクチンの技術は確立されているが、抗体を見るだけでなく、生きたウイルスがいないかサーベランスすることもある。ワクチンを打っても見分けられる。
中島(大学教授 疫学、予防医学、感染症学):日本はリスクで考えているが、OIEはプロセスで考えている。コード委員会ではどういう議論があったのか。”One health”において、鳥インフルエンザは象徴的であるが、今回、一歩後退していると感じる。低病原性が高病原性になって人への健康リスクがあがっている。”One health”についてどう議論になっているのか。
農水:4つの要件(資料P.59)が、リスク評価を加味していることになっている。ただ、④の1と④の2が、「結論が出ていない」となっているので、正していく必要がある。
白田(ピーピーキューシー:民間の卵の安全性研究機関):ワクチンを中国はやっているが、清浄国になるのか。
農水:なる。
松木(大学名誉教授 農業経済学):裏庭養鶏で、直売所で売った場合は家禽になるか。
農水:なる。
(4)アニマルウェルフェアと採卵鶏生産システム
磯部(畜産技術協会):「止まり木・営巣区域など、取り入れてもよい」ぐらいにして、「アクセスは望ましい」より、もっと下げた方がよい。衛生管理が難しいから。(!)
田中(大学名誉教授 動物行動管理学):世界の流れからしたら、三次案で日本のが入れられたのが妥協点でしょう。行動の自由は大切。ヨーロッパは普通、一次案の内容でやっているのだから。もう下げられない。
松木:世界はバタリーケージを廃止になっている流れで、舎飼システムについてどういうものとして議論されたのか。放牧について入っていないが、どうなっているのか。
農水:OIEはいろいろな地域の人から意見を聞いて議論している。放牧が当たり前のところ、バタリーケージをなくすのが当たり前のところ、バタリーケージじゃないと場所がないからできないところなど、色々含めて議論された。田中委員の言った「行動の自由」が大事で、こうなったのだろう。
天笠(日本消費者連盟):「さまざまな舎飼システム」では、すごく曖昧になる。たとえば、「自然な行動がとれる」とかを入れるとかにしないと、さまざまな舎飼だと何でもありになってしまう。砂浴びも必要である。
松木:さまざまな舎飼だと何でもOKになってしまう。世界の流れがよいものになっているのに、OIEが何でもいいことになっちゃって弱めるのはどうなのか。良好な環境であればという前提で書くのは変。勧告の指針は明文化した方がよい。
白田:巣箱を幾つか置いたが、人気のあるものに集中して圧死した。いつ生んだかわからないものが出てくる。(!)
ついばみのうち数パーセントはエサ以外のものを食べる。砂を10%食べると、卵の品質の管理が難しくなる。
秋田(アキタフーズ/日本養鶏協会):国際基準は世界中で受け入れられるものにしなくては。世界の80数%はケージ飼い。日本の、生食・環境・労働安全のバランスで、日本の気候風土に合ったものを。平飼いをやったが、細菌が増えてダメだった。
止まり木は、ケージをつかむことで役割を果たしている。
(!?!? まさか、足を傷める金網の床のこと~!?)
ケージなら卵も出てくるから衛生的。現行案で賛成。
農水:いろんな飼い方がOKではなくて、ケージの形・飼い方とかではなく、動物がどういう反応をしているかで見るということをしている。動物を基準としたメルクマール。外的なものだけでアニマルウェルフェアじゃなく、アニマルウェルフェアの達成に向けて動物の状態を見てメルクマールを。
酒井(日本獣医師会):OIEに要望、アウトプットをどうするか明確に。OIEコードありきでなく、国内の対応をどうするか考えて。
天笠:有機農業や食の安全が大事になってきている。感染症だけでなく「健康な動物」っていうのが重要という認識になっている。
田中:秋田さん、ケージが止まり木にはならない。
(指摘に感謝~泣)
松木:緊急時計画について、OIEは災害・疾病と、目先のことだけじゃなく、放射能被災の計画も入れた方がよい。人道的な避難計画を。
農水:具体的なものを入れるのはわからない。放射能漏れとか。「人道的」には、殺処分が入っていると思うので……
(5)BSE
山口:放牧だけのところはないんじゃないか。
○○:発生からまだ20年。警告は出しておくべき。
中島:OIEは、BSEはゼロを目標にしているのか。定型はゼロで、非定型はあってもOKか。
農水:非定型は、発生は仕方がない。それを飼料に入れないとかが目標。
松木:アメリカのリスク分析が出てこない。アメリカの数が出てこない。
農水:OIEはステータス認定している。アメリカの言いなりではない。獣医当局の能力が問われている。獣医当局の能力認定にも力を入れている。
5.その他
出た話題は、
・罰則規定の強化が必要では。
・鳥インフルエンザの人への健康リスクについて。
・ジビエとかはOIEは、別か。
・気候変動と畜産について。
・薬剤耐性菌について。
追記
その後、日本政府がOIEに提出した意見があまりに酷いので驚きました。こちらをご覧ください。