日本動物園水族館協会の決定を歓迎
私たちPEACEを含む日本の5団体連名で、これまで野生イルカの生体捕獲問題について働きかけを行ってきましたが、いよいよWAZA(世界動物園水族館協会)がJAZA(日本動物園水族館協会)の会員資格停止を行い、JAZAがイルカ猟からの生体購入の中止を決定するに至りました。
これに関連する報道が連日続き、WAZAが総会で非難決議をしてから約10年、ほとんど見向きもされなかった問題に光があたったことを喜ぶとともに、まるで10年分の報道が一気にされたような勢いに驚くばかりの日々でした。
これまではイルカを食べることの是非に話が行きがちで、水族館ビジネスの実態が細かく報道されることはなかったと思います。「追い込み猟は知っていたが、まさか水族館にイルカが行っているとは知らなかった」という声も実際に聞き、メディアの情報拡散力に改めて驚きました。
4月25日に5団体連名で出したプレスリリースにも記載しましたが、私たち保護団体は、国際的に権威のあるWAZAが「動物の福祉」の観点から、長年倫理規範に違反してきたメンバーの会員資格停止を行ったのは当然のことだと受け止めており、一定の評価をしています。
また、JAZAがそれを受けて、追い込み猟からの生体捕獲を断念する結論を出したことも、もちろん歓迎をしています。生体捕獲に依存して野生動物を消費する日本の水族館の姿勢そのものが国際的に問題視されてきたのであり、JAZAが時代に逆行する選択をしなかったことを評価するとして、2度目のプレスリリースも出しました。
■イルカだけではない殺戮の歴史
今回の一連の報道への反応を見ていて感じたことですが、「欧米人(あるいは保護団体)がイルカだけを捕ってはいけないと言っている」というのは明らかに誤解です。そのほかの動物種に関しても、過去には動物園のために数多く野生からの捕獲があり、特に子どもを捕獲するために母親や群れの動物などが大量に殺戮されていることが批判の対象となってきました。チンパンジーすら、子どもを動物園に連れてくるために10倍の数の大人のチンパンジーが殺されていました1。また、そういった殺戮を経て得た動物も、連れてくるまでに、もしくは連れてきてすぐに死んでしまうことも多かったのです。
WAZAが無選別で残酷な動物の捕獲を禁じているのは、動物園のこういった悲しい歴史があるからにほかなりません。捕殺の方法が残酷かどうかも確かに重要なのですが(ちなみに太地で行われている新しい捕殺方法についても、決して速やかではないとする科学論文が出ており2、日本の主張が通っているわけではありません)、音によってイルカを脅かし、沖合から群れごと追い込み捕獲する手法自体が動物にとって脅威であり、過去の非選択的な手法と同様に見られているのだと思います。
そして、現在では数多くの動物種が、より一層絶滅の危機に瀕しており、動物園への野生からの導入はしづらくなってきています。動物園自身も、種の保存や環境教育を目的にかかげなければ存在の言い訳が立たない時代になりました。日本の動物園関係者たちも、近年は野生の動物、特に大型の哺乳類を野生から入れることはできなくなったと言っています。
だからこそ繁殖維持のためにWAZAのような国際組織を通じての交流が重要になってくるのですが、その話が関係者から出るたびに、「大量捕獲が現在も続いている野生イルカのことを忘れているのでは?」と感じてきました。
今回の件は、イルカだけを守れという話ではなく、イルカが保護の対象から外れてきたのはなぜなのかが問われている問題だと思います。背景に、イルカショーが生み出す巨大な利益があることは間違いありません。
■人間の娯楽のための動物の苦しみにも注目を
イルカショーは日本の伝統でもなく、明らかに娯楽目的のものであり、人間の楽しみのために子どものイルカを無理やり親や群れから引き離し捕獲・監禁することについて、批判が起きるのは当然のことだと考えています。本来は大海原をダイナミックに泳ぎ回る動物を狭い水槽で飼育することも含め、「合法だから」で開き直ることが正しいのか、社会全体で考え直す、よい機会になったのではないでしょうか。
ちなみに水族館のショーで最も使われているのはバンドウイルカですが、追い込み猟での捕獲数は、既に水族館用が食用を上回っています(図参照)。
イルカについても、野生の生息数に対して日本の捕獲枠(捕獲が許可された数)が過剰である可能性は指摘されており、現実に捕獲数が減ってきているので、それをもって生息数の減少が示唆されていると見ている海外の環境団体の報告書もあります3。
人と海とのあり方を考えたとき、いつまでも水族館が今のままでよいわけはないのは明らかです。海に囲まれた国で、なぜ水族館なのか。見直しも図るべきではないでしょうか。
JAZAはこれから詳細なルールを決めるとしていますが、1館も脱退することなく、日本の野生イルカにとってよい選択が継続され続けることを望んでいます。
1)デール・ジャミーソン「動物園反対論」P・シンガー編、戸田清訳(1985)『動物の権利』技術と人間、1986年
2)Andrew Butterworth et al.‘A Veterinary and BehavioralAnalysis of Dolphin Killing Methods Currently Used in the Drive Hunt”in Taiji, Japan’ Journal of Applied AnimalWelfare Science 2013
3)Environmental Investigation Agency「有害な捕獲」
追記:
5月26日、この件に関連して、FM局J-WAVEの「JAM THE WORLD」という番組に出演しました。
テーマは「『アニマルライツ』とは?どこまで尊重すべきなのか?」でした。
番組ページ:http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/break/150526.html(既にリンク切れ)
追記2
こちらの記事は、朝日新聞「sippo」にも掲載されました。
追記3
グラフはこちらの記事に、最新のものを掲載しました。
2月13日(日曜日)の朝日新聞に「(フォーラム)動物の幸せって? 反響編」が掲載されました。朝日新聞のサイトで1月11日まで行われていたアニマルウェルフェア(動物福祉)に関するアンケート「動物の幸せを考えることはありますか」の結果をうけ[…]