この6月で、2006年の改正動物愛護法施行および文部科学省・厚生労働省・農林水産省の動物実験基本指針の告示・通知からちょうど10年が経ちました。
このときの改正では、動愛法に動物実験の3Rの原則の理念が盛り込まれ、その後の10年で動物実験関係者の意識が大きく変わったことを実感しています。
しかし、「第三者認証をやるから法規制は止めてくれ」とさんざん言われていたにもかかわらず、これらの制度も全ての動物実験施設を網羅するには至っておらず、それどころか、動物実験指針を設けた省庁は結局この10年間にひとつもふえませんでした。
法令としては10年間ほとんど変化がない状況といってよく、国際的に動物実験をめぐる状況が変化していることと非常に対称的です。
この問題について、幾つか連続で投稿をしたいと考えていますが、とりあえず第1弾は環境省です。
■環境省の研究費「環境研究総合推進費」の公募要項
~質問・要望をした結果、今年度より改善されます!~
環境省の「環境研究総合推進費」は、いわゆる競争的研究資金にあたる公募型の国の研究費です。
環境政策の推進のために必要な科学的知見の集積や技術開発の推進を目的とした研究費であり、大学等の研究機関や企業から課題の応募があります。
ざっと採択課題を見る限り、一見動物実験は関係なさそうにも見えるのですが、「研究成果報告書データベース」で検索すると、化学物質関連などで実際に動物を用いた実験を伴う研究がこれまで行われてきていることがわかります。しかし、環境省は文部科学省、厚生労働省等が定めるような動物実験に関する基本指針※を持っていません。
また、動物実験計画に対して倫理審査が行われないまま動物実験が行われたなど、不適切な動物実験が実施されていた場合、文部科学省の科研費や厚生労働省の厚労科研費では研究返還の対象となることがペナルティに該当すると言われてきていますが、環境省のこの研究費ではどのようなペナルティが定めらているのか、不明でした。
もし具体的な対処がなされないのであれば国による動物実験の監督は不十分であると考え、事実確認を行ったところ、やはり具体的な取り決めはないとのこと。それに対して問題を指摘したところ、今年の公募要項から内容が改善されることになりました!
まずは機関の規程に従うことを盛り込むことなどを考えているとのことですが、長期的には環境省全体の問題として考えていただけるとのこと。
私たちとしては、各省でばらばらに指針をつくることはやめ、国として1本のより詳細な指針をつくり、全ての国の研究費に対してペナルティが発生するようにするべきだと考えていますが、何も規定のなかった研究費で変化が見られるのは一歩前進です。
詳細は以下に掲載しました。
■経緯
まず、4月16日に環境省に対し質問書を送りました。熊本地震の影響で回答が遅れるとの連絡がありましたが、5月26日付けで環境省総合環境政策局総務課環境研究技術室から回答が来ました。
2016 年4月 16 日付け「環境研究総合推進費に関する質問書」でお問い合わせいただきましたご質問に対し、以下のとおり回答いたします。
(回答) 環境研究総合推進費の公募の際、動物実験に関する倫理規定は設けておりません。
(回答) 環境研究総合推進費による研究の実施に当たり、動物実験に関する特定のペナルティは設けておりません。
この回答によって、倫理規定なし・ペナルティなしであることがはっきりしましたので、当会からは以下の返信をしました。
動物実験については、それを所管する各省庁で倫理指針を定めることによって自主規制で可とするということが2005年の動物の愛護及び管理に関する法律の改正以降言われてきていますが、実際に動物実験に資金提供している省庁で動物実験に関する倫理指針も設けず運用をしているのは怠慢ではないでしょうか?
もし動物実験指針を設けないのであれば、動物実験を含む研究活動に資金提供しないことを応募要項に明記していただきたく、強く要望いたします。
これに対し回答が来るだろうか…と思っていたところ、なんと、あまり時間を置かず、環境省から回答がありました。しかも、対応を検討しているという内容です!
ご意見いただきありがとうございます。
環境研究総合推進費の公募に当たっては、動物実験を含む研究活動に対する対応を強化することを現在検討しております。検討に当たっては、以下でいただいたような要望も参考にしつつ、効果的な取組となるよう検討を進めてまいります。
動物実験不可とならないのが非常に残念ですが、対応とは具体的にどのようなことを考えているのか電話で確認したところ、とりいそぎ、すぐできることとして所属の研究機関の動物実験指針に従うことなどを応募要項に盛り込むことを考えているとのこと。10月に始まる公募から変わるとのことなので、早速、一歩前進です。
動物実験指針については、この研究費だけではなく省全体の問題でもあるので、時間はかかるかもしれないが、今後検討するとのこと。
冒頭にも書きましたが、実験関係者が呼ぶところのいわゆる「2006年体制」ができて、今年で10年。どれだけ「ちゃんとやっている」と言ってみたところで、ほころびがあるのは明らかです。次の動物愛護法改正が、全体を見直す再契機になることを願ってやみません。