動物実験が行われた論文の訂正・取下げが行われているケースについて、理由が気になりましたので、2件ほど問い合わせてみました。
1つは、「日本栄養・食糧学会誌」第68巻第2号に掲載されていた、論文「ラットにおける玄米発酵食品の血糖値上昇抑制およびインスリン節約効果」(日本栄養・食糧学会誌第65 巻第6 号271-276 ページ (2012))の訂正です。
内容は、「なお, 本実験は, (中略) 鈴峯女子短期大学実験動物委員会における倫理審査を経て実施した」を「なお, 本実験は, (中略) 鈴峯女子短期大学食物栄養学科における倫理的承認を得て, 鈴峯女子短期大学動物実験規程に則って実施した」と訂正するものでした。
日本栄養・食糧学会誌投稿規定では、「……投稿論文中では動物実験倫理審査委員会等で承認されたか,または適切な動物実験倫理規定等に則って行われた旨を明記しなければならない」となっており、わざわざ訂正がなされた理由がわかりませんでしたが、回答により、動物実験委員会と動物実験規程が整備された時期をまたぐ実験だったことがわかりました。
動物実験委員会の設置は、既に昭和62年(1987年)の文部省学術国際局長通知「大学等における動物実験について」で通知されていたことですが、平成17年(2005年)の動物愛護法改正による指針等の公布を経てなお、整備が行われていなかった実態があることがわかります。
ちなみに、投稿規定細則の「または」の表記は委員会の審査・承認がなくてもかまわないことを意味するものかどうかを確認したところ、現在は論文の受付の際には「動物実験倫理規程に則って実施した」という表記のみの場合は「倫理審査委員会の承認番号あるいは承認日を明記するよう」著者へ差し戻しており、投稿規定細則を修正する準備をしているとの回答でした。
本件は著者より訂正の申請があったとのことで、詳細は以下の通りです。
初稿に記載されている実験は、その前に行われました。
その実験については、先行研究やこれまでに行われてきた実験等と照らし合わせ、さらに「動物実験委員会」および「動物実験規程」が整備される前に食物栄養学科内確認事項で整備された「研究活動倫理審査委員会(正式な名称ではない)」で確認・了解されたうえで行いましたが、現時点で審査結果の記録が確認できません。
また査読の過程で求められた追実験を行った際には、「動物実験委員会」と「動物実験規程」が整備されていたので、追実験については「動物実験規程」に則って行いました。
従いまして「実験動物委員会における倫理審査を経て実施した。」あるいは「動物実験規程に則って実施した。」という表記のみでは不正確となります。
表記の正確を期すために「なお,本実験は,(中略)鈴峯女子短期大学食物栄養学科における倫理的承認を得て、鈴峯女子短期大学動物実験規程に則って実施した。」という表現となりました。
もう1件問い合わせたのは、「実験動物ニュース」Vol. 64 No. 4で報告されていた下記論文の取り下げについてです。鳥取大学農学研究科で行われた実験で、ハイイロジネズミオポッサムの生後1日目の赤ちゃんと成長した15日目の個体の皮膚をパンチで切り取って、治癒の過程を比べる内容です。もちろん、殺して皮膚を切り取り、調べます。傷の大きさは2ミリですが、オポッサムの新生児自体がとても小さいので、体の大きさに対してはある程度大きい傷だと思います。
論文名: Ultrastructural analysis between fetal and adult wound healing process of marsupial opossum skin
(有袋類オポッサム皮膚の胎子型と成体型の創傷治癒過程の微細構造による解析)
著 者: Kei MATSUNO and Setsunosuke IHARA
掲載誌: Experimental Animals,第 64 巻第 3 号,323 ~ 332 頁,2015 年.
著者から来た回答は以下の通りで、具体的に何が理由で折り合いがつかなかったのかよくわかりませんでしたが、指導教官が著者から降りたことが理由とのことでした。傷をつくるような実験でもあり、こういったことが起きるのは非常に疑問に思います。
共著者の辞退の理由といたしましては、猪原先生のご指導を受けて実験を行い、論文の執筆を行ったのですが、論文を執筆する際に猪原先生との協議が不十分であり、最終的な同意が得られていなかったことです。
ハイイロジネズミオポッサムの大人 By The original uploader was Dawson at English Wikipedia (Transferred from en.wikipedia to Commons.) [CC BY-SA 2.5 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5)], via Wikimedia Commons