<アメリカ>EPA(環境保護庁)の動物実験代替・削減の取組み

アメリカでは、EPA(環境保護庁)長官が2035年までに哺乳類の動物実験をなくすことを目標とする方針を2019年に公表し、次々と動物実験の代替・削減に係る動きを見せています。

2月4日、NAMs(New Approach Methods; 新しいアプローチ方法論)の2021年リストを公表したほか、下記のような動きがありました。

皮膚の毒性試験データが省略可能になる範囲が広がりました

農薬の毒性を判断するために行われている、生きた動物を使う皮膚の試験について、さらに削減が進みます。昨年の大晦日、最終製品に使用される農薬単一活性成分である工業化学物質に対し、急性経皮毒性試験の免除に関する新たなガイダンスが公表されました。2016年にも同様のガイダンスが出ていますが、さらに免除の可能性を広げたものです。

これにより、年間に最大で750匹の動物の使用が削減されるとEPAは公表しています。どのていど動物の削減が見込めるかまで試算することは日本では考えられませんから、動物の削減が真剣な課題となっていることを、こういった数字でいつも感じます。

この新たな方針を公表するにあたり、EPAは保健福祉省(HHS)と合同で、既存物質の実験データと表示規制の関連性についてさかのぼって研究しており、分析対象となった化学物質の99%で、急性経皮毒性試験のデータではなく急性経口毒性試験のデータを用いたほうが、より安全寄りであったことを確認しました。

つまり、両方の試験を求める必要はなかったわけです。急性経皮毒性のデータは不要だと判断されました。ただし、免除が認められる対象から燻蒸剤と殺鼠剤は除外されています。(形状や使用法が異なるため)

専門家グループとの協議により免除申請を受け入れられないと判断した場合、当局が急性経皮毒性のデータをケースバイケースで要求する権限は残されていますが、ほとんどの場合で免除が認められるだろうと想定されています。

最近のEPAの動物実験代替・削減の取組み

2019年9月、EPAのアンドリュー・ウィーラー長官は、2025年までに哺乳類を用いる動物実験の要請と資金提供を30%削減し、らさに2035年までにはそれらを廃止することを求める指令文書を公表しました。2035年以降にEPAが要請または資金提供を行う哺乳類の動物実験は、ケースバイケースでEPA長官の承認を必要とするようにし、2035年1月1日以降は、第三者が行った実験も含め、できる限りEPAの承認プロセスから哺乳類の動物実験を排除するようにも求めています。

EPAは、従来から動物実験代替法の開発・普及の戦略計画を立てるなどの取組みを行っていましたが、この新たな指令を支持しており、動物実験を必要とする要件を減らし、置き換え、改良するためにさまざまな措置を講じています。

なかなか一つ一つ紹介しきれてこなかったので、リリースなどから、最近の動きをまとめました。

  • 2019年9月、EPAは5つの大学研究機関に対して、化学物質の安全性を評価するための動物実験代替法を研究、開発するため425万ドルの資金を提供すると公表。対象は、ジョンズ・ホプキンス大学、ヴァンダービルト大学、ヴァンダービルト大学医療センター、オレゴン州立大学、カリフォルニア大学リバーサイド校の5カ所。(助成金の詳細はこちら
  • 2019年12月、EPAは化学物質の安全性研究における動物実験の削減を達成するための会議を開催。また、改正TSCA(有害物質規制法)のもとで代替に使用できるNAMsのリストも更新しました。更新されたリストには、人の健康や生態学的影響に関連する21の新しいテストガイドラインと、動物実験の使用を減らす6つの追加ポリシーが含まれていました。
  • 2020年1月、EPAは、動物実験の使用を減らすための取り組みに関するすべてをアップデートするための包括的なリソースとして、NAMsに関するウェブサイトを立ち上げました。
  • 2020年2月、EPAは、農薬登録審査における鳥類の不必要な試験を減らすための最終ガイダンスを公表。これは、年間720の試験動物を救うことが期待されています。
  • 2020年6月、EPAは、2035年の目標達成に向けて重要な指針となる目標、戦略、成果を概説する「NAMs作業計画」を公表。また、がんのバイオアッセイを改めるためにNAMsを使用する方法について助言を提供する目的で、科学諮問委員会の会合を開きました。
  • 2020年7月、EPAは農薬登録審査における魚類の不必要な試験を減らすためのガイダンスを公表。これは、年間240の試験動物を救うことが期待されています。
  • 2020年10月、EPAは化学物質の安全性試験のためのNAMsの開発と使用に関する科学の状況に関する第2回の年次会議を開催。
  • 2020年12月、EPAは、農薬のための急性経皮毒性試験の免除に関する新たなガイダンスを公表。年間750の試験動物を救うことが期待されています。(上記)
  • 2021年2月、EPAは、TSCAに基づき、NAMsの2021年リストを公表しました。

動物実験を減らすためのEPAの取り組みの詳細については、こちらのページ(英語)に掲載されています。

実験用のウサギも引退へ

アメリカでは、バイデン新大統領が就任し、政権交代がありました。これに伴い引退するEPAのウィーラー長官は、1月20日、EPAが研究用に飼ってきたウサギたちも引退させるよう指示したそうです。思わぬ「恩赦」と報じられていました。

対象はノースカロライナ州のリサーチ・トライアングル・パークにあるEPAの研究所で飼育されているウサギたちとのこと。引退までのプロセスは、まだこれから検討だそうです。

このウサギたちの中には精液採取のためだけに10年近く前から飼われてきたウサギもおり、そのためにメスのウサギも近くで飼っている等、税金の使途監視団体であるWhite Coat Waste Project(WCWP)が批判していました。

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