青森県営浅虫水族館 2019年、追い込み猟からのイルカ購入が検討された

青森県営 浅虫水族館 建物写真

青森県営浅虫水族館は、青森県が設置する水族館で、日本動物園水族館協会(JAZA)が追い込み猟からイルカを導入しない方針を決定して以降に同協会を脱退した水族館のひとつです。2023年に開館40周年を迎える老朽化した水族館でもあります。

JAZA脱退後、イルカの購入を検討しているとの報道がなされました。当時の経緯などをまとめました。

新たなイルカを追い込み猟から入手する?

2019年、浅虫水族館がハンドウイルカのオスを1頭、和歌山県太地町の追い込み猟から購入するつもりだという報道がありました。ちょうど、9月からのイルカ追い込み猟の猟期が始まったころの報道でした。

「青森県が、青森市の県営浅虫水族館で飼育・公開するため、新たにバンドウイルカ1頭の購入を検討している。同水族館には現在9頭のイルカがいるが、高齢化が進んでいる上、5頭のカマイルカが動物愛護の観点からショーに出演させられなく可能性もあり、その穴を埋めるのが狙いだという。」

「県のイルカの購入計画について、同水族館の佐藤康也副館長は『イルカショーは浅虫水族館の象徴。若いイルカが来てくれれば、話題にもなるはず』と期待している。」

人気のイルカショー存続へ1頭購入検討/浅虫水族館(デイリー東北 2019年9月8日)より

これについて、Facebook等で「購入しないように意見を送ってほしい」という投稿をしましたが(下記参照)、その後、猟期が終わってしばらく経ってもイルカはふえておらず、このときは購入は見送られました。

水族館にいるイルカたちの状況が安定しているので、現状を見て、購入しなかったとのことでした。また、水族館は「皆さんの意見も聞きながら」と言っていました。ご意見送ってくださった皆さま、本当にありがとうございました。

ただし、今後、イルカが死ぬなどして状況が変われば、どうなるかまだわからない水族館だと思います。

▼呼びかけ投稿

当時の経緯

浅虫水族館は青森県立の水族館なので、報道後に県に問い合わせました。そのときは、購入すると言っているのはあくまで指定管理者である青森水族館管理株式会社だとしていました。

その時点では、県側はまだ協議中であり、予算についても、年間の予算から出すのか別建てなのかなど全く未定で、現時点で言えることはないとのことでした。まだ意見を言えるタイミングだと思い、購入しないでほしいと意見を送り、Facebookも投稿しました。

浅虫水族館は、実は2019年に日本動物園水族館協会(JAZA)から脱退しています。JAZAは追い込み猟からイルカを導入しないという方針を決めているため、イルカを購入するために脱退したのか?と疑いましたが、水族館側は、そのために脱退したのではないと言っていました。会費の負担などが理由だそうです。

であれば、脱退してもJAZAと同水準の方針は維持してほしいですし、公立の水族館として、自然界から残酷な方法で動物を収奪し、幽閉するようなことは止めてほしいと思います。税金で運営するのですから、最低限、教育的な施設であってほしいですが、イルカショーのような娯楽頼みなのもおかしな話です。いつまでも市民に対し、野生動物に関する誤ったメッセージを発し続けるのは止めてほしいと意見を送りました。

それに対して来ていた回答が下記です。これを読み、青森県にはあまり期待できないのか?と感じていましたが、結果として2019-2020年の猟期では見送りになりました。

青森県 観光国際戦略局 観光企画課からの回答

この度は、県政・私の提案へご意見をお寄せいただきありがとうございます。
頂戴しましたご意見につきまして、下記のようにご返答いたします。浅虫水族館の設置目的は、魚類、海獣類との触れ合いを通じた学習の機会を提供することにより、
青森県の豊かな自然環境やそこに暮らす生き物達のすばらしさを身近に感じ、体験できることにあります。開館から36年を迎えることができましたのは、
我々の活動に対して県民の皆様よりご理解ならびにご支援をいただいている証であり、
設置目的にあります学習の機会を提供する教育施設として評価をいただけているものと理解しております。日本のイルカの捕獲方法については、国際世論において議論があることは承知しておりますが、
浅虫水族館のイルカの展示・パフォーマンスは、多くの県民の皆様から高評価を得ており、
これらを継続していくことは県民の皆様のご要望に応えることでもあると同時に、
イルカの生態を理解するうえでも重要であると考え、飼育・展示を継続したいと考えています。

その中で、イルカの飼育を行っている全国の水族館・動物園とのネットワークを活かし、連携しながら、
イルカの最適な入手方法の検討を重ねてきましたが、今般、イルカの購入判断に至ったところです。
なお、イルカの購入にあたっては、各種法令を遵守し、然るべき方法で行うこととしております。

今後も浅虫水族館では、水族館としての目的を達成するため、適正な飼育・展示に努めてまいります。

(2019年11月6日 メールによる回答)

カマイルカは学術研究目的で飼育されているはずなのに

浅虫水族館には当時、ハンドウイルカが4頭いました。(メスは「ピッピ」「りんご」「みかん」、オスは「ジム」)

カマイルカもいましたが、当時は一部、むつ湾で行われているイルカ研究教育事業の一環として「むつ市海と森ふれあい体験館」の生簀に移されていました。

発端となったデーリー東北の記事には、「5頭のカマイルカが動物愛護の観点からショーに出演させられなく可能性もあり、その穴を埋めるのが狙いだという。」と書かれていたのですが、これには若干ぬか喜びをさせられました。

浅虫水族館のカマイルカは全て、追い込み猟で捕獲されたわけではなく、保護されたイルカです。漁業の網にかかってしまった混獲の野生イルカや、傷ついたり弱ったりしたところを保護された野生イルカは、放流が原則です。つまり、記事にあった「ショーに出演させられなく可能性」というのは、水産庁の方針との兼ね合いの問題であって、動物愛護の観点は関係ありませんでした。

放流は、水産庁が「水産資源」保護の観点から決めている方針です。いくら水産庁でも「捕獲枠以外もご自由に使ってどうぞ」とは考えていないわけです。浅虫水族館で保護されていたカマイルカ5頭は学術研究目的での飼育が水産庁に届出されているとのことでしたが、ショーは学術研究ではなく娯楽です。厳密に考えれば、娯楽利用するのは間違っているはずです。

また、このときカマイルカは放流の計画がありました。2020年以降順次、回遊の時期を狙ってGPSを付けて放流される予定だと言っていました。ただし、保護されてから年月がかなり経つ個体もいるので、慎重にならざるを得ず、試しながら決めていくことになるとのことで、当時、既に発信機を付ける練習などをしているとのことでした。

結果的に放流は見送られ、海の生け簀に移されていたカマイルカたちは、浅虫水族館に戻されてしまいました。放流できないという判断自体はやむを得ないのかもしれませんが、水族館に戻されたことについては、ショーなどに使いたい水族館側の意向があったのではないかという疑念を感じざるを得ませんでした。放流できないにしても、「むつ市海と森ふれあい体験館」にいたほうが、学術研究や教育の目的にはかなっていたと思います。

浅虫水族館のイルカ(2019年時点)

ハンドウイルカ

ピッピ(メス)
りんご(メス)
みかん(メス)
ジム(オス)

カマイルカ 全て混獲保護からの飼育継続。

フリップ(オス)
ラッキー(オス)
スマイル(オス)
チップ(メス)
チョコ(メス)

参考

むつ市でのカマイルカ研究については、下記報道を参照ください。とても興味深い取り組みです。

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