「Nature」誌論文、マウスに発生させた腫瘍が大きすぎて問題に

※この論文は2018年7月に撤回されました。詳細はこちらをご覧ください。
以下の記事は2015年当時のまま残してあります。

実験動物福祉に関する倫理規定違反事例を受けて、イギリスの科学誌「ネイチャー」が論文掲載規定の見直しを迫られていると、同誌のニュースが報じています。

2011年に「ネイチャー」に載った論文に関し、マウスの腫瘍が大きすぎるとの指摘がなされたことに端を発しており、「ネイチャー」は、論文の訂正要請を行いました。しかし、問題提起を行った科学者は、論文自体を取り下げるべきだと主張しています。

問題の論文と訂正について

該当の論文は、マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学医学部、ブロード研究所のチームによって公表されたもので、インドナガコショウの実に含まれるピペルロングミンという成分が正常細胞を殺さずにマウスの腫瘍細胞を選択的に殺すことができるとする論文でした。著者はAnna Mandinova、Stuart Schreiber、Sam Leeらで、日本人の名前も含まれています。(現在、佐賀大学医学部の井手貴雄氏)

「ネイチャー」は訂正要請において、マウスに発生させた腫瘍の大きさが1.5cmを超えたと指摘しており、これは、マサチューセッツ総合病院の動物実験委員会が決めた福祉規定に違反しているとのこと。腫瘍が大きすぎるとマウスは、より一層苦しみますが、それを「ネイチャー」編集部が指摘した形になります。

確かに論文の写真には、マウスの体と同じくらい(か、それ以上?)に成長し、はち切れんばかりになっている腫瘍が写っていて、あまりの大きさにギョッとします。

 

論文の取り下げは必要ないのか?

論文の訂正によって、福祉規定に違反して得たデータは削除されますが、この研究が出した結論(抗がん作用)は有効なものとして残ります。

これに対して、論文自体の取り下げを求めているのが、デイビッド・ボー(David Vaux)氏で、今回の福祉規定違反問題を提起した科学者です。彼は、ウォルター&エリザ・ホール研究所(メルボルン、オーストラリア)で、細胞死について研究をしており、論文を残すことは、「ネイチャー」が動物福祉規定違反を暗に認めたことになると主張しているとのこと。「こんな大きさの腫瘍を容認する動物実験委員会はないはずだ」とも述べています。

また、科学者同士が論文不正などについて意見を述べ合えるサイト「PubPeer」でも意見交換がなされており、オスロ大学病院のがん研究者であるMorten Oksvold氏も「ネイチャー」に対して、動物福祉規定違反として、論文の取り下げと研究機関での調査を求めたとのこと。

Oksvold氏のコメントも、大変印象的なものです。

「私は今までも有名学会誌で、マウスが大きすぎる腫瘍で苦しんだ例を見てきた。なぜ、このようなケースが査読システムをくぐりぬけるかに驚いている。」

 

ネイチャーと著者らは?

「ネイチャー」側は、関与した動物実験委員会は問題となった論文データを取得済であり、また今後、違反が再発しないような対策を講じているとしており、「我々は、動物福祉や倫理的な動物実験について真剣に対処している。もし編集方針に違反する例がわかれば、真摯に対応をしていく」とコメントしています。

また、論文訂正の中で著者らが記している謝罪の言葉についても取り上げられています。

「当初の論文の結論には変わりはないが、掲載したデータに、数々の不正確な部分があったこと、そして動物福祉ガイドラインに違反したデータがあったことに関し、謹んでお詫びを申し上げます。」

 

日本は対応できるのか?

この記事で驚くのは、海外では許容される腫瘍サイズについて具体的な数値の定めがあるということです。

例えば、イギリスの「British Journal of Cancer」は、マウスにおける腫瘍サイズは平均で1.2cmを超えないようにガイドラインに記載しているとのこと。また、アメリカのガイドラインの多くは、最大でも2cmまでと定めているとありました。

では、日本はどうなのでしょうか?

例えば、日本癌学会機関誌「Cancer Science」に聞いてみたところ、学会としての規定はなく、各研究機関の委員会の規定に委ねているとのこと。投稿規定では、動物実験 については、国の指針を守っているところで倫理的に行えとしか言っていませんから、実質、具体的な決まりはないも同然です。

また、記事では、「ネイチャー」はこの件を受けて今後さらなる情報提供を求めていくと言っており、腫瘍を発生させる実験については、各機関の動物実験委員会が容認する腫瘍の大きさと、それを実験で順守したことの報告が必要になるとも述べています。

こういった動きに日本の研究機関は対応できるのでしょうか? 

各機関が規程を定める際に参考とする雛形として定められた日本学術会議の「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」には、「腫瘍のサイズの著しい増大(体重の10%以上)」を人道的エンドポイント(安楽死)の目安とする記述があり、例えば東北大学は「東北大学における動物実験等に関する規程とその解説(第11版)」の中でこの数字を採用していますが、このように明文化しているところはあまり見かけないのが実情です。理化学研究所や国立がん研究センターといった主だった研究機関の規程を見てみても、具体的なことは書かれていません。

まして、各機関の実際の審査の場で、どれだけ意識されているかは疑わしいものがあると思います。

日本の動物実験は「自主規制」の名目のもと行われていますが、あまりに緩い運用では信用を失います。国際水準への対応を今後も求めて行きたいと考えています。

(翻訳協力:M.N.さん)

※10/6、日本癌学会機関誌「Cancer Science」からの回答が来ましたので、本文を一部修正しました。

▼問題の腫瘍の画像へのリンク(画像をクリック)
mice-cancer-naturewebimage

※この論文は2018年7月に撤回されました。詳細はこちらをご覧ください。
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