那須サファリパーク

那須サファリパーク トラによる人身事故で運営法人・支配人・元飼育員が略式起訴

株式会社東北サファリパークが運営する「那須サファリパーク」(栃木県那須町)で、2022年1月5日、飼育員3人がベンガルトラに襲われ負傷する事故がありました。寅年の初めに起きた事故で、飼育員の一人は右手首から先を失う大けがを負いました。

昨年5月2日、この件について、支配人と飼育員らの上司および20代の飼育員4人の計6人が業務上過失傷害の疑いで書類送検され、また、同月11日には、栃木・大田原労働基準監督署が東北サファリーパークと同社現場責任者を労働安全衛生法違反の疑いで宇津宮地検に書類送検しました。

労働安全衛生法違反の疑いについては、雇入れ時に事故が起きた際の2次被害を防ぐための教育を怠っていたことと、トラ展示場に通じる場所に安全な通路を設けずに労働者に作業を行わせたことが容疑となっていたことが報じられています。(労働新聞社「トラに襲われる労災発生 2次災害防ぐ教育怠り送検 大田原労基署」2023年6月14日)

そして、事故から2年以上が経ちましたが、ようやく今年3月26日、大田原区検が労働安全衛生法違反の罪で法人としての東北サファリーパークと支配人男性(49歳)を、また業務上過失傷害の罪で元飼育員の男性(26歳)を略式起訴しました。

報道によれば、同じく業務上過失傷害容疑で書類送検されていた男性支配人および飼育員ら5人は不起訴となったそうです。なぜ業務上過失傷害については明暗が分かれたのか知りたいものですが、区検は不起訴の理由を明らかにしていないと報道じられています。

しかし、起訴内容については共同通信が以下のように報じており、前日終業時にトラの「ボルタ」を獣舎に戻さなかったことが特に重く見られたように感じます。

「起訴状によると、元飼育員は22年1月4日午後、ベンガルトラ『ボルタ』を獣舎に移さず通路に残して終業。翌朝、トラを移動させるため柵を開け通路に入ろうとした飼育員1人と救助しようとした飼育員2人が襲われ、前腕切断などのけがを負ったとしている。」(「那須サファリ事故で略式起訴 元飼育員、過失傷害罪」より 2024年3月26日)

労働安全衛生法違反については、厚生労働省も公表を行っていました。

厚生労働省公表事項

 那須サファリパークは、株式会社東北サファリパークの支店とされていますが、登記上の支店はありませんでした。また、略式起訴されたK支配人も登記された支配人ではありません。いずれも呼称として使われているだけのようです。

もし裁判となれば傍聴したかったですが、略式起訴であり、既に那須サファリパークが略式命令を受けたと公表していました。罰金の金額を問い合わせましたが、まだ書類(おそらく略式命令書の謄本のこと)が送達されていないとの回答でした。

▼那須サファリパークによる公表より

那須サファリパークにおける労働安全衛生法違反に関して 2022年1月5日に発生した那須サファリパークでのトラの事故に関して、労働安全衛生法違反で法人として当社が略式命令を受けました。 怪我をされた方とご家族の皆様には、改めて心より深くお詫び申し上げます。また、お客様をはじめ関係者のみなさまには、ご迷惑とご心配をおかけして申し訳ございません。 弊社はこのような事態に至りましたことを厳粛に受け止め、労働安全衛生法の遵守と労働環境の改善に向けて全力で取り組んでまいります。 ■再発防止の取り組み■ 該当のトラ獣舎並びに他獣舎に関する設備の改善及び業務動線の見直しを行い、飼育動物による事故の防止、万が一を想定した訓練等を定期的に実施しております。また、今後も適宜、再発防止に努めてまいります。 2024年3月27日 株式会社東北サファリーパーク那須支店 那須サファリパーク

園長に刑事処分なしの不思議

那須サファリパークの園長である堀浩氏は、事故当時メディア対応をしていました。デイリー新潮の取材に対し、「ひとえに私の指導不⾜」と語ったそうです。(デイリー新潮「『ひとえに私の指導不⾜』那須のトラ襲撃事件、園⻑が語る原因『動物に非はない』」2022年01⽉20⽇)

しかし、送検が報じられた中に園長という肩書の人物は含まれておらず、疑問でした。労働安全衛生法違反で略式起訴されたのは支配人で、別人です。やはり園長としての実態はないということなのでしょうか? 「ひとえに私の指導不⾜」とまで言っていたのに?

事故の詳細

事故の詳細については、栃木県動物愛護指導センターが所持する記録を参照ください。

※マニュアルや研修資料等は掲載を割愛しました。記載されている法令関係の内容が古かったので、その件については、栃木県動物愛護指導センターに指摘させていただきました。

追悼、ボルタ

事故を起こしたのは人間ですが、当事者となってしまったホワイトタイガーの「ボルタ」は2022年6月、急性心不全で既にこの世を去っています。

日本の動物園はホワイトタイガーだのゴールデンタビータイガーだの言ってボルタのような毛色を珍しいものとありがたがっていますが、そもそも自然界ではめったに生まれることのない白化したトラを人間が人工的に交配し、繁殖で生み出しているのが実態です。「世界に30頭しかいない」は現実を正しく表現しておらず、「世界で30頭も繁殖されている」が正しい表現です。

既にアメリカ動物園水族館協会が、そのような近親交配を伴う、見た目の特異さを受け継がせるための繁殖を禁止していることは2015年にご紹介し、その後、大牟田動物園が飼わない方針を掲げたことで知られるようになりましたが、日本ではまだまだ、客寄せのため、話題づくりのため、つまりは営業利益のため、こうした自然界ではありえない繁殖が行われ、ありがたがられています。

那須サファリパークはボルタのことを「穏やかな性格とその性格がにじみ出た表情が人気で」などと死亡報告のFacebook投稿で書いていますが、白い毛を生み出すのと同じ遺伝子が原因で、視神経が脳に対して通常と異なる位置に配置されるため、すべてのホワイトタイガーは、目が正常に見えていても、斜視になるのです。また 人工的に産みだされた白変種の大型ネコ科の特徴として、近親交配により性格が愚鈍になる等と指摘されていることとも合致しています。独特な表情のボルタにも、人工交配の影響があったことは間違いないと感じざるを得ません。

そして、野生とは比べ物にならないほど狭い土地に幽閉され、事故を起こしたトラとして知られることになったボルタ。珍しい動物を見たい・見せたいという人間の欲に翻弄された生涯でした。どうか安らかに眠ってください。

『推し虎グランプリ2022』開催! ー来年の干支・寅年記念イベントー こう見えて猛獣です

どうなる? 動物愛護法上の行政処分

ちなみに、有罪となれば、那須サファリパークは第一種動物取扱業の登録取消や営業停止処分の対象となります。

また、去年9月、本店の東北サファリパーク(福島県二本松市)でもライオンによる死亡事故が起きています。こちらも刑事処分がどうなるかはこれからでしょう。株式会社東北サファリパークは、2件も動物取扱業登録の危機となる問題を抱えています。

もともとが、寒冷地なら病原体が悪さをしないはずだという創業者の風変わりな信念に基づいて、寒い東北に開業したサファリパークだということを読んだことがあります。しかし、それが正しいこととは思えません。動物にとってだけでなく、ボルタの事故でも、雪で凍結して扉が開かないと言ったことが起きていることが発覚しました。

那須サファリパークでは、1997年と2000年にも飼育員がライオンに襲われる事故がありました。閉園を決めるときではないかというのが率直な印象です。

那須サファリパーク
最新情報をチェックしよう!
NO IMAGE

動物の搾取のない世界を目指して

PEACEの活動は、皆さまからのご寄付・年会費に支えられています。
安定した活動を継続するために、活動の趣旨にご賛同くださる皆さまからのご支援をお待ちしております。

CTR IMG