搾乳のための移動作業 ベッドから通路に降りようとしている牛

茨城県畜産センターが依頼した外部専門家の動物福祉評価に不足していたこと

牛への虐待で私たちが刑事告発した茨城県畜産センターについて、先日、畜産センター側が依頼した2名の外部有識者による調査結果票をこちらのページにアップしました。情報公開請求で手に入れたものです。以下に再掲します。

この内容から誤解が生じてもいけないですし、私たちとしてはやはり調査内容に不足があると指摘せざるを得ないので、以下に補足をします。

暴力的な人のことを恐れていた牛たち

調査結果票には、「部外者(視察者)を極端に恐れたり攻撃をしかける個体はおらず、BCS が極度に低い(もしくは高い)個体もおらず、牛舎全体が静穏に維持されていたことから、日常的な取り扱いや飼育方式は良好であると判断された」「各繋養牛の対人反応は良好であり,日常管理状況の良好性が示唆された」とありました。

しかし、これは「部外者(視察者)」による牛の反応を見ているだけなのです。部外者への牛の反応を見ることも、日常的に牛がどのように扱われているかの指標にはなりますが、それだけでは不十分です。 現場職員への牛の反応も見る必要がありました

元職員の方にこの部分について確認したところ、動画にも映っている特に牛を乱暴に扱っていた人物を見かけると、牛たちは後ずさりするなどの反応をしていたそうです。

本調査は昨年7月に農林水産省がアニマルウェルフェアの「飼養管理に関する技術的な指針」を示したことを受けて実施されたものとあります。この技術指針には、チェックリストが付属していますが、このチェックリストにも、恐怖反応の評価項目として「管理者等への反応が著しく過度な牛や、搾乳時や管理時の取扱いの際に抵抗する牛がいるかどうか」というものがあります。

日ごろから暴力行為が多かったり大声をよく出す人がいると、牛はそれを認識し、その人が搾乳室にいるだけでアドレナリンが分泌され乳量が減ることもあると言われています。※1

部外者ではなく、現場職員が日々の業務で牛を扱う際に牛がどのように反応するのかを見ることは、やはりとても重要です

またチェックリストには「牛に不要なストレスを与える突発的な行動や手荒な扱いを避け、可能な限り丁寧に取り扱っていますか 」という評価項目もあります。

元職員の方によると、手荒な扱いに牛が怯えて右往左往して溝に足をおとしたり、慌てて走って牛が足を滑らしたりする場面もあったそうです。

アニマルウェルフェアのない手荒な扱いは作業者の事故につながることも知られています。※2

現場職員が実際に毎日牛をどう扱っていたのかは重要な指標であり、この点を調査していただきたかったと思います。

搾乳のための移動作業 ベッドから通路に降りようとしている牛
搾乳のための移動作業 ベッドから通路に降りようとしている牛を蹴る

視察の時期も重要

元職員によると、寒い時期にぬたぬたに泥濘化していた放飼場も、暑期には水分が蒸発し乾燥するそうです。

暑熱や寒冷に対応した牛の扱いができているかどうかは動物福祉の重要なポイントとなります。

視察は少なくとも年2回(寒い時期と暑い時期)にする必要があるのではないかと思います。

分娩舎の運動場
供卵牛の運動場

跛行と蹄のチェック

跛行とは、何らかの障害があって、正常な歩行ができない状態を指します。

国の示すアニマルウェルフェアの技術的な指針の中には、BCS(ボディコンディションスコア)方法だけでなく歩行スコア(跛行スコア)方法も添付されています。しかし畜産センターの調査報告表では、BCSの評価はされていますが、跛行評価が行われたという記録はありません

跛行は牛に苦痛を長期的に与え、牛の生活すべてを阻害するため、重要な動物福祉の課題となっています。

舎飼い・コンクリート床による蹄への荷重、糞による感染(尿アルカリによる蹄の脆弱化)、ストレス、こういったことが蹄病の要因となります。つまり跛行は管理者側の責任によるものが大きいということになります。

酪農における跛行はごく一般的で、海外データでも乳牛の跛行発生率は20-50%、日本装削蹄協会が2016-2017年に行った蹄病調査(5,996頭調査)でも、36%の牛に蹄病(跛行原因の多くは蹄病)があることが明らかになっています。※3

跛行のチェックは動物福祉を評価するうえで欠かせないものだと思います。やはりこの点についてもしっかりと外部の目が入るべきでした。

▼傷めた足をスコップで突くなどの虐待も行われた

質問書への具体的回答を避ける茨城県

PEACEでは、動物実験の廃止を求める会(JAVA)とPETAアジアとの連名で、畜産センターで起きたことや現状に関する質問書をまとめ、茨城県知事宛に送付しましたが、県畜産課から来た回答では具体的なことにはほぼ触れられず、理念的なことが繰り返されているだけでした。的外れに思える内容もありました。

そのことに抗議し、今月22日を期限に再回答をするか面談を受け入れるか回答するよう求めましたが、下記のような回答があっただけでした。

あなたはこのような文章を読んで、本当に現場が変わるなどと信じることができますか?

茨城県畜産センターでは、2023年7月26日付で農林水産省から発出された「アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針」を踏まえた管理を行うとともに、外部有識者を交えたチェック体制を継続し、今後ともアニマルウェルフェアに則した飼養管理に努めてまいります。
茨城県はしきりに外部有識者のチェックを免罪符にしており、私たちも、閉ざされた研究機関に外部の目を入れるにはおそらくそれしかチャンスがないだろうとは感じますが、それも限界があることなのです。
畜産物の消費を拒否し、畜産のための研究へのインセンティブを下げていくことが根本的な問題解決として必要です。
参考文献
※1
・デーリィビジネス 酪農技術 乳房炎「オキシトシンとアドレナリン」(2016 年 4 月 15 日)https://e-doto.com/hdms/pdf/oxytocin.pdf
・根室生産農業協同組合連合会「効果的な搾乳について」http://www.ndinet.jp/cgi-bin/t-blog/blog.cgi?n=275&category=003
※2
・公益社団法人中央畜産会「経営情報」(令和元年10月20日 )https://jlia.lin.gr.jp/business/manage_info/pdf/359.pdf
・一般社団法人農山漁村文化協会「最新農業技術vol13  特集搾乳ロボット 蹄管理」(2021年2月10日発行) p.79
※3
(公社)日本装削蹄協会「牛護蹄衛生調査普及推進事業 (平成 27 年 4 月~平成 30 年 3 月)蹄病発生状況調査委員会 蹄病発生状況調査報告書」

関連情報

茨城県畜産センターについての情報は、まとめページからたどってください。

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