農水省通知「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」(改訂版)

改定前の指針について

この通知は、2020年に改訂版が出ています。このページに記載されている内容は既に古くなっていますが、履歴として残しています。新しいものはこちらをご覧ください。農林水産省が2017年11月にアニマルウェルフェアに関する通知を各[…]

2019年の動物愛護法改正を受けて、農林水産省が上記のアニマルウェルフェアに関する指針の改訂を行った。

内容は以下の通り。


元生畜第1897号
令和2年3月16日

地方農政局生産部長北海道農政事務所生産経営産業部長   殿
内閣府沖縄総合事務局農林水産部長
(農林水産省)生産局畜産部畜産振興課長

アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について

近年、家畜の感受性を理解し、その生態や習性による行動を妨げられることがないよう、アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理が求められるようになっている中、我が国も加盟する国際獣疫事務局(OIE)では、「陸生動物衛生規約」において、アニマルウェルフェアに関する勧告が順次採択されてきたことを踏まえ、アニマルウェルフェアに配慮した飼養管理を広く普及・定着させるため、平成29年に「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」(平成29年11月15日付け29生畜第794号)を発出したところである。今般、動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第39号)が公布され、令和2年6月1日から施行される改正後の動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)では、獣医師がその業務を行うに当たり、虐待を受けた動物等を発見したときの都道府県知事等への通報が義務化されるとともに、国は、地方公共団体における動物の愛護及び管理に関する業務を担当する部局と畜産、公衆衛生又は福祉に関する業務を担当する部局、都道府県警察及び民間団体との連携の強化を図るため、地方公共団体に対する情報の提供、技術的助言等の必要な施策を講ずるよう努めることが規定された。このため、当該通知発出後におけるOIEの「陸生動物衛生規約」におけるアニマルウェルフェアに関する勧告の見直しなども踏まえ、下記のとおり「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」の改訂版を示すこととしたので、貴局管内の都道府県に周知するとともに、畜産関係者への周知を依頼されたい。その際、都道府県に対しては、本通知を動物の愛護及び管理に関する業務を担当する部署等とも連携し、周知を図るよう併せて要請ありたい。

1 アニマルウェルフェアの定義等

OIEによる勧告は、「アニマルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義している。

また、同勧告ではアニマルウェルフェアを考える上で役立つ指針として、「5つの自由」(①飢え、渇き及び栄養不良からの自由、②恐怖及び苦悩からの自由、③物理的、熱の不快さからの自由、④苦痛、傷害及び疾病からの自由、⑤通常の行動様式を発現する自由)が示されている。

これら5つの自由が全ての動物に係るアニマルウェルフェアにおいての基本的な理念であることを踏まえ、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第2条第2項に「何人も、動物を取り扱う場合には、その飼養又は保管の目的の達成に支障を及ぼさない範囲で、適切な給餌及び給水、必要な健康の管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した飼養又は保管を行うための環境の確保を行わなければならない」と基本原則が規定されている。

2 5つの自由の確保

家畜の飼養管理において、アニマルウェルフェアに配慮する上での「5つの自由」を確保するための対応は、以下のとおりである。

なお、アニマルウェルフェアが損なわれた場合、特定のストレス行動を始めとする異常行動、疾病の罹患率や死亡率の上昇、外貌の変化、生産成績の変化等が生ずることがある。このため、家畜の観察を少なくとも1日1回は実施し、これらの兆候が確認された場合には、原因の特定に努め、その改善を図ること。また、対暑性や分娩の容易さ、気質などアニマルウェルフェアに有益な遺伝改良を行うことが望ましい。

(1)飢え、渇き及び栄養不良からの自由家畜の発育段階等にあわせ、各畜種ごとの栄養要求を考慮し、家畜が量と質のバランスが適切な栄養と生理的要求を満たす十分な飲用水を得ることができるよう努める。体重が期待される成長曲線から逸脱して変化したり、急激に減少した場合は、疾病に罹患している可能性やアニマルウェルフェアが損なわれている可能性があるので留意する。

飼料については、家畜の健康に悪影響を与えるものが含まれていないか必要に応じて検査し、汚染や劣化を最小限に抑えて保管する。

家畜の輸送に際しては、その種類、年齢、輸送時間、天候などにより、適切な間隔で休憩をとり、給水と給餌を行う。

(2)恐怖及び苦悩からの自由家畜を過度又は突然の騒音が発生する環境下に置いたり、突発的に又は手荒に扱うといった不適切な取扱いは、家畜に恐怖や苦悩を引き起こすことがある。このため、畜舎などの家畜の飼養管理施設については、騒音が最小限となるよう維持・管理する。

また、家畜を追う際には、フライトゾーン(人が家畜に近づいた際に逃げようとする一定の距離、境界線)を考慮し、バランスポイント(家畜に不安を抱かせることなく人がコントロールするための立ち位置)等を利用する。

(3)物理的、熱の不快さからの自由家畜にとって快適な温度域は、品種や発育段階等により異なる。このため、飼養又は輸送する家畜にあわせた暑熱対策や寒冷対策を行い、適温の維持に努める。また、畜舎などの家畜の飼養管理施設におけるアンモニア等の有害物質の過度な滞留は、呼吸に伴う不快感や疾病の原因となるので、適切に換気を行い、その低減に努める。

(4)苦痛、傷害及び疾病からの自由痛みを伴うおそれのある処置(去勢、蹄の手入れ、除角等)を行う場合、若齢時に実施する、獣医師の指導の下で麻酔や鎮痛剤を使用する等の方法により、家畜の苦痛を緩和するよう努める。また、家畜への苦痛の少ない代替方法等の実施も検討する。家畜を追う際に道具を用いる場合には、パネル(板)や旗等を用いることとし、家畜にけがを負わせたり不要な痛みを与えたりする可能性のある道具の使用は避ける。治療を行っても回復の見込みがない場合や、著しい生育不良や虚弱で正常な発育に回復する見込みのない場合など、家畜の殺処分を農場内で実施しなければならない場合には、直ちに死亡させるか、直ちに意識喪失状態に至るようにするなど、できる限り苦痛の少ない方法により殺処分を行う。

(5)通常の行動様式を発現する自由家畜を群飼する際には、多くの畜種では家畜同士で優劣の序列をつける習性があることから、群内の家畜同士が敵対して緊張感が増すことがないよう、群の構成に留意する。また、高い密度で飼養することは、けがの発生を増やし、摂食・摂水、運動、休息等の行動に悪影響を与える可能性があることに留意する。畜舎は、①突起物など家畜がけがをする原因がない構造であること、②床面は滑りにくい材質を用い、水はけを良くし、衛生的な状態を確保すること、③家畜が休息するための十分なスペースが確保され、立ち上がる等の正常な行動をとれる構造であること、④各畜種の習性に応じた十分な光量が確保されるよう、自然光に加え、照明を適切に使用し家畜に不快感を生じさせないようにすることに留意する。輸送に使用する収容場所についても、これに準じた環境とする。

3 家畜の飼養管理、輸送及び殺処分に携わる者の責務

家畜の飼養管理、輸送及び殺処分に携わる者(管理者及び飼養者等)は、その役割や責任に応じ、家畜の飼育方法、取扱い、行動、生理的要求、病気の一般的兆候、防疫措置、アニマルウェルフェア等に関する技術及び知識を備える。

災害時など電気、水、飼料の供給が停止する場合に備えて、緊急時の計画を含め整備する。家畜の輸送を行う場合は、輸送時間が最小限となり、5つの自由が確保されるよう輸送計画を作成する。

4その他

(1)OIEの「陸生動物衛生規約」等の参考OIEの「陸生動物衛生規約」を参考にするとともに、各畜種における詳細な飼養管理方法等については、(公社)畜産技術協会等が公表している「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の輸送に関する指針」及び「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の農場内における殺処分に関する指針」を参考にすること。
(2)関係法令の遵守家畜の飼養管理に関する法令上の基準等については、動物の愛護及び管理に関する法律、産業動物の飼養及び保管に関する基準(平成25年環境省告示第85号)、動物の殺処分方法に関する指針(平成19年環境省告示第105号)ばかりでなく、家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号)並びに同法に基づく「飼養衛生管理基準」及び「特定家畜伝染病防疫指針」並びに牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(牛トレーサビリティ法)(平成15年法律第72号)等が定められている。アニマルウェルフェアへの取組に当たっては、これらの関係法令を遵守すること。
(参考)各指針(*)については以下の農林水産省HPに掲載している。
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html
*アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針(乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、ブロイラー、馬)
アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の輸送に関する指針
アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の農場内における殺処分に関する指針
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