NHKの番組に意見書 「ホワイトタイガー」が絶滅危惧種?
NHKの番組「おはよう日本」のサイトに、2015年5月10日に放映された番組の記録が掲載されており、下記のような誤った記述がみられたため、意見書を送りました。(9月30日付け)
「絶滅が危惧されているホワイトタイガー。」
「そもそもこのホワイトタイガーは、インド原産の『ベンガルトラ』のうち、毛の色が白い種類のことをいうんですが、野生のものはすでにいないとみられています。
現在、世界中の動物園で飼育されているのが250頭しかいないので、種の保存に向けた懸命な取り組みが続けられています。」
※10月2日現在、太字部分はサイトから削除されています。ブログもご参照ください。
2015年9月30日
NHK御中
NHKの放送番組に対する意見
「おはよう日本」2015年5月10日(日)放送「ホワイトタイガー 出産・育児奮闘記」の内容が下記にアップされているのを拝見しました。この中で述べられているホワイトタイガーに対する表現は非常に誤解を与えるものとなっており、記事自体を削除していただきたく要望いたします。
http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2015/05/0510.html
ホワイトタイガーはベンガルトラの白変個体であり、「ホワイトタイガー」という独立した種や亜種があるわけではありません。現在、世界中の動物園やサーカス等にホワイトタイガーがいるのは、白い色の出る遺伝子をもつ個体同士を近親交配でかけあわせ、意図的に白い色の個体が生まれるよう固定しているからです。イエネコにシャムなどの品種があるのと同じように、いわばベンガルトラの「品種」の作出のようなことを動物園等が行っており、人間が好む毛色だけを残そうとするのは「種の保存」とは相反する行為です。それを「おはよう日本」では「種の保存」と報道しています。
トラ全体が希少種であり、更に白い個体は珍しいとは言えますが、ホワイトタイガーを保全しなければいけない絶滅危惧種であるかのように言うのは、誤った知識の普及につながってしまいます。例えば、タヌキなど他の動物にも白変個体が生まれますが、それらの個体が死んだからと言って、ホワイトタヌキが絶滅したとは言いません。白い毛の出る遺伝子を保全したければ、その生物種自体を広範に保全し、遺伝子のプール自体を保つようにすべきでしょう。
また、白い色は劣性遺伝であり、近親交配で作出するために障害も出やすくなっています。そのため動物福祉上の問題も指摘されており、2011年、アメリカ動物園水族館協会は加盟園に対し、ホワイトタイガー、ホワイトライン、キングチーターなどの「異常な」特徴を意図的に得るための繁殖を禁じる決定をしました。東武動物公園でも生まれたトラに障害が出ていますが、予想できたことなのではないかと思います。
参考:https://www.aza.org/uploadedFiles/About_Us/AZA White Paper Inbreeding for Rare Alleles 18 Jan 2012.pdf
残念ながら日本の動物園水族館協会にはアメリカのようなルールはないようですが、そもそも、インド以外の動物園にいるベンガル系のトラ自体、由来が不確かなために、アムールトラやスマトラトラのような国際的な血統登録の仕組みには乗っていません。つまり日本でも、動物園の言うところの「種の保存」の対象になっているのは、アムールトラやスマトラトラであり、ベンガル系のトラ(ホワイトタイガーを含む)は、本来、繁殖は推奨ではないはずです。
実際には、各園が生まれた個体の飼育に責任を持てる範囲で繁殖することは許されているそうですが、ではなぜそのような繁殖が行われるかと言えば、「動物園にトラがいることが大事、珍しい色であればなおよい」という営業上の理由があるからであって、「種の保存」が目的ではありません。東武動物公園にも確認しましたが、「ホワイトタイガーは絶滅危惧種としてふやさなければいけない対象ではないとの自覚はある」とのことでした。今後繁殖は行わないそうです。
ホワイトタイガーが「絶滅」して困るのは、お客さんに来てほしい動物園やサーカスであり、繁殖は営利目的です。NHKは公共放送であり、営利目的の事業に公共性があるかのようにミスリードすることは許されないと思います。
当該記事の削除について、何卒よろしくお願い申し上げます。
以上
※写真はイメージです。
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